効率は、目的ではない ― スーパー経営で本当に見るべきは「作業時間」ではなく「営業利益」である ―

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

スーパーマーケットの作業効率化は目的ではなく、営業利益を残すための手段です。人手不足、賃金上昇、競争激化の中で、中小スーパーが取り組むべき作業改善、在庫削減、POS活用、KGI・KPI管理について、現場改善コンサルタントの視点で解説します。

効率化だけを追いかけても、スーパーは強くならない

スーパーマーケットの現場では、よく
「もっと効率を上げよう」
「作業時間を減らそう」
「人件費を抑えよう」
という言葉が使われます。

もちろん、作業効率の改善は重要です。
人手不足が続き、最低賃金も上がり、店舗運営に必要な人件費は年々重くなっています。

しかし、ここで間違えてはいけないことがあります。

効率は、目的ではありません。
効率は、あくまでも営業利益を残すための手段です。

作業時間を減らしても、売場の魅力が落ちれば売上は下がります。
人員を減らしても、欠品が増えればチャンスロスが発生します。
発注作業を短縮しても、在庫が増え、値引きや廃棄が増えれば粗利益は残りません。

つまり、
効率化だけを目的にすると、現場は一見スリムになったように見えても、利益を失う危険があるのです。

スーパー経営の目的は「営業利益を残すこと」

中小スーパーマーケットにとって、本当に重要なのは、売上高そのものではありません。
最終的にどれだけ営業利益を残せるかです。

売上が伸びても、粗利益率が低下し、ロスが増え、人件費が膨らめば、経営は楽になりません。

逆に、売上が大きく伸びなくても、粗利益率を改善し、在庫を適正化し、作業工数を減らせば、営業利益は改善できます。

そのため、店舗改善で最初に確認すべきことは、次のような項目です。

•どの商品で粗利益を稼いでいるのか
•どの部門でロスが発生しているのか
•どの時間帯に作業が集中しているのか
•どの売場で欠品や機会損失が起きているのか
•どの作業が利益に直結していないのか

これらを見ないまま「作業時間を減らす」ことだけを進めると、現場の力を削ることになります。

作業改善とは「減らすこと」だけではない

作業改善というと、多くの現場では「作業を減らすこと」と考えられがちです。

しかし、
本来の作業改善は、単に仕事を削ることではありません。
利益につながらない作業を減らし、利益につながる作業に時間を振り向けることです。
効率は目的ではない
例えば、
次のような作業は、ただ減らせばよいというものではありません。

売場づくり

売場づくりの時間を減らしすぎると、商品の魅力が伝わらなくなります。
陳列、POP、関連販売、季節感の演出は、買上率や客単価に直結します。

発注

発注時間を短縮することは重要ですが、発注精度が落ちれば欠品や過剰在庫が発生します。
結果として、売上機会の損失や値引きロスにつながります。

品出し

品出し作業を減らすだけでは、ピーク時間帯に商品が売場に出ていない状態を招きます。
特に生鮮・惣菜では、売れる時間に売れる商品が出ていることが重要です。
作業改善で見るべきなのは、作業時間そのものではなく、
その作業が売上・粗利益・ロス削減・顧客満足にどうつながっているかです。

「効率化」と「売場力低下」は紙一重


現場でよく起こる失敗があります。
それは、効率化の名のもとに、売場の魅力まで削ってしまうことです。

例えば、次のようなケースです。

•補充回数を減らした結果、ピーク時間に欠品が増える
•売場変更を減らした結果、季節感がなくなる
•試食や声かけをやめた結果、重点商品の販売数が落ちる
•商品づくりを簡素化しすぎて、惣菜や生鮮の魅力が薄れる
•人員を削りすぎて、売場確認や鮮度管理が後回しになる


これでは、作業時間は減っても、売上と粗利益を失います。

スーパーマーケットは、単なる商品置き場ではありません。
お客様が、
「今日これを買いたい」
「これも一緒に買おう」
「この店は楽しい」
と感じる売場をつくることで、利益が生まれます。

効率化は必要です。
しかし、売場の価値を下げる効率化は、経営改善ではありません。

本当に必要なのは「利益を生む効率化」

スーパーに必要なのは、単なる効率化ではなく、利益を生む効率化です。

そのためには、次の3つの視点が欠かせません。

1. POSデータで「見える化」する

現場改善の第一歩は、感覚ではなくデータで見ることです。
POSデータを使えば、以下のことが見えてきます。

•売れている商品
•売れていない商品
•時間帯別の販売動向
•曜日別の販売傾向
•値引き発生商品
•欠品の可能性が高い商品
•粗利益に貢献している商品

特に重要なのは、売上金額だけで判断しないことです。

売上が高くても、粗利益率が低ければ利益貢献は小さくなります。
逆に、
売上金額は大きくなくても、粗利益率が高く、回転の良い商品は、営業利益改善に貢献します。

POSデータは、単なる過去実績ではありません。

発注、売場づくり、重点商品設定、ロス削減のための経営情報です。

2. 在庫を削減し、適正化する

営業利益を圧迫する大きな要因の一つが、過剰在庫です。
在庫が多いと、次のような問題が起こります。

•値引きが増える
•廃棄ロスが増える
•作業量が増える
•売場やバックヤードが乱れる
•商品の鮮度が落ちる
•資金繰りが悪化する

在庫削減とは、単に商品を減らすことではありません。
売れる商品を必要な量だけ持ち、売れない商品や過剰な仕入れを減らすことです。

特に生鮮部門や惣菜部門では、在庫管理の精度が粗利益に直結します。
売れる時間帯、
販売数量、
値引きタイミング、
最終販売時間
を確認しながら、発注と製造量を調整する必要があります。

在庫の適正化は、ロス削減であり、作業削減であり、利益改善でもあります。

3. KGI・KPIで現場を動かす

効率化を成果につなげるには、KGIとKPIの設定が必要です。
KGIとは、最終的に達成したい経営目標です。

例えば、
営業利益率、営業利益額、粗利益額などが該当します。
KPIとは、KGIを達成するための重要管理指標です。

スーパーマーケットでは、次のような指標が考えられます。

•粗利益率
•ロス率
•値引率
•在庫日数
•人時売上高
•人時粗利益高
•買上点数
•客単価
•欠品率
•重点商品の販売数量

大切なのは、現場が毎日確認できる数字に落とし込むことです。

「営業利益を上げよう」だけでは、現場は動けません。

しかし、
「ロス率を1%下げる」
「重点商品の販売数を1日30個増やす」
「ピーク前補充を徹底する」
となれば、行動に変わります。

数字を行動に変えること。
これが、KGI・KPI管理の本質です。

3Sで作業を整える 標準化・単純化・専門化

効率化を現場に定着させるためには、3Sの考え方が有効です。

標準化

誰が作業しても、一定の品質と時間でできるようにすることです。
作業指示書、チェックリスト、売場写真、作業手順書などを活用します。

単純化

複雑な作業を減らし、迷わず実行できる状態にすることです。
陳列ルール、発注ルール、補充ルール、値引きルールを明確にします。

専門化

誰でも同じことをするのではなく、役割を明確にして、得意な作業に集中できるようにすることです。
チーフ、社員、パート、アルバイトの役割分担を見直すことで、生産性は大きく変わります。

3Sは、現場を楽にするためだけの考え方ではありません。
作業品質を安定させ、売場レベルを維持しながら、営業利益を高めるための仕組みです。

D-CAPで現場改善を早く回す

現場改善では、計画から入るPDCAだけでなく、D-CAPの考え方が有効です。
D-CAPとは、
Do → Check → Action → Plan
の順番で改善を進める考え方です。
スーパーの現場では、計画に時間をかけすぎるより、まず実行して、結果を見て、修正することが重要です。
例えば、重点商品の展開では、
1.まず売場で実施する
2.POSデータで販売結果を確認する
3.売れた理由・売れなかった理由を分析する
4.次週の売場や発注に反映する
この流れを早く回すことで、現場の改善スピードが上がります。
重要なのは、失敗を責めることではありません。
失敗を情報として活用し、次の売場づくりに生かすことです。

ChatGPTなどのAIは「効率化の道具」であり、経営判断の代替ではない

最近では、ChatGPTなどのAIを使って、資料作成、POP作成、作業指示書作成、販促企画、教育資料作成を効率化することができます。

これは、スーパーマーケット経営にとって大きな武器になります。

例えば、AIを活用すれば、次のような作業を短時間で行えます。

•週間販促企画のたたき台作成
•POP文言の作成
•作業指示書の作成
•店長会議資料の整理
•研修テキストの作成
•POSデータ分析の視点整理
•売場改善チェックリストの作成

ただし、AIは経営判断の代替ではありません。
AIが出した答えを、そのまま現場に当てはめるだけでは不十分です。

地域性、客層、競合状況、売場面積、従業員の熟練度、仕入れ条件などは、店舗ごとに異なります。

AIは効率化の道具として活用し、最終判断は現場と経営者が行う必要があります。

効率化のゴールは「働く人を減らすこと」ではない

効率化という言葉を聞くと、従業員の人数を減らすことを想像する人もいます。

しかし、
本来の効率化の目的は、働く人を減らすことではありません。
限られた人員で、より価値の高い仕事に集中できる状態をつくることです。

例えば、
単純な転記作業、重複作業、探し物、手戻り作業、過剰な確認作業を減らす。
その分、売場確認、接客、鮮度管理、重点商品販売、部下育成に時間を使う。

これが、現場に必要な効率化です。

人手不足の時代に必要なのは、
「人を減らす経営」ではなく、
人の力を利益に変える経営です。

中小スーパーが取り組むべき実践項目

中小スーパーマーケットが営業利益を改善するためには、次の実践が重要です。

1. 作業指示書を活用する

作業内容、作業時間、担当者、完成基準を明確にすることで、ムダな確認や手戻りを減らします。

2. 在庫を見える化する

ックヤード、売場在庫、発注残、値引き予定を確認し、過剰在庫と欠品を防ぎます。

3. POSデータを日々確認する

売上だけでなく、粗利益、点数、値引き、ロス、時間帯別販売を確認します。

4. 重点商品を決める

すべての商品を同じように売るのではなく、利益貢献度の高い商品に販売力を集中します。

5. 教育訓練を仕組みにする

ベテランの経験だけに頼らず、作業標準、売場基準、発注基準を共有します。

6. FLコストを管理する

Food原価とLabor人件費を合わせて管理し、部門別の利益構造を把握します。

7. D-CAPで改善を早く回す

実行、確認、修正、計画の流れを短期間で回し、売場改善を継続します。

効率化の前に、経営者が問うべきこと

最後に、経営者や店長が確認すべき質問があります。

「この効率化は、営業利益につながっているか」

この問いを持たずに効率化を進めると、単なる作業削減になります。
しかし、
この問いを持って現場を見れば、改善の優先順位が変わります。

減らすべき作業。
残すべき作業。
増やすべき作業。
標準化すべき作業。
AIに任せるべき作業。
人がやるべき作業。

これらを見極めることが、これからのスーパー経営には必要です。

まとめ:効率は目的ではなく、営業利益を生むための手段であ

スーパーマーケット経営において、効率化は重要です。
しかし、
効率化そのものを目的にしてはいけません。

目的は、営業利益を残すことです。

お客様に選ばれる売場をつくり、粗利益を確保し、ロスを減らし、在庫を適正化し、働く人の力を最大限に生かすことです。

効率は、目的ではありません。
効率は、利益を生む現場をつくるための手段です。

✓ 作業時間を減らすだけではなく、売場価値を高める。
✓ 人件費を抑えるだけではなく、人の力を利益に変える。
✓ 在庫を減らすだけではなく、売れる商品を売れるタイミングで売場に出す。

この視点を持つことで、スーパーの現場改善は単なるコスト削減ではなく、営業利益改善の取り組みに変わります。
(文:新谷千里)


<無料相談のご案内>

もし、
・在庫が合っていない
・欠品が多い
・人手不足で回らない
・利益が出ない
このような課題があるなら、現場を見れば必ず原因は見つかります。
(文:新谷千里)

サミットリテイリングセンターでは、現場ベースでの改善支援を行っています。

「3ヶ月で利益を変える」実行支援も可能です。

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新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングとオペレーション改善とコスト削減。他では教えてくれない理論と実践で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

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