【不当要求対応】ペット関連事業への要求|生き物をめぐるトラブルの特殊性
店の入口で「カスタマーハラスメントには毅然と対応します」という掲示を見かける。問い合わせの電話では、冒頭で録音の案内が流れる。こうした変化を前に、「これからは苦情を言いにくくなるのか」「客の側に新しい義務が増えるのか」と気になっている方もいるのではないでしょうか。
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、規模を問わず労働者を雇う事業主に、カスタマーハラスメント(カスハラ)から働く人を守る措置が義務づけられます。義務を負うのは事業主で、客に向けた罰則が新しく設けられるわけではありません。ただ、窓口の向こう側の体制が変わることで、苦情や要望を伝える場面の進み方は少しずつ変わっていくと考えられます。
この記事では、苦情や要望を伝える客の立場から、何が変わり、何が変わらないのかを整理し、正当な申入れを正当な申入れとして届けるための伝え方を取り上げます。
本記事は2026年9月10日時点の内容です。改正法の施行(2026年10月1日)より前に執筆しており、指針の運用や解釈は、今後公表される資料によって補われることがあります。
義務を負うのは事業主で、客に向けた定めは努力を求めるものにとどまる
改正法が事業主に求めているのは、顧客等の言動によって従業員の就業環境が害されないよう、相談体制の整備その他の雇用管理上の措置を講じることです(労働施策総合推進法33条1項)。措置の中身は厚生労働大臣の指針に示され、講じていない事業主には、行政による助言・指導・勧告や、勧告に従わない場合の公表が予定されています。
客の側についての定めは、同じ法律の34条5項にあります。顧客等は、この問題への関心と理解を深め、従業員に対する言動が就業環境を害することのないよう必要な注意を払うよう努めなければならない、という内容です。努力を求める定めであり、違反した客への罰則は置かれていません。2025年4月に施行された東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例も、「何人も、あらゆる場において」カスハラを行ってはならないと定め、顧客等にも注意を払う努力を求めていますが、罰則は設けていません(4条・7条)。
客の側に直接かかるルールが大きく増えるわけではなく、変わるのは主に店や会社の中の体制です。事業者側から見た義務の全体像は【2026年10月施行】カスハラ対策が義務に|アルバイト1人の店も対象ですで、どのような言動が刑事事件になり得るかは【カスハラ対策】カスハラが刑事事件になる線|義務化で通報が増える構造で整理しています。
窓口の向こう側で変わること
指針は、事業主が講じる措置の具体例として、その場の対応の決め方や、特に悪質なものへの対処方針などを挙げています。客の立場から見ると、次のような形で目に入ってくることが多いと考えられます。
| 見えてくる変化 | 指針上の位置づけ | 客として受け止めておきたいこと |
|---|---|---|
| 方針の掲示・ウェブサイトでの告知 | 方針を顧客等に周知することも効果的とされている | 掲示があっても、正当な苦情を伝えられなくなるわけではない |
| やり取りの録音・録画 | その場の対処の例。個人情報保護法の遵守が前提 | 話した内容が記録として残ることを前提に話す |
| 複数人での対応、上司への交代 | 可能な限り一人で対応させず、管理監督者等が代わって対応する例 | 担当が変わっても、要求の中身が退けられたとは限らない |
| 一定時間での打ち切り | 十分な説明の後もなお繰り返しの要求が続く場合の対処の例 | 打ち切られた後の経路(書面・本社窓口)を確かめる |
| 警告文、出入り禁止、販売・サービスの停止 | 特に悪質と考えられるものへの対処の例。法令の制限内で行うもの | 告げられた理由と、すでにある請求の扱いを分けて考える |
「時間で打ち切る」は十分な説明が前提になっている
指針が挙げる打ち切りの例は、従業員から十分な説明を行ったうえで、なお繰り返しの要求が続く場合に、一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりする、というものです。最初から話を聞かないことを勧めているわけではありません。
ただ、口頭のやり取りに使える時間は、以前より区切られやすくなると考えておく必要があります。その場で結論が出なかったときにどこへ話をつなぐかを、あらかじめ意識しておくことが大切になります。
変わらないこと|正当な申入れと客の権利
今回の改正は、苦情を伝えること自体を抑える仕組みではありません。指針には、次の点が明記されています。
- 顧客等からの苦情の全てがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであり、カスハラには当たりません。
- 障害のある人が、不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を伝えることは、カスハラには当たりません。
- 事業主は、消費者法制が定める消費者の権利や、業法上のサービス提供の義務などに留意して、事案に応じて適切に対応することが求められています。
- カスハラかどうかの判断では、事業主や従業員の側の不適切な対応が原因や背景になっている場合があることにも留意するとされています。
加えて指針は、苦情のきっかけとなった商品やサービス、接客の問題が把握された場合に、その問題そのものの改善を図ることを、再発防止の措置に組み込んでいます。苦情は、改善の材料として位置づけられているということです。
厚生労働省の解釈資料も、改正法が事業主に何らかの措置を行う法的な権利や権限を新しく設けるものではないと整理しています。店が断る、打ち切るといった対応の根拠は、これまでと同じく契約や施設の管理などの一般的なルールにあります。東京都の条例も、顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意すると定めています(5条)。
評価を分けるのは要求の「中身」と「伝え方」
指針は、社会通念上許容される範囲を超えるかどうかを、言動の「内容」と「手段や態様」の両面から総合的に判断するとし、一方だけが範囲を超える場合でもカスハラに当たり得るとしています。求めていることに理由があっても、伝え方によって評価が変わることがあるということです。
| 求めていること | 届きやすい伝え方 | 評価が変わりやすい伝え方 |
|---|---|---|
| 不良品の返金・交換 | 購入日と商品を示し、状態を見せて求める | 商品と関係のない補償を上乗せして求める |
| 経緯の説明 | 何が分からないのかを具体的に示して質問する | 同じ質問を繰り返し、答えを聞いても話を戻す |
| 担当者の対応への不満 | 日時と場面を特定し、会社の窓口に伝える | 担当者を名指しで責め続け、辞めさせるよう迫る |
| 早い回答 | 回答の期限と連絡方法をこちらから示す | 閉店後や深夜に電話をかけ続ける、店に居座る |
どこからが範囲を超えるかという線そのものは、個別の事情によって判断が分かれます。判断の物差しは正当なクレームと悪質クレームの線引き|「社会通念上許容される範囲」とはで詳しく扱っています。
口頭で届かなかったときは書面で伝え直す
窓口でのやり取りが打ち切られた、話が平行線のまま終わったという場合でも、申入れの機会がなくなるわけではありません。対応が組織的になるということは、裏返せば、書面で伝えた内容が本社や本部、法務の担当者まで届きやすくなるということでもあります。書面にまとめるときは、次の要素をそろえると、読んだ側が事実を確かめやすくなります。
- 取引の特定(日時、店舗、商品名やサービス名、注文番号など)。
- 起きた事実(何があり、いまどのような状態になっているか)。
- 求めること(返金、交換、修理、説明など、取引の中身に関わるもの)。
- そう求める理由(契約の内容、表示や説明との違いなど)。
- 回答の方法と、回答を待つ目安の時期。
消費者庁も消費者向けの啓発資料で、気持ちを落ち着けてから伝えること、何をどうしてほしいのかを理由とともに具体的に伝えることを勧めています。感情の強さよりも、事実と求めることを正確に伝えるほうが、結果として話は前に進みやすくなります。
「カスハラです」と言われたとき
窓口で「それはカスハラに当たります」と告げられることもあるかもしれません。まず押さえておきたいのは、この言葉は事業者が自社の方針に沿って下した判断であり、公的な認定ではないということです。厚生労働省の解釈資料でも、都道府県労働局は個別の事案がカスハラに当たるかどうかの判断は行わないとされています。
とはいえ、その場で言い争っても、話が前に進むことはあまりありません。いったんその場を離れ、次のように整理し直すほうが現実的です。
- 求めていたことの中身と、その理由を書き出します。
- 時間の長さ、回数、言葉づかいなど、自分の伝え方で振り返っておくべき点がないかを確かめます。
- 店舗の窓口ではなく、本社や本部の窓口に書面で伝え直します。
- 障害に基づく配慮を求めていた場合は、そのことを明示して改めて伝えます。
- 話し合いが進まない場合は、消費生活センター(消費者ホットライン188)など第三者の窓口に相談します。
断られる場面の読み方|出入り禁止・販売の停止
指針は、特に悪質と考えられるものへの対処の例として、警告文の送付、法令の制限内での販売やサービス提供の停止、出入りの禁止、仮処分の申立てを挙げています。断られた場合は、次の二つを分けて考えると整理しやすくなります。
これからの取引を断られること
新しく商品を売るか、サービスを提供するかは、原則として事業者が判断できる事柄です。ただし、業種によっては法律で提供の義務が定められていたり、断ってよい場合が限られていたりします。たとえば旅館業法は2023年12月施行の改正で、過重な負担となる要求を繰り返した場合を宿泊を拒める事由に加えましたが、障害のある人が社会的障壁の除去を求める場合はこれに当たらないことや、求めに応じて拒む理由を丁寧に説明できるようにすることも示されています。
すでに生じている請求の扱い
出入りを禁止されたり、今後の取引を断られたりしても、それ以前の取引で生じた返金や修理などの請求が、そのことだけで消えるわけではありません。多くの場合、連絡の窓口が書面や特定の部署、代理人の弁護士に指定されるという形で、話し合いの経路が変わります。来店を断られることと、未解決の問題を話し合う機会を失うことは、別の事柄です。事業者の側から見た手順は「出入り禁止」を告げてよいか|サービス提供を断るときの手順で扱っています。
記録を残すのは店の側だけではない
店の側に録音や対応の記録が残ることは、客にとって不利なことばかりではなく、言った・言わないの行き違いになったときに事実を確かめる材料になります。客の側でも、日時、対応した窓口、伝えたこと、受けた回答をその日のうちにメモしておくと、書面にまとめるときや第三者に相談するときに役立ちます。会話の当事者が自分のやり取りを録音すること自体は、直ちに違法とはされないという考え方が一般的です。
一方で、やめるよう言われても従業員を撮影し続けることや、従業員のプライバシーに関わる情報をSNSに投稿することは、指針が精神的な攻撃の例として挙げている行為に関わります。録音で事実を残すことと、撮影や投稿で相手に圧力をかけることは、分けて考える必要があります。
よくあるご質問
店にカスハラ対策の方針が貼られていました。苦情を伝えると不利に扱われますか。
方針の掲示は、従業員を守る姿勢を示すためのもので、苦情を受け付けないという意味ではありません。指針自体が、正当な申入れはカスハラに当たらないと明記し、従業員が正当な申入れを踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことの重要性にも触れています。
回答がないので何度か問い合わせています。執拗な言動に当たりますか。
回答がないまま確認を重ねること自体が、直ちに執拗な言動とされるわけではありません。指針が例に挙げているのは、同じ質問を執拗に繰り返すことや、同じ内容のメールを執拗に送り続けることです。回答を受けた後も同じことを繰り返していないかを振り返り、書面で回答の期限を示す形に切り替えると、行き違いを避けやすくなります。
まとめ
- カスハラ対策の義務を負うのは事業主で、客に向けた定めは努力を求めるものであり、罰則はありません。
- 変わるのは窓口の向こう側の体制で、録音、複数人での対応、一定時間での打ち切り、出入り禁止などが整えられていきます。
- 正当な申入れはカスハラに当たらず、消費者の権利や障害に基づく配慮の求めへの留意も指針に明記されています。
- 求めることに理由があっても、伝え方によって評価が変わることがあるため、口頭で届かないときは書面で伝え直す方法があります。
- 「カスハラです」という言葉は事業者の判断であり、公的な認定ではありません。出入り禁止と、すでに生じている請求の扱いも別の事柄です。
働く人を守る仕組みが整うことは、苦情を伝える側にとって、伝え方を見直す機会でもあります。事業者とのやり取りがこじれてしまった、「カスハラ」と言われて来店を断られたといった段階でも、経緯を整理するところから見通しを立てることができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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