目的地に行く地図が違う
今となっては懐かしい思い出ですが、昔、仕事の取引先でこんなことがありました。担当の女性とは、元々あまり良い関係性ではなかったことを踏まえておいて下さい。取引先の会社に報告書を送った時のことです。担当の女性からは「いつものように書いてほしい」と言われていました。報告書を提出後、しばらくして彼女から連絡があり、「この報告書はどういうつもりで書いたのでしょうか?」と言うのです。
まわりくどい言い方をされるのが嫌いな私は「報告書の内容に不備があるなら単刀直入に言ってほしい!」と言うと 彼女は、「報告書の不備ではなく、私の主観に沿う表現で書いてほしい小橋さんなら言わなくても分かっていると思っていました」みたいなことを言うのです。こんなやりとりを数十分しましたが、双方が主張を通そうとするばかりで水掛け論です。このようなことは日常的によくあるミスコミニュケーションで、どっちもどっちですね。
このようなトラブルを、心理学の専門用語で言うと「行為者・観察者バイアス」と言います。どういうことかというと、他人の行動については、その人の内面に原因があると考えるのに対して、自分の行動についてはその原因が自分の外側にあると考える傾向のこと。つまり「自分に優しく他人に厳しい」です。
例えば、デパートの通路に置いてある装飾品を他者が落として壊したとします。それを目撃したあなたは「壊した人の不注意」と思うでしょう。ところが、あなたが同じことをした場合には「通路に置いている方が悪い」と考えてしまう心理です。
些細な、「行為者・観察者バイアス」は日常的にあります。互いの顔を見ながら話せば、言葉尻だけで判断することは少ないでしょうけど、カスタマーサービスなどではお互いの顔が見えない状況の場合はコミュニケーションが取りにくくなります。
このようなコミュニケーションの事例でよく使われるのが「メラビアンの法則」は「非言語コミュニケーション」の重要性を説いていますが、矛盾したメッセージが発せられたときの人の受けとめ方について、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかを判断する際に行なった実験についての俗流解釈があるので、この法則についてお伝えしておきます。
そもそも、コミュニケーションにおいて、この法則がすべて適用されるという解釈はメラビアン本人が提唱したものとは異なっていて、このことはメラビアン本人も、このように説明しています。「好意の合計 = 言語による好意7% + 声による好意38% + 表情による好意55%」この等式は、対象者が好意・反感などの態度や感情のコミュニケーションにおいて、どちらとも取れない曖昧な言葉や態度で矛盾が生じている時の実験から生み出されたものであり、対象者がこの実験以外のことを話している場合は、これらの等式はあてはまらないそうです。
ただ、限定された状況下での法則ですが、話す内容だけでなく、話し方や見た目、ボディランゲージにも意識を向けましょうということなので間違いではありません。コミュニケーションを「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」に分けて捉えることは大切です。しかしながら、基本はやはりメッセージ、言葉の力です。その上で、話し方や見た目、ボディランゲージにも意識を向ければ、よりメッセージは強く正しく伝わるはずです。
話を戻すと、表情や声のトーンだけでも対面なら困惑した表情や納得した表情はすぐに認知できます。意思の疎通が図れているカップルや夫婦でも、言葉だけでは誤解をまねくことがありますが、言葉に非言語を加えるだけで、言葉だけより何十倍も伝わりやすくなります。
世の中が便利になっていく反面、人と人の会話も少なくなっています。買い物ですらネットで購入すれば言葉はいりません。高齢化社会の昨今、独居で生活する高齢者の話し相手もロボットという時代がすぐそばまできています。これからの社会は、不便の中にしか、人との繋がりが生まれないような気がしてなりません。
【小さな実践】
他者に伝えたいメッセージに、
聴覚情報や視覚情報を入れたとしたら、
どのような伝え方になるか実践してみる