男女間の賃金格差が過去最少になりました。
経団連は、企業が専業主婦世帯に支給している「配偶者手当」の見直しを推進する方針を固めました。人事院の調査によれば現在、企業の約7割が支給していて、「配偶者の年収が103万円未満」を条件としているところが一番多く、月額平均は14,347円(年額17万2,164円)という結果です。
103万円が壁になっている
「配偶者手当」が支給されることで、配偶者がパートをしている場合に103万円以上は働かない、働きたくない、という現象が起こってしまいます。また、103万円を超えると自身にも所得税が掛かって来ますし、夫にも配偶者に対する扶養控除が無くなり夫の所得税、住民税が高くなります。正に「103万円の壁」です。余談ですが、130万円を超えると社会保険の扶養から外れなければならなくなり、130万円にも壁があります。
労働力人口の減少による人手不足が叫ばれる中、これでは、国の制度が働くな、と言っているようなものです。 「1億総活躍社会」「女性の活躍する社会」の実現には、逆行してしまう制度と言えるでしょう。
壁を越えるべく先行する企業も
国家公務員の給与にも配偶者の所得が130万円未満であれば、月額13,000円の配偶者手当が支給されています。安倍政権は、これの見直しを指示しましたが、本年8月いわゆる人事院勧告で見送られました。人事院は、民間給与の実態を考慮して公務員の給与の額や制度を勧告しているので、民間に先行して制度改革はできない、とう判断が働きました。
民間では、トヨタ自動車が先行して「配偶者手当」を廃止しました。配偶者の年収が103万円以下であれば月額19,500円を支給していましたが、これを廃止し、配偶者の年収にかかわらず子供1人あたり月額20,000円を支給する制度としました。他の廃止企業の中には、基本給や賞与に上乗せするところもあります。
配偶者手当廃止には注意も必要
中小企業におかれましては、世の中が配偶者手当を廃止する方向ならば、右へ倣えで単純に廃止してしまおう、という考えは危険ですので、注意が必要です。トヨタ自動車にしても、配偶者はいても子供がいない世帯は、減額にはなります。しかし、子供に対する手当を厚くすることで、増額される方もいる訳で、全体としては減額にならないよう合理的に計算をして行っているのです。そうしないと不利益変更になってしまい、労働組合を納得させることはできませんし、民事上裁判を起こされれば、間違いなく損害賠償を支払うことになります。ですから、配偶者手当を廃止する際は、基本給やその他手当、賞与などを上乗せして、全体として人件費が下がらないよう、工夫する必要があるのです。また、中小企業においては、経団連加入企業に比べて賃金水準が低いことから、配偶者手当を無くすことで、生活が成り立たないということが起こるようであれば、廃止自体できません。また配偶者手当を基本給に上乗せするやり方を取ると、賞与、残業手当、退職金を算定する基礎額が増えてしまいますので、この辺りもシミュレーションをする必要があります。
国の制度変更も必要
国としても、扶養控除から配偶者を除いてしまうとか、130万円を超えて社会保険の扶養から外れてもいきなり自己負担額が大きくならないようにする、というような思い切った制度改革を行う必要があるでしょう。官民双方で、女性が活躍できる社会を後押ししていかなければなりません。