不倫相手から過大な要求(高額請求)をされたら|支払義務の有無と対処法を弁護士が解説
不貞慰謝料を請求され、話し合いの末に支払いを終えた。それでも「関係を持ったのは二人なのに、なぜ自分だけが全額を負担したのか」という割り切れなさが残る——こうしたご相談は少なくありません。
このような場面で問題になるのが「求償権(きゅうしょうけん)」です。支払った慰謝料の一部を、もう一方の当事者(不倫相手)に分担してもらう権利をいいます。ただし、求償権は「払った金額の半分が自動的に戻ってくる権利」ではありません。認められる範囲にも、行使するタイミングにも、いくつかの前提条件があります。
この記事では、慰謝料を支払った側の立場から、求償権の基本的な考え方と、実際に負担を求められるかどうかを分ける要素を整理します。男女いずれの立場でも考え方は同じです。
求償権とは|二人で負うべき責任の偏りを調整する権利
配偶者のある人と性的関係を持った場合、不貞をした配偶者とその相手方は、他方配偶者に対して「共同不法行為」(民法709条・710条・719条)に基づく損害賠償責任を負うと考えられています。この二人の責任は「不真正連帯債務」と呼ばれる関係に立ちます。
不真正連帯債務の特徴は、請求する側が、二人のうちどちらに、いくら請求するかを自由に決められる点にあります。慰謝料が100万円と評価される事案であれば、請求者は不倫相手だけに100万円を請求してもよく、請求された側は「自分の責任は半分だから50万円しか払わない」と主張して支払いを拒むことは、原則としてできません。
離婚しない事案では、配偶者本人ではなく不倫相手だけに請求が向かうことがよくあります。家計が同じである以上、配偶者に請求しても実質的な意味が乏しいためです。
その結果、二人で負うべき責任を一方だけが負担する状態が生じます。この偏りを当事者間で調整するのが求償です。慰謝料100万円を全額支払い、二人の負担割合が5対5と評価されるのであれば、支払った側は相手方に50万円の支払いを求めることができる、というのが基本形になります。
求償が認められる前提|「自己の負担部分を超えて支払ったこと」
まず押さえておきたいのは、支払えばいつでも求償できるわけではない、という点です。
民法442条1項は、連帯債務者の一人が弁済したときは「自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」他の債務者に負担部分に応じた求償ができると定めています。もっとも、不貞慰謝料のような不真正連帯債務については、自己の負担部分を超えて支払った場合に、その超えた部分について求償できるという整理で運用されるのが実務上一般的です。
ここから、実際には次の3点が問題になります。
分割払いの途中は行使できないことがある
示談で分割払いを取り決めた場合、支払済みの合計額が自分の負担部分を超えていなければ、その時点ではまだ求償できる状態にないと考えられます。求償を検討するのは、原則として支払いを終えた後になります。
「払った額」ではなく「適正な賠償額」が出発点になる
見落とされがちなのが、求償の計算の土台となるのは、あくまでその事案で相当と評価される慰謝料額だという点です。
たとえば、裁判になれば100万円程度と評価される事案で、早期に解決したいという事情から200万円を支払ったとします。このとき「200万円の半分だから100万円を求償できる」とは限りません。相手方からは「その支払いは相場を大きく超えており、超過分まで負担する理由はない」「あなたが支払った額は、あなた自身の負担部分を超えていない」といった反論が想定されます。
求償を視野に入れているのであれば、支払いの段階で金額の妥当性を検討しておくことが重要になります。支払った後から相手に転嫁できる、と考えて高額な示談に応じるのは避けたいところです。慰謝料額そのものの考え方については、別のコラムで整理しています。
相手方が支払義務を負わないケースもある
相手方が既婚者であることを知らず、知らなかったことに落ち度もなかったと評価される場合や、関係を持った時点ですでに婚姻関係が破綻していたと評価される場合には、そもそも相手方が賠償責任を負わないことがあります。責任を負わない相手に対しては、求償も認められません。
負担割合はどう決まるか|5対5が固定ルールではない
求償できる金額は、二人の間の責任割合(負担部分)によって決まります。
説明の便宜上5対5と表現されることが多く、実際にそう扱われる事案も多いのですが、これは法律で決められた比率ではありません。裁判例には、婚姻関係を悪化させた主たる責任は配偶者にあり、相手方の責任は副次的なものだとして、配偶者側を重く見た割合(7対3、6対4など)を認定したものもあります。
割合の判断で考慮されやすいのは、おおむね次のような事情です。
- 関係を持つに至った経緯(どちらが主導的・積極的であったか)
- 既婚であることを隠していたか、正確に伝えていたか
- 職場での地位や年齢差など、当事者間の力関係
- 関係の期間・頻度
- 婚姻関係の悪化に対する寄与の度合い
- 不貞以外の事情(別の相手との関係、暴力など)が婚姻関係の破綻に影響していないか
つまり、負担割合は事案ごとの個別判断です。「半分は必ず返ってくる」という前提で動くと、見込みが外れることがあります。
なお、双方に配偶者がいるいわゆるダブル不倫の場合は、それぞれの配偶者に対する賠償関係が並行して存在するため、金額の整理はさらに複雑になります。
支払う前に確認したい|求償権放棄条項と清算条項の違い
求償をめぐる争いの多くは、示談書の文言に起因します。支払いを終えた後に気づいても取り返しがつきにくいため、サインの前が最も重要な場面です。
求償権放棄条項
慰謝料を請求する側が離婚を考えていない場合、「不倫相手から慰謝料を受け取っても、配偶者が求償されれば家計から出ていってしまう」という懸念が生じます。そのため、示談書に「求償権を放棄する」旨の条項を求められることがあります。
いったん放棄すれば、後から相手方に負担を求めることは原則としてできなくなります。高額な慰謝料と求償権の放棄を同時に求められている場合は、そのまま応じると、二人分の責任を一人で最終的に負担する結果になりかねません。
一方で、求償権の放棄は交渉材料にもなります。放棄する代わりに慰謝料そのものを減額してもらうという進め方であれば、後から回収できないリスクを負わずに済み、支払う側にとって合理的な選択となる場合もあります。放棄の可否そのものより、放棄と金額のバランスが取れているかを検討することになります。
清算条項は求償権の放棄と同じではない
「本件に関し、当事者間には本示談書に定めるほか何らの債権債務が存在しないことを確認する」といった清算条項は、原則としてその示談の当事者間(=請求者と自分の間)の関係を清算するものです。求償の相手方となる不倫相手本人は、その示談の当事者ではないことが通常です。
そのため、清算条項があるというだけで、不倫相手に対する求償権まで当然に失われるとは限らないと考えられます。もっとも、条項の書き方によっては求償権を放棄した趣旨だと解釈される余地もあり、争いになることがあります。求償を残したいのであれば、その旨を明示しておくのが安全です。
三者間での取り決め・訴訟告知
求償をめぐる後日の紛争を避ける方法として、請求者・配偶者・相手方の三者で示談を行い、内部の負担割合まで併せて定めておく方法があります。訴訟を起こされた場合には、もう一方の当事者に訴訟告知をして手続に関与を促すという選択肢もあります。
いずれも請求者側の心情に影響しうるため、早期の解決を優先するか、求償関係を残さないことを優先するかを比較して判断することになります。
求償権を行使する前に|現実的なハードルを確認する
権利があることと、実際に回収できることは別の問題です。行使を検討する際は、次の点を確認しておくとよいでしょう。
任意に応じてもらえるとは限らない
相手方が支払いを拒めば、最終的には訴訟で決着をつけることになります。弁護士費用や裁判所に納める費用が生じ、負担割合についても改めて争われます。
回収できるだけの資力があるか
判決を得ても、相手方に資力がなければ現実の回収は困難です。
請求者との関係が再燃するおそれ
示談に接触禁止条項が入っている場合、求償のために相手方へ連絡を取ることが問題視される可能性があります。求償権の行使自体は正当な権利であり、そのための連絡は接触の正当な理由に当たると考えられますが、「求償を口実に接触した」と受け取られ、いったん収まった紛争が蒸し返されるおそれは残ります。連絡方法や範囲には慎重さが必要です。
相手方が婚姻関係を継続している場合
求償に応じた金銭が家計から出ていくのであれば、請求者側からすれば受け取った慰謝料が目減りすることになります。ここが感情的な対立を生みやすい部分です。
求償権の時効|支払った時点から進行する
求償権は、慰謝料そのものの請求権とは別の債権です。消滅時効は民法166条1項により、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年と考えられています。起算点は、原則として自分が支払いをした時点です。
不貞慰謝料そのものの時効(民法724条・被害者が損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年)とは期間も起算点も異なる点に注意が必要です。分割で支払った場合は、各支払いごとに考えることになります。
逆に、求償を受けた場合の考え方
配偶者の不倫相手から求償を求められる立場になることもあります。この場合も、請求されたからといって直ちに応じる義務が確定するわけではありません。
- 相手方が実際にいくら支払ったのか(示談書・振込記録の確認)
- その額が、その事案で相当な賠償額として妥当な範囲か
- 自分の負担部分を超えているといえるか
- 負担割合をどう評価すべきか
- すでに自分自身も配偶者に対して支払いをしていないか
これらを確認せずに提示額をそのまま受け入れると、本来の負担を超えて支払うことになりかねません。
慰謝料を支払った後に整えておきたいこと
- 示談書の原本と、支払いを証明する資料(振込明細など)を保管する 支払った事実と金額が求償の出発点になります。
- 示談書に求償権に関する条項がないか確認する 放棄条項の有無で取りうる選択肢が変わります。
- 相手方の連絡先・住所を把握しているか確認する 把握できていない場合、請求の前段階で手続が必要になることがあります。
- やり取りの記録を残し、自分から削除しない 関係の経緯や主導性は、負担割合の判断材料になります。
- 感情的な直接交渉は避け、書面でのやり取りを基本にする 度を越えた取り立ては、別の法的問題を生じさせるおそれがあります。
まとめ
- 不貞慰謝料は不真正連帯債務であり、一方が全額を支払った場合、他方に負担を求める求償権が問題になります。
- 求償は「自己の負担部分を超えて支払った部分」について認められるのが実務上の一般的な整理であり、相場を大きく超えて支払った分まで当然に転嫁できるとは限りません。
- 負担割合は5対5が固定ルールではなく、経緯・主導性・立場・期間などによって変わります。配偶者側を重く見た裁判例もあります。
- 求償権を放棄する条項にサインすると、後から負担を求めることは原則としてできません。放棄するのであれば、慰謝料額の減額と釣り合っているかを検討することになります。
- 権利があっても、相手方の資力や紛争再燃のリスクから、実際の回収が容易でない場合もあります。
- 時効は支払った時点から進行します。
求償をめぐる問題は、「支払う前の交渉」と「支払った後の対応」が連続しています。示談書に署名する前の段階でご相談いただければ、選べる選択肢は広くなります。すでに支払いを終えている場合でも、示談書の内容次第で取りうる方法が残っていることがあります。判断に迷われた際は、早めに弁護士へご相談ください。


