発達障害・知的障害がある場合|量刑と社会復帰の設計

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

発達障害や知的障害のある方が刑事事件の当事者になったとき、ご本人やご家族から寄せられる質問は、多くの場合「障害があることを伝えれば刑は軽くなるのか」という形をとります。

 結論から申し上げると、障害があること自体が刑を決める要素になるわけではありません。裁判で見られているのは、障害という事実そのものではなく、その特性が今回の行為にどう関わったのか、そしてこれから同じことが起きない見通しが具体的にあるのか、という二つの点です。

 しかも、伝え方によっては同じ事情が不利な方向に読まれることがあります。この記事では、量刑の場面で何が見られているのかを整理したうえで、判決の前後で使える社会復帰の仕組みを、始まり方の違いに沿ってご説明します。

この記事で扱うこと


  • 障害に関する事情が、責任能力ではなく量刑の側で問題になりやすい理由。
  • 同じ事情が有利にも不利にも読まれる場面と、その分かれ目。
  • 更生支援計画という書面が何であり、診断書とどう違うのか。
  • 判決の前に動く仕組みと、実刑になった後に動く仕組みの違い。


「障害があると刑が軽くなるのか」という問いの立て方

 刑法は、心神喪失の状態にあった行為は罰しない、心神耗弱の状態にあった行為は刑を減軽すると定めています。ただ、この規定で結論が動く事件はそれほど多くありません。知的な遅れを伴わない発達障害の場合、物事の善悪を判断する力そのものが失われていたと認められる例は限られており、争点は量刑と手続上の配慮の側に移ります。

 なお、捜査段階では、供述が本人の理解と合っているかという別の問題が生じます。取調べでの受け答えについては、当事務所の別の記事で扱っています。

量刑で見られているのは診断名ではない

 刑の重さの大枠は、何をしたか、どのような結果が生じたか、どういう経緯だったかという行為そのものの側で決まります。障害に関する事情は、その枠の中でどう位置づけられるかという形で扱われます。

 そこで実際に見られているのは、診断名ではなく、同じことが起きない見通しが具体的にあるかどうかです。誰が、いつ、どこまで関わるのかが定まっていない状態では、判断する側は見通しを立てられません。

障害を事件の原因だと説明しすぎると別の問題が生じる

 障害があることと事件を起こすことは、一対一で結びつくものではありません。それにもかかわらず「障害があるから事件が起きた」という説明を前面に出すと、「その障害は変わらないのだから、また同じことが起きる」という読み方を招くことがあります。障害そのものを原因として語るのではなく、生活のどこにつまずきがあり、そこをどう埋めるのかという形で説明していくことになります。

同じ事情が逆向きに読まれることがある


弁護側が示そうとすること裁判所が確かめようとすること示し方が足りないときに生じるずれ
事件の背景に障害の特性があったその特性が今回の行為にどう働いたか特性の説明にとどまり、行為との結びつきが見えない
反省している反省が言葉や態度にどう表れているか気持ちを言葉にしにくい特性が、反省していないと受け取られる
支援を受ければ繰り返さない誰がいつどこまで関わるのか支援の話が抽象的だと、支えがなければ繰り返すと読まれる
家族が見守る具体的に何をどこまで担えるか同居が難しい事情だけが残り、帰る場所がないと受け取られる


 三行目と四行目は特に注意が必要な部分です。支援の必要性を強調すること自体が、支援がなければ危ういという評価につながる構造になっているためです。だからこそ、必要性を述べるだけでなく、その必要を満たす相手と中身をそろえて示すことになります。

受け皿がないことを刑の重い方向の理由に挙げた例もある

 過去には、第一審が、社会の中に本人の障害に対応できる受け皿が用意されていないことなどを理由に、検察官の求刑を上回る刑を言い渡した事例があります。この判決については、控訴審である大阪高裁の平成25年2月26日判決が、障害の影響の評価を誤っているとして第一審の判断を破棄し、刑期を大きく見直しました。障害を理由に刑を重くすることには批判が寄せられ、弁護士会からも意見が出されています。

 この経緯が示しているのは、障害に関する事情は、置かれ方によって向きが変わり得るということです。

更生支援計画とは何か

 更生支援計画は、社会福祉士や精神保健福祉士といった福祉の専門職が、本人や家族、これまで関わってきた支援者から話を聞いたうえで作成する書面です。事件と特性の関係についての見立て、生活上どこに困りごとがあるのか、これから利用できる制度、そして誰が何を担うのかが書かれます。

診断書や鑑定書とは役割が違う

 診断書は医学的な状態を示すもの、鑑定は責任能力などの判断材料になるもの、更生支援計画はこれからの生活の組み立てを示すものです。示している対象が違うため、どれかがどれかの代わりになるものではありません。診断書を出せば生活の見通しまで伝わる、というものではない点は押さえておきたいところです。

計画を作るには人手と時間がかかる

 更生支援計画は弁護士だけで作れるものではなく、福祉の専門職に関わってもらう必要があります。弁護士会によっては、社会福祉士会や精神保健福祉士協会との連携の窓口を設け、専門職に依頼した費用の一部を援助する制度を用意しているところがあります。こうした制度は国選弁護の事件でも利用できる場合があります。

 また、障害があること、あるいはその疑いがあることは、早い段階で伝えておく意味があります。当番弁護士を要請する際に伝えておくと、対応できる弁護士の派遣につながる仕組みを持つ弁護士会もあります。この要請は家族や支援者からも行えます。

手帳や診断がないまま手続が進むことがある

 障害者手帳を持っていないまま刑事手続に入る方は少なくありません。国の調査でも、知的障害があると思われる受刑者のうち療育手帳を持っている人はごく一部にとどまることが指摘されてきました。

 手帳の有無は、支援を受けられるかどうかを決める条件ではありません。後述する仕組みでも、要件とされているのは障害があると認められることであって、手帳を持っていることではありません。もっとも、手帳や年金の手続には判定や審査が入るため、思い立ってすぐに整うものではないという時間の問題は残ります。東京都の場合、知的障害の手帳は愛の手帳という名称で運用されています。

生活の側で決めておくこと

 計画の中身を具体化していくときは、次の点を誰が担うのかまで詰めていくことになります。

  • 住まいをどこにするか。家族と同居するのか、グループホームなどを利用するのか。
  • 日中どこで過ごすのか。就労支援や通所の場をどう確保するか。
  • お金の管理を誰がどう支えるか。
  • 通院や相談の窓口をどこにするか。


 このうち住まいは、手続の見通しにも支援制度の適用にも関わってくるため、早めにはっきりさせておきたい部分です。

判決の後にも制度は続いている

 福祉につなぐ仕組みは、判決が出たら終わるものではありません。手続の途中で動くものと、実刑になった後に動くものが、それぞれ別に用意されています。

比べる点手続の途中で動く仕組み刑事施設から出るときに動く仕組み
対象になる場面逮捕・勾留中や在宅で手続が進んでいる段階、釈放された直後の段階実刑となり刑事施設に入っている段階
始まり方本人の希望を前提に、弁護人や検察庁からの相談を受けて動く施設が候補者を選び、保護観察所が対象者を決める
主に関わるところ地域生活定着支援センター、保護観察所、検察庁、弁護人刑事施設、保護観察所、地域生活定着支援センター
見落とされやすい条件本人の同意がないと機関の間で情報のやり取りが進まない出所後の適切な住居がないことが要件に含まれる


帰る場所がある場合は対象から外れることがある

 右側の仕組みは特別調整と呼ばれ、高齢であることまたは障害があると認められること、出所後に適切な住居がないこと、福祉サービスを受ける必要があると認められること、本人が希望していること、情報提供に同意していることなどが要件とされています。家族のもとに帰る予定がある場合には、この枠から外れることがあります。その場合でも、地域の相談窓口を通じて福祉につながる道は残されています。

刑事施設の中でも準備は始まる

 刑事施設には社会福祉士などの職員が配置され、出所後の福祉サービスの利用に向けた調整が行われています。高齢の方や障害のある方を対象に、生活に必要な知識や各種制度の基礎を学ぶ指導のプログラムも設けられています。ただし、これらは本人が支援を望まないまま出所してしまう例が課題とされてきた分野でもあり、本人の意向が起点になる点は変わりません。

保護観察が付くかどうかで続き方が変わる

 保護観察が付いた場合は、保護観察所が関わる形で生活の立て直しが進みます。付かなかった場合や罰金・不起訴で終わった場合は、この枠の外に出るため、地域の相談窓口や福祉の窓口を自分たちで押さえておく必要があります。受け皿の探し方については、当事務所の別の記事でも扱っています。

家族ができること

 制度はいずれも本人の希望と同意を起点にしているため、家族が代わりに決められる部分は限られています。その一方で、家族にしか出せない情報があります。

 特に大切なのは、同居できるのか、できないのかを早い段階ではっきりさせることです。難しい事情を伏せたまま計画を組むと、後から前提が崩れ、結果として本人に不利に働きます。難しいのであれば、その前提で別の住まいを探した方が、後戻りが少なくて済みます。

誤解されやすい点


  • 障害があることを伝えれば刑が軽くなる、という関係にはなっていません。
  • 診断書があれば、これからの生活の見通しまで伝わるわけではありません。
  • 手帳がなければ支援を受けられない、というわけではありません。
  • 福祉につなぐ仕組みは、本人の希望と同意がなければ動き始めません。
  • 判決が出た時点で支援の話が終わるわけではありません。


まとめ


  • 責任能力で結論が動く事件は限られており、障害に関する事情は量刑の側で問題になることが多くなります。
  • 量刑で見られているのは診断名ではなく、同じことが起きない見通しが具体的にあるかどうかです。
  • 支援の必要性を述べるだけでは、支えがなければ繰り返すという読み方を招くことがあります。
  • 更生支援計画は福祉の専門職が作る書面で、診断書とは役割が異なります。作成には人手と時間がかかります。
  • 判決の前に動く仕組みと、実刑になった後に動く仕組みは別に用意されており、いずれも本人の希望と同意が起点になります。


障害のある方の刑事事件でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋と新橋の2拠点で刑事事件のご相談をお受けしています。ご本人が説明を受け止めきれない、何をどう伝えればよいか分からないという段階でも構いません。ご家族からのご相談にも対応しております。初回のご相談は無料で、お問い合わせは24時間受け付けています。身体を拘束されている場合の接見も、状況に応じて即日で対応いたします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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