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松田友和(まつだともかず) / 内科医

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コラム

糖尿病診療における「スティグマ」と「アドボカシー」を考える

2021年1月4日

テーマ:糖尿病内科かいせいクリニック

コラムカテゴリ:医療・病院

はじめに

高血圧や高コレステロール血症と比較して、糖尿病には少し気恥しい響きがあるようです。「糖尿病であることを知られると恥ずかしい。」「糖尿病であると気づかれたくない。」と言った声をしばしば耳にします。このようなネガティブはレッテルのことを、「スティグマ」と言います。最近になって、日本糖尿病学会(医療従事者の会)や日本糖尿病協会(糖尿病患者の会)では、この糖尿病にまつわる「スティグマ」を払しょくし、糖尿病を持つ人が安心して生活できる社会を目指す活動を始めています。この活動を「アドボカシー」活動と言います。そこで、今回は「スティグマ」と「アドボカシー」について考えてみたいと思います。

スティグマとは

もともとは、イエス・キリストが十字架にかけられて処刑された時に残った傷跡のことを意味しています。現在社会では、表面的にはみえない傷、つまり社会的に作られた否定的な意味を他者から付与されることを指します。例えば、人種、社会的階層、職業、嗜好、また病気や障害などを持っているということをネガティブに表現する場合に使われます。
糖尿病を恥ずかしく感じるということは、その裏には糖尿病が「スティグマ」であると感じているということを意味します。実際は、糖尿病は予備軍も含めると日本に約2000万人いると言われています。成人の4,5人に1人は糖尿病、あるいは予備軍ということになります。さらに日本人は民族的にインスリン分泌が低下しているため、糖尿病に罹患しやいという特徴があります。つまり、糖尿病であることは、恥ずかしいことでもなんでもないのです。この糖尿病に関する「スティグマ」は、周囲が作り出すだけではなく、糖尿病患者自体も「スティグマ」を生み出しているという要素もあります。例えば、糖尿病をあまり知らない人たちに対して、糖尿病患者が自分の疾患を恥ずかしがったり、隠したがったりすることで、糖尿病とは隠すべき疾患なのかという認識を与えてしまいます。そのような認識を持った人が糖尿病を指摘されると、糖尿病に対して負の感情を抱いてしまい、その負の感情が治療に向き合うことを邪魔してしまいます。この連続が、さらなるスティグマを引き起こしてしまうのです。

アドボカシーとは

英語の“advocacy”のカタカナ表記であり、「弁護」「擁護」などの意味で使用されます。特に社会的に立場が弱い方の権利主張を代弁すること、あるいはその代弁者の立場などを意味して使われています。
前述したようなスティグマを払しょくさせるために、糖尿病に対する正しい理解をより多くの人に深めていってもらうような活動も、アドボカシー活動の一つと言えます。

アドボカシーという言葉は、アメリカ合衆国において徐々に浸透してきた言葉で、権力を持たない一般市民や生きづらさを感じる社会的弱者の要望や想いを政策や法令に反映させようとする活動とともに広まってきました。
日本の医療現場でも、介護、看護の領域でアドボカシーという考え方は浸透してきています。
介護福祉士の教科書では、「自分自身で想いを伝えられない方々は、自己の権利を行使できずに権利が侵害されているかもしれません。そのような状況において権利行使できるよう支援し代弁することを『権利擁護』といいます。介護福祉士には、当事者に代わってその権利を主張する、代弁するということが期待されています。アドボカシーとは、このように当事者の権利主張を介護福祉士など代理人が代弁するということを意味しています。」と説明されています。つまり、声を上げられない方々の権利を代弁するという意味でのアドボカシーです。
一方で、看護におけるアドボカシーとは、「患者/家族が自身の権利や利益を守るための自己決定が出来るように、看護師は、患者/家族を保護し、情報を伝え、支えることでエンパワーメントすること、さらに医療従事者との仲裁を行い、医療者間の調整をすることである。」とされています。これは、当事者自身が権利を行使することをサポートすることを重視しています。つまり、自分自身(セルフ)でアドボカシーするための支援である、「セルフアドボカシー」を支援しようとする取り組みを意味しています。
(参考:四日市大学論集 第 30 巻 第 2 号 (The Journal of Yokkaichi University, Vol.30 No.2, 2018))

まとめ

糖尿病診療におけるアドボカシーは、糖尿病だと言われてショックを受けている方、恥ずかしがっている方が、堂々と前を向いて治療に取り組んでいけるようにサポートしていくことです。医療者は、声を上げられない方々の代わりに、あるいは糖尿病に対する偏見やスティグマに悩んでいる方と一緒に、アドボカシー活動を推進していきます。
糖尿病は、糖尿病患者さんと医療者がタッグを組めば、必ずコントロールできる疾患です。糖尿病を指摘されたことで、ご自身の健康を見つめなおすきっかけになれば、糖尿病を指摘されたことで、むしろ更に元気で長生きを達成できると考えています。そのためにも、糖尿病からスティグマを連想しないでよい社会を1日でも早く実現させていきましょう。

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