社員に「経営者意識」を求める前に、経営者がつくるべき仕組みとは  ― スーパーマーケットの利益改善は、精神論ではなく組織設計で決まる ―

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

社員に「もっと当事者意識を持ってほしい」「経営者目線で動いてほしい」と感じる経営者は多い。
しかし、
スーパーマーケットの現場改善や利益改善は、社員の意識だけに頼っても進まない。
重要なのは、誰がやっても成果が出る仕組みをつくることである。

社員に「経営者意識」を求めすぎていないか

スーパーマーケットの経営者や幹部の方と話していると、よく聞く言葉があります。

「もっと当事者意識を持ってほしい」
「社員には、経営者目線で動いてほしい」
「店長やチーフが、もっと利益のことを考えてくれたらいいのに」

その気持ちは、よく分かります。

経営者は、会社の利益が気になります。
売上の伸び悩みも気になります。
粗利益率の低下も気になります。
人件費の上昇、在庫の増加、ロス、資金繰り、来月の売上も気になります。

しかし、従業員は経営者とは立場が違います。

従業員には従業員の生活があります。
家族があります。
休日があります。
給与があります。
働く時間の制約もあります。

つまり、経営者と従業員では、そもそもの「優先順位」が違うのです。

にもかかわらず、多くの経営者は、
「なぜ、社員はもっと真剣に考えないのか」
「なぜ、店長はもっと数字に強くならないのか」
「なぜ、チーフはもっと利益を意識しないのか」
と考えてしまいます。

しかし、
ここで一度、冷静に考える必要があります。

もし立場が逆なら、自分はどこまで会社のために悩むでしょうか。
経営者と同じ熱量で、毎日、会社の利益や資金繰りまで考えるでしょうか。

おそらく、そう簡単ではありません。

経営者意識を求めすぎる会社ほど、精神論に傾きやすい

私は、長年スーパーマーケットの現場改善、営業利益改善、売場改善、人材教育に関わってきました。

その中で強く感じることがあります。

社員に「経営者意識」を求めすぎる会社ほど、精神論に傾きやすいということです。

もちろん、当事者意識は大切です。
責任感も必要です。
店長やチーフが数字に関心を持つことも重要です。

しかし、それだけで組織は動きません。

「もっと考えろ」
「もっと責任感を持て」
「もっと利益を意識しろ」
「もっと店を良くしろ」

このような言葉だけでは、現場は変わりません。

なぜなら、現場の人たちは何をどう変えればよいのかが分からないからです。

売場のどこを見ればよいのか。
どの商品を重点管理すればよいのか。
発注数量をどう判断すればよいのか。
在庫をどこまで持てばよいのか。
ロス率をどの水準まで下げればよいのか。
人時売上高をどう改善すればよいのか。
何をKPIとして管理すればよいのか。


これらが明確になっていなければ、社員に意識だけを求めても、行動は変わりません。

組織を動かすのは、感情ではなく仕組みである

スーパーマーケット経営で成果を出すために必要なのは、精神論ではありません。

必要なのは、『仕組み』です。
語り合う経営者
優秀な経営者ほど、社員の「意識の高さ」だけに依存しません。
誰が担当しても、一定の成果が出るように設計します。
たとえば、次のような仕組みです。

1. 重点商品を明確にする仕組み

売場には、多くの商品があります。
しかし、すべての商品を同じように管理していては、成果は出ません。

売上、粗利益、相乗積、買上率、季節性、競合との差別化要素を踏まえて、重点商品を明確にする必要があります。

✓ 「今週、何を売るのか」
✓ 「どの商品で粗利益を取るのか」
✓ 「どの商品で来店動機をつくるのか」
✓ 「どの商品を平台やエンドで展開するのか」

これを明確にするだけで、現場の動きは変わります。

2. 発注と在庫を見える化する仕組み

在庫が多すぎれば、ロスが増えます。
在庫が少なすぎれば、欠品が増えます。

どちらも利益を失います。

発注担当者の勘や経験だけに頼るのではなく、
POSデータ、販売数量、曜日別の販売傾向、天候、販促計画、前週実績
を見える化することが重要です。

特に、生鮮部門や日配部門では、発注精度が営業利益に直結します。

「売れたか、売れなかったか」だけでなく、
「なぜ売れたのか」
「なぜ残ったのか」
「何時に売れたのか」
「どのタイミングで欠品したのか」

ここまで確認することで、発注の質が上がります。

3. 作業指示を明確にする仕組み

現場でよく起きる問題は、作業の属人化です。

ベテランは分かっている。
新人は分からない。
パートさんによってやり方が違う。
店長がいないと判断できない。
チーフの指示がないと動けない。

この状態では、作業効率は上がりません。

必要なのは、作業指示書、作業割当表、作業基準、時間帯別作業計画です。
「誰が」
「何を」
「いつまでに」
「どの水準で」
「どの順番で行うのか」
これを明確にすることで、作業のムダが減ります。


そして、人時生産性が上がります。

4. 評価と報酬を連動させる仕組み

社員に責任感を求めるのであれば、評価の仕組みも必要です。

✓ 数字を求めるのに、評価が曖昧。
✓ 利益改善を求めるのに、評価項目に利益が入っていない。
✓ ロス削減を求めるのに、ロス率を確認していない。
✓ 作業改善を求めるのに、人時売上高を評価していない。

これでは、現場は本気になりにくいのです。

店長、チーフ、担当者に求める役割を明確にし、
KGIとKPIを設定することが重要です。

たとえば、次のような指標です。
•売上高
•粗利益高
•粗利益率
•ロス率
•値引率
•在庫日数
•人時売上高
•人時生産性
•欠品率
•重点商品の販売数量
これらを定期的に確認し、
評価と改善活動につなげることで、現場は動きやすくなります。

「意識が低い」のではなく、行動基準が見えていない

経営者が「社員の意識が低い」と感じる場面の多くは、実は意識の問題ではありません。

行動基準が見えていないのです。

たとえば、青果売場で「鮮度感を出せ」と言われても、現場は困ります。

具体的には、
•どの商品を入口に置くのか
•どの品質の商品を前面に出すのか
•どの時間に補充するのか
•どの商品をどの程度積み上げるのか
•どの商品にどんなPOPを付けるのか
•鮮度を何時に確認するのか
•値引き判断を何時に行うのか

ここまで決めて初めて、現場は動けます。

「鮮度感を出せ」ではなく、
「朝9時までに入口平台へ、地場のトマト、きゅうり、とうもろこしを展開する」
「11時、14時、16時に鮮度確認と前出しを行う」
「傷み品は即時売場から外し、値引き判断はチーフが14時に行う」
このように具体化することで、現場の行動が変わります。

経営者が本当にやるべき仕事

経営者がやるべきことは、社員に経営者と同じ熱量を求めることではありません。

経営者がやるべきことは、社員が成果を出せる環境をつくることです。

つまり、
•目標を明確にする
•数字を見える化する
•作業を標準化する
•責任範囲を明確にする
•評価基準を明確にする
•教育訓練を仕組み化して行う
•改善の手順を決める
•成果が出る売場づくりを設計する

これが、経営者の仕事です。

社員に「もっと考えろ」と言う前に、
✓ 考える材料を与えているか。
✓ 判断する基準を与えているか。
✓ 行動する手順を教えているか。
✓ 成果を確認する数字を与えているか。


ここを見直す必要があります。

スーパーマーケットの利益改善は、仕組みで再現できる

営業利益が残らないスーパーマーケットには、共通点があります。

売場が悪いというより、仕組みが弱いのです。

たとえば、
•重点商品が決まっていない
•販促計画が現場に落ちていない
•POSデータが活用されていない(知らない)
•発注が担当者任せになっている
•在庫基準がない
•作業指示が曖昧
•ロス削減の基準がない
•店長会議が報告会で終わっている
•KPIが共有されていない
•改善活動が継続しない

この状態では、社員にいくら「意識を高く持て」と言っても、利益改善は進みません。

逆に、仕組みを整えれば、現場は変わります。
売場が変わります。
発注が変わります。
在庫が変わります。
作業が変わります。
ロスが変わります。
粗利益が変わります。

そして、営業利益が変わります。

求めるべきは「経営者と同じ熱量」ではなく「機能する組織」

経営者と社員が、まったく同じ熱量で会社を考えることは簡単ではありません。

だからこそ、経営者は仕組みをつくる必要があります。

求めるべきなのは、社員に経営者と同じ感覚を持たせることではありません。

求めるべきなのは、機能する組織です。
✓ 誰が見ても分かる数字。
✓ 誰がやっても再現できる作業。
✓ 誰が担当しても判断できる基準。
✓ 誰が店長でも改善が進む仕組み。
✓ 誰がチーフでも利益を意識できる売場管理。


これが、営業利益を残すスーパーマーケットに必要な組織づくりです。

まとめ:社員の意識を責める前に、仕組みを点検する

社員の意識が低い。
店長が動かない。
チーフが数字を見ない。
パートさんが考えてくれない。
そう感じたときこそ、経営者は一度立ち止まる必要があります。

本当に問題は、社員の意識だけなのでしょうか。

もしかすると、
目標が曖昧なのかもしれません。
数字が見えていないのかもしれません。
作業基準がないのかもしれません。
評価が連動していないのかもしれません。
教育訓練が不足しているのかもしれません。
現場が判断できる仕組みがないのかもしれません。

スーパーマーケットの営業利益改善は、精神論では進みません。

必要なのは、現場が動ける仕組みです。

そして、
その仕組みをつくることこそ、経営者の重要な仕事です。

社員に「経営者意識」を求める前に、
まずは、誰がやっても成果が出る組織設計ができているか。

そこから見直すことが、利益改善の第一歩です。
(文:新谷千里)


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