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脂質を知る ~脂質と健康~ 後編

松田友和

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テーマ:生活習慣

はじめに

前編では、脂質や脂肪酸の種類についてお話しました。その中で、動物性脂肪やお菓子などに多く含まれる飽和脂肪酸が循環器系の病気(心臓病など)のリスクを増やすかもしれないと言いました。それでは、動物の肉やお菓子を摂取することが、心臓病に直結するのでしょうか。さらに、最近ではトランス脂肪酸という種類の脂質が健康に良くないのではないかと注目されています。そこで、後編では、脂質と健康について考えてみたいと思います。

トランス脂肪酸について

健康への悪影響が心配されている脂肪酸の種類として、トランス脂肪酸をご存じでしょうか。
実は、不飽和脂肪酸には、炭素間の二重結合のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。シスとは、“同じ側の”という意味で、脂肪酸の場合には水素原子(H)が炭素(C)の二重結合をはさんで同じ側についていることを表しています。トランスとは、“横切って”という意味で、脂肪酸の場合では水素原子が炭素間の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についていることを表しています(図参照)。

このトランス型を含む不飽和脂肪酸は、「トランス脂肪酸」と呼ばれています。
天然の不飽和脂肪酸は、ほとんどがシス型で存在します。しかし、牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸が作られます。そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量のトランス脂肪酸が含まれています。
トラス脂肪酸の多くは、天然の不飽和脂肪酸であり、通常シス型で存在します。しかし、牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸が作られます。そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量のトランス脂肪酸が天然に含まれています。
トランス脂肪酸の多くは、油脂を加工・精製する工程でできます。加工した油脂を用いて作られたマーガリン、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに、トランス脂肪酸が含まれているものがあります。
また、植物や魚からとった油を精製する工程で、好ましくない臭いを取り除くために高温で処理することにより、油に含まれているシス型の不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができることがあります。そのため、サラダ油などの精製した植物油にも、微量のトランス脂肪酸が含まれているものがあります。


これらのトランス脂肪酸が注目されているのは、摂取過剰により心臓病のリスクを高めることが報告されたからです。ただし、これらの報告が日本人と比べて、たくさんのトランス脂肪酸を摂取している欧米でのデータであることに注意が必要です。また、天然のトランス脂肪酸と油脂を加工したことでできるトランス脂肪酸が身体に同じような影響があるのかも明らかではありません。WHO(世界保健機構)では、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%に相当する量よりも少なくするよう勧告をしています。日本人が1日にとるエネルギー量の平均は約1,900 kcalであり、この1%に相当するトランス脂肪酸の量は約2グラムです。日本の食品安全委員会では、日本人のトランス脂肪酸の平均的な摂取量を、平均総エネルギー摂取量の約0.3%(0.7g程度)と推定しています。そのため、「通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」と結論づけられています。

脂質と健康

つまり、飽和脂肪酸にしても、トランス脂肪酸にしても、過剰に摂取し続けることで、健康を害する可能性はありますが、いわゆるバランスよく適切な量を摂取するという食事をしている限りは、神経質になる必要はないと言えます。例えば動物性脂質が多く含まれている食品である焼き肉やステーキには、アミノ酸やビタミンなどの栄養価が高いことや、筋肉をつけるもととなる蛋白質が豊富なことなど、多くの利点もあります。健康を意識するあまり、食べたいお菓子を極度に我慢して、ストレスを溜めてしまうと、かえって健康を害する結果になるかもしれません。
脂肪酸に限らず、食品に含まれる様々な成分には、良い面も悪い面もあります。食品に含まれる成分を理解したうえで、食事を楽しみながら、適切な量をバランスよく摂取することを心掛けることが、大切だと考えています。

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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