【カスハラ対策】店から警察を呼ばれた|その場での対応と後の見通し

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

本記事は、2026年9月時点の法令と、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法の指針・解釈資料の内容をもとにしています。個別の事案では結論が変わることがあるため、具体的な判断は事情を確認したうえで行う必要があります。


店に苦情を伝えていたところ、店員が110番し、警察官がやって来た。自分では正当な申し入れのつもりだったのに、どう振る舞えばよいか分からなくなった。こうした場面についてのご相談があります。

 2026年10月1日からは、従業員を1人でも雇う事業主に、顧客等からのカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)への対策が義務づけられます。国の指針には、特に悪質なケースへの対処として警察への通報が例示されており、店側が通報をためらわない流れは今後も続くと考えられます。

 本記事では、店から警察を呼ばれた側の立場で、その場で起きること、その場での対応、後に続く「刑事の流れ」と「店との関係の流れ」を整理します。罪名ごとの成立要件の解説は、別の記事に譲ります。

この記事で扱う場面


  • 飲食店や小売店、サービス業の窓口で苦情を伝えている最中に、店員が110番した。
  • 「お帰りください」と言われた後も話を続けていたら、警察を呼ばれた。
  • 店員から「カスハラにあたるので警察を呼びます」と告げられた。
  • 到着した警察官に、店の外や別室で事情を聞かれた。


 暴力があった場面や、すでに逮捕されている場面は、見通しが大きく変わるため対象から外しています。

「通報された」ことと、その意味を切り分ける

 警察を呼ばれた直後は「犯罪者扱いされた」と受け止めがちですが、この場面では次の四つが別々に動いています。

区分誰が行うかこの場面での意味
通報すること誰でもできる店が助けを求めたという事実にとどまる
その場での対応臨場した警察官事情を聞き、場を落ち着かせ、犯罪の疑いの有無を確かめる
刑事上の評価捜査を経て検察官・裁判所通報されたことだけでは決まらない
カスハラにあたるかの評価店(事業主)が社内で判断行政機関が個別に認定する仕組みはない


 通報されたことは、店が「自分たちだけでは対応が難しい」と判断したことを示すにとどまり、罪の成立や、公にカスハラと認定されたことを意味するわけではありません。国の解釈資料でも、労働局は個別の事案がカスハラにあたるかどうかの判断は行わないとされています。また、カスハラそのものに刑事罰を科す法律はなく、東京都のカスハラ防止条例にも行為者への罰則は設けられていません。刑事上の問題になるのは、言動が暴行、脅迫、業務妨害、不退去など、刑法などの個別の罪にあたる場合です。

 一方で、「犯罪ではないから何も起きない」とも言い切れません。刑事の手続に乗らなくても、店が出入りを断ったり、書面で警告してきたりすることはあります。この二つの流れを分けて考えることが、見通しを立てる出発点になります。

警察官が来たその場で起きること

 臨場した警察官は、一般に、まず当事者どうしを離し、店側と客側のそれぞれから事情を聞きます。その場を落ち着かせることが優先されるため、話を聞いたうえで客側に帰宅を促し、その日は終わることもあります。

警察官ができること、できないこと

 警察官職務執行法は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときに、関係者に必要な警告を発することを認めています(5条)。また、犯罪の疑いがある場面では、呼び止めて質問することもできます(2条1項)。ただし同じ法律は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束されたり、意に反して警察署に連行されたり、答弁を強要されたりすることはないとも定めています(2条3項)。

 反対に、警察官は、返金や交換、謝罪の要否といった苦情の中身の当否を決める立場にはありません。その場で「店に返金させてほしい」と警察官に求めても、結論が出ることはありません。

その場で逮捕されることはあるのか

 現に罪を行っている人や行い終わった直後の人は、現行犯として逮捕されることがあります。店員を突き飛ばした、物を投げたといった事情があれば、その場で身柄を確保される可能性があります。職務中の警察官に暴行や脅迫を加えれば、公務執行妨害罪(刑法95条1項)の問題にもなりえます。一方、言い合いにとどまる場面では、逮捕されずにその場を離れられることもあります。どちらに進むかは、その場の言動と周囲の状況によって変わります。

その場での対応として意識したいこと

 警察官が来た後の振る舞いも記録に残ります。店側に録音や映像が残っている可能性を念頭に置いておくことが大切です。

  1. 氏名と連絡先を、落ち着いて伝えます。
  2. 言い分は、いつ、何があって、何を求めたのかという事実を短く伝えます。
  3. 店員に向けた言葉を、警察官の前で繰り返さないようにします。
  4. 店員や店内を撮影し、その場でSNSに投稿することは控えます。
  5. 警察官の体に触れたり、進路をふさいだりする行動は取りません。


 身元をはっきりさせておくことは、手続が進んだ場合に、逃げたり証拠を隠したりするおそれがないことを示す材料になります。

 退店を求められている場合は、その日の話を切り上げて店を離れることも選択肢の一つです。店の管理者から退去を求められたのに、正当な理由なく留まり続けると、不退去罪(刑法130条後段)の問題が生じることがあります。苦情の中身は、その場で決着をつけなくても、後から書面などで伝え直すことができます。

「正当な苦情だった」と伝えたいとき

 言い分がある場合でも、その場で説き伏せようとすると声が大きくなり、受け止められ方がかえって厳しくなりがちです。国の指針は、事業主や従業員の側の不適切な対応がきっかけになっている場合があることにも触れており、東京都の条例も、条例の適用にあたって顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意することを求めています。言い分は、後で整理して伝える方が伝わりやすくなります。

後の見通し 刑事の流れ

 刑事の面では、おおむね次の三つのいずれかに進みます。

その後の展開起きること
その場で終わる警察官による注意や警告にとどまり、後日の連絡もない
後日、警察から連絡が来る店や店員が被害届を出した場合など、事情を聞くために呼ばれることがある
手続が進む言動が個別の罪にあたると判断されれば、書類送検や逮捕に進むことがある


 その場で帰宅できても、刑事の手続が終わったと確定するわけではありません。店や店員が後から被害届を出せば、数日から数週間たって警察から連絡が来ることがあります。何の連絡もないまま時間が過ぎることもあります。

 警察から連絡が来たときは、何かを約束したり店に直接連絡したりする前に、状況を確かめることが大切です。被害を受けたのが店(会社)であれば、話し合いの窓口は本社や代理人になることがあり、店員個人への連絡は新たなトラブルのもとになりかねません。

後の見通し 店との関係の流れ

 刑事の流れとは別に、店との関係では次のような展開が考えられます。

  • 出入り禁止や、今後のサービス提供を断る旨を伝えられることがあります。
  • 警告の書面や、弁護士名の通知書が届くことがあります。
  • 電話や来店を控えるよう、書面で求められることがあります。
  • 損害賠償を求められたり、裁判所での手続がとられたりすることがあります。


 国の指針は、特に悪質なケースへの対処として、警察への通報、警告文の送付、法令の範囲内でのサービス提供の拒否、出入り禁止、仮処分の申立てなどを例示しています。ただし、国の解釈資料は、改正法が事業主に新たな法的権利や権限を設けるものではないと説明しています。つまり、出入り禁止などは法改正によって新しくできるようになったものではなく、もともと店が持っている判断の範囲の話です。

 どの客と取引するかは基本的に店の判断ですが、無制限ではありません。東京都の資料は、差別につながるものや、正当な理由のない恣意的な出入り禁止は、損害賠償責任を負う可能性があるとしています。また、宿泊施設や医療機関のように、断ることのできる場面が法律で定められている業種もあります。

 出入り禁止を伝えられた後に来店を続けると、不退去や建造物への侵入の問題が生じることがあります。納得できない場合は、書面で理由を尋ねる方法が考えられます。

もともとの苦情はどうなるのか

 通報されたからといって、商品の不具合や説明の誤りといった、もともとの苦情が消えるわけではありません。国の指針は、カスハラを、顧客等の言動のうち、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものと整理しており、正当な申し入れはこれにあたらないとしています。

 返金や交換を求めたい場合は、時間を置いて、事実と求める内容を書面にまとめて伝える方法があります。事業者との話し合いが難しいときは、消費者ホットライン(188)から地域の消費生活センターに相談することもできます。

 ただし、同じ内容を繰り返し送る、店員個人を名指しで責める、SNSで公表するとほのめかすといった伝え方は、書面であっても別の問題を生むことがあります。求める内容とその根拠を、一度で分かるように示すことが、結果的に話を前に進めます。

記憶が新しいうちに残しておくこと

 店側には録音や映像が残っていることがあります。こちらも経緯を整理しておくと、どちらの流れでも役に立ちます。

  • 来店した日時、店舗名、応対した店員の人数。
  • 苦情のきっかけになった出来事と、求めた内容。
  • 自分が言ったことと、店員から言われたこと(覚えている範囲)。
  • 退店を求められた時刻と、店を出た時刻。
  • 臨場した警察官から言われたことと、渡された書面。
  • レシート、商品、やり取りのメールなどの資料。


 覚えていない部分は無理に埋めず、「はっきりしない」と書いておくと、後で食い違いが生じにくくなります。

弁護士に相談すると整理できること

 弁護士に相談すると、その場の言動が刑事上どう評価されうるかの見通しを立てたうえで、警察からの連絡への対応、店側との窓口、もともとの苦情の伝え直しを、一つの方針のもとで整理できます。ただし、相談によって結果が決まるわけではなく、謝罪と話し合いによる解決を優先した方がよい場面もあります。

よくあるご質問


警察を呼ばれただけで、前科がつくのですか

 通報されたことや事情を聞かれたことだけで前科がつくことはありません。前科は、起訴されて有罪の裁判が確定した場合に問題になるものです。ただし、言動が個別の罪にあたると判断されれば、手続が進むことはあります。

その場で謝れば、話は終わりますか

 その場は収まることがありますが、後の被害届や出入り禁止の通告を止められるとは限りません。落ち着いた謝罪が不利に働くとも限らないため、事実と異なる内容まで認めない範囲で言葉を選ぶことが大切です。

「カスハラとして記録しました」と言われました。どこかに登録されるのですか

 行政機関が個別に認定して名簿に登録するような仕組みはありません。店や会社が社内で記録を残すことはあり、東京都の資料は、個人情報保護法などに留意したうえでの企業間の情報共有にも触れています。自分の情報の扱いが気になる場合は、同法に基づく開示の手続を検討する余地があります。

まとめ


  • 通報されたこと自体は、罪の成立やカスハラの認定を意味しません。
  • その場では、身元を落ち着いて伝え、事実を短く述べ、店員への言葉を繰り返さないことが大切です。
  • 退店を求められたら、話を切り上げて後日に回すことも選択肢です。
  • 後の見通しは、刑事の流れと店との関係の流れに分けて考えます。
  • 出入り禁止などは法改正で新しくできた権限ではなく、もともと店が持っている判断の範囲の話です。
  • もともとの苦情は、時間を置いて書面で伝え直すことができます。


 店から警察を呼ばれた場面は、その日のうちに終わることもあれば、後日、警察や店側からの連絡で続くこともあります。自分の言動がどう受け止められうるのかと、もともとの苦情をどう伝え直すのかは、分けて考えるほど整理しやすくなります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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