【不貞慰謝料】反論の全体地図|どの主張をどの順で立てるか
配偶者の様子が気になり、置かれていたスマートフォンの画面を開いてしまった。そこに見覚えのないやり取りが残っていた。このようなご相談は少なくありません。そして次に出てくるのが、「勝手に見たものでも証拠として使えるのか」「見たこと自体を責められないか」という不安です。
この点については、「使える」「違法だからだめ」という単純な二択で説明されることが多いのですが、実際の場面はもう少し細かく分かれています。画面を見た行為、その内容を手元に残した行為、そしてそれを交渉や裁判で示す行為は、それぞれ別の場面で別の評価を受けるからです。
この記事では、配偶者のスマートフォンをのぞき見て得た資料について、どの段階で何が問われるのかを順に整理します。請求する側だけでなく、そのような資料を突きつけられた側の見方にも触れます。なお、見つけたやり取りの中身がどこまで不貞行為を示すかという評価そのものは、別のテーマとして扱っています。
まず三つの段階に分けて考える
「勝手に見た証拠は使えるのか」という問いには、性質の違う三つの問題が混ざっています。分けて考えると、どこに注意すればよいのかが見えやすくなります。
| 段階 | その段階で起きていること | 後から問われやすいこと |
|---|---|---|
| 見る | 画面の内容を知る | どのように画面を開いたのか |
| 残す | 内容を複写して手元に持つ | どの範囲をどんな方法で残したのか |
| 出す | 交渉や裁判の場で示す | どこから出てきた資料なのか |
多くの解説は「見る」段階の適否だけを扱っています。しかし実務で問題になりやすいのは、むしろ「残す」段階での行き過ぎと、「出す」段階で取得の経緯が明らかになることです。
見ただけでは、手元に何も残らない
記憶と資料は別のもの
画面を見て内容を知ったとしても、それだけでは手元には何も残りません。後の話し合いや裁判で示せるのは、記憶ではなく形のある資料です。
「配偶者のスマートフォンでこういうやり取りを見た」という説明は、そのままでは自分の言い分にとどまります。相手が否定した場合、それを裏づけるものが別に必要になります。この点は、見た内容がどれほど印象的であったとしても変わりません。
見たことを伝えると、記録が動くことがある
のぞき見の場面に特有の事情として、見た事実を相手に伝えた時点で、その後の記録の残り方が変わってしまうことがあります。やり取りが削除されたり、端末やアカウントが変更されたり、連絡手段が別のものに移ったりするためです。
問い詰めることで説明を引き出せる場合もありますが、同時に確認できる範囲が狭くなることもあります。どの順序で進めるかは、いま何を確かめたいのかによって変わってきます。
どのように画面を開いたかで、評価の重さが変わる
同じ「勝手に見た」でも、その開き方には幅があります。ここは評価が分かれやすいところなので、段階に分けて見ておきます。
| 画面の開き方 | 起きていること | 言われやすいこと |
|---|---|---|
| ロックのかかっていない端末を操作した | 表示されている内容を見た | 侵害の程度は比較的低いと評価されやすい |
| 暗証番号を推測したり見ておいたりして解除した | 解除の手段を自分で用意した | 意図してのぞいたと受け取られやすい |
| 眠っている間に生体認証を使った | 本人の身体を用いて解除した | 評価が定まっておらず争いになりやすい |
| 自分の端末やパソコンからIDとパスワードを入力した | 回線を通じて相手のアカウントに入った | 刑事の規定が問題になる場面とされる |
| 記録を取り続けるアプリを入れた | 継続して情報を取得し続けた | 一度の閲覧とは別の重さで見られやすい |
刑事の場面で分かれ目とされているところ
刑事の規定との関係では、端末のロックを解除して本体に保存された内容を見ただけの場合と、回線を通じて他人のIDやパスワードを入力してアカウントに入った場合とを分けて説明されるのが一般的です。前者については、この場面をそのまま処罰する規定は置かれていないと考えられています。
もっとも、これは「何も問題がない」という意味ではありません。刑事の規定に触れないことと、民事上の責任を負わないこととは別に判断されます。この区別は次の章で改めて触れます。なお、アカウントへのログインが問題になる場合の細かい要件については、別の記事で扱っています。
家族だから当然に許される、という特例はない
「夫婦なのだから見ても構わないはずだ」と考える方は少なくありません。しかし、家族の間であればこの種の行為が当然に許されるという特例が用意されているわけではありません。財産に関する一部の犯罪について家族間の特例が置かれていることはありますが、それとは別の話です。
一方で、日ごろから端末を共用していた、暗証番号を互いに知らせていた、家族が使うことを前提に設定されていたといった事情がある場合には、そもそも無断とは言いにくいという見方もあり得ます。どのような使い方をしていた端末なのかは、実際の評価に影響します。
どのように手元に残したかで、後から問われることが変わる
競合する解説の多くは「見る」段階で話を終えていますが、実際に争いになりやすいのは残し方のほうです。同じ内容でも、残す方法によって相手に残る痕跡も、侵害の程度の評価も変わります。
| 残し方 | 手元に残るもの | 問われやすいこと |
|---|---|---|
| 自分の端末で画面を撮る | 撮影した画像や動画 | 相手の端末に操作の跡が残りにくい |
| 相手の端末で撮って自分に送る | 画像とその送信の記録 | 送信の記録が相手の端末に残る |
| 端末のデータをまとめて複製する | やり取り以外の情報も含む一式 | 必要な範囲を超えていないか |
| 継続して記録を取り続ける | 期間を通じた記録 | 一度の閲覧より重く評価されやすい |
なお、撮り方や保管の手順といった技術的な注意点は、証拠の残し方を扱った別の記事にまとめています。ここでは、方法の選び方が後の評価につながるという点にとどめます。
必要な範囲を超えると、行き過ぎと受け取られやすい
確かめたいのが特定の相手とのやり取りであるにもかかわらず、端末の中身を丸ごと持ち出したり、無関係のフォルダまで複製したりすると、目的に対して手段が広すぎるという指摘を受けやすくなります。
継続して記録を取り続ける方法についても同じことがいえます。一度画面を見た場合と、期間を通じて取得し続けた場合とでは、受ける評価の重さが変わってきます。無断で記録用のアプリを導入する行為は、それ自体が別の刑事の規定に触れるおそれがある点にも注意が必要です。
民事の裁判で、証拠として扱われるのか
証拠能力を一般に制限する規定は置かれていない
民事訴訟には、集め方に問題のある資料の取調べを一般的に禁じる規定は置かれていません。そのため、収集の過程に問題があったとしても、そのことだけを理由に取り調べてもらえなくなるとは限らない、というのが一般的な説明です。
裁判例では、著しく反社会的な手段を用い、人格権の侵害を伴う方法で集められた資料については証拠能力を否定すべきである、という考え方が示されてきました(東京高裁昭和52年7月15日判決)。逆にいえば、そこまでに至らない場合には取り調べられることがある、という整理になります。
申出が却下された例では何が違ったのか
実際に証拠としての申出が退けられた例もあります。夫が弁護士に見せることを前提に作成していた書面が、別居した後に住居に立ち入った配偶者によって持ち出され、相手方に渡されて提出されたという事案で、裁判所は、その性質と入手の方法からみて提出することに強い反社会性があり、当事者が信義に従い誠実に訴訟を追行すべきであるという原則に反するとして、申出を退けました(東京地裁平成10年5月29日判決)。
注意したいのは、この事案が別居後に住居へ立ち入って持ち出したという事情を含んでいる点です。同居している家庭の中で、手元にある端末の画面を見た場合と同じ土俵で語れるものではありません。集め方が問題視されるかどうかは、行為の性質と程度によって分かれます。
取り調べられることと、重く受け止められることは別
見落とされやすいのですが、証拠として取り調べてもらえることと、その資料が判断の決め手として重く扱われることは別の問題です。先ほどの高等裁判所の判断でも、証拠能力自体は認められた一方で、その証明力は低く評価され、示そうとした事実の認定には結びついていません。
「使えるかどうか」だけを気にして集めた資料が、実際にはあまり重みを持たないということもあり得ます。何をどこまで示せる資料なのかという視点は、集める段階から持っておいたほうがよいところです。
見られた側から請求を受けることがある
どのような事情が考慮されるのか
端末の中身を無断で見る行為は、家族の間であってもプライバシーの侵害として、民法上の不法行為にあたる可能性があると説明されます。つまり、こちらが不貞を理由に請求する一方で、相手からは見られたことを理由に請求されるという場面が生じ得ます。
もっとも、責任が認められるかどうかや、その金額は、行為の目的や必要性、開き方、知られた情報の内容、その後の扱い方といった事情を踏まえて判断されます。不貞を疑う相応の事情があった中での確認であれば、責任自体が否定されることもあり、認められる場合でも不貞を理由とする慰謝料と比べて低い水準で判断されることが多いとされています。
端末の中には第三者の情報も入っている
あまり語られていない点ですが、配偶者の端末に残っているのは配偶者自身の情報だけではありません。やり取りの相手方の情報も、そこには含まれています。範囲を広げて持ち出した場合には、交際相手や、事案とは無関係の第三者との関係でも問題になり得るという点は意識しておいたほうがよいところです。
あわせて、手元に残した内容をどう扱うかにも注意が必要です。弁護士に相談するために示すことと、勤務先や親族、インターネット上といった外部に見せることとでは、意味がまったく異なります。後者に及ぶと、集め方とは別に、広めた行為そのものが責任を問われる場面につながります。
請求を受けた側から見たとき
「勝手に見たものだから使えない」という主張はどこまで通るか
スマートフォンの内容を示されて請求を受けた側からは、集め方を理由に証拠として扱わないよう求めたい、という声がよく聞かれます。しかし前述のとおり、民事では取り調べられることがある以上、この主張だけで話が終わることは多くありません。
現実的には、その資料から何がどこまで読み取れるのかという中身の議論のほうが中心になります。断片的なやり取りが切り取られている場合や、日時や相手の特定が十分でない場合には、そこを具体的に指摘していくことになります。
別に請求できることと、慰謝料が下がることは別
見られたこと自体について請求できる余地があるとしても、それによって不貞を理由とする慰謝料が当然に減るわけではありません。二つは別の問題として扱われるのが基本です。
もっとも、話し合いの場面では、双方が互いに言い分を持っている状態そのものが解決の内容に影響することはあります。何を主張し、どこで折り合うのかは、手元にある資料の内容によって変わってきます。
画面を開く前に整理しておきたいこと
迷ったときは、行動に移す前に次の点を確かめておくと、後から取り返しがつかない形になりにくくなります。
- 何を確かめたいのかを具体的にする。相手を特定したいのか、関係の期間を知りたいのか、目的によって必要なものが変わる。
- 確かめた後にどうしたいのかを先に考える。離婚を前提にするのか、関係の修復を望むのかで、取るべき順序が変わる。
- すでに手元にあるものを見直す。共有しているアルバムや家計の記録など、無理のない範囲で確認できるものが残っていることもある。
- 広げすぎないようにする。目的に必要な範囲を超えた持ち出しは、後で不利に働くことがある。
- 見つけたものをどこまで人に見せるかを決めておく。相談のために示すことと、外部に広めることは別である。
よくある質問
ロックがかかっていない端末を見た場合も問題になりますか
開いた状態で置かれていた画面や、通知として表示された内容をたまたま目にした場合は、意図してのぞいた場合と比べて侵害の程度が低いと評価されやすい場面です。ただし、そこから先へ操作を進め、範囲を広げて内容を見ていけば、評価も変わってきます。
自分名義の端末を配偶者に持たせている場合はどうなりますか
契約や支払いの名義がどちらであるかは事情の一つになりますが、それだけで自由に中身を見てよいことになるわけではありません。実際に誰がどのように使っていた端末なのか、共用の実態があったかどうかが問われます。
見つけた内容は、それだけで不貞の証拠になりますか
やり取りの内容がどこまでを示すかは、文面の性質や日時、相手の特定といった要素によって変わります。この評価そのものは集め方とは別の問題で、別の記事で詳しく扱っています。
見たことを相手に伝えるべきでしょうか
伝えることで説明を求められる一方、記録が整理されてしまうこともあります。手元にどの程度の資料がそろっているか、どの段階まで進めたいのかによって判断が変わるため、伝える前に一度整理しておくことをおすすめします。
まとめ
- 「勝手に見た証拠は使えるのか」という問いは、見る、残す、出すの三つの段階に分けて考えると整理しやすい。
- 見ただけでは形のある資料は残らず、伝えた時点で記録の残り方が変わることがある。
- 画面の開き方には幅があり、ロックの解除にとどまる場合と、回線を通じてアカウントに入る場合とでは扱いが分かれる。
- 残し方によって相手に残る痕跡も評価も変わり、必要な範囲を超えた持ち出しは行き過ぎと受け取られやすい。
- 民事では取り調べられることがある一方、著しく反社会的な手段による場合には申出が退けられた例もある。
- 取り調べられることと重く扱われることは別で、証明力が低く評価された裁判例もある。
- 見られた側から請求を受けることがあり、端末には第三者の情報も含まれている点にも注意がいる。
スマートフォンから見つけた資料の扱いに迷ったときは
手元にある資料が何をどこまで示せるものなのか、これ以上進めてよいのかという判断は、状況によって変わります。行動に移す前であれば選べる方法が残っていることも多く、すでに見てしまった後であっても、その扱い方を整えることで負担を小さくできる場合があります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談をお受けしています。証拠の集め方や、相手方への伝え方でお困りの際は、お一人で判断される前にご相談ください。


