性犯罪の量刑はどう決まるのか|量刑資料の読み方

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「不同意わいせつ 量刑」と検索すると、刑期の目安や執行猶予の割合を示す数字がいくつも出てきます。数字が並んでいると、それが自分の事件の見通しを表しているように見えます。

けれども、そこに出てくる数字は、どれも何らかの集計表から取り出されたものです。そして集計表には、どの範囲の事件を、どの区分で、いつの時点で数えたのかという注記が付いています。注記まで含めて読むと、同じ数字でも意味が変わってきます。

このコラムでは、性犯罪の量刑を語るときに参照されている資料そのものを取り上げ、それをどう読めばよいのかを整理します。刑期の目安や執行猶予の割合そのものではなく、その数字がどこから来ているのかを扱います。

「量刑が知りたい」と言われる場面

量刑についてのご相談は、次のような形で寄せられます。

・インターネットで見た刑期の目安が自分にも当てはまるのかを知りたい
・執行猶予の割合を見たが、その数字をどう受け止めればよいのか分からない
・報道された別の事件の刑期と、自分の事件を比べてよいのか迷っている
・家族から「相場はどのくらいか」と聞かれて答えられない
・複数のサイトで違う数字が書かれていて、どれを見ればよいのか分からない
・裁判所が何を見て刑を決めているのかを知りたい

いずれの場面でも、数字そのものより「その数字が何を数えたものなのか」が分かると、受け止め方が変わってきます。

刑の枠は条文で決まっている

出発点として、刑の幅は法律で定められています。不同意わいせつ罪(刑法176条)の法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めはありません。罰金刑がないため、起訴されるときは正式の裁判を求める形になります。

この幅の中で、減軽の規定が働くかどうか、執行猶予の要件を満たすかどうかによって、言い渡すことのできる刑の範囲はさらに動きます。その計算の仕組みは別のコラムで扱っているため、ここでは立ち入りません。ここで確認しておきたいのは、法定刑は「起こり得る刑の幅」であって、個々の事件で言い渡される刑の予測値ではないということです。

よく見かける「量刑資料」の種類

量刑について書かれた記事が根拠として挙げている資料は、おおむね次のいずれかです。作った主体も目的も異なるため、読むときに確かめる点も変わります。

資料だれが何のために作ったものか読むときに確かめる点
法務省の性犯罪の量刑に関する資料法改正の議論のために、最高裁判所のデータをもとに法務省が作成した会議の配布資料対象期間・罪名の分け方・注記の内容
犯罪白書の科刑状況の表その年の犯罪情勢と処遇の実情を報告するために毎年まとめられる白書の一部どの裁判、どの刑種に限った表なのか
量刑検索システムの量刑グラフ裁判員裁判で量刑を検討するために最高裁判所が整備したデータベース対象となる事件の範囲・絞り込みの条件
公表された個別の判決事件ごとに言い渡された判断そのもの同種の事件といえるか・公表された理由
報道された事件の刑期報道機関が伝えた個別の結果事情がどこまで伝えられているか


以下では、上の三つの資料について、読むときに手がかりになる点を順に見ていきます。

法務省の資料に付いている注記

性犯罪の刑期の分布としてよく引かれるのは、法務省が法改正の議論のために公表した「性犯罪の量刑に関する資料」です。最高裁判所から提供を受けたデータをもとに法務省刑事局が作成したもので、罪名ごとに、刑期の区分別の人員が並んでいます。

この表には注記が付いており、そこに読み方が書かれています。主なものは次のとおりです。

・数えているのは、全国の地方裁判所の通常第一審事件で有罪となった人員である
・罪名は処断罪、つまり最終的に刑を決める根拠となった罪で分類されている
・各罪名とも、既遂と未遂の区別はされていない
・準強制わいせつ罪の人員は、強制わいせつ罪の人員に含めて数えられている
・執行猶予が付いた人員は、括弧で囲んだ内数として表に組み込まれている
・直近の年は速報値である

つまり、同じ罪名の欄に、未遂の事件も、旧法の準強制わいせつの事件も混ざったまま数えられているということです。また、執行猶予の人員は独立した列ではなく内数として書かれているため、実刑の人数を知るには引き算が必要になります。

さらにこの資料は、平成17年と平成29年の法改正によって性犯罪の法定刑が変わったことを注記しています。法定刑が変われば、その前後の年をそのまま並べて比べることはできません。長い期間の推移が一枚の表に収まっていても、途中で区切りが入っているという読み方が要ります。

犯罪白書の表がどこで区切られているか

毎年公表される犯罪白書にも、科刑状況の表があります。ここで注意したいのは、表が何によって区切られているかです。

・有期の刑を言い渡された人員の表、罰金・科料の表、死刑・無期の表は、それぞれ別の表になっている
・対象は通常第一審、つまり最初に開かれた裁判での言渡しである
・罪名ごとの細かい内訳は、本編の表ではなく付属の資料に収められている
・交通事件や薬物事件など、別の表にまとめられている罪名がある

罰金刑の定めがない罪について有期の刑の表だけを見れば、そこに並ぶのは有罪となって刑期を言い渡された人だけです。表の中で割合を計算しても、それは「その表に載った人の中での割合」であって、同じ罪に問われた人全体の中での割合ではありません

なお、令和6年の言渡しを集計した表の見出しには「懲役・禁錮」という語が使われています。拘禁刑への一本化は令和7年6月からのため、それより前の言渡しは従前の刑の種類のまま記録されているからです。資料の表記が古く見えても、その年の言渡しをそのまま写しているという事情によります。

表に入っていない人がいる

量刑の表を読むときに見落とされやすいのが、そこに入っていない人の存在です。刑期の分布に登場するのは、起訴され、裁判を受け、有罪の言渡しを受けた人だけです。

・捜査を受けたが起訴されなかった人は入っていない
・罰金刑の定めがある罪で略式の手続によって終わった人は、有期刑の表には入っていない
・無罪となった人は入っていない
・第一審の言渡しを集計しているため、その後の手続で刑が変わった場合の結果は反映されていない

そのため、表の中で執行猶予の割合が高く見えたとしても、それは「有罪判決を受けた人のうち」という限定の付いた割合です。逆に、ある刑期の人数が少なく見えたとしても、そこから自分の事件の見込みを引き出すことはできません。集計の割合は、母集団の切り方によって姿を変えます

裁判所が使う資料は別にある

ここまで挙げた資料は、いずれも外部に公表された統計です。これに対して、法廷で量刑を検討するときに使われる資料は別に存在します。最高裁判所が整備している量刑検索システムです。

判決を言い渡した裁判官が、事件の概要や犯行の態様など複数の項目を入力しており、そこから同種の事件の刑の分布をグラフの形で表示することができます。評議の場で裁判官が裁判員に示すほか、検察官や弁護人が法廷で用いることもあります。一般には公開されていません。

ここで押さえておきたいのは、このシステムが対象としているのが裁判員裁判の対象事件だという点です。不同意わいせつ罪は裁判員裁判の対象ではないため、この量刑グラフが法廷に出てくる場面は通常ありません。一方、けがの結果が加わって不同意わいせつ致傷罪として扱われる場合は、法定刑に無期の刑が含まれることから裁判員裁判の対象となり、参照される資料も変わります。罪名が動くと、比べられる相手も変わるということです。

もう一点、量刑グラフは罪名だけで出てくるものではありません。動機や犯行の態様といった条件を入力して絞り込んだうえで表示するため、どの条件で絞ったかによって、出てくる件数もグラフの形も変わります。同じシステムから作られたグラフでも、条件が違えば別のものになります。

数字を見たときに確かめたいこと

以上を踏まえると、量刑について書かれた数字に出会ったときに確かめたい点は、次のように整理できます。

確かめる点なぜ確かめるのか
いつの言渡しを集計したものか法改正の前後で法定刑が変わっていることがあるため
どの罪名で数えているか旧罪名や未遂を含んだ数え方をしていることがあるため
どの裁判の段階を数えているか第一審に限った集計であることが多いため
どの刑種を含む表か罰金や無期の言渡しが別表に分かれていることがあるため
執行猶予がどう表記されているか独立した列ではなく内数として書かれていることがあるため
出典が示されているか引用が重なる過程で条件が落ちていることがあるため


判決から読み取れること、読み取れないこと

個別の判決を読めば、その事件でどのような事情が重く見られたのかが分かることがあります。ただし、判決書に量刑の理由を書くことは、法律上求められている記載事項には含まれていません。理由が具体的に述べられる判決もあれば、結論だけが示される判決もあります。

また、判例集や判例データベースに収録される裁判例は、法律上の争点があるなどの理由で選ばれたものが中心です。争いのない事件の判決までが網羅的に公表されているわけではありません。公表されている裁判例を集めても、量刑の全体像がそのまま現れるとは限りません

報道された事件の刑期についても同じことがいえます。報道は結果を伝えますが、被害の回復がされているか、前に処分を受けたことがあるかといった、量刑に関わる事情のすべてが記事に書かれるわけではありません。刑期だけを取り出して自分の事件と並べることには無理があります。

「相場」と「量刑の傾向」

インターネット上では「量刑相場」という言い方がよく使われますが、これは法律上の用語ではありません。裁判の場で語られるのは「量刑の傾向」という言葉です。最高裁判所の判例にも、これまでの量刑の傾向から踏み出した判断をするには具体的で説得的な根拠が求められる、という趣旨の判示があります。

傾向は、同じような事件が同じように扱われるための目安として意識されるものです。ただし、目安があることと、個々の事件の刑が計算で導けることは別の話です。量刑資料は、答えを教えてくれるものではなく、比べ方の枠組みを示すものと受け止めるほうが、実際の扱われ方に近いといえます。

なお、量刑を考えるにあたっては、犯行そのものに関わる事情と、その後に生じた事情とが区別して扱われています。この区別の詳細も別のコラムで扱っています。

自分の事件について確かめられること

統計の数字からは分からなくても、自分の事件について確かめられることはあります。弁護士に相談する際には、次のような点を尋ねることができます。

・どの罪名で捜査され、あるいは起訴されているのか
・その罪名の法定刑の幅はどうなっているのか
・減軽の規定が問題になる余地があるのか
・起訴するかどうかがまだ決まっていない段階なのか
・同種の事件で争点になりやすい事情は何か
・いまの段階で記録に残しておいたほうがよい事情はあるか

いずれも、集計表からは出てこない情報です。

相談の前に整理しておくと役立つこと

限られた時間で見通しを聞くためには、手元の事実を整理しておくと役立ちます。

・いつ、どこで、どのような経過だったのかを時系列で書き出す
・警察や検察から受け取った書面の名称と日付を控えておく
・相手方やその代理人から連絡がある場合は、内容と時期を記録しておく
・前に刑事上の処分を受けたことがあるかどうかを確認しておく
・仕事や家族の状況で説明が必要になりそうなことを書き出す

まとめ

・不同意わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めはない
・量刑について語られる数字は、いずれかの集計表から取り出された一部分である
・法務省の資料は処断罪で分類され、既遂と未遂の区別がなく、旧罪名を含む数え方をしている
・執行猶予が付いた人員は、内数として表記されていることがある
・犯罪白書の科刑状況は、刑種と裁判の段階によって表が分かれている
・起訴されなかった人や無罪となった人は、刑期の分布には登場しない
・法廷で参照される量刑検索システムは裁判員裁判の対象事件のものであり、不同意わいせつ罪では通常出てこない
・判決書に量刑の理由を書くことは、法律上の必要的な記載事項とはされていない
・量刑資料は答えそのものではなく、比べ方の枠組みを示すものである

当事務所では、刑事事件についてのご相談を受け付けています。手元にある書面や捜査の進み方に応じて、いま何が問題になっているのか、どの点が確かめられるのかを整理してお伝えします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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