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影山正伸

労務管理(給与計算含む)と人事・賃金体系整備に精通した社労士

影山正伸(かげやままさのぶ) / 社会保険労務士

影山社会保険労務士事務所

コラム

労災で療養中の労働者の解雇条件を最高裁が、法解釈を緩和

2015年6月16日

テーマ:解雇

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 解雇 条件

 労災で療養休業中の労働者に対し、平均賃金1,200日分の打ち切り補償を支払い解雇した事件で、労働者側が解雇無効を訴えていました。最高裁が、「労働者が労災保険を受給していれば、使用者が療養補償をしていない場合でも雇用打ち切りの補償金を支払って解雇できる」との初判断を示しました。一、二審判決を無効とし、労災で療養中の労働者に対する解雇条件の法解釈を緩和しました。

ややこしいのでまずは解説

 労働基準法第19条で、「労働者が業務上負傷し又は、疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない。ただし、3年を経過して平均賃金の1,200日分の打ち切り補償を支払う場合はこの限りでない。」とされています。これだけ見れば、今回の解雇は何も問題ないように思えます。しかし一方で、労働基準法第75条で「業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者はその費用で必要な療養を行わなければならない。」、労働基準法第81条で「第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1,200日分の打ち切り補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」とされています。つまり今回、労働者側は、、あくまで治療費や休業補償は労災保険から受けており、第75条の言っているように直接会社から療養費を受けている訳ではない以上、例え打ち切り補償を支払おうと解雇は出来ないはずだ、と訴えていたのです。一審、二審では、法律を杓子定規に解釈して、解雇を無効としました。しかしながら、実態として使用者は労災保険の保険料を支払い、業務上や通勤途上の災害はそちらから給付を受けさせています。最高裁は、この労災を受給していることが、直接会社から療養費や休業補償を受給していなくても同じ取り扱いである、と解釈して、一審、二審を無効にした、ということです。

今後の影響について

  解雇が緩和された、などと報道されると少々不安な気持ちにもなりますが、個人的には、今回の最高裁の判断は至極もっともだと思います。療養開始後3年も経過している訳ですし、その間の企業の負担は大きなものがあります。3年間、全く働かくても使用者は社会保険料を負担しなければなりませんし、代用要員も用意しなければなりません。また、今後10年労災での治療がまだ続くとすれば、それでもその間解雇出来なくなっってしまいます。労働者にとっても、解雇されたからと言って、労災での給付も終わってしまう訳ではありません。治療費、休業補償等は、継続して受給できます。症状が固定して治癒となった場合には、障害等級にもよりますが、障害補償年金なども給付される可能性もあります。
 ですので、今回の最高裁の判断が、あまりに使用者側に有利で、雇用不安が拡がる、などという懸念はまずないでしょう。

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影山正伸

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