別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝
不貞をめぐる話し合いが終わったと思っていたところに、相手方から「支払った慰謝料の一部を負担してほしい」という連絡が届くことがあります。求償と呼ばれる求めです。心当たりのある話ではあるものの、応じなければならないのか、断ることはできるのか、判断がつかないまま日が過ぎてしまうという声をよく伺います。
この場面でよく見かける説明は「原則として拒むことはできない」というものです。方向としては誤りではありません。ただ、この一文だけでは、では書かれている金額をそのまま支払うことになるのか、という次の問いには答えられません。実際のご相談で行き詰まるのは、応じるかどうかよりも、いくらを、どういう形で、という部分です。
この記事では、求償を求められた側が何をどの順に確かめればよいのかを整理します。求償という仕組みそのものや、二人の間の分担の割合がどのように決まるのかは別の記事で扱っていますので、ここでは求めを受けた後の対応に絞ってご説明します。求償はどちらの側からも起こりうるものですので、不貞をした配偶者の立場でも、その交際相手の立場でも読んでいただける書き方にしています。
「応じる義務はあるのか」には三つの問いが重なっている
求償を受けた方からいただく質問は、多くの場合「払わなければならないのでしょうか」という形をとります。ただ、この問いをほどいていくと、性質の違う三つの問いが重なっていることが分かります。この三つを分けないまま「拒めるか、拒めないか」だけで考えると、答えが出ないまま時間が過ぎてしまいがちです。
| 重なっている問い | 見るところ | 答えの出方 |
|---|---|---|
| 分担する立場にあるか | 不貞について責任を負う立場か、書面での約束があるか | 立場そのものは前提としたうえで、争点が次の問いに移ることが多い |
| いくら分担するのか | 相手方が実際に支払った額と、二人の間の線引き | 話し合いで決める。折り合わなければ裁判で判断される |
| どういう形で終えるか | 支払って終わりにするか、書面を交わすか | 後から蒸し返されない形にできるかで変わる |
争点は「あるかないか」より「いくらか」に移りやすい
不貞の事実そのものに争いがない場合、一つ目の問いが長く争点になることはあまりありません。二人で一つの損害を生じさせたという関係にある以上、一方が支払った分について、もう一方が何も負担しないという結論にはなりにくいからです。
そのため、実際のやり取りは早い段階で二つ目の問い、つまり金額の話に移っていきます。「拒めない」という説明を読んで支払いを覚悟された方が、金額の欄を見て初めて違和感を持つ、という順序になることも珍しくありません。確かめる作業は、この二つ目の問いにこそ時間をかける価値があります。
求償の土台は、自分が加わっていない話し合いにある
求償は、相手方が慰謝料を支払ったという事実の上に成り立つ求めです。そして、その支払いの額は、多くの場合、請求をした配偶者と相手方との間だけで決まっています。求められた側は、その話し合いの場にいません。
ここが求償の場面の特徴です。自分の記憶や言い分から確かめ始めるのではなく、まず自分がいないところで何がどう決まったのかをたどるところから始まります。
何を、誰に、いくら支払ったのか
最初に確かめたいのは、支払いの中身です。誰に対する支払いなのか、名目は何か、いつ、いくら支払われたのか。示談書や合意書の写し、振込を示す記録があれば、その内容と突き合わせます。
名目は見落とされやすい点です。同じ「解決金」という言葉でも、不貞についての慰謝料として支払われたものか、それ以外の事情を含めて一括で清算したものかで、分担を求められる範囲は変わってきます。相手方夫婦の間の離婚に伴う清算が混ざっていることもあります。
支払いが済んでいなければ、まだ求める段階ではない
分割払いの途中で連絡が来ることがあります。求償は支払いを終えて初めて形になる求めですので、支払いが進んでいない段階での求めは、前提が整っていません。
「これから支払う予定なので、先に分担分を渡してほしい」という求め方も見受けられます。応じることが禁じられているわけではありませんが、相手方が実際に支払うかどうかを見届けないまま渡すことになりますので、そのまま応じるかどうかは慎重に考えたいところです。
自分が当事者でない合意に、そのまま縛られるわけではない
示談書に金額が書かれていると、その数字が動かせないもののように見えます。ただ、合意はそれを結んだ人たちの間の約束です。そこに加わっていない人を、そのまま拘束するものではありません。
もっとも、その金額が不相当だと述べるのであれば、なぜ不相当と言えるのかを自分の側で説明することになります。書面に書かれているという理由だけで従う必要はない一方、書かれている数字を動かすには理由がいる、という関係になります。
分担する立場にないと言える場合
一つ目の問いに戻ります。分担する立場にないと言える場面は限られますが、あります。代表的なものを整理すると、次のようになります。
| 考えられる言い分 | 前提になる事実 | 注意しておきたい点 |
|---|---|---|
| 不貞について責任を負う立場ではない | 既婚であることを知らなかった、すでに関係が破綻していた | 求償だけでなく、慰謝料の責任そのものを争うことになる |
| 求償しないという約束がある | 示談書や合意書に、分担を求めない旨の条項がある | 約束を交わした相手が誰かによって効き方が変わる |
| 自分もすでに支払っている | 請求をした配偶者へ、自分の側から支払った事実がある | 支払いの名目と、同じ損害についての支払いかどうかが問われる |
| 時間が経ちすぎている | 相手方が支払いを終えてからの経過期間 | 期間の数え方は、相手方が支払った時点を基準に考えられている |
責任そのものを争うと、話は求償の外に広がる
一行目の言い分は、性質が他と違います。分担の話にとどまらず、そもそも慰謝料を支払う立場だったのかという議論になるからです。
この主張が通れば分担も生じませんが、通らなかった場合には、争ったこと自体が経緯の説明として残ります。事実関係にどこまで争いがあるのかを見きわめたうえで持ち出すかどうかを決めることになります。既婚であることの認識や破綻の主張については、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
書面での約束は、誰との間の約束かで効き方が変わる
「求償しない」という条項が示談書に入っていることがあります。この条項は、分担を求められた側にとっては心強い材料ですが、条項が誰と誰の間で交わされたものかによって、働き方が変わります。
請求をした配偶者との間だけで交わされた約束と、三者が加わって交わされた約束とでは、位置づけが異なります。条項の型や、そこから何が言えるのかは、求償権の放棄について扱った記事で詳しくご説明しています。手元の書面を読み直し、どの当事者の間で何が約束されているのかを確かめてみてください。
求められた額をどう見るか
ここからが二つ目の問いです。求償の通知には金額が書かれていますが、その数字は相手方が算出した数字です。土台になっている考え方をたどると、確かめるべき点が見えてきます。
求められるのは、支払った額そのものではない
民法442条1項は、連帯して債務を負う者の一人が支払をした場合に求められるのは「各自の負担部分に応じた額」である、という考え方を示しています。不貞の慰謝料は少し性質の異なる債務として扱われますので、この規定がそのまま当てはまるわけではありませんが、支払った額の全部ではなく、分担に当たる部分を求めるものという枠組みは共通しています。
つまり、相手方が支払った額と、こちらが分担する額とは、そもそも別の数字です。通知に書かれた金額が支払った額の全部に近い場合には、どういう計算でその数字になったのかを尋ねてみる価値があります。
二つの数字を別々に確かめる
求められた額は、大きく分けて二つの要素からできています。一つは相手方が実際に支払った額、もう一つは二人の間の線引きです。
この二つは別々に確かめられます。支払った額は資料で裏づけられる部分であり、線引きは事情を突き合わせて決める部分です。片方だけを見て高いと感じても議論はかみ合いません。どちらの数字に納得がいかないのかを整理しておくと、話が進みやすくなります。線引きがどのような事情で動くのかは、負担割合について扱った記事にまとめています。
線引きを争うことは、経緯を双方が述べ合うことでもある
線引きを動かそうとすると、関係がどのように始まり、どのように続いたのかを、双方が具体的に述べ合うことになります。誰が誘ったのか、既婚であることがどう伝わっていたのか、職場での立場に差があったのか、といった話です。
これは金額を動かす可能性のある議論ですが、同時に、いったん収まった話を細部まで掘り返す作業でもあります。請求をした配偶者が、そのやり取りを後から知ることもあります。どこまで争うかは、得られるものとの兼ね合いで考えることになります。
自分もすでに支払っている場合
求償を受けた方から比較的よく伺うのが、「自分も請求をされて支払っている」という事情です。この場合、話の構図が変わります。
同じ損害についての支払いかどうか
確かめたいのは、その支払いが同じ損害についてのものかどうかです。同じ不貞について、それぞれが請求を受けてそれぞれ支払っていたのであれば、二人が既に分担していたと見る余地があります。
一方で、自分の支払いが別の名目のものだった場合には、同じ土俵に載りません。貸したお金の返済や、生活費の清算などが混ざっていることもありますので、支払いの経緯を示す資料を手元にそろえておくことをおすすめします。
立場が入れ替わることもある
自分の支払額のほうが大きかった場合には、分担を求められる側であると同時に、こちらから求める側にもなり得ます。この場合、応じるかどうかという問いは、双方の支払いを一度並べて、どちらがどれだけ多く出したのかを確かめる作業に変わります。
なお、双方に請求がなされている場面では、そもそも一つの損害に対していくらが支払われるべきだったのかという点も関わってきます。二重に受け取ることにならない仕組みについては、別の記事で扱っています。
返事をしないまま時間が過ぎるとどうなるのか
連絡を返さないまま放置してしまう方がいらっしゃいます。気持ちとしては理解できるところですが、返事をしないことと支払わないことは別の話です。
返事がないこと自体は、何かを決めるものではない
返事をしなかったからといって、求めを認めたことになるわけではありません。逆に、断ったことにもなりません。返事がない状態は、法律上は何も決まっていない状態です。
ただし、こちらの言い分が伝わらないまま時間が過ぎるという結果は残ります。金額に納得がいかない、自分も支払っている、といった事情は、こちらから述べなければ相手方の側の前提に入りません。
連絡が途絶えると、相手方は次の手続に移る
やり取りが続かない場合、相手方は裁判所の手続を検討することになります。訴えが起こされ、判決で支払いが命じられれば、その判決をもとに財産を差し押さえる手続に進むことができます。
もっとも、そこに至るまでには相応の時間と費用がかかりますし、裁判では線引きが改めて争点になります。相手方にとっても負担のある道ですので、連絡が来た時点で、こちらの言い分を整理して返すという選択肢を持っておきたいところです。手続の流れや差押えの範囲については、それぞれ別の記事にまとめています。
応じると決めた場合に書き残しておきたいこと
金額に折り合いがついた場合、その場で振り込んで終わりにしてしまう方がいらっしゃいます。ただ、後からもう一度求められる余地を残さないためには、簡単なものでも書面を残しておくほうが行き違いを防ぎやすくなります。
- 誰が誰に、いくらを、いつまでに支払うのかを書く。
- その支払いが、どの不貞についての分担であるのかを特定して書く。
- この件について、これ以上互いに請求し合わないことを書き添える。
- 支払いの記録(振込の控えなど)を書面と一緒に残しておく。
- 請求をした配偶者との示談書に接触を控える旨の条項がある場合は、やり取りの経緯も残しておく。
三つ目の点は見落とされやすいところです。相手方との間の清算と、請求をした配偶者との間の清算は別の話ですので、どちらについての取り決めなのかが読み取れる書き方にしておくと、後の行き違いを減らせます。書面の条項の作り方は、示談書について扱った記事でご説明しています。
求償を求める側から見た同じ場面
立場を入れ替えて見ておくと、確かめる作業の意味が分かりやすくなります。求める側は、支払いを終えたという事実と、その額を示す資料を用意しなければ話を始められません。そして、線引きについては自分の側から説明することになります。
求める側にとっても、相手方が任意に応じなければ裁判という道しか残りません。裁判では線引きが改めて検討されますし、判決を得ても相手方に資力がなければ回収は進みません。求める側にも相応の負担があるという構造は、求められた側が交渉の見通しを立てるうえでも知っておいて損のない点です。
よくあるご質問
求償に応じないと、すぐに給料を差し押さえられますか
連絡に応じないことから直ちに差押えに進むわけではありません。相手方が訴えを起こし、判決などの形で支払いを命じる判断が出て、それから執行の手続に移るという順序になります。時間はかかりますが、放置していれば止まるというものでもありませんので、早い段階で言い分を伝えることをおすすめします。
示談書に「求償しない」と書いてあるのに求められています
まず、その条項が誰と誰の間で交わされたものかを確かめてください。請求をした配偶者との間だけの約束なのか、相手方も加わった約束なのかで、位置づけが変わります。書面を持参のうえご相談いただければ、条項の読み方を一緒に確認できます。
相手方が支払ったという資料を見せてもらえません
求償は支払いの事実を土台にする求めですので、支払ったことを示すのは求める側です。資料の提示を求めたうえで、示されないのであれば、その点を伝えて回答を保留するという対応も考えられます。感情的なやり取りになりそうな場合には、代理人を通す方法もあります。
まとめ
- 「応じる義務はあるのか」という問いには、立場の有無、金額、終わらせ方という三つの問いが重なっている。
- 不貞の事実に争いがない場合、争点は立場の有無より金額に移りやすい。
- 求償の土台になる金額は、自分が加わっていない話し合いで決まっていることが多い。
- 支払いの名目や時期、資料の有無から確かめ始めるとよい。
- 求められるのは相手方が支払った額そのものではなく、分担に当たる部分である。
- 支払った額と線引きは別々の数字なので、どちらに納得がいかないのかを分けて考える。
- 自分も支払っている場合は、同じ損害についての支払いかどうかを確かめる。
- 返事をしないことと支払わないことは別で、返事がない状態は何も決めていない状態である。
- 応じる場合も、金額と範囲を書面に残しておくと後の行き違いを減らせる。
求償への対応でお困りの方へ
求償の求めは、いったん終わったと思っていた問題が再び動き出す場面で届きます。相手方との連絡そのものに負担を感じる方も多く、金額の当否を落ち着いて検討しにくい状況になりがちです。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料と求償に関するご相談をお受けしています。届いた書面や、これまでに交わした示談書をお持ちいただければ、何を確かめる必要があるのか、どこまで争う余地があるのかを整理してお伝えします。一人で判断される前に、一度ご相談ください。


