グローバルビジネスを展開する経営者は、語学力よりもコンテクスト力を養え

松本尚典

松本尚典

テーマ:グローバル 英語


1.「英語が苦手だから、グローバルビジネスは無理」という発想を捨てよう


海外事業、そしてグローバル事業を展開しましょう、と提案した時、多くの経営者は、
「松本さんみたいに、英語が自由に話せればいいのですが。」
と尻込みをされます。

僕は、大学時代まで、英語が苦手でした。

留学を目指して、仕事をはじめてから、英語に取り組み、日本で英検1級や通訳案内士試験を通過し、アメリカで留学・仕事をした13年間で、ネイティブ並みの英語力に到達しました。

僕が英語を身に着けた方法は、次に掲載するコラムをお読みください

https://tsuziseppou.urv-group.com/english-01/


英語力というのは、英語で自由に、読み・聞き・書き・話しをすることができるというチカラで、人生の中で、大きな価値を生む学習であることは間違いありません。

しかし、こと、グローバルビジネスに関していえば、「英語力・イコール・グローバルビジネスの成果」では、まったくありません。

例えば、僕自身の、他言語の例でお話しましょう。

僕は、確かに英語は自由に使えますが、中国語は、相当に中途半端なレベルで、韓国語に至っては、まったくゼロの状態です。ドイツ語を中央大学時代に選択していましたが、これに至っては、大学で単位を辛うじてとっただけのレベルです。

中国語を日本で勉強しようとすると、北京公語(マンダリン)と呼ばれる中華人民共和国の公用語を習うわけですが、中国語圏エリアでは、マンダリンとは外国語のように異なる広東語や台湾語などの言語が話されています。

僕は、中国語は、本当に、NHKの語学番組で学習した程度で、マンダリンさえ、ネイティブのスピードに、まったくついてゆけず、聞き取りも、まったくできません。

しかしながら、中国各地で事業を展開してくれるスタッフや、パートナーなどの通訳を使いこなすことで、中国事業は、大きな成果をあげています。

また、韓国語は、韓国ビジネスをスタートした時から、僕の通訳と翻訳をお願いし、今は、ソウルオフィスの責任者をお願いしている部下によって、僕は、現地企業との商談や、事業展開に、これも、大きな成果をあげています。

世界は、英語以外の言語で溢れており、日本人と同様に、英語が話せないが、経済的には非常に有力な方々はたくさんおられます。その方に、英語で話しかけるわけにはいきません。

そうすると、グローバルビジネスで使用する言語は、どれだけ習得すべきなんだ、ということになってしまいます。ビジネスの展開に、語学習得は、絶対に追いつかないんです。

僕なども、中国語を習得するスピードよりも、はるかに速く中国事業を成功させてしまいました。

韓国語に至っては、先に紹介したソウルオフィスの責任者と酒を呑んで、
「松本さん、絶対に韓国語をマスターしないで下さいよ。
私の仕事、なくなっちゃうから。」
と、冗談で言われるほどです。

そして、今、語学のプロたちを、脅かすものが出現しつつあります。

AIの急速な発展による、通訳翻訳ロボットです。

この言語の通訳翻訳のロボットは、AIが活躍する場面の本流ともいえる領域であり、その能力の進化は目覚ましいものがあります。

AIは、膨大な過去の情報に関するビックデータによって能力をアップできる分野に、最も大きな威力を発揮し、過去のデータが適用できない未来の不確実な事項を思考で判断する分野には使えません。

通訳や翻訳という領域は、言語の膨大なデータで能力がアップできる典型的な分野ですから、AIによって、今後、賄える分野です。従って、機械的な言語の置き換えの早さが重要な同時通訳の分野は、今後、どんどん、AIに置き換わってくるでしょう。

ビジネスにおける語学のカバーという領域は、今後、AIを掲載するロボットの導入によって、相当にカバーできると僕は思っています。

「松本さん、絶対に韓国語をマスターしないで下さいよ。
私の仕事、なくなっちゃうから。」

という、先ほどのソウルオフィスの責任者に、僕は、
「僕が、韓国語をマスターしなくても、AIを導入して、あなたの仕事がなくならないように、あなたしかできない、ビジネスの感性や人間相互の関係を重視した通訳をしてくださいね。」
と、部下への指導をしたいと僕は、思っています。

2.グローバルビジネス戦略を考えるうえで欠かせないコンテクスト力とは何か


このように、ビジネスに関わる分野においては、言語が堪能な人を活用し、あるいは、AIを活用することで、自分で語学を習得していなくても、充分、売上をあげ、利益をあげていくことができます。

しかし、グローバルビジネスの展開にとって、絶対に欠かすことができない能力が、語学とは別にあると、僕は思っています。

それが、グローバル戦略を考える上での、ファンダメンタルになる、コンテクスト力です。

コンテクストとは何か?


コンテクスト力を語るうえで、よく引き合いに出される事例を使って、コンテンクスト力とは何かを、お話します。

例えば、次のような文が英語であったとします。皆さんは、この文をどのような意味ととられますか?

「私が子供のころ、金曜日の夕食は、とても特別なものでした。」


文としては、英語であれ、日本語であれ、非常に簡単で国語的に意味がとれない方はいないと思います。

しかし、もし、皆さんの中に、この文の意味を、次のような内容で把握をしてしまったとしたら、それは、皆さんが、日本人の常識でしか、世界を考えられていない、非常にコンテクスト力に欠ける人だといわなければなりません。

「この人の家庭では、ハナ金の夜は、とても心がウキウキして、2連休の前の夕食は特別だったんだな。」

まず、アメリカで、金曜日の夜が「特別」な人は、どのようなヒトでしょうか?

ずばり、ハナ金で喜んで、浮かれているヒトではありません。

アメリカで、金曜日の夜が特別なヒトは、ユダヤ教徒だと、気づかなければなりません。

ユダヤ教徒は、旧約聖書を聖典としています(新約聖書は、キリスト教の聖典であって、ユダヤ教では聖典ではありません)が、旧約聖書には、次のような一文があります。

「神は天地を創造し、7日目に休息をとった。」

この解釈が、ユダヤ教と、キリスト教では異なります。ユダヤ教では、神が天地を創造しはじめた日は、日曜日と解釈するため、この7日目は、土曜日に当たります。従って、土曜日は、ユダヤ教によれば、安息日(シャバット)であり、一切の労働を禁じています。

ユダヤ教徒は、戒律によって、金曜日の日没から土曜日の日没まで、一切の労働を禁じられています。厳格な戒律を重んじるユダヤ教の家庭では、灯りをつけることや、調理を行うことも労働と厳格に解釈されているため、キャンドルを灯し、家族が揃い、金曜日の夕食を創造主である神に感謝をささげながら、作り置きのサラダや煮込み料理の夕食をとります。

テレビや、スマホを観ることも厳禁。

先の文を読んだとき、この文の書き手は、金曜日が特別なユダヤ教の家庭に育った、つまりユダヤ人であり、この「特別」な内容は、上記のような雰囲気を感じ取らなければなりません。

このように、物事の背景にあるファンダメンタルなものを、想像できる力が、コンテクスト力なのです。

欧米のエリートビジネスマンは、大学で、徹底的にコンテクスト力を身に着けさせられる


日本の学校制度には、コンテクスト力を身に着けるうえで、大きな欠陥があります。

その第一は、大学の学部制度です。


日本の教育制度は、小中高の教育内容は、文部科学省の指導要領に従って組み立てられており、世界でもまれにみる網羅的かつ体系的にできあがった優れたシステムになっています。

基礎教育のレベルでは、日本の教育は、世界でも稀に見るほど、非常によくできています。

ところが、大学教育になると、そのお些末さは、先進国とは思えないほど、いい加減です。

憲法23条の学問の自由の制度的保障である大学の自治の主体として、大学の教員は、教員としてではなく研究者として、学部というセクトを構成し、その教育内容は、「学者の自由」に委ねられています。

その結果、大学一年生入学という段階で、専攻する学部を選択し、大学の講義は専門家の自由な「発表の場」になっています。

教養課程が海外の大学並みに成立しているのは、東大や京大などの一部の大学だけです。

アメリカの大学は、専門教育を受けるためには、大学院まで進む必要があり、大学では、リベラルアーツと呼ばれるコンテクスト教育が大学では徹底的に行われます。

イギリスやフランスの高等教育でも同様で、大学を出た人であれば、このコンテクスト力を徹底的に鍛えられているのです。

第二は、宗教教育の不在です。


憲法の保障する信教の自由の過度な要請により、国公立における宗教教育が日本では否定されています。

一部の宗教系の私立学校を除き、日本人は、世界でも、稀なほど、宗教に関する知識が欠如しています。そのため、高等教育を受けた人が、カルトの罠にはまってしまうというような、お粗末な問題が起きます。

[中見出し●グローバル戦略は、どのようなビジネスでも、コンテクスト力が不可欠[/中見出し]

グローバルビジネスの戦略を立案するときに、絶対に必須なのは、

民族問題×宗教問題×歴史


この3つのコンテクスト力です。

グローバルな最新ニュ-スやマクロデータの情報を観たとき、先の文のコンテクストを見抜くと同様に、その裏側にあるコンテクストを見抜く能力が不可欠であり、それなくして、世界の地域戦略は立案できませんし、地域戦略が立案できなければ、その地域という点を面に広げる、グローバル戦略が立つはずがないのです。

語学力は、部下のチカラで、いくらでも補えます。
しかし、戦略の立案は、トップマネジメントが立案しなければなりません。

経営戦略なくして、経営計画はありえず、経営計画がなければ、場当たり的な戦術に終始して、長期的なビジネスでの成功はありえません。これは、どんなビジネスでも当てはまります。

日本の学校教育では身に着けることができない、コンテクスト力を、グローバルビジネスを目指す人は、身に着けなければならないのです。

3.コンテクスト力を養うためには


では、このコンテクスト力を身に着けるには、どうすればよいのでしょうか?

まず歴史を知る


現代の世界各地の動きというのは、今の時点で突然成り立っているものではありません。過去から、現代、そして未来へと続く時間軸の中に、「今」が成立しているのです。

そこで、今、何故、そのようなことが起きているのか、ということは、過去を知らなければ理解できません。

グローバルな動きの背景には、世界史という大きなコンテストがあります。

今、学校教育で、Z世代の高校生は、世界史が必須科目となっておりますが、その上の世代では、中学高校までで、世界史を全く勉強していない人もおられるかもしれません。

そのような方は、是非、高校生が使用する教材を使用し、まずは、世界史に興味を持って学んでみることが必要です。

世界史は、エリアという面と、時間軸という線の相関関係の中に、歴史が位置付けられてきます。日本史が、エリアという面を気にせずに、時間軸という線に歴史を位置続ければ理解できるのと、そこが異なります。

そのため、世界史を学ぶ場合、世界地図や地球儀を机に置き、もう一方に年表を置いて、歴史の事実に向かい合う必要があります。

例えば、このコラムを書いている2022年、ロシアがウクライナに軍事進攻をしています。

このロシアのウクライナ征服に対する執着は、歴史的には、「帝政ロシア」vs「ロシア連邦」という構図の中に位置づけられます。ロシアとは、古代ローマ帝国が弱体化して、東西ローマに分裂した時、東ローマ帝国(ビザンチン帝国)が西に対するアイデンティティとして位置付けたギリシャ正教を、採り入れたロシア正教を導入して成立した概念です。

ウクライナは、帝政ロシア、つまり「ロシア正教を掲げた帝国」「ロシア文化」の中心的なエリアであり、そのプライドは、日本でいう京都や奈良の方が、自分たちが日本の中心であるという意識を持つことに似ています。一方、ロシアは、現在のロシア連邦として、巨大なロシアの正当な継承者であると政治的に自負する国です。

この政治的ロシアが、文化ロシアを併合するために、軍事的な侵攻を行っているのが、ロシアのウクライナ侵攻問題です。

このような現代に起こっている問題や、世界のビジネスの現場で起きる問題の底辺には、過去の経緯が横たわっており、その過去の経緯を学ぶことを、世界史は可能にしてくれます。

歴史と絡み合う宗教をしる


勿論、ここでいう世界史を学ぶというのは、試験勉強でありがちな、年号や人物名の暗記ではありません。エリアと時間軸の2軸を意識しながら、大きな歴史の流れと、地域の歴史の流れを把握することです。

そして、この世界史の理解を深める重要なコンテクストの一つが、宗教に関する理解です。

例えば、西洋の歴史を深める上で、キリスト教の知識は不可欠です。

ユダヤ教の発生。

何故、ユダヤ教から、キリスト教が分かれて発生し、古代ローマ帝国の発展の中で、どう解釈が進んでいったか。
ローマ帝国の弱体化と、東西ローマの分裂の中での、キリスト教の分裂。
中世ヨーロッパを理解する上で、思想的に最も重要な、ギリシャ哲学とキリスト教の融合。
近代にいたっての、プロテスタントの出現と、宗教戦争。
プリテンスタンティズムが、資本主義に与えた影響。
キリスト教の克服と、近代的な精神。

このように、ヨーロッパ西洋というエリアの中に限定しても、キリスト教を理解できていなければ、歴史は理解できません。

そして、キリスト教やユダヤ教を理解していなければ、現代の欧米社会のファンダメンタルを解釈することはできないし、欧米の経営事業戦略は立てられません。

中東や、東南アジアにおけるイスラム教の影響。
インド社会におけるヒンズー教の影響。
中華社会における仏教や儒教の影響。

このように、宗教の理解は、歴史と絡んで、重要なコンテクストとなりますので、歴史と絡めて、客観的に宗教を理解することが不可欠です。

民族と絡み合う歴史と宗教を知る


さて、この宗教と絡み合う歴史の結果、生まれたのが、民族です。

日本人は、島国の中に、比較的、単一性の高い民族で長年にわたって歴史を刻んできたため、日本民族という概念が、日本国民と同一にとらえられる稀有な存在です。

しかし、世界では、国の中に多数の民族がすみ、あるいは、多数の国に跨って特定の民族が広がり、そのアイデンティティとして宗教が位置付けられ、歴史を刻んでいます。

そのため、歴史と宗教に、更に民族というファクターが折り重なっています。

例えば、日本の隣国の朝鮮半島では、太平洋戦争のあと、米ソの冷戦構造生成期の影響で、同一の朝鮮民族が、南北の国家に分断されました。そして、米ソ冷戦の局地戦の形で、朝鮮戦争の結果、停戦ラインがソウルの北の38度線に引かれました。

そのため、親類同志が南北の停戦ラインで分断されるような事態が発生しました。

北朝鮮と韓国の間のラインは、国境ではなく、あくまでも停戦ラインです。朝鮮戦争は終結したわけでなく、停戦している状態です。

韓国にビジネスを展開する場合、韓国が抱える、この悲劇を無視することはできません。

韓国の政治と韓国国民の考え方の中には、大日本帝国時代の日本に対する反日感情とともに、それとは別に、民族を分断させたアメリカに対する反米感情も存在します。

これが、北朝鮮の極端な独裁政権に対する軍事的な警戒という、日米同盟に向かう求心力とともに、反対に、朝鮮民族が受けた悲劇を及ぼした日本とアメリカに対する反感という力学が働いて、韓国の政治と国民意識を形成しています。

そして、敗戦をしていながら、分断をされることなく、一致団結をして、経済大国に再起した日本に対する対抗意識も強く働いています。

このような韓国の問題と、韓国人の意識を無視して、無神経にビジネスを展開することは、韓国ビジネスでは絶対に大きな問題を引き起こします。

4.グローバル経営戦略と、コンテクスト


グローバルという言葉は、エリアの点と点が繋がる線を超えて、面としての国際的な広がりを示します。従って、グローバルな戦略の中には、様々なコンテクストを持つ多様な主体が含まれてきます。グローバルビジネスであれば、多様な消費者や行動主体を巻き込んでいく必要があります。

グローバル経営者は、従って、そのコンテクストを理解した上で、その調整役を果たしながら、計画と行動を持続する指揮者の役割を演じなければなりません。

グローバル経営者にとって、コンッテクストの理解と深化は、不可欠な素養なのです。

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