【不貞慰謝料】過大な請求はどこから恐喝になるのか
本記事は2026年9月時点の法令にもとづいて解説しています。成年後見制度については、後見・保佐・補助の区分などを見直す民法等の改正法(令和8年法律第45号)が2026年6月に成立しており、公布から2年6か月以内に施行される予定です。施行後は、本記事の説明の一部が変わることがあります。
親の預金が思っていたより減っている。話を聞くと、交際相手にお金を渡しているらしい。高齢の親にこうした様子が見えると、家族としては「だまされているのではないか」「このままでは生活が立ち行かなくなるのではないか」と心配になるものです。
一方で、親のお金は親の財産であり、誰とどのように付き合い、何にお金を使うかは、原則として親自身が決めることです。家族が「やめさせたい」と思っても、使える手段は思いのほか限られています。
ただし、相手の言葉にだまされている場合や、判断する力が衰えている場合、身の回りの世話を通じて相手が財産を握っている場合には、法律や公的な制度を使う余地があります。本記事では、家族が直接できることと、状況によって使える制度とを分けて整理します。
前提|親のお金の使い道を決めるのは親自身
子は将来の相続人になりうる立場にありますが、親が生きている間は、親の財産について権利を持っているわけではありません。交際相手に渡したお金は多くの場合「贈与」にあたり、書面によらない贈与であっても、渡し終えた分は後から解除できないのが民法の原則です。「相手が気に入らない」「もったいない」という理由だけで、家族が取り戻すことはできません。
また、成年後見制度も、お金の使いすぎそのものを理由に使える制度ではありません。かつての準禁治産の制度は浪費者も対象にしていましたが、2000年に始まった現在の制度では、本人の自己決定を尊重する観点から浪費者は対象から外されました。制度の前提は、精神上の障害によって判断する力が低下していることです。
家族がまず見極めたいのは、「使い道に賛成できない」という問題なのか、「本人の判断そのものが揺らいでいる」「だまされている」という問題なのかという点です。前者であれば家族にできるのは主に話し合いと見守りで、後者であれば次に述べる手段が検討の対象になります。
状況によって使える手段が変わる
交際相手にお金を渡している場面は、おおむね次の四つに分けると整理しやすくなります。複数の場面が重なり合うこともあります。
| 場面 | よく見られる様子 | 主に検討する手段 |
|---|---|---|
| 会ったことのない相手に送金している | 会えない理由が続く、投資や手数料の話が出る | 警察や金融機関への相談 |
| 実在の交際相手に、本人の判断で渡している | 本人が金額や理由を理解している | 本人との話し合い、記録の整理 |
| 判断する力の低下がうかがわれる | 同じ話を繰り返す、渡した額を覚えていない | 受診、成年後見制度の利用 |
| 同居して世話をする相手が管理している | 通帳やカードを相手が持ち、本人が自由に使えない | 市区町村や地域包括支援センターへの相談 |
会ったことのない相手なら、詐欺の可能性から考える
SNSやマッチングアプリで知り合い、一度も会わないまま送金を重ねている場合は、ロマンス詐欺の可能性を念頭に置く必要があります。警察庁の統計では、令和7年のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は5,645件、被害額は約546億円にのぼります。
この場面では、振込先の口座名や日時、やり取りの画面など、送金の記録を本人と一緒に残したうえで、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署、振込先の金融機関に早めに連絡することが考えられます。口座の利用停止などの措置がとられることがありますが、時間がたつほど残高が移されてしまうおそれがあります。
もっとも、本人は相手を信じていることが多く、家族が頭ごなしに否定すると、かえって隠れて送金を続けることがあります。警察や金融機関の担当者から説明を聞いてもらうのも一つの方法です。なお、海外や暗号資産に流れたお金は取り戻すのが難しいことが多く、「必ず取り戻せる」とうたう業者に急いで費用を払うと、二次被害につながるおそれがあります。
実在の交際相手に、本人の判断で渡している場合
本人が相手のことを理解したうえで自分の判断で渡している場合、家族が法的に止められる場面は多くありません。仮に返してほしいお金があるとしても、返還を求める権利を持つのは親本人であり、子が自分の名前で相手に請求することはできません。
渡したお金の名目を確かめる
「あげた」のか「貸した」のかで、法的な扱いは大きく変わります。貸したのであれば、親は返還を求めることができます。また、「結婚する」「事業が軌道に乗ったら返す」といった言葉を信じて渡し、その言葉が最初からうそだったのであれば、詐欺による取消しや損害賠償を検討する余地があります。ただ、当初は本気で後から気持ちが変わった場合は詐欺とはいいにくく、経過や記録が重要になります。
家族が担える役割
家族が担えるのは、本人が自分で判断し、必要なときに動けるよう支えることです。
- 渡した日付・金額・名目を、本人と一緒に書き出して残します。
- 生活費や医療・介護の費用が今後も足りるかを、家計の面から一緒に確認します。
- 相手を責めるのではなく、「生活が心配だ」という家族の気持ちとして伝えます。
- 本人が望めば、本人が弁護士に相談する場に家族も同席します。
判断する力の低下がうかがわれる場合
お金を渡した時点で、本人が自分の行為の意味を理解できない状態(意思能力を欠く状態)にあったのであれば、その贈与は無効とされ、渡したお金の返還を求める根拠になります。ただし、意思能力の有無は、診断名だけでなく、当時の会話や金銭管理の様子なども踏まえて判断されます。医療記録があっても贈与が有効とされることはあります。気になる様子があれば、早めに受診を促し、日々の様子を記録しておくことが大切です。
成年後見制度で、これからの贈与をどこまで止められるか
判断する力の低下が見られる場合、四親等内の親族は家庭裁判所に後見・保佐・補助の開始を申し立てることができます。交際相手への贈与がどう扱われるかは、類型によって異なります。
| 類型 | 判断する力の程度 | 交際相手への贈与の扱い |
|---|---|---|
| 後見 | 欠く状態が常にある | 本人がした贈与は後見人が取り消せる(日用品の購入など日常生活に関する行為を除く) |
| 保佐 | 著しく不十分 | 贈与や借金・保証には保佐人の同意が必要で、同意のないものは取り消せる |
| 補助 | 不十分 | 家庭裁判所が同意を要する行為として贈与を指定した場合に限り、取り消せる |
注意したいのは、取消しの対象になるのは開始の審判の後にした行為であるという点です。それまでに渡したお金は、先に述べた意思能力の問題として別に検討することになります。制度は、過去の分を取り戻す道具というより、これからの流出を防ぐための仕組みといえます。
また、補助は本人以外が申し立てる場合に本人の同意が必要で、交際を否定されたと感じた本人が同意しないこともあります。後見人等に専門職が選ばれた場合、その報酬は本人の財産から支払われます。なお、本人の判断する力が保たれているうちであれば、本人が信頼できる人と任意後見契約を結んでおく方法もありますが、これも本人の意思で結ぶ契約です。
同居して世話をしている相手なら、市区町村への相談も選択肢に
交際相手が同居して身の回りの世話をしている場合、その相手は高齢者虐待防止法の「養護者」に当たることがあります。同法は、65歳以上の高齢者について、養護者や親族が本人の財産を不当に処分したり、本人から不当に財産上の利益を得たりすることを高齢者虐待の一つとしています(いわゆる経済的虐待)。虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた人は市区町村に通報するよう求められており、通報した人を特定させる情報を職員が漏らすことは禁じられています。
世話をしていない交際相手であっても、同法は、親族や養護者以外の人が不当な利益を得る目的で高齢者と行う取引による被害について、市区町村が相談に応じて関係機関を紹介することや、必要に応じて市区町村長が後見等の開始を申し立てることを定めています。交際相手への送金がこれに当たるかは事情によりますが、家族が申立てをためらう場合も含め、市区町村の高齢者福祉の担当窓口や地域包括支援センターは相談の入口になります。
なお、本人の同意なくカードでお金を引き出しているような場合は、交際相手であっても犯罪に当たることがあり、警察への相談も検討されます。
親が亡くなった後、相続人として取れる手段
生前は子に請求する権利はありませんが、親が亡くなると、相続人は親が持っていた返還請求の権利(貸したお金の返還、無効な贈与の返還、損害賠償など)を引き継ぎます。ただし、これらの権利には時効があり、親が事情を知った時期などによっては、すでに期限が迫っていることもあります。
また、遺言や生前の贈与で相続人の最低限の取り分(遺留分)が侵害された場合は、遺留分侵害額請求を検討します。相続人でない人への贈与は、原則として亡くなる前の1年間にされたものに限って計算に含まれ、渡した側と受け取った側の双方が遺留分を侵害すると知っていた場合には、それより前の贈与も含まれます。この請求は、相続の開始と侵害する贈与などがあったことを知った時から1年以内に行う必要があります。
家族が避けたい対応
心配のあまり取った行動が、かえって状況を難しくすることがあります。
- 本人に無断で通帳やカードを取り上げると、家族のほうが本人の財産を不当に扱ったと受け取られるおそれがあります。
- 交際相手の勤務先や知人に事情を広めると、名誉毀損など別の問題を生むことがあります。
- 本人の前で相手を強く非難すると、本人が家族に隠れて送金を続けるようになることがあります。
- 本人の意思を確かめないまま相手と返金の約束を交わしても、その効力に疑問が残ります。
よくあるご質問
親の口座からの引き出しを、家族の申出で止めてもらえますか
口座は本人名義の財産であるため、家族の申出だけで取引を止めることは原則としてできません。ただし、詐欺が疑われる振込では金融機関が声かけや確認を行うことがあり、心配な事情を伝えておく意味はあります。本人の判断する力が低下している場合に家族が代わりにできる手続も、金融機関ごとの判断で限られた範囲にとどまるのが一般的です。
交際相手に「もう会わないでほしい」と求めることはできますか
本人の交際そのものを禁じる法的な手段は、原則としてありません。家族として気持ちを伝えることはできますが、相手が応じる義務はありません。相手が本人を脅している、本人が断っているのにつきまとっているといった事情があれば、警察への相談を検討します。
親が交際相手と結婚すると言い出したらどうなりますか
結婚するかどうかは本人が決めることです。婚姻届が出されれば、相手は配偶者として相続人になります。届出の時点で本人に婚姻する意思や判断する力がなかった場合には婚姻の無効が問題になりますが、認められる場面は限られます。
まとめ
- 親のお金の使い道は原則として親自身が決めることであり、家族が直接取り戻せる場面は限られます。
- 会ったことのない相手への送金は、詐欺の可能性を考えて早めに警察や金融機関に相談します。
- 成年後見制度は判断する力の低下が前提で、交際相手への贈与を取り消せるのは開始後の行為に限られます。
- 同居して世話をする相手が財産を握っている場合は、市区町村や地域包括支援センターへの相談も選択肢になります。
- 親が亡くなった後は、相続人として返還請求の権利を引き継ぎ、遺留分の請求を検討できることがあります。
ご家族からのご相談について
交際相手にお金の返還を求める権利は親御さんご本人にあるため、交渉などの実際の対応ではご本人のご意思が前提になります。それでも、ご家族だけのご相談で、今の状況でどの手段が使えそうか、何を記録しておくべきかを整理することはできます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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