【不貞慰謝料】なぜ『300万円』という数字が独り歩きするのか|相場情報の読み方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞をめぐる慰謝料について調べ始めると、多くの方が最初に目にするのが「300万円」という数字です。相場を説明する記事にも、届いた内容証明の請求額にも、事務所が公開する解決事例の見出しにも、この数字は繰り返し登場します。その結果、「不貞の慰謝料といえば300万円」という印象が、当事者の間でも周囲の会話の中でも広まりやすくなっています。

 もっとも、同じ「300万円」でも、それが何を指しているのかは場面によって異なります。請求書に書かれた金額なのか、裁判所が判決で認めた金額なのか、話し合いの末に合意された金額なのかで、意味はまったく違います。この区別がないまま数字だけが伝わると、請求する側は「その額を受け取れるはずだ」と考え、請求を受けた側は「その額を払わなければならない」と受け止めてしまうことがあります。

 この記事では、金額そのものの決まり方ではなく、「300万円」という数字がどこから来て、なぜ独り歩きするのか、そして相場に関する情報をどう読めばよいのかを整理します。数字に振り回されずに自分の事案を見るための、いわば読み方の手引きです。

「300万円」はどこで見かける数字なのか

 まず確認しておきたいのは、慰謝料の金額について法律が具体的な数字を定めているわけではないという点です。不貞行為に基づく慰謝料は、民法709条・710条を根拠とする損害賠償の一種ですが、これらの条文に算定式や上限額は書かれていません。つまり「300万円」は法律上の基準ではなく、実務や情報発信の中で目立つようになった数字です。

 この数字が出てくる場面は、大きく分けて3つあります。

見かける場面そこでの「300万円」の意味受け取るときの注意点
相場の説明(「50万円〜300万円」など)過去の事例の幅の上端に近い数字幅の上端であって、中心の数字ではない
届いた請求書・内容証明の金額請求する側が提示した希望額相手の主張であって、支払義務が確定した額ではない
事務所が公開する解決事例の見出しその1件で実際に動いた金額どのような事案かによって前提が大きく異なる


 いずれも「300万円」という同じ表記ですが、性質はまったく別のものです。相場の幅の上端は統計的な位置を示すもの、請求額は交渉の出発点、解決事例は個別の結果です。ここが混ざったまま記憶に残ると、数字だけが実態から離れて歩き出します。

 なお、「相場」という言葉自体が請求額・認容額・示談額のどれを指すのかという整理は、当事務所の別の記事で詳しく扱っています。本記事では、そのうち特に「300万円」という数字に絞って見ていきます。

数字が独り歩きしやすい5つの理由

 特定の数字が実態以上に強い印象を持つのには、いくつかの理由が重なっています。

  1. 幅のうち上端だけが記憶に残りやすい。「50万円〜300万円」と書かれていても、印象に残るのは大きいほうの数字であることが多く、下端や中間の帯は忘れられやすい傾向があります。
  2. きりのよい数字は請求額として選ばれやすい。交渉では、その後の話し合いで金額が動くことを見込んで、はじめに高めの数字を提示する進め方が取られることがあります。100万円や300万円といった区切りのよい額は、その出発点として使われやすい数字です。
  3. 高い金額の事例ほど記事や話題になりやすい。低い金額で静かに終わった事案は、そもそも表に出てきません。目に触れる情報は高額寄りに偏りやすく、その偏りは読み手からは見えにくいという性質があります。
  4. 古い情報が残り続ける。ウェブ上の記事は公開後もそのまま残るため、何年も前の記載が現在の説明と並んで表示されることがあります。更新日が示されていない記事も少なくありません。
  5. 人から人へ伝わる過程で条件が落ちる。「離婚に至った事案で」「婚姻期間が長く」といった前提は、口伝えやSNSでのやり取りの中で省略されがちで、結果として金額だけが残ります。


 ここで押さえておきたいのは、300万円という数字自体が誤りだというわけではないということです。実際にその前後の金額で解決している事案は存在します。問題なのは、その数字が「どの場面の、どういう条件での数字か」という情報を失ったまま流通してしまう点にあります。

相場情報を読むときの7つの確認点

 金額に関する記載を目にしたとき、次の点が書かれているかどうかを確認すると、その情報がどこまで自分の事案に当てはまるかを判断しやすくなります。

確認すること見るポイント
どの段階の金額か請求額・判決で認められた額・話し合いで決まった額のどれか
夫婦関係がどうなった事案か同居を続けたのか、別居に至ったのか、離婚したのか
誰に対する金額か不貞相手だけか、配偶者だけか、両方を合わせた総額か
婚姻期間や不貞の期間前提となる事情が自分の事案と近いか
情報の時点公開日や更新日が示されているか
数字の出どころ裁判例、書籍、統計、自社の取扱実績のどれに基づくか
条件が付いていないか「〜の場合には」という限定が本文中に置かれていないか


 これらのうち1つでも欠けていると、その数字は自分の事案に直接あてはめにくくなります。逆に言えば、条件が丁寧に示されている情報ほど、参考にできる範囲がはっきりしているということです。

 特に見落とされやすいのが3つめの「誰に対する金額か」です。不貞の慰謝料では、配偶者と不貞相手の双方が責任を負う場合がありますが、被害を受けた側が受け取れる総額は1つであり、両方から重ねて満額を受け取れるわけではありません。「配偶者から300万円、相手からも300万円」という理解にはならない点は、記事によっては触れられていないこともあります。

「解決事例」や「◯%」という表示をどう読むか

 法律事務所のサイトには、解決事例や取扱実績の集計が掲載されていることがあります。これらは事案の具体的な進み方を知るうえで参考になる情報ですが、読み方には少し注意が必要です。

母集団が示されているかどうか

 「◯%が減額に至った」といった表示を見かけることがありますが、その割合が何件中の何件なのか、どの期間の事件を対象にしたのか、どの範囲の事案を含めたのかまで示されているケースは多くありません。分母が分からない割合は、他の事務所の数字と単純に比べることができません。

公開されるのは選ばれた事例であること

 解決事例として紹介されるのは、説明しやすい事案や、経過が分かりやすい事案が中心になります。これは各事務所に共通する事情であり、意図的な誇張とは限りません。ただし読み手の側では、公開されている事例が全体の平均を表しているわけではないという前提で受け止めておくほうが安全です。

 当事務所を含め、事務所が公開する情報にはこうした性質があります。数字を見比べて事務所を選ぶよりも、自分の事案の事情を伝えたうえで、その事案についてどう見立てるかを聞くほうが、判断の材料としては確かなものになります。

請求する側が「300万円」という数字を出すとき

 請求する立場では、最初に高めの金額を提示しておきたいと考えるのは自然なことです。実際、その後の交渉で金額が下がることを見込んで、区切りのよい数字から入る進め方が取られることもあります。

 ただし、この進め方には次のような側面もあります。

  • 金額の根拠を説明できないまま高額を提示すると、相手方に交渉の姿勢を疑われ、話し合いが長引くことがある。
  • 相手が弁護士に依頼するきっかけとなり、以後のやり取りがすべて代理人経由になることがある。
  • 相手方に支払う資力がない場合、合意しても回収が進まず、金額の大小が実際の受取額に結びつかないことがある。
  • 分割払いになった場合、総額よりも支払期間や不履行時の取り決めのほうが結果を左右することがある。


 金額の設定は、事案の事情、手元にある資料、相手方の状況、どのくらいの期間で解決したいかといった要素を踏まえて考えるものです。「300万円が相場だから」という理由だけで決めた数字は、交渉の場では支えを持ちにくいといえます。

請求を受けた側が「300万円」を見たとき

 一方、請求書に300万円と書かれているのを見た側は、その金額に強い衝撃を受けることが少なくありません。ただ、この段階で確定しているのは「相手がその額を求めている」ということだけです。

 落ち着いて確認したいのは、次のような点です。

  • どの行為について、いつからいつまでの事実を主張しているのか。
  • その主張を裏づける資料として、何が示されているのか。
  • 夫婦関係がどうなったと主張されているのか(同居継続か、別居か、離婚か)。
  • 支払時期や分割の可否、清算に関する取り決めがどう書かれているのか。
  • 回答の期限として、いつまでにと書かれているのか。


 「相場より高い」という反論そのものは、交渉の材料にはなり得ますが、それだけで金額が動くとは限りません。事案の事情に即して、どの点が主張と食い違うのか、どの事情が考慮されるべきなのかを具体的に示していくほうが、話は進みやすくなります。反論の組み立て方については、当事務所の減額に関する記事もあわせてご覧ください。

300万円に近い金額が動きやすいのはどのような場面か

 実務上の目安として語られる金額の幅は、夫婦関係がその後どうなったかによって整理されることが一般的です。同居を続けた場合よりも別居に至った場合、別居よりも離婚に至った場合のほうが、示される帯は上に動く傾向があります。300万円という数字は、このうち離婚に至った事案について語られる帯の上端付近に位置する数字です。

 そのため、300万円前後の金額が現実味を持つのは、離婚に至ったうえで、婚姻期間の長さ、不貞行為の期間や態様、発覚後の対応といった事情が重なっている場面が中心になります。逆に、同居が続いていて夫婦関係にも大きな変化がない事案でこの金額が語られている場合には、その根拠がどこにあるのかを確認したほうがよいでしょう。

 どの事情がどの向きに働くのかについては、増額に関わる事情と減額に関わる事情を扱った記事で個別に整理しています。ここでは、300万円は「離婚に至った事案の帯の上のほう」に位置する数字であるという位置づけだけ押さえておけば十分です。

よくある質問


300万円を請求されました。この額を払わないといけないのでしょうか

 請求書に書かれた金額は、相手方が求めている額です。支払う義務の有無や範囲は、事実関係と資料、夫婦関係の状況を踏まえて判断されます。金額の妥当性を検討する前に、どの事実がどこまで認められる状況なのかを整理することをおすすめします。

相場が300万円なら、300万円で請求してよいのでしょうか

 請求する金額に法律上の制限はありませんので、300万円を提示すること自体は可能です。ただし、その金額が事案の事情と結びついていないと、交渉の中で説明に窮することがあります。何を根拠にその額とするのかを整理してから提示するほうが、話は進めやすくなります。

事務所によって書かれている金額が違うのはなぜですか

 対象としている事案の範囲、夫婦関係の場面の分け方、参照している資料が事務所ごとに異なるためです。どの前提での数字なのかが示されているかどうかを見比べると、違いの理由が見えやすくなります。

ネットで見た金額と、弁護士に言われた金額が違います

 ウェブ上の情報は不特定多数に向けた一般的な説明であるのに対し、相談の場で示される見通しは、その事案の事実関係と資料を前提としたものです。前提が違えば結論も変わります。差が出た理由をその場で確認してみるとよいでしょう。

まとめ

 「300万円」という数字との付き合い方を、あらためて整理します。

  1. 法律に慰謝料の算定式や上限額の定めはなく、300万円は法律上の基準ではない。
  2. 同じ300万円でも、相場の幅の上端・請求額・個別の解決事例では意味が異なる。
  3. 上端だけが記憶に残る、きりのよい数字が請求額に選ばれやすい、高額な事例ほど表に出やすいといった事情が重なって、数字は独り歩きしやすい。
  4. 情報を読むときは、どの段階の金額か、夫婦関係がどうなった事案か、誰に対する金額か、いつの情報かを確認する。
  5. 「◯%」といった集計は、母集団が示されているかどうかで意味が変わる。
  6. 請求する側も受けた側も、数字から入るのではなく、事案の事実と資料から組み立てる。


 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料について、請求する立場・請求を受けた立場のいずれからのご相談もお受けしています。手元にある資料や届いた書面をもとに、その事案でどのような点が問題になるのかを整理してお伝えします。金額の数字だけでは判断しにくいと感じられた際は、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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