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目次
1、「闇の政府打倒」は、選挙公約から現実の政策へ
「闇の政府」を排除し、連邦政府の官僚機構を改革する
「闇の政府を打倒する」という言葉だけを聞けば、少年向けのSFドラマや、陰謀を題材にした映画の主題のように感じる方もいるでしょう。
しかし、これはフィクションの世界の話ではありません。
ドナルド・トランプ氏は、2024年のアメリカ大統領選挙において、連邦政府、司法機関、情報機関などの内部に、国民から選ばれた大統領の政策を妨げる既得権益層が存在すると主張し、その排除を重要な政治課題として掲げました。
そして、トランプ氏は、2024年11月の大統領選挙で勝利し、2025年1月20日、第47代アメリカ合衆国大統領に就任しました。2024年の選挙人投票では、トランプ氏が312票、民主党候補のカマラ・ハリス氏が226票を獲得しています。
つまり、2024年3月の時点では選挙公約であった「闇の政府打倒」は、2026年現在、第二次トランプ政権による現実の行政改革へ移行しています。
第二次トランプ政権は、政策形成に関与する連邦職員について、大統領の政策を忠実に執行する責任を強める「Schedule Policy/Career」という新たな人事区分を導入しました。また、司法省には、過去の政権による司法機関の政治的利用がなかったかを検証する「Weaponization Working Group」が設置されています。
これらをトランプ政権は、官僚機構の説明責任を回復するための改革と位置づけています。一方、批判する側は、専門性と政治的中立性を担う職業公務員制度が弱まり、行政機関に対する大統領の政治的統制が強くなる可能性を懸念しています。
したがって、重要なのは、「闇の政府」が実在するか否かを感情的に論じることではありません。
なぜ、多くのアメリカ国民が、政府、司法、報道機関、大学、大企業などの既存制度を信頼しなくなったのか。そして、その不信感が、世界最大級の経済大国の政治と政策を、どのように変えているのかを理解することです。
僕は、1994年に大学院留学のためアメリカへ渡り、1996年から2007年まで、ニューヨークを拠点に仕事をしてきました。
その間、ITバブルの形成と崩壊、2001年の同時多発テロ、金融工学の発展、サブプライムローン市場の拡大などを、現地で経験しました。そして、サブプライムローン問題が世界的な金融危機へ発展する兆候が強まる中、2007年にアメリカでの約10年間のキャリアに区切りをつけ、日本へ本拠を移しました。
帰国後は、日本の大手企業で役員を務めながら起業し、現在のURVグローバルグループの基礎を築きました。
日本に次いで長期間生活したアメリカは、僕にとって、単なる外国ではありません。
そのアメリカで進行してきた社会の分断や、制度に対する不信感を長く見てきた経験からすると、「闇の政府」という表現の広がりは、単なる陰謀論として片づけるべき現象ではないと考えています。
その背景には、グローバル化、産業構造の転換、教育格差、所得格差、地域格差、移民問題などが複雑に重なっています。
そこで、今回のコラムでは、第二次トランプ政権が掲げる「闇の政府打倒」を題材に、現代アメリカ社会の分断と、それが日本の中小企業経営者に与える影響について考えていきたいと思います。
2、トランプ大統領の支持を生み出した、アメリカ社会の分断
まず、トランプ大統領が、アメリカ合衆国のどのような有権者から支持を集め、その支持がなぜ継続しているのかについて、僕なりの見方を書いて参りたいと思います。
トランプ大統領とは?
トランプ大統領は、不動産事業を中心に知名度を高め、大統領選挙へ出馬する以前には、テレビ番組「アプレンティス」への出演などを通じて、全米で広く知られた事業家でした。
自らの姓を冠した「トランプ・タワー」をはじめ、建物、ホテル、ゴルフ場などに「TRUMP」というブランドを掲げる手法は、彼が早くから、事業家であると同時に、自己ブランドの構築に長けたマーケターであったことを示しています。
そして、既存のテレビメディアだけでなく、SNSを利用して支持者へ直接メッセージを届ける、非常に強い発信力を持つ政治家でもあります。
2016年の大統領選挙への出馬当初、トランプ氏は、共和党の主流派から必ずしも有力候補と見られていたわけではありません。
しかし、既存政治に対する不満、移民政策への反発、製造業の衰退、地方経済の停滞、文化的価値観をめぐる対立などを、一つの政治的メッセージへ集約しました。
そのメッセージが、「アメリカ・ファースト」であり、「Make America Great Again」でした。
トランプ大統領の政治戦略の本質は、単に大衆迎合的な発言を繰り返すことだけではありません。
社会の変化によって、自分たちの生活、雇用、地域、文化的価値観が軽視されていると感じていた人々に対し、「あなた方の不満は正当であり、その原因はワシントンの既得権益層にある」と、明確な物語を提示したことにあります。
トランプ支持層は、どうやって生まれたのか?
アメリカ合衆国は、移民の受け入れによって成長してきた国家です。
建国期にヨーロッパから移住した人々だけでなく、奴隷として強制的に連れてこられたアフリカ系の人々、その後に世界各地から移住した人々によって、現在のアメリカ社会は形成されてきました。
19世紀の西部開拓と工業化、二度の世界大戦、戦後の大量生産と消費社会の発展を通じて、アメリカは世界最大の経済大国へ成長しました。
さらに、大学、大学院、研究機関、企業へ世界中から優秀な人材を集めることで、科学、金融、IT、医療、軍事、エンターテインメントなど、幅広い分野で世界を主導してきました。
僕もまた、日本の銀行の社費留学生として、アメリカの大学院で学びました。
当時から、アメリカの大学院には、各国の政府、企業、金融機関などから、多くの留学生が集まっていました。入学後の競争も厳しく、国籍にかかわらず、能力と成果を示した者が評価される環境がありました。
世界中から人材を引きつけ、優秀な人材を大学、研究機関、政府、企業へ送り込む仕組みは、アメリカの大きな競争力でした。
アメリカ国勢調査局によれば、外国生まれの人口は、1970年の約960万人から、2022年には約4620万人へ増加し、総人口に占める割合も4.7%から13.9%へ上昇しています。
ただし、グローバル化や移民による成長の恩恵が、すべての地域や階層へ均等に配分されたわけではありません。
大都市やハイテク産業、金融業、専門職などが成長する一方、製造業に依存してきた地域では、工場の海外移転や自動化によって、安定した雇用が失われました。
また、アメリカ労働統計局の統計が示すように、現在のアメリカでは、学歴によって雇用の安定性と所得に大きな差が生じています。一般に、学歴が高いほど失業率が低く、平均所得が高くなる傾向があります。
この構造変化の中で、経済的な安定や社会的な地位を失ったと感じる人々が増えました。
彼らの不満は、必ずしも移民や外国人だけに向けられているわけではありません。
連邦政府、議会、司法機関、報道機関、大学、金融機関、巨大IT企業など、専門知識と権限を持つ組織全体に対する不信感となって広がりました。
そして、選挙で選ばれていない官僚や専門家が、自分たちの知らないところで政策を決め、一般国民の意思を無視しているのではないかという疑念が、「ディープステート」、すなわち「闇の政府」という表現に結びついていったのです。
「闇の政府」という言葉の広がりは、単なる陰謀論の流行としてだけではなく、アメリカ国民の一部が、既存の政治・行政・報道・教育制度に対して抱いている、根深い不信感の表れとして捉える必要があります。
僕がニューヨークで仕事をしていた1990年代後半から2000年代にも、グローバル化によって成長する都市部と、そこから取り残されたと感じる地域との間で、価値観や経済状態の差が広がっていました。
金融、IT、コンサルティングなどの分野では、世界中から集まった人材が活躍する一方、その変化を自分たちの雇用や生活への脅威と感じる人々も増えていました。
この経済的、地域的、文化的な分断が、トランプ大統領の登場以前から、アメリカ社会の中に蓄積していたのです。
3、トランプ支持層の本音と現実
この分断を政治的な支持へ転換したのが、トランプ大統領でした。
本来、不動産事業で財を築き、ニューヨークの富裕層社会で活動してきたトランプ大統領は、経済的に不満を持つ人々から見れば、社会の「勝ち組」に属する人物です。
それにもかかわらず、彼は、既存の政治家や官僚とは異なり、一般国民の不満を代弁する人物として支持を獲得しました。
その理由の一つは、トランプ大統領が、自らを既存制度の受益者としてではなく、それと闘う「アウトサイダー」として位置づけたことにあります。
彼は、ワシントンの官僚機構、既存の報道機関、グローバル企業、大学の知識人、民主党だけでなく、共和党の主流派までを批判の対象としました。
そして、支持者が抱く不満の原因を、個人の能力や努力の不足ではなく、既得権益層が支配する制度の問題として説明しました。
ただし、トランプ支持層を、「低学歴の白人層」だけで説明することはできません。
2024年の大統領選挙では、トランプ氏は、従来の共和党支持層だけでなく、労働者層、地方居住者、中小事業者、宗教保守層、移民政策や治安を重視する層など、幅広い有権者から支持を集め、再び大統領に選出されました。
アメリカ国勢調査局が公表した2024年大統領選挙の統計でも、投票行動は、人種、性別、年齢、学歴、所得など、複数の要因によって異なることが示されています。
つまり、トランプ現象を、特定の人種や学歴層だけの特殊な動きとして捉えるのは適切ではありません。
より本質的な問題は、アメリカ社会の相当部分が、グローバル化と既存制度によって、自分たちの声や利益が軽視されていると感じていることです。
僕が2007年にアメリカを離れ、日本へ本拠を移した理由の一つには、サブプライムローン市場の拡大と金融システムの不安定化に対する危機感がありました。
当時、ウオール街で仕事をしていた僕は、金融市場の表面的な繁栄の裏側で、返済能力の低い借り手に対する融資が拡大し、複雑な金融商品として世界中に販売されている状況を見ていました。
しかし、僕が感じていた変化は、金融市場だけではありませんでした。
ニューヨークのようなグローバル都市が成長する一方、その成長から取り残されたと感じる人々の不満が強まり、移民、外国企業、金融機関、政府、専門家などに対する警戒感が高まっていました。
その後、2008年の世界金融危機、新型コロナウイルスの感染拡大、インフレ、移民問題、地域間格差などを経て、制度に対する不信感は、さらに強まったと考えられます。
4、第二次トランプ政権から、中小企業経営者が読み取るべきこと
2024年3月の時点では、第二次トランプ政権が誕生するかどうかは、まだ確定していませんでした。
しかし、2024年11月の大統領選挙でトランプ氏が勝利し、2025年1月に第二次トランプ政権が発足しました。
したがって、2026年の時点で日本の経営者が考えるべきことは、「トランプ大統領が再選されるか」ではありません。
トランプ大統領を生み出したアメリカ社会の変化が、日本企業の経営環境にどのような影響を与えるかです。
第二次トランプ政権では、連邦政府職員に対する統制の強化、行政機関の縮小、規制緩和、移民政策の厳格化、アメリカ国内産業の保護などが進められています。
こうした政策は、アメリカ市場で事業を展開する日本企業にとって、税制、関税、雇用、投資審査、政府調達、サプライチェーンなど、幅広い分野に影響を与える可能性があります。
特に、中小企業経営者は、次の点に注意する必要があります。
第一に、アメリカの政策は、従来以上に「国内雇用を生み出すか」「アメリカの安全保障に貢献するか」という観点から評価されるようになることです。
第二に、自由貿易を前提とした事業計画が、関税や輸入規制の変更によって、短期間で修正を迫られる可能性があることです。
第三に、移民政策の厳格化によって、現地法人の人材採用や、日本からの駐在員派遣に影響が生じる可能性があることです。
第四に、連邦政府の方針変更によって、環境政策、エネルギー政策、IT規制、金融規制などが、大きく転換する可能性があることです。
第五に、アメリカ市場を一つの均質な市場として捉えないことです。
アメリカは、州、都市、所得層、宗教、学歴、人種、政治的価値観によって、消費行動や企業に対する評価が大きく異なります。
ニューヨーク、カリフォルニア、テキサス、中西部、南部では、同じ商品や広告表現であっても、受け止められ方が異なることがあります。
アメリカで事業を行う企業は、人口規模やGDPだけを見るのではなく、地域ごとの政治、文化、所得、産業構造を理解したうえで、市場を細分化しなければなりません。
トランプ大統領を支持するか、批判するかは、本稿の中心的な問題ではありません。
経営者に必要なのは、好き嫌いや政治的立場を離れ、アメリカ社会がどの方向へ動いているのかを、冷静に分析することです。
「闇の政府打倒」という強い言葉が、多くの有権者の支持を集め、現実の行政改革へ発展した事実は、アメリカ国民の間で、政府や既存制度に対する不信感が極めて大きくなっていることを示しています。
そして、その不信感を背景にした政治は、今後も、トランプ大統領個人の存在を超えて、アメリカ社会に影響を残すでしょう。
世界最大級の市場であるアメリカが、従来のグローバリズムや自由貿易から、国内産業、国境、安全保障、国民生活を優先する方向へ転換すれば、日本企業の海外戦略も、大きな見直しを迫られます。
中小企業経営者にとって重要なのは、アメリカを「自由貿易を主導する安定した巨大市場」と固定的に捉えるのではなく、政治と社会の分断によって、ルールが大きく変わり得る市場として認識することです。
アメリカの強さの源泉であった、移民、自由競争、大学・研究機関、グローバル企業、金融市場は、現在も失われたわけではありません。
一方で、それらの仕組みに対する国民の支持が揺らぎ、国内優先の政策が強まっていることも事実です。
この二つの力が、今後のアメリカ経済と世界経済をどのように動かすのか。
日本の中小企業経営者も、アメリカの政治を遠い国のニュースとして眺めるのではなく、自社の為替、輸出、輸入、調達、投資、IT、エネルギー、海外展開に直結する経営環境の変化として、注視していく必要があります。
グローバル情報サイト アウトオブジャパン
特集「アメリカというマーケット」
https://tsuziseppou.urv-group.com/market-usa/


