医師・看護師・士業の場合|行政処分と業務停止

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「逮捕されたら医師免許はどうなるのか」と調べると、免許の取消しという言葉ばかりが目に入ります。ただ、制度は、逮捕された瞬間に免許が動くようにはできていません。資格の側の手続が動き始めるのは、刑事事件がひととおり終わったあとです。

 この記事では、医師・歯科医師・看護師と、弁護士・司法書士・税理士・行政書士・社会保険労務士といった士業について、資格の側でどのような手続が進み、業務停止とは何を止める処分なのかを、条文と公表資料に沿って整理します。性風俗の利用をきっかけに迷惑行為防止条例違反や住居侵入といった罪名が問題になった場合も、たどる道筋は同じです。

 なお、公務員や公立学校の教員は、免許ではなく任命権者による身分上の処分が中心になる別の仕組みのため、ここでは扱いません。勤務先にどう伝わるか、解雇や退職の扱いも別のテーマとして切り離しています。

「逮捕=免許の取消し」ではない|二つの手続の順番

 資格の不安を整理するときは、二つの手続を分けて考えると見通しがよくなります。警察・検察・裁判所が進める刑事の手続と、厚生労働大臣や法務大臣といった資格を所管する側が進める行政処分の手続です。判断する主体も、動き出す時期も違います。

観点刑事の手続資格の行政処分
判断するのは検察官・裁判所厚生労働大臣・法務大臣・都道府県知事など
動き出す時期事件の直後から多くの場合、有罪が確定した後
主な材料事件そのものの立証確定した判決の内容と、その資格に求められる倫理
結果の見え方報道されなければ広く知られないこともある氏名を含めて公表される場合がある


 医師法4条3号は「罰金以上の刑に処せられた者」を挙げていますが、これは有罪が確定してはじめて当てはまる要件です。逮捕は捜査の一場面にすぎず、その段階ではこの条文に触れません。「逮捕された時点で免許が失われる」という説明は、条文の作りと合っていないことになります。

医師・歯科医師|入口は「罰金以上の刑」

 医師法4条は、いくつかの事由を挙げたうえで、これに当たる者には免許を「与えないことがある」と定めています。刑事事件との関係で問題になるのは、次の二つです。

  • 罰金以上の刑に処せられた者(3号)。
  • 前号に当たる者を除くほか、医事に関し犯罪または不正の行為のあった者(4号)。


 そして医師法7条1項は、医師が4条各号のいずれかに当たるとき、または医師としての品位を損するような行為があったときに、厚生労働大臣が戒告・3年以内の医業の停止・免許の取消しの処分をすることができると定めています。歯科医師法にも同じ構造の規定があります。

罰金でも入口には立つが、自動ではない

 4条3号は「罰金以上の刑」です。拘禁刑に限られていないため、略式手続による罰金でも、刑の執行が猶予された場合でも、条文の要件としては当てはまります。この点は、拘禁刑以上を要件とする資格と大きく違うところです。

 もっとも、4条の書き方は「与えない」ではなく「与えないことがある」です。要件に当たっても、それだけで免許が消えるわけではなく、そこから先は7条1項に基づく判断に移ります。どの処分になるのか、あるいは処分に至らないのかは、次に説明する手続の中で決まります。

処分は誰がどう決めるのか|医道審議会という手続

 医師法7条3項は、厚生労働大臣が処分をするにあたって、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならないと定めています。実際の審議はこの審議会に置かれた医道分科会で行われ、有罪が確定した後の流れは、おおむね次のように進みます。

  1. 有罪判決や略式命令が確定し、法務省から厚生労働省へ情報が伝えられる。
  2. 対象となる医師に、事案の内容や被害者への対応状況を報告するための書面が送られる。
  3. 処分の方向性に応じて、意見の聴取または弁明の聴取の通知が届く。
  4. 医道分科会で審議され、答申を受けて厚生労働大臣が処分を決める。
  5. 処分の内容を記した命令書が交付され、効力が生じる。


取消しは「意見の聴取」、停止は「弁明の聴取」

 条文はこの二つを書き分けています。医師法7条4項は、免許の取消処分をしようとするときに、都道府県知事に対して意見の聴取を行うことを求め、これをもって厚生労働大臣による聴聞に代えることができるとしています。他方、同条10項は、医業の停止を命じようとするときに弁明の聴取を求め、弁明の機会の付与に代えることができるとしています。

 どちらの通知にも、処分をしようとする旨とその内容、原因となる事実、聴取の日時と場所が記載されます(同条11項)。そして同条13項は、通知を受けた者が代理人を出頭させ、証拠書類や証拠物を提出できると定めています。一方的に告げられて終わる場ではなく、こちらから資料を出せる場として設計されているということです。

処分に至らない区分もある

 医道分科会に諮問された人数と、実際に処分を受けた人数は一致しません。たとえば2026年7月15日の医道分科会では、医師12名・歯科医師10名について諮問がなされ、医師8名・歯科医師7名に行政処分、医師4名・歯科医師3名に行政指導(厳重注意)をする旨の答申がされています。審議の対象になったからといって、そのまま3種類の処分のいずれかになるとは限らない、ということです。

何を見て量定が決まるのか

 医道審議会医道分科会は、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」という文書を公表しています。平成14年に作られ、平成31年1月30日に改正されたもので、基本的な考え方として、刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたかどうかといった判決内容を参考にすることを基本とし、そのうえで医師に求められる倫理に反すると判断される行為は、これを考慮して厳しく判断するという趣旨が示されています。

 ここは、公務員の懲戒処分と向きが逆になる部分です。公務員には刑事裁判の結論を待たずに懲戒手続を進められる仕組みが置かれていますが、資格の行政処分は確定した判決の内容を出発点に据えます。刑事手続で何がどう認定されたかが、そのまま後の判断の土台になります。

「医事に関する犯罪」かどうかで期限の扱いが変わる

 同じ文書には、医事に関し犯罪を行った者については、刑の言渡しが効力を失った後であっても医師法4条4号に当たるものとして処分の対象となる、という趣旨の記載があります。逆にいえば、医療と関係のない犯罪については、刑の言渡しの効力が消えた後は対象から外れる余地がある、という読み方につながります。

最近の答申から読めること

 医道分科会の議事要旨は厚生労働省のサイトで公表され、罪名と処分の内容が対応する形で載っています。2026年7月15日の答申では、医師について免許取消しが4件、医業停止3年が1件、医業停止4月が2件、戒告が1件でした。このうち医業停止4月の1件は建造物侵入と愛知県迷惑行為防止条例違反、免許取消しの1件は児童買春・児童ポルノ禁止法違反の事案です。歯科医師では、福岡県迷惑行為防止条例違反の事案が歯科医業停止3月とされています。

 なお、令和5年7月26日の医道分科会では、児童買春等を行った医師・歯科医師の量定について、次回の分科会から従前よりも処分を重くすることで合意した旨が議事要旨に記されています。同じ罪名でも、時期によって扱いが変わりうる例です。

件数を「相場」として読まないこと

 公表されているのは罪名と量定だけで、被害の内容、示談や被害弁償の有無、過去の処分歴といった事情は分かりません。参考にはなりますが、自分の事案の見通しを直接引き出せる性質のものではありません。

「業務停止」とは何を止める処分か

 3種類のうち中間にあたるのが、3年以内の医業の停止です。免許そのものを失わせるものではなく、期間中の医業を禁じる処分で、期間が経過すれば医業を再開する道が残ります。

期間中に業務を行うと刑事罰の対象になる

 医師法32条は、医業の停止を命じられた者が停止期間中に医業を行った場合について、1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその併科を定めています。行政処分の話が、そのまま新しい刑事事件になりうるということです。停止の始まりと終わりは、命令書で正確に確認しておく必要があります。

再教育研修を命じられることがある

 医師法7条の2は、戒告または医業の停止の処分を受けた医師と、取消し後に再免許を受けようとする者に対して、厚生労働大臣が再教育研修を受けるよう命ずることができると定めています。停止の場合に限られておらず、当然に受講義務が生じるという書き方でもありません。命令に違反して研修を受けなかった場合には、50万円以下の罰金の規定が置かれています(33条の3第2号)。

免許を取り消された場合の再免許

 医師法7条2項は、取消しの理由に当たらなくなったときなどに再免許を与えることができるとしつつ、罰金以上の刑や医事に関する犯罪などを理由とする取消しについては、処分の日から起算して5年を経過しない者を除くとしています。取消しが永久に回復不能という意味ではありませんが、簡単に戻る話でもありません。

看護師・准看護師の場合

 保健師助産師看護師法も、医師法とよく似た作りです。9条が「罰金以上の刑に処せられた者」などを挙げ、14条1項が戒告・3年以内の業務の停止・免許の取消しの3種類を定めています。処分をするのは厚生労働大臣ですが、准看護師については都道府県知事が行います(同条2項)。

 15条は処分にあたって医道審議会の意見を聴くことを求めており、実際の審議は保健師助産師看護師分科会の看護倫理部会で行われます。意見の聴取と弁明の聴取の書き分けも医師法と同じで、15条の2には再教育研修の規定が置かれています。

士業|条文の作りが資格ごとに違う

 士業では、業務と関係のない私生活上の行為が懲戒の対象になるかという点で、条文の作りが分かれます。ここが医師・看護師との一番の違いです。

資格処分するのは処分の種類業務外の非行の扱い
弁護士所属弁護士会・日本弁護士連合会戒告/2年以内の業務停止/退会命令/除名条文に「職務の内外を問わず」とある
司法書士法務大臣戒告/2年以内の業務停止/業務禁止処分基準に「業務外行為」の項目がある
税理士財務大臣戒告/2年以内の業務停止/業務禁止条文は法令違反を対象としている
行政書士都道府県知事戒告/2年以内の業務停止/業務禁止「ふさわしくない重大な非行」が対象
社会保険労務士厚生労働大臣戒告/1年以内の業務停止/失格処分「ふさわしくない重大な非行」が対象


「職務の内外を問わず」と書かれている資格

 弁護士法56条1項は、弁護士法や会則への違反、所属弁護士会の秩序または信用を害した場合のほか、職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときに懲戒を受けると定めています。私生活上の行為も対象になりうることが、条文そのものに書かれている形です。処分の種類は57条1項に4段階が置かれています。

「ふさわしくない重大な非行」と書かれている資格

 行政書士法14条は、法令違反のほかに「行政書士たるにふさわしくない重大な非行があつたとき」を挙げています。社会保険労務士法25条の3も同じ組み立てです。業務と直接関係のない行為でも、その資格を持つ者としてふさわしくないと判断されれば対象になりうる書き方です。

条文は法令違反型でも、基準で業務外に触れている資格

 司法書士法47条は「この法律又はこの法律に基づく命令に違反したとき」を懲戒事由としており、一見すると業務外の行為は含まれないようにも読めます。しかし、法務省が公表している懲戒処分の考え方には、司法書士は常に品位を保持しなければならないことから、業務に関連しない行為であっても品位を害した場合には法違反を理由として懲戒処分をすることができるという趣旨が示されています。同基準の別表にも「業務外行為」として、業務外の違反行為で刑事罰の対象となるものが挙げられ、戒告から業務禁止までが量定とされています。

 なお同基準は、量定を軽くする方向の事情として、行為に至った過程で酌むべき事情、経済的損失等の回復の内容、既に受けた社会的な制裁等の内容などを挙げています。刑事の場面で行ったことが、後の判断材料として位置づけられていることが読み取れます。

もう一つの経路|欠格による登録の抹消

 士業には、懲戒とは別に、登録の資格そのものを失う経路があります。司法書士法5条や行政書士法2条の2、税理士法4条は、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなってから3年を経過しない者といった形で欠格の要件を置いており、これに当たると登録が抹消されます。

 医師は罰金でも4条の入口に立ちますが、士業の欠格要件は多くが拘禁刑以上を基準にしており、ここは向きが逆になります。ただし、罰金なら何も起きないわけではありません。欠格に当たらなくても、前に見た懲戒の枠組みの対象にはなりうるからです。

公表される範囲

 刑事事件が報道されなかったとしても、資格の側の処分は別に公表されることがあります。医師の場合、処分に関する事項は医籍に登録されます(医師法5条)。士業では法律そのものが公告を定めている例が少なくなく、税理士法48条は官報での公告を、行政書士法14条の5も公告を定めています。

 司法書士については、先ほどの法務省の基準が公告の内容まで示しており、氏名、所属する司法書士会の名称、登録番号、事務所の所在地、処分の年月日、処分の量定を公表するものとされています。刑事の結論が周囲に知られなかった場合でも、資格の側でこの範囲が明らかになりうるということです。

刑事の段階でしておくと、後の手続で効いてくること

 資格の行政処分は刑事の後に来ますが、そこで使われる材料の多くは刑事の段階で作られます。処分を軽くするための手段という発想ではなく、事実を正確に説明できる状態を残しておく、という観点で整理すると役に立ちます。

  1. 確定した罪名と刑の内容(罰金か拘禁刑か、執行猶予の有無と期間)を正確に控えておく。
  2. 不起訴になった場合は、どの理由による不起訴なのかを確認しておく。
  3. 被害者への謝罪や被害弁償を行ったのであれば、その経緯と書面を手元に残しておく。
  4. 聴取の通知が届いたら、代理人を立てて資料を提出できることを前提に準備する。
  5. 所属する団体や登録先に届出の義務がないかを、早い段階で条文にあたって確認する。


 いずれも後から作り直すことが難しいものです。刑事事件が終わった時点で手元に何も残っていないと、聴取の場で説明できることが限られてしまいます。

まとめ

 この記事で整理したことを、あらためて並べておきます。

  • 逮捕の段階では資格の条文に触れず、動き出すのは多くの場合、有罪が確定した後である。
  • 医師・看護師は罰金以上の刑が入口で、処分は戒告・3年以内の業務停止・免許の取消しの3種類である。
  • 処分の前には医道審議会の意見を聴く手続があり、取消しは意見の聴取、停止は弁明の聴取と書き分けられている。
  • 量定は、確定した判決の内容を参考にすることを基本としつつ、その資格に求められる倫理の観点が加わる。
  • 士業は業務外の行為が対象になるかで条文の作りが分かれ、懲戒とは別に欠格による登録抹消の経路もある。
  • 処分は公表されることがあり、その範囲は資格ごとに法律や基準で定められている。


 なお、ここで説明したのは制度の一般的な整理です。同じ罪名でも、事案の内容や資格の種類によって結論は変わりますし、早く動けば処分の内容が決まるという性質のものでもありません。刑事の手続と資格の手続では見ている材料が違うため、自分の事案の資料を前提に個別に確認することをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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