スーパーマーケットの販促は「狩猟型」と「農耕型」で考える ━ 短期売上と顧客育成を両立させる経営戦略 ━

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーの営業戦略

スーパーマーケットの販促は、チラシや特売で短期売上を取る「狩猟型(ハンター)」だけでは限界があります。

リピート率、固定客、地域密着を育てる「農耕型(ファーマー)」の顧客育成戦略が、営業利益改善の鍵になります。

スーパーマーケット経営に必要な二つの時間軸

スーパーマーケットの経営には、二つの時間軸があります。

一つは、短期的に売上を取りにいく「狩猟型(ハンター)」の戦略です。
もう一つは、時間をかけて顧客との信頼関係を育てる「農耕型(ファーマー)」の戦略です。

多くのスーパーマーケットでは、チラシ、特売、ポイント企画、値引き販売など、すぐに売上反応が見える施策に力を入れがちです。
もちろん、これらの施策は必要です。
週末商戦、月間売上、部門予算を達成するためには、即効性のある販促は欠かせません。

しかし、問題はそこに偏りすぎることです。

短期的な売上だけを追いかけると、
価格競争に巻き込まれ、
粗利益率が下がり、
ロスが増え、
結果として営業利益が残りにくくなります。

これからのスーパーマーケット経営では、「今日売る力」と「明日も来店してもらう力」の両方が必要です。
つまり、狩猟型と農耕型のバランスが、営業利益改善の重要な経営課題になるのです。

狩猟型マーケティングとは何か


狩猟型マーケティングとは、短期間で売上反応を得るための販促です。

たとえば、次のような施策が該当します。
・チラシ特売
・日替わり商品
・タイムサービス
・ポイント倍付け
・値引き販売
・限定数量販売
・週末の目玉商品

これらは、来店動機をつくるうえで非常に有効です。
競合店との価格比較が起こりやすい地域では、一定の価格訴求も必要になります。

しかし、狩猟型販促には限界があります。

売上は上がっても、粗利益が残らない。
客数は増えても、固定客にならない。
安い時だけ来るお客様が増え、通常価格では買ってもらえない。

この状態が続くと、店は「売っているのに儲からない」体質になります。

特に中小スーパーマーケットでは、大手チェーンやドラッグストアやディスカウント業態と同じ土俵で価格競争を続けることは危険です。
価格だけで勝負すれば、仕入れ力、人員数、広告量、システム投資力で勝る企業に押し込まれます。

狩猟型販促は必要です。
しかし、それだけでは営業利益は安定しません。

農耕型マーケティングとは何か

農耕型マーケティングとは、時間をかけてお客様との関係性を育てる販促です。
農業でいえば、畑を耕し、種をまき、水をやり、雑草を取り、収穫まで待つ仕事です。

スーパーマーケットでいえば、次のような取り組みが農耕型販促にあたります。
・店長や担当者からの情報発信
・手書きPOPによる商品の価値訴求
・旬、産地、食べ方、保存方法の提案(教育)
・メニュー(レシピー)提案
・試食販売(試食会)
・LINEやSNS、ニュースレターでの継続的な情報発信
・地域行事への積極的参加
・生活歳時記に合わせた売場づくり
・顧客とのフレンドリーな会話
・従業員の商品知識・接遇教育(訓練)

これらは、すぐに大きな売上として表れないことがあります。

1回POPを書いたからといって、翌日に売上が2倍になるとは限りません。
1回レシピを出したからといって、すぐにリピート客が増えるとは限りません。
1回ニュースレターを出したからといって、すぐに来店客数が大きく増えるとは限りません。

しかし、継続することでお客様の記憶に残ります。

「この店は、商品のことをよく教えてくれる」
「この店の青果売場は、旬が分かりやすい」
「この店の鮮魚売場は、食べ方まで提案してくれる」
「この店の惣菜は、作り手の顔が見える」
「この店は、地域の生活に寄り添っている」

このような印象が積み重なることで、価格だけではない来店理由が生まれます。

これが農耕型販促の本質です。

2週間で「効果がない」と判断してはいけない

多くの企業が失敗する理由は、農耕型の取り組みを狩猟型の基準で評価してしまうことです。

たとえば、ハガキを送る。
ニュースレターを出す。
LINEで情報発信をする。
売場でレシピ提案をする。
担当者のおすすめPOPをつける。

こうした施策を始めても、2週間ほどで大きな売上変化が見えないことがあります。

そこで、「効果がない」「手間がかかるだけ」「コストに合わない」と判断してやめてしまう。
これは、種をまいた直後に畑を掘り返して、「まだ実がなっていない」と言っているのと同じです。

農耕型販促は、成果が出るまでに時間がかかります。
お客様の認知が変わる。
売場を見る目が変わる。
商品への信頼が生まれる。
担当者への親近感が生まれる。
来店頻度が少しずつ上がる。
リピート購入が増える。

この変化は、一気には起こりません。
しかし、継続すれば確実に経営の土台になります。

「安いから買う」から「この店だから買う」へ

スーパーマーケットの利益改善で重要なのは、お客様の来店理由を変えることです。
「安いから買う」だけでは、価格競争から抜け出せません。

これから必要なのは、次のような来店理由です。
・この店の野菜は鮮度が良い
・この店の魚は安心できる
・この店の惣菜はおいしい
・この店は旬の提案が分かりやすい
・この店は食卓のヒントをくれる
・この店の従業員は親切で商品に詳しい

この状態をつくるには、農耕型の積み上げが必要です。

単品を安く売るだけではなく、商品の背景、食べ方、価値、使い切り方、保存方法、調理方法まで伝える。
これによって、お客様は価格以外の理由で商品を選ぶようになります。

結果として、
値引き依存が減り、
粗利益率が改善し、
リピート購入が増えていきます。

狩猟型と農耕型は対立ではなく組み合わせるもの


ここで重要なのは、狩猟型販促を否定しないことです。

売上をつくるためには、短期的な販促も必要です。
特売、チラシ、ポイント企画、週末の目玉商品も必要です。

しかし、それだけに頼ってはいけません。

理想は、狩猟型と農耕型を組み合わせることです。
たとえば、週末の特売商品を単に安く売るのではなく、食べ方提案を加える。
✓ チラシ掲載商品に、売場でレシピPOPをつける。
✓ 青果の目玉商品に、保存方法と献立提案をつける。
✓ 鮮魚の刺身に、産地や鮮度管理のこだわりを伝える。
✓ 惣菜の売場で、手作り感や調理工程を見せる。


このように、短期売上を取りながら、同時に顧客の記憶に残る価値訴求を行うことが重要です。

狩猟型は、“今日の売上” をつくる。
農耕型は、“明日の固定客” をつくる。


この二つを同時に設計することが、スーパーマーケットの営業利益改善につながります。

店長と部門責任者が見るべき指標

農耕型販促は、短期売上だけで判断してはいけません。

見るべき指標は、売上だけではなく、次のようなものです。
・リピート購入率
・買上点数
・客単価
・粗利益率
・値引率
・ロス率
・重点商品の販売点数
・関連購買数
・来店頻度
・LINEやSNSの反応
・POP設置商品の販売推移

たとえば、レシピPOPをつけた商品は、単品売上だけでなく、関連する調味料、野菜、精肉、日配品まで含めて効果を見る必要があります。

鍋提案であれば、白菜だけを見るのではなく、きのこ、豆腐、肉、魚、鍋つゆまで見る。

刺身提案であれば、刺身だけでなく、醤油、わさび、つま、大葉、日本酒まで見る。

惣菜提案であれば、弁当だけでなく、サラダ、飲料、デザートまで見る。

農耕型販促の成果は、単品だけでなく、売場全体の買い回りに表れます。

中小スーパーほど農耕型戦略が必要になる

中小スーパーマーケットは、大手に比べて広告費や価格競争力で不利になることがあります。
しかし、中小スーパーには強みもあります。

・地域のお客様との距離が近い。
・従業員の顔が見える。
・地域の食文化を理解している。
・地場商品を扱いやすい。
・売場変更の意思決定が早い。
・お客様の声をすぐに売場へ反映できる。

これらは、大手チェーンには真似しにくい強みです。

農耕型販促は、この強みを最大化します。
・お客様との会話。
・地域商品の紹介や活用。
・旬の食べ方提案。
・担当者おすすめの発信。
・地域行事に合わせた売場づくり。

こうした地道な取り組みが、店の独自性をつくります。

中小スーパーが生き残る道は、大手と同じ価格競争をすることではありません。
地域のお客様にとって「この店で買う理由」をつくることです。

営業利益改善は、顧客との関係づくりから始まる

営業利益を改善するには、売上を上げるだけでは不十分です。
✓ 粗利益率を上げる。
✓ ロスを減らす。
✓ 値引きを減らす。
✓ 買上点数を増やす。
✓ 客単価を上げる。
✓ 作業効率を高める。
✓ 在庫を適正化する。

これらを同時に進める必要があります。
その土台になるのが、顧客との信頼関係です。

『信頼がある店』 では、少し高くても買ってもらえます。
提案した商品を試してもらえます。
POPやレシピを見てもらえます。
新商品も受け入れてもらいやすくなります。
従業員のおすすめが販売力になります。

つまり、農耕型販促は、単なる販促ではありません。
営業利益を残すための経営基盤づくりなのです。

まとめ:短期売上を追いながら、長期の信頼を育てる

スーパーマーケット経営において、狩猟型と農耕型のどちらか一方だけでは不十分です。

狩猟型は、“今日の売上” をつくります。
農耕型は、“明日の顧客” を育てます。


短期的な販促で売上を取りながら、同時に、顧客との関係性を育てる仕組みを持つこと。
これが、これからのスーパーマーケットに必要な販促戦略です。

2週間で効果が見えないからといって、やめてはいけません。
畑に種をまいたら、水をやり続ける必要があります。

売場も同じです。
お客様との関係も同じです。
信頼も同じです。

継続して育てた店だけが、価格競争から抜け出し、地域のお客様に選ばれ続けます。

サミットリテイリングセンターでは、スーパーマーケットの売場改善、販促設計、在庫管理、作業改善、KPI管理を通じて、営業利益を残すための実践的な支援を行っています。
「売上はあるのに利益が残らない」
「特売をしても固定客が増えない」
「価格競争から抜け出したい」
「売場の提案力を高めたい」

このような課題を感じている経営者、店長、バイヤーの方は、短期売上だけでなく、顧客を育てる農耕型の経営戦略を見直すことが重要です。

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新谷千里
専門家

新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングとオペレーション改善とコスト削減。他では教えてくれない理論と実践で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

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