自尊感情を高めて、自ら行動をおこすことで、接遇が身につく
消費者にとって、愛着のある商品・愛着がわく企業や店舗とは…
皆さんにも愛着のある物、手放せない物が一つはあるのではないでしょうか?
「愛着」の言葉の意味は、慣れ親しんだ物事に深く心を引かれ、離れがたく感じる事とされています。ですが、心理学での「愛着(アタッチメント)」)は、少し意味合いが違うようです。特に乳幼児期の親との関わりや結びつき、絆の形成として、「愛着(アタッチメント)」という言葉が使われます。「愛着(アタッチメント)」という言葉、愛着理論を確立したのは、
心理学者で精神分析学者でもあったジョン・ボウルヴィ。
このコラムでは、乳幼児期の「愛着(アタッチメント)」を通して、愛着のある商品・愛着のわく企業や店舗となる為の起点やポイントを分かりやすくご説明していきたいと思います。
「痛いの、痛いの、飛んでいけー」に込められた愛着
話は変わりますが、皆さん小さい頃転んだ時に、お母さんや保育所の先生・幼稚園の先生に、「痛いの、痛いの、飛んでいけー」と、呪文を唱えてさすってもらった記憶があるのではないでしょうか?膝をすりむいて、血がにじみ痛みがあるけれど、その不思議な呪文を唱えると、少し和らぐのはなぜでしょうか?魔法の言葉といってもいいでしょう…。
それは、自分の置かれている状況(ストレスのある状況)の中でも、お母さんや保育者の方が優しく自分に接してくれていることで、「守ってくれているという安心感」「その相手との関係性がより親密になること」で、目の前の状況は変わらなくても、気持ちが和らぐからです。
ビジネスを行う上で、厳しいお客様の声・苦情・クレームは無縁ではいられません。
お客様・利用者の方の目の前の状況が、例えば購入商品に不具合があった・人気のお店に楽しみにして来たのに、待ち時間が長くて疲れた…などあった場合、その時の企業側・店側の対応がどうであったかが、今後のお客様の気持ちを左右する重大な分岐点となります。
ジョン・ボウルヴィは、負の感情(ネガティブ)になった時に、少しでも上向きな正の感情(ポジティブ)になるよう、もしくは心をニュートラルになるよう、働きかけることこそが『愛着行動』と考えました。もちろん、その時にその気持ちを変える働きかけを誰が担うかも重要です。さきほどの「痛いの、痛いの、飛んでいけー」は、一番身近にいるお母さんに言われることで、気持ちは少し切り替わり和らぐのですが、赤ちゃんから幼児へと少しずつ成長し、行動範囲が広がるにつれて、その対象者が変わっても同じ効果が生まれるのです。
それが、皆さんなら覚えている幼稚園や保育園の先生の存在でしょう。お母さん、幼稚園・保育園の先生は、赤ちゃん、幼児にとって「安全基地」です。ここに駆け込んだら、助けてもらえる、安心だ!という信頼関係が出来ています。
実は、これは乳幼児期だけのものではなく、私達大人であっても同じ感情、同じ信頼関係を求めていると言えます。ボウルヴィが、もう一つ提唱していることに『ブランド・アタッチメント』を挙げています。人と特定対象間における感情を伴った「心の絆」と定義されているのですが、それはつまり企業や店舗の「ブランド力」と言えるでしょう。
「私は、このブランドの物・商品が大好きで、ずっと愛用している」というお客様の心理は、この『ブランド・アタッチメント』によるものです。お客様が、これからもずっと使い続けたいという長期的な関係の維持の為にも、企業・店舗はお客様にとって「安心・安全な基地」でなくてはなりません。使っていて壊れても、まだ使い続けたいという気持ちをくみ取り
その部分を交換できる仕組みや、長い行列が出来ても待っていることさえステイタスと思える仕掛け作りが大切です。そして、お客様や利用者からの厳しい声や・苦情にも、丁寧に対応し、負の感情を少しでも上向きにさせる対応こそが、社員や店員には求められると言えます。
企業・店舗にとって、愛着が湧く「魔法の言葉」とは…
このように企業・店舗は、お客様・利用者が、「あの企業・お店にお願いすれば、お困り事にも対応してくれ、本当に助かるわー!」と、思って頂ける「安心・安全な基地」作りが必要です。
例えば老舗の料亭は、一見さんお断りの店も多いですが、そこには常連のお客様への「安心・安全な基地」作りが徹底されているからともいえるでしょう。お客様は「あの料亭にお願いすれば、細かいことは言わなくても、こちらの要望を十分に叶え、応えてくれる!」という安心感と信頼関係があります。それは、言葉をしゃべれない赤ちゃんであっても、母親が言葉を超えてその想いをくみ取ろうとする姿勢とも似ています。そのブランドの良さに満足した消費者(お客様・利用者)が保持している情熱的な愛着こそが、「ブランド力」の核となる部分です。その為にも、様々なお客様・利用者の声に耳を傾け、その中で出来ることは何か…を追求し、より良い対応や質の向上をしていく必要があります。こういったお客様の声から生まれた新商品や新企画も実は、多いのです。
では企業・店舗にとっての「痛いの、痛いの、飛んでいけー!」と、いった魔法の言葉は、
どんな言葉やお声かけになるのでしようか?企業・店舗の場合は、「これ」といった一つの言葉やお声かけではなく、お客様お一人お一人の『その時・その場・その人だけに出来ること』を、社員や店員が自分の頭で考えて、自分の言葉で表現し丁寧に対応することが重要といえるでしょう。上手に言えなくても、いいのです。誠意をもって相手のおっしゃることに耳を傾け、少しでも目の前のお客様のお気持ちが和らぐには、どのようにすれば良いかを考えて対応できることが大切といえます。それは、母親が乳児に接する時のように、言葉を超えて想いをくみ取る姿勢にも似ています。「ブランド・アタッチメント」は、壊れても・古くなっても・行列が出来ても、あそこの企業なら・あの店なら想いを叶えてくれるという、「消費者とブランド間の絆」といえます。
とは言っても、自分の気持ちを上手く相手に伝えることは、難しいでしょう。ビジネスの上でどのような言い回しがあり、どのような対応をすればお客様の気持ちが和らぐかを知り身につけることが大切です。この場・この時、この人だけに出来る心配り「ホスピタリティのある応対」を研修で身に付けて、皆さんもお客様から愛される社員・店員となり、企業・店舗の「ブランド力」を高めてみませんか?
参考 : 引用文献 「自己とブランドの結びつきがブランド・アタッチメントに与える影響」 菅野佐織 商学論究