「出入り禁止」を告げてよいか|サービス提供を断るときの手順

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 同じお客様とのやり取りで消耗が続き、「もう来ていただかないほうがいいのではないか」と考える場面があります。一方で、「そんなことを言って法的に問題にならないか」「逆上されたらどうするか」という不安から、決断できないまま長引かせてしまうことも少なくありません。

 この記事では、店舗やサービス業が特定の相手に対して今後の来店・利用をお断りする、いわゆる「出入り禁止」について、その法的な位置づけと、実際に告げるときの手順を整理します。

 なお、「その相手を出入り禁止にしてよいか」という判断そのもの(正当な苦情との線引き)は別の記事で扱っています。ここでは、断ると決めた後にどう進めるかを中心に説明します。

1. 「出入り禁止」の法的な根拠

 出入り禁止には、これを直接定めた法律の条文があるわけではありません。もっとも、根拠がないわけでもなく、一般には次の2つで説明されます。

(1)契約自由の原則

 民法521条1項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決められることを定めています(2020年4月1日施行の改正で明文化されました)。

 商品を売る、席を用意する、施術をするといった行為は、いずれも契約です。したがって、誰と契約するかは原則として事業者の側で決めることができます。出入り禁止は、その相手とは将来にわたって取引をしない、という意思表示にあたります。

(2)施設管理権

 もう一つは、店舗や施設を所有・管理している立場から導かれる権限です。「いつ」「誰が」「どのような態様で」「どの場所に」立ち入ることを認めるかを決める権限、と説明されます。

 営業時間中に誰でも入れるのは、権限がないからではなく、「営業時間に」「お客様として」「買い物や飲食のために」「客席側のスペースに」入ることを事業者が認めているからだ、という整理です。

 下級審の裁判例にも、公共の建物ではない建物について、その所有者・管理者は法令等に反しない限り誰を立ち入らせるかを自由に決められるのが原則である、という考え方を示したものがあります(温泉旅館の出入り禁止処分について損害賠償請求が退けられた事案)。

(3)国の指針にも位置づけられている

 2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法のカスタマーハラスメント対策指針では、特に悪質な言動への対処の例として、警察への通報、警告文の発出、法令の制限内でのサービス提供の拒否、出入禁止、仮処分の申立てが挙げられています。

 つまり出入り禁止は、思いつきの実力行使ではなく、従業員を守るための選択肢の一つとして想定されている措置です。もっとも、指針が挙げているのはあくまで例であり、どんな場面でも自由に使えるという意味ではありません。次の点に注意が必要です。

2. 告げる前に確かめておきたいこと

(1)そもそも断ってよい相手か

 強い口調だっただけ、要求が一度あっただけ、といった段階で出入り禁止に踏み切ると、後から「不当な扱いを受けた」と主張される余地が残ります。指針も、正当な苦情や要望はカスタマーハラスメントに当たらないとしています。

 判断の物差しについては、別の記事で詳しく整理しています。

(2)業種によっては制限がかかる

 契約自由の原則には「法令に特別の定めがある場合を除き」という留保がついています。次のような場面では、断り方に法令上の枠がはめられています。

場面押さえておきたい制限
旅館・ホテル旅館業法5条は、一定の場合を除いて宿泊を拒んではならないと定めています。2023年12月13日施行の改正で、営業者にとって負担が過重で他の宿泊者へのサービス提供を著しく阻害するおそれのある要求を「繰り返した」場合が拒否事由に加わりました。単発の苦情では足りず、拒否したときは理由・日時・氏名・対応責任者等を記録して3年間保管する必要があります
医療機関医師法19条1項の応招義務があり、正当な事由がなければ診療を拒めません。令和元年12月25日の厚生労働省通知は、最も重要な考慮要素を緊急対応の要否(病状の深刻度)とし、次いで診療時間内か時間外か、患者との信頼関係を挙げています。診療内容と関係のないクレームが繰り返され信頼関係が失われている場合には、診療しないことが正当化される余地があるとされています
障害を理由とする取り扱い障害者差別解消法は、正当な理由なく障害を理由にサービス提供を拒否したり、場所・時間帯を制限したりすることを禁じています。2024年4月1日からは、事業者による合理的配慮の提供も法的義務となりました。社会的障壁の除去を求められること自体は、断る理由にはなりません
賃貸・会員契約・継続的な取引すでに契約関係がある相手の場合、来店を断ることと契約を終わらせることは別問題です。契約の解除・解約には契約書や法令のルールが適用されます
一般の店舗・飲食店など上記のような特別の定めは通常なく、契約自由の原則と施設管理権に基づいて判断できます

 旅館業法も障害者差別解消法も、「迷惑行為への対応」と「差別的な取扱いの禁止」を両立させる形で作られています。属性ではなく、その相手の具体的な言動を理由にするという整理を崩さないことが、結果として最も安全です。

3. 出入り禁止を告げる手順

ステップ1:誰の判断として告げるかを決める

 現場の従業員が個人の判断で言い渡すと、後から「あの店員が勝手に言った」と争いになり、対応も一貫しなくなります。会社としての判断であることを明確にしておきます。

 一人で営業している店の場合は、自分が決めるほかありません。ただし、その場の勢いで言うのと、いったん持ち帰って落ち着いて伝えるのとでは、後の展開が変わります。決める権限があることと、その場で言わなければならないことは別です。

ステップ2:射程を決める

 意外に抜けやすいのが、どこまでを対象にするのかという設計です。あらかじめ次の点を決めておくと、後の説明がぶれません。

  • 範囲:この1店舗だけか、系列の全店舗か
  • 内容:来店を断るのか、電話・メールでの問い合わせ対応も断るのか
  • 期間:期間を定めるか、当面の間とするか
  • 同行者:家族や同行者の来店まで断るのか(本人の言動を理由とする以上、原則は本人に限るのが自然です)

ステップ3:伝え方を選ぶ

 法律上、決まった様式はありません。口頭でも意思は伝わります。ただ、方法ごとに向き不向きがあります。

方法長所注意点
口頭(来店時)その場で伝えられる記録が残らず「聞いていない」と争われやすい。相手が興奮する場面になりやすい
電話来店を待たずに伝えられる即時のやり取りになり、対応者の負担が大きい
書面(郵送・手交)内容が正確に残り、組織としての決定であることが伝わる相手の手元に残り、SNS等で公開される可能性がある
メール手軽で記録に残る見落とされる、迷惑メールに振り分けられる、軽く受け取られることがある

 実務では、書面を基本にし、来店中であれば口頭で伝えたうえで書面を交付するという組み合わせが取りやすい方法です。相手の住所や氏名を把握していないと書面は送れませんので、その意味でも日頃の記録が効いてきます。

 口頭で伝えるときは、他のお客様がいない場所を選び、可能であれば複数人で対応します。電話で伝えるときは、通話内容を録音し、周囲に人がいる状況で行うことを検討してください。

ステップ4:何を伝えるか

  • 今後の来店・利用をお断りする、という結論が明確に伝わる表現にする 「ご遠慮いただければ」といった婉曲な言い方は、後で「禁止されたとは思わなかった」という反論を招きます。
  • 理由は、日時と事実で特定する 「〇月〇日、当店において〜という行為がありました」というように、具体的な事実を書きます。
  • 人格を評価する言葉は書かない 「悪質」「常識がない」といった評価や決めつけは、必要がないうえ、名誉毀損を主張される火種になります。事実を書けば足ります。
  • 第三者が読む前提で文面を作る 書面もメールも、撮影・転載されることがあります。誇張、事実に反する記載、侮蔑的な表現がないか、送る前に読み返してください。判断に迷う内容であれば、発送前に弁護士に確認する方法もあります。

ステップ5:記録する

 いつ、誰が、どの方法で、どのように伝えたかを業務日誌や報告書に残します。書面であれば控えを保管します。この記録は、後で「通告していない」と言われたときのほか、再来店したときの警察対応でも意味を持ちます。

4. 避けたい伝え方

店頭への掲示やSNSでの公表
 氏名・顔写真・住所などを、店頭や店内、ウェブサイト、SNSといった第三者の目に触れる形で示すことは、名誉権やプライバシー権の侵害となるおそれがあり、新たな紛争を生みます。伝える相手は本人と自社の従業員に限るのが原則です。

他の事業者との情報共有
 同じチェーンの直営店同士のように同一事業者内での共有と、別法人の店舗間や商店会での共有とでは、意味が異なります。後者は個人情報保護法27条1項が定める第三者提供にあたる可能性があります。「近隣の店にも知らせておこう」という善意が、そのまま許されるとは限りません。なお、本人からは同法33条に基づく開示請求がなされることもあります。

その場での実力行使
 腕をつかんで外に出す、持ち物を取り上げるといった行為は、自力救済として違法と評価され、こちら側が加害者になってしまうおそれがあります。求めるべきは退去であり、応じない場合は警察に対応してもらうという順序を守ってください。

相手が興奮している最中の言い渡し
 その場の言い合いの延長で告げると、内容が正確に伝わらないまま感情的な対立だけが残ります。時間を置いて、方法を選んで伝えたほうが結果的に早く収まることがあります。

5. 告げた後の運用

(1)従業員への周知

 通告したことを従業員が知らないまま入店を許してしまうと、措置の意味が失われるだけでなく、「あの後も普通に入れた」という反論の材料になります。対象者を特定できる情報、来店時には入店をお断りすること、速やかに責任者へ報告することを共有しておきます。

 同時に、従業員が多い施設や来店客の多い店舗では、全員が対象者を記憶して対応することは現実的ではありません。出入り禁止の実効性には限界があることも、あらかじめ織り込んでおくべきです。

(2)それでも来店した場合

 出入り禁止を明確に告げているにもかかわらず立ち入った場合、その立入りは管理者の意思に反するものとして、建造物侵入罪や不退去罪(刑法130条)に該当する可能性があります。過去には、出入り禁止を告げられた後も来店を繰り返した人物が建造物侵入罪で逮捕された事例も報じられています。

 現場では、立ち入りを認めない旨を伝えて退去を求め、応じない場合は警察に臨場を求めることになります。明確に、記録が残る形で通告してあることが、この段階で効いてきます。

 押しかけ・居座りに対する刑事上の受け皿とその使い方については、別の記事で詳しく整理しています。

(3)金銭の話とは切り離す

 未払いや返金の請求が残っている場合、それは出入り禁止とは別の問題です。同じ場で一緒に処理しようとすると、どちらの話も長引きます。

6. 期間と解除の考え方

 出入り禁止を解除するかどうかは、事業者側の判断に委ねられます。相手から謝罪があったとしても、解除しなければならない法的な義務が生じるわけではありません。

 一方で、いったん決めた措置を現場の担当者が個別に解除してしまうと、対応の一貫性が崩れ、他の従業員が板挟みになります。解除する場合も、通告と同じく責任者の判断として行い、記録を残してください。

 また、当初から「当面の間」としておき、状況が変われば見直す余地を残しておく方法もあります。永久に断る形にこだわる必要は必ずしもありません。

まとめ

  • 出入り禁止は、契約自由の原則(民法521条1項)と施設管理権を根拠とする措置であり、国の指針でも悪質な言動への対処例として挙げられています
  • ただし旅館業法、医師法の応招義務、障害者差別解消法など、業種や理由によっては法令上の制限がかかります。属性ではなく具体的な言動を理由にすることが基本です
  • 伝え方に決まった様式はありませんが、書面を基本に、結論を明確に、事実で理由を示し、人格への評価は書かないことが安全です
  • 店頭掲示やSNSでの公表、他事業者との安易な情報共有、その場での実力行使は避けてください
  • 通告したことを記録し従業員に周知しておくと、再来店時の対応が取りやすくなります

 出入り禁止は、相手を罰するための措置ではなく、従業員と他のお客様、そして自分自身の営業を守るための線引きです。手順を踏んで静かに実行することが、結果として最も摩擦の少ない方法になります。

 判断に迷う場面や、通告後に相手からの連絡が続いている場合には、早い段階で弁護士にご相談ください。窓口を弁護士に一本化することで、現場が直接対応せずに済む場合もあります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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