【カスハラ対策】厚労省指針が定める措置は10項目|どれから手をつけるか

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

「10項目と言われても、うちは私と学生アルバイトが2人だけです。何から手をつければいいのでしょうか」。2026年10月1日の施行が近づくにつれ、小さな店舗や事務所を営む方から、こうしたご相談が届くようになりました。一方で、「対応マニュアルは一応作ったのですが、これで義務を果たしたことになるのかが分かりません」という、すでに動き出した事業主の方からのご相談もあります。

 カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)対策として事業主が講じなければならない措置が10項目である、という説明は、すでに多くの記事で見かけます。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、10項目は横一列に並んだ10個の作業ではなく、性質の異なるものが混ざっています。文書を1枚整えれば形になるものもあれば、あらかじめ決めておかなければ現場が止まってしまうものも、実際に起きてから動くための手順もあります。順番を意識せずに上から順に着手すると、手間の割に現場が変わらない、ということが起こりがちです。

 この記事では、指針(令和8年厚生労働省告示第51号)と、その運用を示した通達(令和8年4月24日付け雇均発0424第2号)、および厚生労働省が公表したQ&Aをもとに、10項目それぞれの中身と、どこから手をつけるかの考え方を整理します。義務の対象となる事業主の範囲そのものや、正当なクレームと悪質なクレームの線引きについては別のコラムで扱っていますので、本稿では立ち入りません。

「10項目」はどこに書かれているのか

根拠は令和8年厚生労働省告示第51号

 2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスハラの防止措置が事業主の義務となりました。施行日は2026年10月1日です。そして、事業主が具体的に何をすればよいのかを定めたものが、2026年2月26日に公布された「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)です。この指針は、法33条4項に基づいて厚生労働大臣が定めたものにあたります。

「10」という数え方の出どころ

 指針の第4は、講ずべき措置を5つのまとまりに分けて書いています。そのまとまりの中がさらにイ・ロ・ハと枝分かれしており、これを数えると10になります。厚生労働省のリーフレットは、この10個に①から⑩までの番号を振って示しています。通達も、指針4が講ずべき措置として10項目を挙げていることを明記したうえで、企業の規模や職場の状況のいかんを問わず必ず講じなければならないものと述べています。

やり方までは決められていない

 もっとも、指針に書かれている具体例は限定列挙ではありません。通達も、措置の方法については企業の規模や職場の状況に応じて適切と考えるものを事業主が選択できるよう例を示したものだ、と説明しています。つまり、10項目という枠は共通でも、中身の詰め方は事業所ごとに違ってよいということです。だからこそ、「うちの規模ではこう読む」という翻訳作業が必要になります。

10項目を5つの柱に分けて見る

 厚生労働省のリーフレットの整理に沿って一覧にすると、次のようになります。

番号措置の内容
方針等の明確化と周知・啓発カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
方針等の明確化と周知・啓発カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
相談体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
相談体制の整備相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に確認する
事後の迅速かつ適切な対応被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
事後の迅速かつ適切な対応再発防止に向けた措置を講ずる
抑止のための措置特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、その対処を行える体制を整備する
併せて講ずべき措置相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
併せて講ずべき措置相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する


セクハラやパワハラの10項目とは中身が違う

 ハラスメント関係の措置義務は、いずれも10項目という形に整理されています。数が同じなので同じ内容だと受け取られがちですが、カスハラには「行為者に対する措置を適正に行う」という項目がありません。行為者が自社の労働者ではないため、懲戒などの社内処分という手段が使えないからです。その代わりに置かれているのが⑧の抑止のための措置です。厚生労働省のリーフレットも、他のハラスメントの措置とは異なる内容の部分に印を付けて示しています。

⑧は「あらかじめ決めておく」ことが義務

 ⑧について指針が挙げている対処の例は、犯罪に該当し得る言動についての警察への通報、行為者に対する警告文の発出、法令の制限内での商品の販売やサービス提供の停止、店舗や施設への出入禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てです。ここで義務とされているのは、これらの中から自社の実態に合う方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、実際に動ける体制を整えることです。個別の事案で必ず出入禁止にしなければならない、という意味ではありません。

どれから手をつけるか——3つの層に仕分ける

第1層 まず1つの文書にまとめる(①②⑧)

 最初に手をつけたいのは②です。指針が対処の内容の例として挙げているのは、管理監督者等へ直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、やり取りを録音・録画すること、十分な説明をしてもなお繰り返しの要求が続く場合に一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりすること、犯罪に該当し得る言動について警察へ通報すること、現場での対応が困難な場合に本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐこと、法的な手続が必要な場合に法務部門等と連携して弁護士へ相談することです。これが現場の背骨になります。

 ①の方針は、この対処の内容の冒頭に「カスハラには毅然とした態度で対応し、働く人を守る」という趣旨の一文を置く形でも成り立ちます。⑧についても、Q&Aは、悪質な事案への対処の方針を②の対処の内容とは別の文書として作成する必要はなく、②を明確化して周知する際に併せて定めて周知することが可能だとしています。①②⑧は、1つの文書としてまとめて作れるということです。

第2層 窓口を決めて知らせる(③④)

 ③の相談窓口は、相談に対応する担当者をあらかじめ定める、相談に対応するための制度を設ける、外部の機関に委託する、のいずれの形でもよいとされています。ただし通達は、窓口を形式的に設けるだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口であることが必要だと述べています。④は、担当者が相談の内容や状況に応じて対応できるようにすることで、あらかじめ留意点を書いたマニュアルを用意する、担当者向けに研修を行う、関係部門と連携できる仕組みにする、といった方法が例示されています。

第3層 起きたときの手順と下支え(⑤⑥⑦⑨⑩)

 ⑤⑥⑦は事案が起きた後の動きですが、起きてから考えるものではなく、あらかじめ手順として書いておくものです。特に⑦の再発防止は、カスハラが生じた事実を確認できなかった場合にも同様に講ずるとされている点に注意が必要です。⑨⑩は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書や社内向けの資料に条項を加え、周知することで形になります。ここまでを踏まえた着手順の目安は、次のとおりです。

  1. 現場での対処の内容(②)を書き出し、その冒頭に方針(①)を置く。
  2. 悪質な事案への対処の方針(⑧)を同じ文書に続けて書き、連携先と判断の流れを決めておく。
  3. 相談の窓口と担当者(③④)を決め、掲示や朝礼などで実際に知らせる。
  4. プライバシーの保護と不利益な取扱いの禁止(⑨⑩)を服務規律等の文書に加える。
  5. 事実確認から被害者への配慮、再発防止まで(⑤⑥⑦)の手順を②の文書に追記し、一本化する。


従業員が少ない事業所ではどう読み替えるか

店に1人しかいない時間帯がある場合

 「上司が代わりに対応する」「被害者と行為者を引き離す」といった対処は、人が複数いることを前提にしています。この点についてQ&Aは、従業員が1名の店舗の場合を取り上げ、十分な説明をしたうえでなお要求が続くときに一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりすること、犯罪に該当し得る言動について警察へ通報すること、現場対応が困難な場合に本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐことなどを、対処の内容として定めておくことが考えられる、としています。人員が少ないことを理由に免除されるわけではありませんが、実態に合う形に置き換えることは想定されています。

相談の窓口は上司でもよい

 Q&Aは、カスハラの相談窓口を他のハラスメントの相談窓口と一体のものにする必要はないと述べています。カスハラは、その場ですぐに相談することや、現場の状況をよく知る上司に相談することが適切な場合もあるためです。指針も、相談に対応する担当者として管理監督者等を定めることが考えられるとしています。通達は、この場合に、その管理監督者等自身が相談できる窓口を別に設けることも考えられる、と補足しています。

就業規則を全面的に作り直す必要があるとは限らない

 自社の労働者が取引先などに対してカスハラにあたる言動を行った場合の懲戒について、Q&Aは、信用失墜行為や服務規律違反に関する既存の規定で必要な措置を講じられるのであれば、就業規則を改正してカスハラ独自の規定を新たに設ける必要は必ずしもない、としています。ただし、⑩の不利益な取扱いの禁止は、定めたうえで労働者に周知・啓発することが求められている項目ですので、こちらは何らかの形で明文化しておくことになります。

「ここまでで足りる」と「これでは足りない」の境目

業界団体のマニュアルを配るだけでは足りない

 Q&Aは、業界団体が作成した業種別マニュアルを労働者に配布しただけでは①②の措置を果たしたことにならないとしています。一方で、そのマニュアルを参考にしながら自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化と対処の内容の策定をしたうえで周知するのであれば、措置を果たしたことになるとされています。複数の事業主が一体となって策定に参画したマニュアルであれば、それを自社の労働者に周知することで②の措置を果たしたことになる、という整理もされています。手元にひな形があること自体は出発点として有用ですが、自社に合わせる一手間が要るということです。

顧客と接しない従業員にも周知が要る

 Q&Aは、顧客対応が発生しない部署の労働者に対しても、方針の周知や研修が必要だとしています。指針にいう「顧客等」には、顧客だけでなく取引の相手方や施設の利用者も含まれるためです。また、対処の内容の周知についても、社外の人と接する機会があるかどうかを問わず、雇用する労働者の全員に対して行う必要があるとされています。パート・アルバイトを含む全員が対象である点も、あわせて押さえておきたいところです。

録音は伝え方しだいで整理できる

 やり取りの録音・録画は、指針が対処の内容の例として挙げていますが、個人情報保護法等を遵守することが前提とされています。Q&Aは、録音した内容を事実関係の確認に用いるのであれば、その旨を利用目的として特定し、通知または公表する必要があると述べています。通達が示す適合例は、「サービス品質の向上」「通話内容の確認」などのためであることを伝えたうえで電話の内容を録音すること、「防犯カメラ作動中」と掲示したうえでカメラを設置して店内を撮影することです。その場で録音していると伝える義務まではないとされる一方、カメラの設置状況などから本人が容易に認識できるとはいえない場合には、認識できるようにする措置が必要とされています。

法改正によって新しい権限が与えられるわけではない

出入禁止も警告文も、もともと事業者の判断でできること

 Q&Aは、改正法は事業主に雇用管理上必要な措置を義務付けるものであって、事業主に何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではない、と明言しています。出入禁止や警告文の発出は、改正法によって使えるようになった手段ではなく、従来から契約や施設管理の問題として事業者側が判断してきたものです。義務化されたのは、それらをあらかじめ方針として定め、実際に判断できる体制を整えておくことのほうだと理解しておくと、対策の方向を見誤りにくくなります。

カスハラに当たるかどうかを労働局が判定するわけではない

 Q&Aは、個々の顧客等の言動がカスハラに該当するか否かの判断を都道府県労働局が行うことはない、としています。事実関係を迅速かつ正確に確認するのは事業主の義務であり、該当性を含めて自社で判断して必要な措置を講ずる必要があります。判断に迷う場面が続くようであれば、その迷い方自体を対処の内容に反映させていくことになります。

措置を欠いたときに想定される流れ

 措置義務に違反したこと自体に刑事罰の定めは置かれていません。もっとも、厚生労働大臣または都道府県労働局長による助言・指導・勧告の対象となり(法42条1項)、大臣が自ら勧告をした場合においてこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるとされています(法42条2項)。また、施行に関し必要があると認めるときは事業主に報告を求めることができ(法45条1項)、報告をせず、または虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料の定めがあります(法51条)。あわせて、労働者との間で紛争になった場合には、都道府県労働局長による紛争解決の援助(法36条)や紛争調整委員会の調停(法37条)という道が用意されています。窓口は労働基準監督署ではなく、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。

よくあるご質問

施行日までに10項目すべてをそろえないといけないのでしょうか。

 措置義務は2026年10月1日から適用され、企業の規模による猶予は設けられていません。ただし、10項目の多くは1つの文書と1回の周知でまとまる性質のものです。まず②と①と⑧を1つの文書として作り、③④の窓口を決めて知らせ、⑨⑩を服務規律等の文書に加えるところまで進めば、形としては一通り整います。そのうえで、実際に起きた事案を踏まえて対処の内容を見直していくことになります。

「カスハラには毅然と対応します」と店頭に掲示する必要はありますか。

 Q&Aは、方針を顧客等に周知することまでは義務付けていないとしています。一方で指針は、顧客等にも方針を周知・啓発することが被害の防止に当たっては効果的と考えられる、と述べています。掲示を義務と受け止める必要はありませんが、対外的に示しておくことで現場が対応しやすくなる面はあります。表現や掲示場所については、来店される方の受け止めも踏まえて検討されるとよいでしょう。

取引先の担当者から受けた場合も対象になりますか。

 指針は「顧客等」の例として、取引先の担当者や、契約締結に向けた交渉の担当者、施設・サービスの利用者とその家族、施設の近隣住民を挙げています。また、取引先の事務所や顧客の自宅であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。行為者が他の事業主やその労働者である場合には、事実関係の確認や再発防止について相手方の事業主に協力を求めることができ、求められた事業主にはこれに応じる努力義務があります(法33条3項)。

まとめ


  1. カスハラの防止措置は2026年10月1日から事業主の義務となり、根拠となる指針は令和8年厚生労働省告示第51号である。
  2. 講ずべき措置は10項目で、通達は、企業の規模や職場の状況のいかんを問わず必ず講じなければならないとしている。
  3. 10項目は、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、抑止のための措置、併せて講ずべき措置の5つの柱に整理されている。
  4. 他のハラスメントと異なり行為者への社内処分という手段が使えないため、悪質な事案への対処の方針をあらかじめ定める⑧が置かれている。
  5. ①②⑧は1つの文書としてまとめて作ることができ、Q&Aも⑧を別文書にする必要はないとしている。
  6. 従業員が1名の店舗であっても免除されず、退店を求める、電話を切る、警察へ通報するなど実態に合う対処の内容を定めることが想定されている。
  7. 違反自体に刑事罰の定めはないが、助言・指導・勧告(法42条1項)と公表(同条2項)、報告の請求(法45条1項)と過料(法51条)が定められている。


カスタマーハラスメント対策の準備をご検討中の方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当要求やカスタマーハラスメントに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。10項目のうち、どこまでを自社で用意でき、どこから外部の力を借りるべきかは、業種や人員の構成によって変わります。すでに現に困っている相手方がいる場合には、対処の方針づくりと目の前の対応とを同時に進める必要もあります。

 これから体制を整える事業主の方も、対応の途中で判断に迷っている事業主の方も、方針を固める前の段階でご相談いただいて構いません。何を文書にし、どの場面で外部に引き継ぐのかを一緒に整理することで、現場の負担を減らしながら準備を進めることができます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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