【不貞慰謝料】既婚と知らなかった|故意・過失が否定される場合
配偶者の不貞が疑われる場面では、手元にある記録をどう扱えばよいのか決めきれないまま、時間だけが過ぎていくことがあります。よくうかがうのが、「相手に無断で手に入れたものだから、裁判に出しても意味がないのではないか」という不安です。テレビドラマなどの影響で、違法に集めた証拠は裁判では使えないという理解が広まっていますが、民事裁判の扱いは刑事裁判とは異なります。この記事では、不貞慰謝料をめぐる民事の場面を想定し、「排除される」という言葉が実際には何を指しているのか、どの段階で何が判断されるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方から整理します。
「排除される」という言葉が指しているもの
手元の記録は、集めた時点から判決までの間に、いくつかの段階を通ります。「使えない」と言われるとき、その言葉がどの段階を指しているのかで、意味は大きく変わります。
| 段階 | そこで起きること | 「使えない」の中身 |
|---|---|---|
| 出す前 | 提出するかどうかを自分で決める | 自分の判断で出さない |
| 証拠の申出 | 裁判所が取り調べるかどうかを決める | 申出が却下される(いわゆる排除) |
| 取り調べた後 | 裁判官がどれだけ重く受け止めるかを判断する | 取り調べられたが決め手にならない |
| 判決の別の部分 | 集め方そのものの当否が判断される | 証拠としては残るが責任を問われる |
排除が問題になるのは二つ目の段階
「違法収集証拠として排除される」という言い方は、このうち二つ目の段階、つまり裁判所がその証拠を取り調べないと判断する場面を指しています。ご相談の場では、この段階の話と、三つ目・四つ目の段階の話が混ざったまま「使えるのか」と問われることが少なくありません。実際には、二つ目の段階を通過しても三つ目で評価が下がることがありますし、四つ目で別の責任が生じることもあります。
民事と刑事では前提が違う
刑事裁判では、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法な捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合に、その証拠能力を否定するという考え方が示されています。ここで想定されているのは、強い権限を持つ捜査機関の行為であり、排除には違法な捜査を抑えるという意味があります。これに対して民事裁判は、私人どうしの争いについて、どちらの言い分が事実に合っているかを判断する手続です。前提が異なるため、刑事のルールがそのまま持ち込まれているわけではありません。
民事裁判に、証拠能力を制限する一般の規定はない
民事訴訟法には、どのような証拠であれば取り調べてよいかを一般的に定めた規定が置かれていません。提出された証拠をどう評価するかは裁判官の判断に委ねられており(自由心証主義。民事訴訟法247条)、集め方に問題があるという理由だけで取り調べの対象から外れるわけではない、というのが出発点になります。
例外として使われてきた二つの言い方
もっとも、どのような手段で集めたものでも構わないという意味ではありません。裁判例では、例外を示す言い方として、次の二つが用いられてきました。
一つは、著しく反社会的な手段を用い、人の精神的・肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって集められた場合には、その証拠能力も否定されるという整理です(東京高等裁判所昭和52年7月15日判決)。もう一つは、その証拠を訴訟で用いることが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反する場合に限って証拠能力が否定されるという整理で、近年の下級審の判断ではこちらの言い回しがよく使われています。
いずれも、例外にあたる範囲を厳しく絞る表現である点は共通しています。裁判所が実際に取り調べを拒む例は、多いとはいえないのが実情です。
何が見られているのか|三つの物差し
裁判例を並べていくと、判断の材料はおおむね次の三つに整理できます。録音、撮影、位置情報といった手段の名前そのもので結論が決まっているわけではない、という点が大切です。
| 物差し | 重く受け止められやすい方向 | 軽く受け止められやすい方向 |
|---|---|---|
| 手に入れる過程の態様 | 暴行や脅迫を伴う、住まいに立ち入る、機器を長期間仕掛け続ける | 目の前にある画面を開く、自分も加わっている会話を録る |
| 侵害された利益の中身 | やり取りの中身そのもの、私的な空間、無関係な第三者の情報まで含む | 人目のある場所での行動、自分にも関わりのある記録 |
| その裁判での必要性 | 同じ事実を示す材料がほかにない | 同じことを示す材料が別にそろっている |
目的が正当でも、手段は別に見られる
不貞があったかどうかを確かめたいという目的自体は、正当なものとして受け止められることが多いといえます。ただし、目的が正当であることと、その手段まで正当と評価されることは、別に扱われます。目的を説明すれば手段の問題が消えるわけではないという点は、請求する側にとって見落としやすいところです。
犯罪に当たるかどうかとは直結しない
犯罪になる方法で手に入れたものは排除される、と考えられがちですが、裁判例の傾向はもう少し複雑です。下級審の裁判例には、相手方から携帯電話を取り上げようとする際に暴行を加えて取得したデータについて、その暴行が民事上の責任を生じさせることとは別の問題であるとして、証拠能力までは否定しなかったものがあります。逆に、刑罰の対象になるとまではいえない取得方法について、証拠から排除すべきだと判断した例もあります。犯罪に当たるかどうかは違法性の程度を測る手がかりの一つではありますが、そのまま結論に結びつくものではありません。
実際に排除された例には何があったのか
数は多くありませんが、証拠として取り調べないと判断された例は存在します。不貞をめぐる場面で知られているものを二つ挙げます。
別居後に元の住まいから持ち出した書面
夫が陳述書の原稿として書いていたノートを、別居後に元の住まいへ入った妻が本人の知らない間に持ち出し、不貞相手に渡して裁判所に提出したという事案があります。裁判所は、その文書の密行性という性質と入手の方法において、書証として提出することに強い反社会性があり、訴訟上の信義誠実の原則に反するとして、証拠の申出を却下しました(東京地方裁判所平成10年5月29日判決)。
面会交流の機会に取り出したメール
別居後、子との面会交流の際に子が持ってきていた相手方の携帯電話を操作し、そこにあったメールのデータを自分のパソコンに複製して提出したという事案では、そのメールは正当な理由なく第三者が入手したり利用したりできる性質のものではないとして、違法収集証拠にあたり証拠から排除すべきだと判断されています。もっとも、この判断については、裁判例の一般的な傾向よりも緩やかな基準で排除を認めたものと評されており、同じ理屈が広く通用すると考えることは難しいとされています。
二つの例に共通していること
この二つの事案には、重なり合う要素があります。
- 同居が終わったあとの時点で行われていること。
- 本来その人以外は目にしないことが前提の中身であること。
- 住まいへの立入りや他人の端末の操作と複製など、日常生活の延長では説明しにくい行為が入っていること。
裏を返せば、同居している住まいで目に入った画面を確認したという程度の事情は、これらの例とは距離があります。排除された例があるという事実だけを取り出して、無断で得た記録は一律に使えないと考えると、実際の扱いとはずれてしまいます。
排除されないことと、集め方に問題がなかったことは別
判決文では、その証拠を取り調べるかどうかという判断と、集め方が違法かどうかという判断が、別々に書かれます。取り調べられたからといって、集め方が適法だと認められたわけではありません。
同じ判決の中で責任が認められることがある
先に触れた暴行を伴う取得の事案では、証拠能力は否定されなかった一方で、その暴行については慰謝料の請求が認められています。証拠として手続に残ったとしても、集める過程で相手の権利を侵害していれば、その点は別に評価されるということです。請求する側にとっては、有利な材料を得ることと、新たな争点を自分から作ってしまうことが、同時に起こり得ます。
取り調べられることと、重く受け止められることも別
取り調べられた証拠が、そのまま判決の決め手になるとは限りません。証拠能力を認めながら、集めた経緯や方法を踏まえて、記載や録音のとおりの事実までは認定しなかった裁判例もあります。「排除されなかった」ということと「主張が通った」ということは、別の段階の話です。
請求を受けた側から見たとき|排除を求めるとは何をすることか
相手方から、自分の端末の中身や生活の記録が提出されたとき、まず浮かぶのは「こんな取り方をしたものが認められるのか」という思いだと思います。ここは、気持ちの問題としてではなく、手続の問題として組み立てていく必要があります。
どこで述べることになるのか
証拠の取扱いについての言い分は、提出された書証に対する意見や、準備書面の中で述べていくことになります。裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは取り調べることを要しないとされていますが(民事訴訟法181条1項)、これは証拠調べの必要性についての規定であり、違法に集められたことを理由とする排除とは別の話です。排除を求めるのであれば、収集の経緯を具体的に示したうえで、その証拠を訴訟で用いることが信義則に反すると述べていくことになります。
「違法だ」とだけ述べても届きにくい
違法であるという評価だけを述べても、判断の材料になりにくいのが実際のところです。先に挙げた三つの物差しに沿って、いつ、どこで、どのような行為によって手に入れられたのか、それによって何が侵害されたのかを、順を追って主張していくことになります。不貞と関係のない第三者とのやり取りまで含まれている場合には、その点も具体的に指摘できます。
通らなかったときに残るもの
排除の主張が採用されないことは、珍しくありません。ただし、その主張が無駄になるわけではありません。収集の経緯を明らかにしておけば、その記録をどこまで重く受け止めるかという三つ目の段階の判断に影響することがありますし、集め方そのものについて別に責任を問う余地が残る場合もあります。話し合いで解決する場面でも、双方の事情として考慮されることがあります。
提出する前に確かめておきたいこと
請求する側の立場では、手元の材料を出すかどうかを決める前に、次の点を整理しておくと判断がしやすくなります。
- その記録で何を示したいのかを一つに絞れているか。
- 同じことを示せる材料が、別の方法で手に入らないか。
- 提出すればどのように手に入れたのかが相手方に伝わることを、織り込めているか。
- 不貞と関係のない第三者の情報が含まれていないか。
- これから集めるのであれば、手段を選び直せる段階かどうか。
弁護士に相談する場で見てもらうことと、裁判所へ提出することは、別の行為です。手元にあるものをまず整理し、そのうえで何を出すかを決めるという順序をとることができます。
手段ごとの検討は別に必要になる
この記事では、違法に集めたとされる証拠が民事でどのように扱われるかという、全体の枠組みを扱っています。実際には、スマートフォンの画面、録音、位置情報の記録、写真や動画、調査会社の報告書など、手段ごとに問題になる点が異なります。手元の材料がどれに当たるのかによって、確認すべきことも変わってきます。
よくあるご質問
ご相談の際にうかがうことの多い質問を挙げます。
相手に無断で撮った写真は、それだけで排除されますか
無断で撮影したという一事によって取り調べの対象から外れるわけではありません。撮影した場所、撮影の方法、写り込んだ範囲などを踏まえて判断されます。人目のある場所での様子を写したものと、私的な空間に機器を仕掛けて撮ったものとでは、評価が変わり得ます。
排除された場合、その事実は主張できなくなりますか
その証拠を判断の材料にできなくなるということであり、同じ事実を別の証拠で示すこと自体が封じられるわけではありません。ただし、ほかに材料がない場合には、立証が難しくなります。
調停や話し合いでも同じ扱いになりますか
証拠能力の議論は、訴訟を前提としたものです。話し合いや調停の場には、取り調べるかどうかを裁判所が決めるという枠組み自体がありません。もっとも、集め方に問題のある材料を示せば、相手方から別の請求を受ける可能性は残ります。
相手が違法に集めた証拠を出してきたら、警察に相談すべきですか
刑事の手続と民事の手続は、それぞれ別に進みます。刑事の対応を検討すること自体は妨げられませんが、それによって民事の証拠が自動的に排除されるわけではありません。まずは、その記録がどのように取得されたのかを整理し、民事の中でどう主張するかを決めるのが先になります。
まとめ
この記事の内容を整理します。
- 「排除される」という言葉は、裁判所がその証拠を取り調べないという段階の話を指している。
- 民事訴訟法には証拠能力を一般的に制限する規定がなく、集め方に問題があるというだけで取り調べの対象から外れるとは限らない。
- 例外は、著しく反社会的な手段による場合や、訴訟で用いることが信義則に反する場合に絞られている。
- 判断では、手に入れる過程の態様、侵害された利益の中身、その裁判での必要性が見られる。
- 実際に排除された例には、同居が終わった後の時点、本来その人以外は目にしない中身、日常の延長では説明しにくい行為という共通点がある。
- 排除されなかったことは、集め方が適法だと認められたことを意味しない。
- 請求を受けた側は、収集の経緯を具体的に示して主張することで、証明力の評価や別の請求につながる場合がある。
手元の記録をどう扱うかは、集めた経緯や、ほかにどのような材料があるかによって判断が分かれます。弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を、請求する側・請求を受けた側のいずれについてもお受けしています。提出するかどうかを決める前の段階でも、経緯を整理したうえで検討することができますので、お気軽にご相談ください。


