イスラエル ~旧約聖書が現代に活きる異形の国家~ Vol.2

松本尚典

松本尚典


現代のイスラエルが成立するまで


前回の発信では、古代メソポタミアにおけるユダヤ民族の発生と、ユダヤ教、そして、キリスト教誕生とユダヤ教への迫害につて、観てきました。

今回は、古代以来、世界に離散したユダヤ人が、キリスト教社会であるユーロッパでの迫害から脱して、約束の地と旧約聖書に記されたエルサレルに、ユダヤ人の国 イスラエルを建国し、そこに住んでいたパレスチナ人との複雑な関係を引き起こした事情を、発信してゆきます。

まさに、今回の発信の内容こそ、いま、イスラエルとアラブ社会に起きている戦争を理解する鍵になります。

カトリックに対抗するイスラム


さて、話は、近代にくだってゆきます。

前回発信したように、キリスト教は、ユダヤ教のユダヤ民族選民思想・戒律主義を否定し、すべてのヒトは神の前に平等であり、戒律を守れない悪人をも、イエスを信じることで救われると説き、中世1000年を通して、ロシアを含む全ヨーロッパに絶大な宗教的影響力を持つ圧倒的な権力組織を創りあげました。

この権力組織こそ、ローマカトリックの総本山 ローマ法王とローマ法王庁です。

しかし、絶大な権力というものは、必ず腐敗を起こします。

中世1000年を通して、ローマカトリックもまたは、腐敗の極に達しました。世俗の権力者であるヨーロッパの封建君主たちは、ローマ法王より王権の正当性を与えられる(王権神授説)という発想の中で、世俗の権力は教会に届かなくなりました。

このローマカトリックに対して、西暦570年ころ、敢然と立ち向かった男が、サウジアラビアに誕生します。ムハンマド・イブン=アブドゥラーフ、そう、英語読みにすると、マホメッドです(以後、皆さんの理解がしやすいように、ムハンマドを「マホメッド」と記します)。この男が、キリスト教と並ぶ世界宗教 イスラム教の創始者です。

マホメッドは、当時の商業最先端国家、サウジアラビアに誕生し、極めて、現実的な観点から、キリスト教カトリックに闘いを挑みました。

イエスという「聖人」(イスラム教では、イエスを神ではなく、聖人と位置づけています)を、神と同一視し、その処刑の姿である十字架という「モノ」を礼拝対象とすることは、神に対する許されべからざる冒涜であると、マホメッドは説きました。

そして、マホメッドは、雄一の神 アラーへの絶対的崇拝を説きます。そして、権力者と化し、腐敗したローマカトリック法王庁と、その組織下にある教会に、ジハード(神から命じられた闘い)を行うことを呼びかけます。

マホメッドの人生は、闘いの生涯でした。敵が展開の難しいサウジアラビアの砂漠の中に本拠地を移しながら、信者たちに鉄の結束を要求し、砂漠の中で生き残るための「部族の掟」を戒律として定める宗教 イスラム教を打ち立てます。

そして、その後、イスラム教は、マホメッドの後継者であるカリフたちによって、今の中東全域に反カトリックのイスラム勢力を広め、ついに、トルコに都をおく、強大なオスマン帝国を打ち立て、中世のキリスト教が支配するヨーロッパに対峙します。そして、ヨーロッパに勢力を拡大しようと闘い続けました。

そして、ユダヤ教とキリスト教の聖地エルサレムと、ユダヤ人の古代都市ユダ王国があった地もまた、イスラム教の勢力地となったのです。

第一次世界大戦と、大英帝国の二枚舌外交


さて、時代は、一気に近代まで下ります。

フランスにおける市民革命、イギリスにおける産業革命をえて、ヨーロッパ諸国は絶大な力を背景に、中世に優勢だったイスラム勢力を追い抜いて、列強と呼ばれ、世界各地を植民地として奪い合いました。スペイン・ポルトガル・イタリアといった、カトリックのキリスト教国に対して、プロテスタントのキリスト教国である、イギリス・オランダや対立し、更に、それに対して、遅れて発展をはじめたドイツ(プロイセン)や東欧が対峙するという、列強同志がしのぎを削った時代が、近代です。

そして、ついに、このヨーロッパ列強が、植民地を巻き込み、真っ二つに分かれて戦争をはじめたのが、第一次世界大戦でした。この戦争は、まさに、人類史上、未曽有の規模の大戦となり、両陣営を疲弊させました。

そして、この大戦に直接的な関与をしなかった、アメリカと大日本帝国が、漁夫の利をえるかたちで大きな勢力となり、世界の覇権国は、大英帝国として7つの海を支配したイギリスから、アメリカに移ってゆきます。そして、アジアで台頭した大日本帝国をアメリカがたたいて、新生日本を同盟国としたのが、太平洋戦争(第二次世界大戦)です。

さて、この第一次世界大戦を巡る駆け引きの中で、現在のパレスチナとイスラエルの終わりなき紛争を生み出した原因が生まれてしまいました。

これが、イギリス(大英帝国)のとった、所謂、「二枚舌外交」です。

第一次世界大戦は、世界の植民地政策で先行した勝ち組国が三国協商を締結し(大英帝国・フランス第三共和政・ロシア帝国)、そこに乗り遅れた東欧とアンチカトリック教のイスラム勢力が中央同盟を結んで(ドイツ帝国・オーストリア=ハンガリー帝国・オスマン帝国)、対峙した大戦争です。

その勝ち組連合国に呼応した、アメリカ合衆国は、連合国に武器提供を行い、戦後復興を担って、大儲けしたことで、大英帝国に変わって世界のスーパーパワーに名乗りをあげました。そして、第一次世界大戦で欧米のアジアにおけるパワーが空白になったすきに、これもまた、連合国に呼応した大日本帝国が、「鬼のいぬま」に、アジアの権益を拡大しました。

第一次世界大戦で大敗して、巨額の損害賠償に苦しんだドイツが、ナチス党を民主的に成立させ、一方、アジア権益の拡大を戦後に欧米に干渉された大日本帝国が、枢軸国で同盟したことで、第二次世界大戦が勃発するというのが、人類が進んだ次の大戦争への経緯です。

さて、当時、大英帝国は、第一次世界大戦に向け、着々と外交の布石を打っていました。

その中で、イギリスは、キリスト強国に対峙するイスラム教の巨大な勢力を分断する工作を始めます。オスマン帝国に対し、イスラムの巨大な塊であるアラブを独立に向かわせ、オスマン帝国のチカラを削ごうと画策します。その結果、締結されたのが、フサイン=マクホ協定です。この協定の中で、大英帝国は、アラブ人居住地を、今のエルサレムを含む中東に認めました。これが、今の中東諸国の誕生の原因です。

その一方で、第一次世界大戦に向けた莫大な戦費をユダヤ人から調達するため、同じくエルサレムにユダヤ教が旧約聖書の中で「約束の地」と定められたエルサレムに、ユダヤ人の国 イスラエルを建国することを、ユダヤ人に認めるバルフォア宣言を行います。

そう、当時のスーパーパワーであった大英帝国が、第一次旋世界大戦に向けた工作で、同じ、エリアに、アラブ人の独立国と、ユダヤ人の国を建国することを、認めてしまったのです。

この大英帝国の「二枚舌」が、イスラエルとアラブの、いまだに続く戦争のきっかけになってしまいました。

イスラエルと、アラブの対峙


イギリスのお墨付きをえたユダヤ人は、世界から中東へ集まり、旧約聖書によって、その「約束の地」と記された地に、古代ユダ王国の再生である、イスラエルを建国します。しかし、その地は、同じくイギリスによって、アラブ人が独立国を認められたアラブ人たちが既に居住する地だったのです。

ここに、世界から集まり国を創ろうとするユダヤ人と、オスマン帝国から独立したアラブ人が相争う構図ができました。そして、その中心地は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教がともに聖地とするエルサレムだったのです。

これこそ、今に続く、中東問題の原点なのです。

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