風俗で性病をうつされた|損害賠償請求はできるのか
「本サロ」「裏オプ」といった言葉は、いずれも店の正規のメニューには載っていないサービスを指す隠語として使われています。利用する側からすれば「暗黙のうちに認められているもの」「みんなやっていること」に見えるかもしれません。
しかし、こうしたサービスは、何事もなく終わっているあいだは表面化しない一方で、いったんトラブルになると、客側が非常に不利な立場に置かれやすいという特徴があります。表に出ていない取引であるがゆえに、契約としても守られにくく、店も「うちは関知していない」という立場を取りやすいからです。
この記事では、性風俗を利用する男性の方に向けて、いわゆる裏のサービスをめぐって客側がどのようなリスクを負い得るのか、そしてトラブルになったときに何をすべきかを、弁護士の視点から整理します。
「本サロ」「裏オプ」に共通するのは、店が公式には認めていない
呼び方はさまざまですが、共通しているのは次の点です。
- 店の料金表・公式サイトのオプション一覧には記載がない
- 代金が店を通さず、その場で直接やり取りされることがある
- 店の規約上は「禁止行為」とされていることが多い
つまり、店が公式には「存在しないこと」にしているサービスだという点が共通項です。この構造が、後述するトラブルのほぼすべての出発点になります。
「客は処罰されない」で安心できない理由
まず前提として、売春防止法は、売春をすることもその相手方となることも禁止していますが(同法3条)、この規定自体に罰則は置かれていません。罰則が向けられているのは、勧誘(5条)、周旋(6条)、場所の提供(11条)、管理売春(12条)といった周辺行為であり、買った客本人を直接処罰する規定は現行法にはありません。
そのため、「客は捕まらない」と説明されることがあります。この説明自体は誤りではありません。
ただし、罰則がないことと、安全であることは別です。客が刑事責任を問われ得る場面は、売春防止法の外側にいくつも存在します。以下では、裏のサービスをめぐって実際に問題になりやすい4つを挙げます。
1.店内の構造によっては、客も公然わいせつ罪の対象になり得る
これは、いわゆる本サロ型の店舗に特有のリスクです。
刑法174条の公然わいせつ罪は、不特定または多数の人が認識し得る状態でわいせつな行為をした場合に成立し得ます。法定刑は6か月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。
デリヘルやソープランドのような個室型の業態と異なり、仕切りの低いボックス席で営業する店舗では、この「公然性」が認められる余地があります。実際に、店の経営者や従業員だけでなく、サービスを受けていた客が現行犯逮捕された事例も報じられています。
「自分は客として利用しただけ」という立場が、常に安全を意味するわけではない点は押さえておく必要があります。
2.相手が18歳未満だった場合の児童買春罪
相手が18歳未満であった場合、対償を供与して性交等をする行為には児童買春罪(児童買春・児童ポルノ禁止法4条)が成立し得ます。法定刑は5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金で、相手の同意があったかどうかは成立に影響しません。
この罪は故意犯ですので、成立には18歳未満であることの認識が必要です。もっとも、「18歳未満かもしれない」と思いながら行為に及んだ場合(未必の故意)でも足りると解されており、年齢を確かめないまま進めたという経緯自体が、認識を推認する材料として評価される可能性があります。「知らなかった」という説明が当然に通るわけではありません。
なお、各都道府県の青少年健全育成条例(いわゆる淫行条例)は、これとは別の枠組みで、年齢を知り得た場合にも適用され得ます。東京都の場合は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められています。
3.「裏オプがあると聞いていた」は、同意があったことにはならない
事前に裏オプの話があった、料金を上乗せして払った――こうした事情は、その場での相手の同意を証明するものではありません。
同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態に乗じて性的な行為に及んだ場合、不同意わいせつ罪(刑法176条/6か月以上10年以下の拘禁刑)や不同意性交等罪(同177条/5年以上の有期拘禁刑)が成立し得ます。いずれも罰金刑がなく、2017年の改正以降は非親告罪ですので、告訴の取下げや示談があっても当然に不起訴となるわけではありません。
裏のサービスは、店が正規に管理しているものではないため、どこまでが合意されていたのかを示す客観的な記録が残っていないことが多くあります。争いになったとき、判断材料が当事者同士のやり取りしかないという状況は、客側にとって決して有利には働きません。
4.撮影・録画は、それ自体が別の犯罪になる
相手に無断で性的な姿態を撮影する行為には、いわゆる撮影罪(性的姿態等撮影罪/2023年7月13日施行)が成立し得ます。法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金で、未遂も処罰の対象です。
「証拠として残しておこう」という発想で撮影に及ぶ方がいますが、これは自らを別の犯罪の被疑者にする行為であり、避けるべきです。
金銭トラブルで、客側が守られにくい3つの理由
刑事責任とは別に、裏のサービスは金銭面でも客が不利になりやすい構造を持っています。
理由1:裏の約束は、契約として保護されにくい
「裏オプ代を払ったのにサービスがなかった」「聞いていた内容と違った」という場合でも、返金を求めるのは容易ではありません。
公序良俗に反する内容の契約は無効とされます(民法90条)。そして、不法な原因のために給付をした者は、その返還を請求することができないとされています(同708条)。つまり、違法な内容を前提とした取引であるほど、支払った金銭は取り戻しにくくなるという関係にあります。
「違法なサービスだから無効だ、返せ」という主張は、そのまま自分に跳ね返ってくる構造になっているわけです。
理由2:店は「個人の判断」として切り離し、他方で罰金を請求してくる
裏オプは、多くの場合「キャスト個人が勝手にやったこと」という建付けが取られます。この建付けは、店の刑事責任を切り離すためのものであって、客を守るためのものではありません。
その一方で、トラブルが起きると、店側からは「規約違反だ」「罰金を払え」という請求が来ます。性的な部分は個人間の問題だと言いながら、金銭の場面では店のルール違反だと主張するという二重構造です。
ここで重要なのは、請求された金額と、実際に支払う義務がある金額は別だということです。店が使う「罰金」という言葉は刑罰ではなく、違約金や損害賠償の俗称にすぎません。支払義務の有無は、事前の合意があったか、金額が相当か、任意に合意したものかといった点から個別に検討する必要があります。
また、店を通さずキャスト個人と直接やり取りする、いわゆる裏引きを持ちかけられることもあります。これは第一次的には店とキャストの間の契約問題ですが、客の側も連絡先や来店履歴を店に把握されているため、後から連絡が来る立場に置かれます。
理由3:言い出しにくさが、そのまま交渉材料になる
裏のサービスをめぐるトラブルで最も多いのは、「事情を人に説明しづらい」という状況につけ込まれるケースです。
事後に高額な金銭を要求される、家族や勤務先に伝えると示唆される、といった対応が取られることがあります。要求の態様によっては、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)に当たり得ます。相手に落ち度があるからといって、どのような要求も許されるわけではありません。
ただし、店からの請求がすべて違法になるわけでもありません。正当な損害賠償請求と、違法な取立てとは切り分けて考える必要があります。この判断はご自身では難しいところですので、早い段階でご相談ください。
摘発があったとき、客はどう扱われるか
店舗が摘発された場合、客は多くのケースで参考人として事情を聴かれる立場になります。ただし、前述の公然わいせつ罪が問題になる類型のように、客自身が被疑者となる場面もあります。
いずれの場合でも、顧客名簿、予約履歴、防犯カメラの映像などから利用の事実が把握され、氏名や連絡先が記録に残ることは想定しておく必要があります。逮捕に至らなくても、警察からの呼び出しに応じるために平日に時間を作る必要が生じ、勤務先や家族への説明に窮するという相談は少なくありません。
なお、警察から民間企業へ連絡が行くことは原則としてありません。
トラブルになったときの初動
その場で避けたほうがよいこと
- 言われるままにその場で支払う、ATMに同行する
- 内容を確認しないまま誓約書や示談書に署名する
- 身分証や携帯電話を預ける、撮影させる
- データを削除する(証拠隠滅と評価され得るうえ、自分に有利な記録も失われます)
- 黙って立ち去る、連絡を絶つ
その場でやっておきたいこと
- 身の安全を最優先にし、危険を感じたら110番通報する
- 「誰が」「何を根拠に」「いくら」「いつまでに」求めているのかを書面で示すよう求める
- やり取りの経緯を時系列でメモに残す
- 相手方本人には直接連絡せず、窓口を一本化して早めに弁護士へ相談する
とくに、相手が18歳未満である可能性がある場合や、同意の有無に争いがある場合は、ご自身の判断で対応を進めないことをおすすめします。初動の対応が、その後の見通しを大きく左右します。
前提となるルール自体が動く可能性があります
現在、法務省に「売買春に係る規制の在り方検討会」が設置され、買う側の処罰規定を導入すべきかどうか、売春として禁止する行為の範囲をどう定めるかといった論点が議論されています。2026年3月に初会合が開かれ、同年5月の第4回会議で論点が取りまとめられた後も会議は継続しており、現時点で結論は出ていません。
改正の時期や内容を予測することはできませんが、「客には罰則がない」という現在の前提が、将来にわたって続くとは限らないということは、頭の片隅に置いておいてよいでしょう。
まとめ
裏のサービスをめぐるリスクは、「摘発されるかどうか」だけではありません。むしろ現実に多いのは、公にしづらい取引であるがゆえに、金銭を要求されても反論しにくく、支払ったお金も取り戻しにくいという場面です。
そして、年齢と同意という2つの点については、店の建付けや事前のやり取りにかかわらず、客個人の責任として問われます。ここだけは、どのような業態であっても変わりません。
すでにトラブルになってしまった場合でも、その場で応じてしまう前に相談していただければ、取り得る選択肢は残っています。当事務所は風俗トラブルについて客側の立場から対応しており、ご相談内容が外部に伝わることはありません。一人で抱え込まず、早い段階でご連絡ください。


