売上5000万円を超える社長は自分で作ろう! 法人概況説明書
1.仕入れの費用の把握は難しい
会社は、商品を仕入れ(又は製造し)、その商品を販売します。
そして、その仕入れにかかった費用(売上原価と言います)と、売上の差額が、粗利益となります(これを、会計の用語では、売上利益と呼びます)。
売上というのは、お客様が現金やクレジットカード、銀行振り込みで支払った金額の合計ですから、把握は容易です。
ところが、この仕入にかかった費用というものは、売上に比べて把握が難しいです。
例えば、骨董商のように、仕入れの価格が一品ごとに異なり、その仕入れた商品ごとに
売上の価格がつくような、仕入れと売り上げが対比されているような商売の場合、仕入れの費用の把握は容易です。
しかし、通常の商売では、品種ごとに仕入れ価格が異なる商品を、大量に仕入れます。
その商品の仕入れの時価も変動するかもしれません。
更に、年末に売れ残るものもでてきてしまいます。
そして、商品を保管している間に、紛失したり、腐ってしまったりしまうかもしれません。
このようなことから、仕入れの金額の把握というのは、売上に比べて、とても難しいのです。
今回のコラムは、その難しい、仕入れに関する話です。
2.仕入れ(売上原価)の把握の基本的な方法
では、仕入れは、どのように把握するのでしょうか?
まず初めに、その基本的な方法を説明します。
尚、仕入れの把握は、会計上、いくつかの方法がありますが、ここでは、最も基本的な、「三分法」という方法で話を進めます。
仕入れという仕訳の勘定項目で計算された数値は、決算で、売上原価という勘定科目に振り替えられ、財務諸表の中の、損益計算書に表示されます。
さて、次に掲載するのは、仕入れを把握する公式です。
仕入れ=期首繰越商品+期中仕入―期末棚卸商品
つまり、会計期間のはじめに、前年度の棚卸で把握して、そこで残っていた商品に、期中に仕入れた商品を加え、そこかから、期末に残った商品の棚卸をして差し引く、という計算をします。
つまり、これによって算出された「仕入れ」が、売れた商品の原価、つまり、売上に対する売上原価に一致するはずだ、ということです。
3.期末の棚卸後に、発生するロスや時価との乖離をどう処理する
しかしながら、販売の現場では、この「一致するはず」が、なかなか、一致しません。
帳簿上、仕入れた商品と売れた商品の記録(商品帳簿)があれば、その差し引きの結果が棚卸の結果に一致するはずなのですが、そんな風に理想的に棚卸が終わることは、まずありません。
実地棚卸の数値と、帳簿上の計算数値は、一致しないのが普通です。
帳簿よりも、実地棚卸高が少ない場合、これは、商品が破損したとか、捨てちゃったであるとか、紛失してしまったということになります。
このようなロスを、会計の勘定科目では、棚卸減耗と呼びます。
一方、商品はきちんとあるけれども、その商品の価値が、仕入れたときの価格(これを取得原価と呼びます)よりも、下落してしまったり、逆に値上がりしていたりすることもあります。
このようなことを、会計の勘定科目では、商品評価損益の勘定で把握します。
帳簿の価格と、実地棚卸の評価や商品残が異なる場合、棚卸減耗か、商品評価損益のどちらかで、その差額を計上します。
そして、棚卸減耗と、商品評価損益を、仕入れ勘定に含めて、売上原価で評価するかどうかは、企業が自社の基準によって決めることが認められています。
例えば、棚卸減耗と商品評価損を、ともに、すべて仕入れ勘定に含めてしまう方針をとれば、ロスは、売上原価に参入され、その結果、売上利益が圧縮されますので、その分、税引き前利益が圧縮されて、法人税(個人事業主の場合には、事業所得税)が圧縮されます。
一方、実地棚卸の際に、棚卸評価損を確認しなかった、あるいは、商品評価益が計上されれば、その分、売上原価が圧縮され、売上利益が膨らみ、利益率がアップして、法人税(個人事業主の場合には、事業所得税)が上昇します。
4.棚卸減耗と商品評価損の計上を適正に行わないと不良在庫になる
僕は、米国公認会計士(CPA)の資格を持っており、これまで、多くの企業の監査を監査法人の立場で行ってきました。
また、現在では、代表取締役を務める株式会社URVプランニングサポーターズで、M&Aアドバイザリー業務も行っています。
これらの業務の中では、株主総会に正確な企業情報をディスクローズしたり、投資企業に対して、企業の適正なバリュエーションを評価することが求められます。
その際、流動資産を構成する企業の棚卸資産が、簿価の通り、適切な価値を持っているかどうかの確認は、非常に重要な業務の一つです。
ところが、実際、棚卸資産を保管する倉庫に入ってみると、実際の棚卸資産が、簿価とかけ離れていると感じることがあります。そうすると、その原因を、徹底的に調査をするわけです。
この実態との乖離は、ほとんどの場合、毎年の実地棚卸を形式的に行い、棚卸減耗と商品評価損を適切に処理していなかったり、商品価値が下がった返品商品を、漫然と取得原価で評価を続けたり、ということが原因で起きています。
商品減耗と商品評価損の適否は、税務調査や債権者の銀行がそれを指摘することは殆どありません。
だからとって、ロスを、きちんと評価せず、その評価を怠ると、肝心なときに、大変なことになります。
経営を行う上で、この仕入れをどう把握するかは、利益(税務上の所得)を大きく左右し、その結果、法人税額に大きな影響を及ぼします。
これを、いい加減にしていると、せっかく頑張って出した利益が、大きく法人税によって、社外に流出してしまうこともありえます。
経営者が無関心ではいられないのが、この仕入れの把握です。
是非、気を付けてください。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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