ピータードラッカーの組織論から、アフターコロナ時代の組織の課題を考えよう

松本尚典

松本尚典

テーマ:組織マネジメント


1.P・F・ドラッカー 「現代の経営」


経営というものに真面目に取り組もうと考え、少しそれを勉強したヒトの中で、「ピータードラッカー」(P・F・ドラッカー)という名前を聞いたことがないという方は、まずいないでしょう。

第二次世界大戦後の20世紀後半。

彼は、それまでの経済が、資本家(財閥)によって独占されていた近代に変わって、「所有と経営の分離」の時代が到来する中、「マネジメント」という概念を深化させ、現代的な経営のあり方を打ち出した、偉大な経営コンサルタントです。

そのドラッカーが、1954年に世に出し、今なお、ドラッカーの著作の中で、古典的名著といえる優れた著作が、「現代の経営」です。

日本語翻訳版は、ダイヤモンド社より、上下の二分冊で出版されています。

今から、60年以上前に出版された本でありながら、今尚、世界で、優れた経営者のバイブルとして読まれ続け、経営コンサルタントを目指すヒトに、先生や先輩から最も読むことを勧められるのが、この「現代の経営」です。

2.「現代の経営」の中の組織論


「現代の経営」は、マネジメント論の書籍と考えられております。

その中の、「経営管理者のマネジメント」の内容の中に、マネジメントの対象としての組織に関する考察が登場します。

この部分が、ドラッカーの組織論と呼ばれる内容です。

今回のコラムでは、このドラッカーの組織論の部分を掘り下げて、アフターコロナ時代の組織の課題を考える素材にしたいと思います。


3.組織の機能を示す、3つの名言

ドラッカーの「現代の経営」の中に、ドラッカーの、あるべき組織に関する機能を示す、3つの言葉が引用されています。

まず、これを紹介してゆきましょう。

●アンドリュー・カーネギーの墓碑銘


最初は、アメリカの偉大な事業家、アンドリュー・カーネギーの墓碑に刻まれている名言です。

「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」


●アメリカの身体障害者雇用促進キャンペーンのスローガン


2つめは、キャンペーンスローガンからの引用です。

「重要なことは、できないことではなく、できることである。」


●ベヴァリッジ卿(ウィリアム・ベヴァリッジ)の言葉


最後は、イギリスの経済学者、ウィリアム・ヘンリー・ベヴァリッジの言葉です。

組織の目標とは、「凡人をして非凡なことをなさしめる」こと


4.今、新型コロナ禍の中で、我々は、組織の目標と機能を見失っていないか


2020年から世界を襲った新型コロナ禍は、世界の各国の経済に約2年間、大きな打撃を与えました。

その中で、日本は、感染者数や死亡者数が比較的少なかった反面、その政府や自治体の対応は、国民に「日本の国力の減退」を印象づける結果になりました。

政府の電子政府化の状態は、危機に対応して機能せず、対応は後手に回り、ワクチンや医薬の国内生産も行うことはできず、更に、先進国の経済的な復興に対しても、大きな後れをとりました。

多くの日本人は、これまで、
「日本という国は、なんだかんだ言っても、非常に優れたよい国だ。」
と漠然と思ってきた、その自信が、このコロナ禍で、大きく損なわれたのではないでしょうか。

一方、政府を批判する側の、国民の意識もまた、非常に硬直していたように感じます。

メディアや社会がいたずらに煽る、科学的に首をかしげざるをえない、怪しいコロナ対策についても、自分のアタマで考えようとせずに追随する姿勢が、あらゆるところで目立ちました。

コロナ禍の日本では、
「ほんとうに、それって、コロナ対策にとって、有効な手段なの?」
ということに、疑問符がつくことも、コロナ対策という名のもとに、他人に事実上強制したヒトや企業の姿勢も目立ちました。

そのような中で、密の回避を口実にした、組織の目的や機能の喪失を正当化するようなことも、非常に多かったのではないかと、僕は感じます。

ウイルス対策のための、マスクの着用や、コミュニケーションに物理的な距離をとること、ワクチンを接種することは、当然、科学的に重要なことでしょう。

加えて、テレワ-クによる仕事のイノベーションということも、コロナ禍のあるなしに関わらず、世界の潮流であったと感じます。

しかし、コロナ対策と、組織というものの目的や機能という問題は、どちらかを捨てていい問題ではなく、両立を図らなければならない問題です。

組織とは、優れた人材を育成し、その人材の優れた点を見出し、その人材の力を組織の目標に一致させて発揮させ、その結果、個々の業務の足し算では達成できない結果を生み出すものでなければなりません。

組織のメンバーの仕事ぶりを日常的に観ることができず、テレワークで繋がったときにだけ、コミュニケーションをとるという手法でチームをマネジメントする場合、個の評価は、業務の結果を定量的に評価することはできても、定性的に評価をすることは、マネジメントに非常に高い能力を要します。

まして、個人が抱え込む仕事上の課題や、精神的な負荷を感じ取って指導するには、超人的な感受性を、マネジメントは要求されるでしょう。

おそらく、通常の管理職経験者には、ほぼ、このようなことはできないでしょう。

そうなれば、組織を構成する個は分断され、個の活動と組織の目標は一致をきたさずに、仕事のベクトルは、ばらばらになります。

そして、組織の成果は、個の成果の足し算でしか、発揮されなくなってしまいます。

私たちは、今、アフターコロナ期に、もう一度、組織とは何だったのか、その目的と機能を発揮させるための仕事とは、どうあらねばならないかを、問い直してみる必要があるのではないかと、僕は思うのです。

続く

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