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松田友和(まつだともかず) / 内科医

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コラム

インスリン治療の実際 ~前編:インスリン分泌を知る~

2022年4月5日 公開 / 2022年4月18日更新

テーマ:インスリン治療

コラムカテゴリ:医療・病院

はじめに

「インスリンを打ち出すと、やめられないのでは?」「インスリン注射は最終手段では?」
と言った声は、本当によく聞かれます。いずれの質問の答えは、「全くそんなことはありません。」なわけですが、今回はその答えの理由について考えてみたいと思います。

生理的なインスリン分泌パターン

そもそもインスリンとは、何かご存じでしょうか。インスリンは、膵臓から血液中に分泌されているホルモンの一種です。人は、生きていくために必要なエネルギーを、食事として体内に取り込みます。食物は消化管から吸収され、ブドウ糖という形で血液中に取り込まれます。最も大切なエネルギー源であるブドウ糖を、体内に蓄える時に必要なホルモンが、インスリンです。インスリンによってブドウ糖を体内に蓄えられるため、人は数日間食事をしなくても、生命活動を維持することが出来ます。
そのインスリンには、「基礎分泌」と「追加分泌」の2つの分泌パターンがあります。

1,基礎分泌
血液中からインスリンがなくなってしまうと、体内に蓄えられているブドウ糖が、とめどなく血液中にあふれ出してしまいます。したがって、貯蔵されているブドウ糖と血液中のブドウ糖の出し入れを調節するために、膵臓はインスリン分泌を絶え間なくおこなっています。これを、インスリンの基礎分泌、と言います。

2,追加分泌
食事をすると、大量のブドウ糖が血液中に流れ込んできます。このブドウ糖を適切に体内に貯蔵していくために、食事摂取のタイミングで、膵臓から急激なインスリン分泌を必要とします。これを、インスリンの追加分泌、と言います。



基礎分泌と追加分泌を合わせますと、図のようなインスリン分泌パターンとなります。
糖尿病を持たない人では、食事ごとに、食事の量に合わせた量の追加分泌されることで、
血液中の糖の濃度、つまり血糖値を一定に保ちます。おやつを食べたときも同様に、おやつの量に合わせたインスリン分泌が行われています。一方で、インスリンの基礎分泌量は食事とは関係ありません。私たちが寝ている間にも血液中の糖の濃度が一定になるように、インスリンの分泌量を膵臓がインスリン分泌量を自動調整してくれています。

糖尿病のインスリン分泌パターン

糖尿病であること、つまり血液中の糖の濃度が上昇しているということは、インスリンの分泌パターンが障害されていることを意味します。
まずは、膵臓からのインスリン分泌量が著しく低下している1型糖尿病の場合を見てみましょう。





点線で示す生理的なインスリン分泌パターンと比較して、実線で示しているインスリン分泌が、基礎分泌も追加分泌も著しく低下しています。その結果、食後の血中の糖の濃度も著しく上昇しますし、食事と関係ないタイミングでも、貯蔵していた糖が血液中に糖がどんどん出てきてしまうことになります。

次に、2型糖尿病の場合を考えてみましょう。運動不足や内臓脂肪の蓄積などが原因だと思われがちな2型糖尿病ですが、実はインスリン分泌パターンの障害が高血糖の大きな要因となっています。


まず特徴的なことが、追加分泌の立ち上がりの遅れです。点線で示す生理的なインスリン分泌パターンと比べますと、実線で示す2型糖尿病の場合は、食直後のインスリン分泌の立ち上がりが遅れています。そのことが、食後の高血糖の大きな要因となります。さらに、追加分泌の終わりが遅くなっていることも特徴の1つです。素早くインスリンを分泌できないために、高血糖になってしまい、その高血糖に反応してから、インスリンを分泌させるために、だらだらとインスリンを出し続けることになります。その結果、高インスリン血症と呼ばれる状態や、食後数時間たってからの低血糖(ドキドキする・冷汗がでる・だるくなる)を引き起こすことがあります。
さらに、2型糖尿病においても、基礎分泌の低下を認めることもあります。基礎インスリンの低下は、空腹時血糖(朝食前の血糖値)の上昇として現れます。

この記事を書いたプロ

松田友和

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