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新谷千里

高利益を出すスーパーマーケットにするコンサルタント

新谷千里(しんがいちさと) / 経営コンサルタント

有限会社サミットリテイリングセンター

コラム

営業利益は、店長の時間の使い方で決まる⁉【商人舎magazine5月号】原稿

2018年5月10日

テーマ:スーパーの業務改善

コラムカテゴリ:ビジネス

「店は、店長で決まる」と言われます。
リーダーである店長の考え方と日々の行動で、業績は大きく左右されることとなります。

今回は、私のコンサルティングの現場で起こったことを、読者の皆さんにシェヤ(共有)したいと思います。

ある地方のSM企業です。その中の中型店で起こった、訪問日の午前中2時間程度の事例です。

私は、店舗到着後、すぐに売り場全体を確認しました。その後、社長と店長、そして私の3人でミーティングを行いました。
現在、全社で行っている改善活動の進捗状況と成果の報告、そして実行課題を聞き取り、改善のためのアドバイスを行いました。

その後、店長に店舗の課題は無いかを質問をしました。
「総菜部門の二人のパート社員が、長時間勤務になっていました。勤務時間を、二人合わせて50人時ほど減らしてもらいました」
「そのため人員不足で、新規募集をしようと思っています」

「人時が減ったから、その補い分の人を採用したい」というのが、現場のチーフと店長の希望の様です。


当面、採用禁止‼

私は、「採用は禁止してください」と、店長に即答しました。

この店舗は、営業利益で大幅な赤字です。
会社的には、テナント収入が有り、その営業外収益で営業赤字を補っていますが、それを加えても経常利益ベースで赤字になっています。

この企業は、私がコンサルティングを行うまでは、店別損益しか出ていませんでしたが、赤字ということもあり、
①改善の方向性を明確にする
②改善のスピードを上げる
ために、店別・部門別損益表を作成してもらいました。
毎月部門別の損益とその推移が解り、損益表には、人時売上高と人時生産性も併記してもらっています。

総菜部門は、殆どの月で営業赤字になっています。
部門のオペレーションを確認しても、改善すべき点が多くあります。
そして、人時売上高も人時生産性も同規模の他企業と比べても低く、とても人を採用できる状態ではありません。

今の経営状態で、人を採用すれば、赤字の幅は更に拡大してしまうのです。
採用作業にもお金と時間がかかります。未経験者を採用すれば、教育にも時間とお金が余分に掛かります。

この場合、店長が考えるべきことは、
①部門内で工夫(改善)できることは無いか、現場を調査する
②粗利益の拡大に繋がっていない(お客の支持の低い)活動は、基本的に止める
③部門外のメンバーで必要人時分を補う(店舗全体の人時数は増やさない)
などで、新規の人を補充することなく、問題を解決する方法を探ることです。
このようなことで、簡単に人時不足の問題は解消できると考えられます。

これらのことで、問題を解決することが出来れば、
①減らした50人時分の給与は、店舗の営業利益に加算される
②部門内の『工夫する意識(癖)』を養うことが出来る
③部門を超えた応援体制の仕組みを社内で整えることが出来る
④チーフが、部門損益の意味を正しく理解できる
そして、何といっても、
⑤店長のマネジメントに対する意識と技術が向上する
というような、大きな成果を得ることが出来ます。

人手不足と人時不足は似ていますが、全く違うものです。
「人時が減ったから、その補い分の人を採用したい」では、マネジメントされていない状態です。
ましてや、現状が赤字で有るのですから、今までの認識を変え、行動を変えないといけません。
今、店舗が優先すべきことは、赤字の幅を減らし、黒字化することに努力することなのですから。


クレームを正しく理解する?

ミーティングの後、売場を確認しながら店長と話していた時、事務所からクレームが有ったとの連絡が店長に届きました。店長はすぐに、お客のところへ向かいました。

数分後に帰ってきた店長に、クレームの内容とその対応を聞くと、
「買おうと思っていた苺ではなく、価格の違う他の苺を買って帰った」というものでした。
原因としては、
①陳列した商品のPOPの掲示位置が適切でなかった
②他のお客が、手に取った商品を売場に戻すときに、違う所に戻した
などが考えられます。

しかし、ここでのクレームは、起こるべきして起こったという感が否めません。
店長による、開店前の『お客を迎えるための売場確認』が、日々実行されていないのです。
日々の店長の行動に問題が有りました。

また、クレームは、解決した後の行動が重要です。
①クレームが発生した原因の解明
②その改善策を決める
そして、
③それを社内で共有化して仕組みにする
というプロセスを踏むことが重要です。

これまで、開店前の『売り場の出来栄え確認』が、全く行われていなかったということは、要するに、『あるべき形(ゴール)が設定されていない』ということです。
これらの確認業務は、店長としての重要なマネジメント業務であり責務です。

開店時の売場の完成度が低ければ、開店後の売場の出来栄えにも悪影響を及ぼします。
機会損出も高くなり、売上と利益が低下する可能性が高まるのです。


店長は、レジに入れる暇はないハズ⁉

もう一つ気になることが有りました。
前回この店舗の訪問の折、店長はレジに入ってお客の対応をしていました。

店長がレジに入り、お客とコミュニケーションをとることは決して悪いことではありません。
しかし、この店舗に限っては、今やらなければならないこと(優先すべきこと)が有ります。
それは、店舗を営業利益ベースで黒字化することです。社内の最優先事項になっています。

「レジに入れるほど、店長は暇じゃないよ・・・」と私は店長に諭しました。
今、店長がやるべきことは、営業黒字にするために、どういうことが出来るか、店内を細かく観察して、大小改善策を考え、効果的に時間を使って改善活動を実行して、少しでも赤字を減らすための行動を取ることです。
赤字の原因の多くは、現場にあります。
      
             【職位ごとの時間の使い方のイメージ図】 時間管理のイメージ2.
店長は、とにかく現場(店舗)に出て、
①お客の行動を観察する(コミュニケーション)
②部下の行動を観察する(オペレーション)
③売場づくりの出来栄えを観察する(マーケティング)
など、優先すべき重要な業務が有ります。

売場には、利益を拡大するためのチャンス(アイデア)が多く隠れています。
そして内容は、時間を追って日々刻々と変化しています。

リーダーが、営業利益を拡大するための直接的な業務に、一日の内のどれくらいの時間を使っているかで、結果は大きく変わってしまいます。
その意味で、一般社員がやれる作業に、汗を流している時間は店長には有りません。

そして、
「お客に対して、もっとしてやれることは無いか」
「従業員に対して、もっとしてやれることは無いか」
を深く観察することが、店舗の生産性を上げ、営業利益を上げることに繋がるのです。

もう一度、自分の胸に手を当てて考えてみることです。
「売上や利益、そして生産性向上のための時間を、確実に取っているか」を・・・。
「その他どうでも良いことに、時間を消費していないか」を・・・。です。


『時間管理・能力』が生産性と結果を大きく変える

私の過去の記事で、時間管理の話を何回かしていますが、特に店長の時間管理は、店舗の生産性を上げる上で、とても重要です。

下の図は、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー博士著)の本の中で教えてもらった、時間管理のフレームワーク(思考の枠組み)を、スーパーマーケット版に私が加工したものです。

商人舎magazine1805・2.
リーダーの行動で重要な仕事は、重要性の高い『第一領域(重要度が高いかつ緊急度が高い)』と『第二領域(重要度が高いが緊急度は低い)』です。

今回紹介している店舗でも発生した、クレーム処理も、第一領域の1番目に取り上げています。
特にクレームは、迅速で丁寧な対応が求められますし、誠実な対応がお客から評価されれば、お客はお店のファンになってくれる可能性が高くなります。

ただ、リーダーが考えるべき重要なことは、『起こったことに対する対応』はではなく、『起こらないための対策』です。ここが重要であり、生産性を高めるということを正しく理解するべきです。
今回も、起こったクレームを糧にして、同じことが次に起こらないための真の原因追及とその改善方法、そしてそれを『仕組み』にすることが重要なのです。

要するに、クレームや事故や怪我などが『発生しないための仕組み』をつくることです。
そのことによって、時間という資産を有効的に使えることになるのです。

そのためには、常に売場(現場)を観察する癖を付けること、更に、起こるかもしれない問題を予知する観察力を身に付けることが、リーダーの重要なスキルなのです。

加えて、第二領域の業務(課題)を洗い出し、それらに対して「やるべきなのに遣れていない」課題に対して、優先順位を付けて、戦略的に時間配分を行い、改善活動を実行することが重要です。


『現場観察・要件』と『第二領域・要件』

下の表は、リーダーの重要業務(課題)に対して、現場で実行するときのスケジューリングをイメージしたものです。

商人舎magazine1805・3
左の『現場観察・要件』は、字のごとく、現場の現状の課題を特定して時間帯別に優先順位を付けて、改善活動を行うものです。

また、右の『第二領域・要件』は、
①3か月後、半年後、1年後というように、将来の成果拡大に関わる項目を選定し
②優先順位を付けて
③日別・曜日別に時間割を行い
④実行計画を立て
⑤実行し
⑥定期的にその検証(効果測定)を加えるべき
重要項目になります。

繰り返しになりますが、高い成果を出したければ、目的達成のために、すべてをやり抜くということではなく、現時点で自店(部門)において、改善効果性の高い課題に積極的(戦略的)に時間を配分して改善活動を行うことです。

更に、会社の戦略や方針に対する、全社的な共有や、実効性と効果を測定する意味で、人事考課に取り入れることを強くお薦めします。


ゴール到達のための『戦略』と『オペレーション』と『リーダー

「どこまで」という、明確なゴールを決めていると、コンセプトや経営理念のルールーの中で、「何をどの様にする」という、取るべき行動(戦略・戦術)が明確になります。

商人舎magazine1805・4
目標を持った無駄の少ない行動(オペレーション)はやがて、それが「日々当たり前(最低レベル)の行動」となり、時間の経過と共に、確実にチーム力はレベルアップすることになります。

決して大きなプロジェクトの話だけではありません。 
開店時の売り場の出来栄え(あるべきレベル)や作業の進捗状況だけに限っても、ゴール設定は重要なことです。
開店時の売場づくりのレベルが高ければ、その後のピーク時間帯に余裕をもってお客を迎えることが出来るというように、後工程に良い影響を与えることにます。これらのことにより、得られる成果は確実に高くなります。

ここで重要なことが、リーダーシップです。
メンバーに対して、
①何故やるのか(目的)を伝え
②戦略とオペレーション(方法)を組み立て
③何時まで(目標)に
④どのレベルまで(ゴール)をやるかを
⑤解りやすく説明(共有)して
⑥理解(納得)してもらう
そして、
⑦確実にゴールにたどり着けるように導く(フォローする)
ことが、リーダーの重要な役目です。


結果を出せない人は、どうでも良いことに時間を使う⁉

リーダーは、「営業利益を拡大する」ための業務に、持っている時間のその多くを投入することを理解すること。そして行動することが重要です。

それは、接客サービスや欠品、鮮度や品揃え、作業改善や仕組みづくり、人材育成など、短期のこと、中長期のことというように、企業や店舗、また、部門によっても内容は異なる場合もあるでしょう。

今回の店長のレジの作業のように、それをやることによって、結果的にマネジメント業務の時間を削ることになります。
何らかの理由で一時的に起こることは仕方のないことかもしれません。しかし、常態化することはいけません。

そして何より、現場は日々刻々と変化しています。
特に、ピークタイムなどは、顧客目線での不都合や不満など、重要な発見が出来る可能性が高い時間帯でもあります。
併せて、『段取り』や『仕超し』、『対応』など、現場のオペレーションの良し悪しが確認できる時間帯でもあります。

繰り返しになりますが、店長は、レジや商品補充(動作、作業レベル)などやっている場合では無いのです。
お客目線、従業員目線での実地確認による課題発見や改善策策定。マーケティングやマーチャンダイジング計画の進捗状況など、店長としての職務(業務)を確実に遂行する必要が有ります。

商人舎magazine1805・5
それらのことの行動(プロセス)の結果が、店舗の大きな利益の差を生むのです。


起こった問題をピンチと考えるか、チャンスに変えるか⁉

今回紹介した店舗の事例を、今一度考えてみましょう。

1つ目は、総菜部門の人時削減を、店長もチーフも問題だと考えていた件です。

【方法・1】新規募集する
人時不足と言って、パート社員を一人雇っていれば、年間約100万円の人件費が発生します。長時間勤務の社員二人の人件費削減分が、年間約60万円として、新たに40万円の人件費が発生する。

【方法・2】新規募集しない
社員募集をせず、店内の人員(人時)のやり繰りで工夫すれば、年間約40万円の人件費が削減可能となる。

上記の方法1と2の差額は、実に約80万円になるのです。どう考え、どう行動するかで、簡単に利益は変わってしまうのです。

2つ目は、クレーム処理の件です。
クレームについては、今までその場の対応で終わっていました。
起こった事実の確認とその対応は重要な業務です。
しかし、それ以上に大事なことは、起こったことの原因追及です。リーダーは、原因の特定と防止のための仕組みづくりをつくる必要が有ります。
クレームが発生した場合、対応の時間は勿論ですが、対応の悪さで、二次クレームに発展することも考えられます。

起こったことは、元には戻りませんが、そのことを糧に、サービスレベルの更なる向上につなげること、そして、仕組みをつくることが出来るチャンスがあるのです。

3つ目は、店長のレジ作業の件です。
言うまでもなく、基本的には、店長がやってはいけません。

科学的で無理のない『仕組み』を構築することです。
①月間稼働計画(日別・曜日別・個人別出退勤、人時予算)
②レイバースケジューリング(日別・曜日別・レジ別稼働計画、人時(個人)貼付)
③異常時の対応計画(繁忙時の応援体制、閑散時の割振りなど)
④応援体制確立のためのスキルアップ教育訓練
などを行い、無理のない人員配置と人時予算計画。また、想定外のことが起こっても対応できる仕組みを構築することが、店長(またはライン・スタッフ)の重要な職務です。

この様に、店舗全体の生産性を上げることによって営業利益を拡大することが、店長の責務なのです。
そのためには、時間を如何に使うかに掛かっています。

今回の事例のように、訪問時たった2時間の中の出来事でも、営業利益を拡大(赤字を解消)するという目的をハッキリさせて、現場を観察することが出来れば、そして、今まで持っていた焦点を少し変えて、考え方と行動を変えることが出来れば、営業利益は意外に簡単にアップするのです。


商人舎magazine5月号


■ 『スーパーの業務改善』 その他の参考記事
  ⇒ スーパーの業務改善入門
  ⇒ スーパーの業務改善


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