戦略は組織に従うのか、あるいは、組織は戦略に従うのか

松本尚典

松本尚典

テーマ:経営戦略 上場 ストックオプション


戦略と組織


経営学の大家が、哲学者同志の対立の様に、対立的一見すると矛盾する概念を打ち出すことは、経営学の世界でよくある現象です。

チャンドラーの有名な提言「組織形態は戦略に従う」に対し、アンゾフは「戦略は組織文化に従う」と提言しました。この二つの提言は、経営組織論の基本書のはじめに必ず引用される一見矛盾する対立の提言です。

チャンドラーは、経営戦略の分析的アプローチに着目しました。外部環境と内部環境の分析や競争優位の分析から、経営戦略が導かれ、その戦略を実行するために価値連鎖の観点から最適な組織の設計が行われるべできあると考えたのです。

一方、アンゾフは、戦略のプロセスアプローチに着目しました。組織の文化や価値観の共有が形成されていれば、組織の成員のスキルやモチベーションはおのずと高まり、それがSWOTの「強み」を構築する契機となって、企業の最適な戦略が設計されると考えたのです。

この2つの提言は、矛盾をしたものではなく、経営戦略と、組織の、ダイナミックな相関関係を、別の角度から言い当てたものだと、僕は経営学を勉強しはじめた若い頃に理解しました。

いずれにしても、組織は、極めて経営戦略と密接に関係し、経営戦略の現場的オペレーションとして機能するとともに、それ自体が経営戦略を生み出すプロセスの源泉ともなるものです。

従って、組織、そしてそれを構成する構成員たるメンバーは、経営戦略的観点から、関係構築をしてゆくべきものであることは間違いありません。

組織は、戦略を実行に不可欠なもの


優良企業が、莫大な投資を行って、社員採用を行い、独自の方法で、それを教育し、企業文化を徹底的に叩き込みながら、未来の組織を構築しつづけるのは、それが、未来の経営戦略と極めて密接に関係し、企業の未来の姿を創り出す源泉だからに他なりません。

逆をかえすと、組織を構成するメンバーを、単なる労働力と把握し、必要なジョブが発生した時に安易な求人を行い、それを現場にいれて、労務管理を行うだけの経営者が、成長を維持する組織戦略を生み出すことができるはずがありません。

経営戦略は、その原初形態は分析的アプローチによって生み出されますが、その発展は、プロセスアプローチによって成長するものであり、組織は戦略の現場的受け身ではありえません。組織それ自体が、動態的に経営戦略を修正して発展させる主体的な存在にならなければ、経営戦略は、決して命を吹き込まれず、成長企業が持続するはずはないからです。

成長戦略と組織


前回のコンテンツで、企業経営は「下り坂のエスカレーターに乗って昇っていくようなもの」と発信させていただきました。

毎日の日常的な活動に堕して、同じことを繰り返しているだけの経営者は、自分が下りのエスカレーターに乗っていることを自覚しないまま、どんどん、下にくだってゆくのが、企業経営です。

そして、そのために、企業が存続を続けるためには、成長戦略が必須であることを述べました。

成長戦略なき企業は、発展ができないのではなく、存続それ自体ができません。

しかし、企業経営者のほとんどが成長戦略を実行できずに、経営からリターヤーしてゆくのは、成長戦略が描けないからではなく、成長戦略を支える組織が作れないからなのです。

まさに、このことが、先にあげたチャンドラーやアンゾフといった、歴史上の名経営コンサルタントたち言わんとした神髄なのです。

成長戦略は、経営者が単独でそれを実行し、進めることは、不可能です。その現実化とプロセス形成には、経営者を支える、優れた組織とその構成員たる人材が不可欠なのです。

人材不足の今、重要な組織発想


今、日本は、バブル期以来の人材不足の最中にあります。ここでいう人材不足というのは、転職市場にヒトがいないということではありません。転職市場は、さまに、目いっぱいの転職希望者で溢れています。

問題は、経営戦略を支えるような人材が、エクセレントカンパニーによって抱え込まれ、転職市場に殆ど全く出てこないことにあります。

事実、今、転職市場からヒトを採用する中小企業は、ほぼ、例外なく、人材系企業のカモにされ、掴むのは、トランプのババ人材ばかり、という事態に陥っています。

採っても、採っても失敗するというのが、今、中小企業の経営者の本音です。

2024年現在、おそらく、僕が経営顧問についている企業の経営者の皆さんが抱える、最も大きい共通課題の一つが、「今、日本では優良な人材が全く採れない」ということです。

日本人に優良な人材がいないということではありません。

大企業は、昔にように、人材を「活かそうとしない」ということがなくなりました。日本の大企業の人材活用に対する意識は、急速に高まり、待遇も改善しています。そして、大学の新卒を囲い込む手段は、内々定からインターンシップに移行しました。その結果、優秀な大学生は、1年生から大企業のインターンシップに例外なく囲い込まれています。そして、4年間の時間をかけてインターンシップで、採用人材を絞り込み、その囲い込んだ人材にエクレントカンパンーは内定を出しています。

このインターンシップで、大企業は、採用のミスマッチを大幅に減らし、採用段階から、適性のあった部署に大卒新規採用者をあてており、採用のミスマッチをなくしています。

今のZ世代は、非常に優秀な人材と、企業では全く使えない人材の、どちらかしかいません。僕らの頃のような、「中間層に、金太郎飴型に人材が集まっている」という状態にありません。

僕は、今、Z世代の経営者や、企業内で活躍する、優秀なZ世代の若者と仕事をしていますが、彼らは、びっくりするくらい、優秀で、勤勉です。彼らは、頭脳も明晰で、ルックスもよく、性格も素直で、仕事もできます。

オリンピックに出場するZ世代の選手たちが、僕たちの世代の選手よりも、はるかに優れた記録を残すことからわかる通り、今のZ世代には、驚くほどハイスペックで、有能な人材がいます。一方で、これまたびっくりするくらいに、使い物にならない人材も多数います。

猛烈に優秀か、あるいは、企業にとって全く戦力にならない人材か、のどちらかしかいないのがZ世代の特徴です。

今、大企業は、そのことを充分理解し、猛烈に優秀なZ世代の採用競争を行っています。そして採用後、彼らを、絶対に逃がさないように囲い込みます。

一方で、Z世代より上の、日本の「失われた30年」を生きてきた世代では、非正規雇用の常態化によって、企業人としての自覚と十分な職能に乏しい人材が、転職市場に大量に浮遊しています。大企業は、戦力人材をしっかり囲い込んでしまっており、転職市場には優秀な人材はほとんど出てきません。

大企業は、今、間違って採用してしまった、トランプのババ人材を、確実に転職市場に放逐する手段に、非常に長けてきました。

その結果、今、転職市場は、「殆どババしかカードがない、ババ抜きゲーム」状態になっています。

中小企業がトランプのババを引かないためには


では、このような中で、中小企業の経営者は、どのような方法で、成長戦略を担う優秀な人材を獲得すればよいのでしょうか?

多くの活力あるベンチャーの経営者や、僕が、今、人材を獲得する手段は、「経営者自らの力によるベッドハンティング」です。

僕は、日本に帰国した2007年以降、業務の合間をぬって、精力的に、経営者交流会や技術者交流会に参加し、大学での講演やゼミでの指導を引受け、セミナーを開催し続けてきました。

この活動の結果の僕の周辺に集まるヒトの中から、優秀な人材を選びだし、それをヘッディハンティングして組織を作っています。自分自身の口で経営ドメインを語り、彼らを自分のチカラと魅力発信で、ヘッドハンティングし続けています。

URVグローバルグループで、僕を支え続けてくれている諸君は、通常、絶対に転職市場には出てこないレベルの優秀な人材によって構成されています。

彼らは、入社時には、僕の事業の将来ビジョンを理解し、僕がどれだけハードな仕事をし、どれだけ事業投資資産を持ち、どれだけの成長戦略を持っているかを完全に理解したうえで、自分も僕のような上昇気流に乗りたいと言う強い野望を胸に、僕の旗の下にきます。

僕はこのような人材しか、採用しませんし、パートナーシップも組みません。

この自立した個のチカラが連携されて組織化されていることが、今のURVグローバルグループの高い付加価値に対する生産性を生み出し、強い成長を続けている原動力になっているのです。

人材が必要になったときに、人材系の企業から人材を買ってくる、などという安易な手段を使っていたのでは、永久に、トランプのババを引き続け、成長戦略どころか、組織それ自体の存続もできなくなるのが、今の日本の転職市場だと、企業の経営者は悟る必要があります。

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