風俗トラブルに強い弁護士の選び方|失敗しない5つのチェックポイント
「風俗店で本番行為をしてしまった。すぐに逮捕されるのだろうか」——この不安を抱えて検索すると、法律事務所のページが大量に出てきます。ただ、書かれている内容には幅があります。「逮捕される」と強く警告するものもあれば、「実際に逮捕まで至ることは多くない」と書くものもあります。
どちらの言い方も、読んだ人の状況を正確に言い当てているとは限りません。というのも、刑法には「本番」という言葉も「本番強要」という言葉も出てこないからです。処罰の対象になるかどうかは、出来事の呼び名ではなく、条文に書かれた要件に当てはまるかどうかで決まります。
この記事では、性風俗を利用している男性の立場から、刑法177条(不同意性交等罪)の条文を分解し、「本番」という出来事が条文のどこに関わり、どこには関わらないのかを順に確認します。処分の見通しや示談の進め方ではなく、条文の読み方に絞った内容です。
この記事が扱う範囲
先に射程をはっきりさせておきます。
- 客側(サービスを受けた側)の立場から、成人同士のケースを前提にしています
- 相手が18歳未満である可能性がある場合、すでに逮捕・勾留されている場合、捜査機関から呼び出しを受けている場合は、この記事の一般論では足りません。個別にご相談ください
- 本番行為を勧める趣旨ではありません。店の規約では通常禁止されており、店側には別に法律上の問題が生じ得ます
- 一般的な解説であり、個別の事案の結論を示すものではありません
「本番=即逮捕」に混ざっている三つの別々の話
「本番をしたら逮捕されるのか」という問いには、性質の違う三つの問いが混ざっています。
- 「本番」という行為そのものを処罰する条文があるのか(=処罰規定の有無)
- その出来事が刑法177条の要件に当てはまるのか(=犯罪の成立)
- 当てはまるとして、身柄を拘束されるのか(=逮捕するかどうかの判断)
この三つは、それぞれ別の場面で別の基準によって決まります。①に当たる条文がなくても②が問題になることはありますし、②が問題になっても③に進むとは限りません。「本番=即逮捕」という言い方は、この三つを一続きのものとして扱ってしまっている点に無理があります。
言葉のずれも、話をわかりにくくしています。現場で使われる言葉と条文の言葉は、次のように対応しています。
| 現場で使われる言葉 | 条文上の位置づけ |
|---|---|
| 本番 | 刑法にこの語はない。177条1項の「性交等」に当たるかどうかで判断される |
| 本番強要 | 刑法にこの語はない。強く迫ったかどうかではなく、176条1項各号の行為・事由と「困難な状態」の有無で判断される |
| 店から請求される「罰金」 | 罰金は刑罰の名称で、店が科すことはできない。実質は契約上の違約金や損害賠償の請求 |
| 売春 | 売春防止法2条の定義語。「対償」「不特定の相手方」「性交」の三要素で定義されている |
そもそも「本番」を処罰する条文はない——ただし「してよい」ではない
まず①の処罰規定から確認します。
売春防止法3条は「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定めています。売る側の行為も、その相手方となる行為も、法律上は禁止されています。ただし、この3条には罰則が置かれていません。同法で罰則が定められているのは、勧誘や客待ち、周旋、場所の提供、管理売春といった行為です。
「売春」の定義は同法2条にあり、対償を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交すること、とされています。報道でも、この法律は売る行為と買う行為の双方を禁じているが、それ自体には罰則がなく、処罰対象は客待ちや勧誘など売る側の行為に限られている、と整理されています。
ここで誤解が生まれやすいのですが、罰則がないことは「適法」という意味でも「相手が同意していた」という意味でもありません。禁止規定はあり、罰則だけが置かれていない、という構造です。そしてこの構造は、次の章で見る刑法177条とはまったく別のレイヤーの話です。売春防止法に罰則がないことは、177条の要件を検討しない理由にはなりません。
この構造自体が見直しの対象になっている
なお、この点は現在進行形で議論されています。法務省の有識者検討会は2026年3月に初会合を開き、同年5月29日の第4回会合で論点が取りまとめられました。報道によれば、買う側の処罰規定を導入するかどうかのほか、売春として禁止する行為の範囲についても検討されることになりました。売春の定義に含まれる行為が挿入を伴う膣性交のみとされている点も、論点に挙がっています。
本稿の執筆時点で結論は出ていません。今後の改正で前提が変わる可能性がありますので、この部分については最新の情報をご確認ください。
刑法177条1項を三つの段に分けて読む
次に②の成立要件です。刑法177条1項は、一文が長く読みにくい条文ですが、大きく三つの段が積み重なった構造になっています。
| 段 | 条文の言葉(要約) | 風俗の場面で問題になりやすい形 |
|---|---|---|
| 第1段 | 176条1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由 | 拒まれた後に続けた、飲酒があった、相手が驚いて固まっていた など |
| 第2段 | 同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態 | 「言えなかった」「言ったが止まらなかった」をどう評価するか |
| 第3段 | その状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて「性交等」をした | 挿入の有無と態様 |
三つの段がそろって初めて、客観的な要件が満たされたことになります。順に見ていきます。
第1段——八つの行為・事由
176条1項各号は、次の八つを挙げています。
- 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせること又はそれがあること
- アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
条文は「その他これらに類する行為又は事由」も含めているため、八つのどれかにぴったり当てはまらなければならない、というわけではありません。
第2段——「困難な状態」
法務省が公表している「性犯罪関係の法改正等 Q&A」は、条文の「形成」「表明」「全う」を次のように説明しています。形成が困難とは、同意しない意思を持つこと自体が難しい状態。表明が困難とは、持った意思を外に表すことが難しい状態。全うが困難とは、意思を表したのにそのとおりにならない状態です。
ここが本稿でいちばんお伝えしたい点です。同Q&Aは、八つの行為・事由を挙げたうえで、いずれもその程度は問わないが、これらの行為や事由によって相手が困難な状態になっていることが必要である、という二段構えで説明しています。つまり、第1段に当たる事情が何かあれば直ちに成立する、という条文ではありません。第1段の事情によって第2段の状態が生じていることが要ります。
同Q&Aは、今回の改正が処罰の範囲を拡大するものではないことにも触れています。
第3段——「させて」または「乗じて」性交等をしたこと
177条1項は「性交等」の中身を条文の中で定義しています。性交、肛門性交、口腔性交、および膣もしくは肛門に身体の一部(陰茎を除く)もしくは物を挿入する行為であってわいせつなもの、です。
実は、いわゆる「本番かどうか」が線引きとして効いてくるのは、この第3段だけです。ここに当たらない身体接触であれば、問題になるのは177条ではなく176条(不同意わいせつ)であり、法定刑も時効も別になります。
客観的な要件のほかに、故意が要る
ここまでの三段は、いずれも客観的な要件です。犯罪が成立するには、これとは別に、行為者がその事情を認識していたこと(故意)も必要です。「相手も同意していると思っていた」という説明は、この故意に関わる話であって、第1段から第3段のどこかを消す主張ではありません。この論点は別の記事で扱っています。
条文に戻ると見えてくる四つのこと
- 「明確な同意がなければ直ちに成立する」という条文ではありません。解説記事のなかには、相手が明確な同意の意思を示していない限り成立する、と読める書き方をしているものもありますが、条文の構造は「行為・事由 → 困難な状態 → その状態に乗じて(させて)性交等」という積み重ねです。
- 一方で、「何も言われなかった」ことが同意の証明になるわけでもありません。5号(いとまがないこと)や6号(恐怖・驚愕)は、まさに拒む言動をとれなかった場面を正面から想定した規定です。沈黙や無抵抗を同意と読み替える理解は、条文と噛み合いません。
- 途中で拒まれた後に続けた場合は、「全う」が困難だったかどうかの問題になり得ます。最初の時点でどうだったかだけで決まる仕組みにはなっていません。
- 料金を支払ったことは、条文のどの段にも出てきません。「対償」は売春防止法2条の定義に出てくる言葉であって、177条の要件ではありません。オプション料金を追加した場合も同じです。
「即逮捕ではない」の正しい意味
最後に③です。逮捕するかどうかは、犯罪が成立するかどうかとは別の判断として行われます。
刑事訴訟法199条1項は、逮捕状の請求に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」を求めています。さらに同条2項ただし書は、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状を発しない旨を定めています。つまり、嫌疑と逮捕の必要性という二つの物差しがあり、両方を通って初めて身柄の話になります。
「本番=即逮捕ではない」という言い方が意味を持つのは、この二段の判断が入るという限りにおいてです。捜査が始まらないという意味でも、事件として扱われないという意味でもありません。逮捕されないまま在宅で捜査が進み、処分だけが決まっていくこともあります。逮捕の判断がどう分かれるかは、別の記事で詳しく整理しています。
条文が変われば、別の問題になる
177条の要件だけを見ていると、視野の外に落ちてしまうものがあります。同じ出来事から、次のような別のレイヤーの問題が同時に立ち上がることがあります。
- 相手の年齢……16歳未満であれば177条3項、18歳未満であれば児童買春・児童ポルノ禁止法が別に問題になります。ここは同意の有無とは別の枠組みです
- 挿入に至らない行為……176条(不同意わいせつ)の問題です。法定刑も公訴時効も177条とは異なります
- 撮影……性的姿態等撮影罪は、本番の話とは独立して問題になり得ます
- 店やキャストからの金銭請求……刑事とは別の民事の話です。請求された金額がそのまま支払義務の額になるわけではありません
条文についての情報を確かめるときの三つの注意点
- 引用されている条文が改正前のものになっていないか。2023年7月13日施行の改正前、177条は「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて…」という文言でした。この旧条文を引用したまま更新されていない解説は、いまも残っています。旧条文を前提にすると、「暴行や脅迫がなければ成立しない」という現行法とずれた理解になってしまいます。
- 「本番強要」という言葉だけで説明されていないか。条文にない言葉なので、強く迫ったかどうかだけで線が引かれるかのように読めてしまいます。実際の判断枠組みは、前述の三段構造です。
- 数字が出てくる場合、その母集団が書かれているか。「逮捕された人はいない」「逮捕される可能性は低い」といった記述は、その事務所に相談した人のなかでの話であることが少なくありません。母集団の説明がない数字は、自分の状況に当てはめる材料になりにくいものです。
相談する場合、先に整理しておくと話が早いこと
条文の三段構造は、そのまま「何を確認すべきか」のリストにもなります。弁護士に相談する際、次の点を時系列で整理しておくと、見立てが早くなります。
- 入店から退店までの経過(どのようなやり取りがあり、どの時点で何が起きたか)
- 飲酒の有無と量、相手の様子について自分が認識していたこと
- 拒む言動があったかどうか、あった場合はその前後で自分がどうしたか
- 店やキャストからの連絡の有無と、その内容が残っている媒体
記憶があいまいな部分を無理に埋める必要はありません。むしろ、あいまいな箇所はあいまいなまま伝えていただくほうが、後の説明との食い違いを避けられます。
まとめ
- 刑法に「本番」「本番強要」という言葉はなく、出来事の呼び名で結論は決まりません
- 売春防止法3条は売春もその相手方となることも禁止していますが、3条自体に罰則はありません。ただし、これは「適法」という意味ではなく、177条の検討を不要にするものでもありません
- 177条1項は「八つの行為・事由 → 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態 → その状態にさせて、または乗じて性交等」という三段構造です
- 「明確な同意がなければ直ちに成立」でも、「何も言われなければ同意」でもありません。条文はそのどちらとも違う書き方をしています
- 料金の支払いは、177条の要件のどこにも出てきません
- 逮捕は成立要件とは別の判断であり、「即逮捕ではない」ことと「事件にならない」ことは別です
- 年齢、挿入に至らない行為、撮影、金銭請求は、それぞれ別の条文・別のレイヤーの問題として並行します
早く動いたからといって、必ず望む結果になるとは限りません。ただ、条文のどこが問題になっているのかを取り違えたまま対応すると、必要のない負担を抱えたり、逆に必要な準備が遅れたりすることがあります。判断に迷う段階でご相談いただければ、現在地の確認からお手伝いできます。


