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はじめに
「あなたにとって必要なものはあなたが既に持っています。それを一緒に探しましょう。」
これが、動機づけ面接の目的です。
以前に、「やる気」についてのお話をしました。物事を積極的に進めようとする原動力である「やる気」は心理学では、「動機づけ」として研究されています。
糖尿病療養支援においても、療養行動をサポートする手段の1つとして、動機づけ面接が注目されています。
動機づけ面接を行うための4つの中心要素
動機づけ面接は、人と人とのコミュニケーション方法の1つとも言えるかもしれません。
ただし、人の動機づけを引き出そうとするわけですから、人の行動に間違った方向づけをしてしまうかもしれません。あくまでも、「あなたにとって必要なものはあなたが既に持っています。それを一緒に探しましょう。」というスタンスが重要です。そのための心構えというか、前提とすべき4つの要素があります。
1,協働的なパートナーシップ(連携)
動機づけ面接は人のために、人と共に行われるものです。動機づけ面接を行う側が、相手を動かしたいから行うわけではありません。
2,敬意を持ってクライエント(相手)自身の動機と知恵を引き出すこと
必要なものの殆ど全てはその人の内側にあります。相手の内部には知恵と経験の深い井戸がありますので、動機づけ面接を行う人は、その井戸からその人自身の知恵と経験を引き出すことが目的です。自分自身の考えを押し付けてはいけません。
3,徹底的な受容
自分とは別個の人間として特定の他者を受容することが大切です。人には絶対的価値がありますので、相手の目を通して世界を見ようとする姿勢が重要です。これを「正確な共感」と言います。人には自身の方向を決める能力と権利がありますので、この自律性をサポートしていく姿勢です。動機づけ面接は、相手の強みと努力を探し出して承認する(是認)プロセスです。
4,思いやり(慈愛)
相手のニーズを満たすことを優先する思いやりが必要です。動機づけ面接をする人が自身の私的な利益や不適切な信頼や服従を得ないようにしなければなりません。
両価性(アンビバレンス)
「健康のためには、通勤時に自転車ではなく、駅まで歩いて行った方が良いとは思っているが、早く起きることが面倒でついつい今日も自転車で通勤した。」
このように、頭でわかってはいるが行動に移せない状態を「両価性」と言います。「変わりたい」と「今のままでいたい」の天秤状態です。このように両価性とは、相反する動機が同時に存在することで、変化に向かう過程ではよくある正常な状態です。変化への道が膠着状態になる最もよくある理由は両価性であると言われています。両価的な人の中には、変化への賛成論も反対論も最初から住み着いていますので、賛成論をどのように引き出すのかがポイントになってきます。
「なかなか徒歩通勤ができませんね。10分だけ早起きすれば良いのですよ。」という対応では、「10分早く起きることがどれだけ大変かがわかってくれない。そんなことできるわけがない。」といった反対論を引き出してしまうことになります。人は他者から指示されたことより、自ら述べることを自分で聞くほうが説得されやすいと言われています。
「健康のためには、通勤時に自転車ではなく、駅まで歩いて行った方が良いとは思っているが、早く起きることが面倒でついつい今日も自転車で通勤した。」
この会話において、前半部分の「健康のためには、通勤時に自転車ではなく、駅まで歩いて行った方がよいとは思っている」は、本人自身が表明する変化に賛成する発言になります。
これを、チェンジトークと言います。
一方、後半部分の「早く起きることが面倒でついつい今日も自転車で通勤した。」は、現状維持のために表出された発現です。これを維持トークと言います。
〇チェンジトーク:本人自身が表明する変化に賛成するすべての言語(変化賛成論)
〇維持トーク:現状維持のためにチェンジトークとは反対方向に等しい力を持った反動として表出される言語(変化反対論)
会話の中で、チェンジトークを多く引き出すことで、両価性を自然に解消していけるように
促すことが、※自律的動機づけを引き出すことにつながっていきます。
(※:自律的動機については、『「やる気」を知る』をご参照ください。)
相手が、現状維持に執着する理由として考えられる全てを引き出し、探ることは動機づけ面接には不要であり、不適切でもあります。なぜ、歩いて駅まで行けないのか、10分早く起きられないかを探っても良い結果は得られません。
その一方で、チェンジトークと維持トークのバランスは将来の変化を予測します。いかにチェンジトークを引き出していくのか、そのバランスは動機づけ面接をする側からの影響を大きく受けます。
前編終わり。後編に続く。
参考文献:動機づけ面接<第3版> 上巻・下巻