【不貞慰謝料】双方が既婚|W不倫の場合に何が変わるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「相手も既婚者だと知って、請求してよいものか迷っている」「相手の配偶者から書面が届いたが、こちらの家庭にも同じことが起きているはずだ」。双方が既婚である不貞、いわゆるW不倫(ダブル不倫)の場面では、請求する側からも、請求を受けた側からも、こうしたご相談が寄せられます。

 インターネット上では「登場人物が4人になる」「お互いに請求できるので差し引きゼロになる」といった説明をよく見かけます。どちらも的外れな説明ではありません。ただ、そこで止まってしまうと、実際に動き出したときに何がどう変わるのかは見えないままになりがちです。

 この記事では、片方だけが既婚である場合と比べて何が変わり、何は変わらないのかを整理します。差し引き(いわゆる相殺)の仕組みや求償額の計算、離婚手続そのものについては別の記事に譲り、ここでは変化の見取り図に絞って説明します。

「W不倫」は法律上の呼び名ではない

 W不倫(ダブル不倫)は、不貞の当事者がいずれも婚姻しているという状態を指す通称です。法律の条文にこの言葉はなく、慰謝料の根拠となるのは通常の不貞と同じ不法行為の規定(民法709条・710条)です。

呼び方が示しているのは当事者の属性だけ

 双方が既婚であるという一点が、それだけで責任を重くしたり軽くしたりする独立の事情になるわけではありません。変わるのは責任の中身ではなく、その周囲にいる人の数と、話の進み方のほうです。

二つの型が同じ言葉で呼ばれている

 一つは、既婚者どうしが一つの関係を持っている型です。もう一つは、ある夫婦の双方がそれぞれ別の相手と関係を持っている型で、この場合は関係が二つあるため、請求の組合せがさらに増えます。以下では、断りのない限り前者を前提に説明します。

先に「変わらないこと」を確定しておく

 変化を見る前に、動かない部分をはっきりさせておくと全体が整理しやすくなります。責任が生じるかどうかを判断する枠組み自体は、片方だけが既婚である場合と同じです。

場面片方だけが既婚の場合と同じ点W不倫で加わる点
責任が生じるか不貞の事実、相手方の故意または過失、婚姻関係が破綻していなかったことなどから判断される同じ判断が、もう一方の家庭についても別に行われる
金額の考え方婚姻期間、不貞の期間や態様、離婚に至ったかどうかなどが見られる二つの家庭で事情が異なるため、金額がそろうとは限らない
請求できる期間知った時から3年、不貞行為の時から20年という枠組み(民法724条)数え始める時点が家庭ごとに違う
支払う人不貞をした二人が連帯して責任を負う(民法719条1項)受け取る側と支払う側が、同じ家計の中に並ぶことがある


 双方が既婚だから慰謝料が高くなる、あるいは低くなるという決まりはありません。相場として語られている幅も、W不倫のために別に用意されているものではなく、それぞれの家庭の事情によって動きます。金額の組み立て方そのものは、相場を扱った記事をご覧ください。

変化の一つ目|請求する相手が、同じ問題の当事者でもある

 最も分かりやすい違いは、請求の向きが一方通行にならないことです。こちらが相手方に請求できる一方で、相手方の配偶者はこちらの配偶者に請求できる立場にあります。

「お互いさま」はそのまま通る言い分ではない

 相手方も既婚者であるという事情は、こちらの請求を法律上打ち消すものではありません。慰謝料は、侵害された婚姻共同生活ごとに、被害を受けた配偶者それぞれについて別々に問題となります。相手方の家庭で同じことが起きているからといって、こちらの請求権がその分だけ当然に減るという関係にはなりません。

それでも話の進め方には影響する

 もっとも、実際の交渉では、双方が同じ立場を抱えているという事情が働きます。強い要求をすれば、同じ形の要求が返ってくることも想定しておく必要があります。ここでいわゆる相殺の話が出てきますが、法律上の相殺と、当事者どうしが互いに請求しないと取り決めることとは別のものです。この点は相殺を扱った記事で詳しく整理しています。

変化の二つ目|二つの家庭で時計が別々に進む

 W不倫を考えるうえで見落とされやすいのが、時間の進み方です。二つの家庭は、同じ出来事を、違う時期に、違う順番で知ることになります。

発覚の時期はそろわない

 一方の家庭で発覚した時点で、もう一方の家庭ではまだ何も知られていない、という状態は珍しくありません。片方の家庭ではすでに交渉が始まっているのに、もう片方では日常が続いているということも起こります。

期間の数え方は請求権ごとに進む

 慰謝料を請求できる期間は、損害および加害者を知った時から3年、不貞行為の時から20年とされています(民法724条1号・2号)。この「知った時」は請求する人ごとに判断されるため、一方の家庭が先に知ったからといって、もう一方の家庭の期間が同時に進み始めるわけではありません。なお、20年の期間についても、改正後の条文では消滅時効として整理されています。数え方の詳細は、時効を扱った記事をご覧ください。

一方の家庭で話がついても、もう一方の請求権は残る

 こちらの請求について示談が成立しても、それは合意した当事者の間での清算です。相手方の配偶者はその合意の当事者ではありませんから、後になってから請求が出てくる可能性は残ります。片方の家庭で終わったからといって、全体が終わったことにはなりません

変化の三つ目|こちらが用意した材料が、反対向きにも働く

 通常の不貞であれば、集めた資料は自分の請求のためだけに使われます。W不倫では、同じ資料が、もう一方の家庭からの請求を支える材料にもなり得ます。

関係を示す資料は、どちらの家庭から見ても同じ意味を持つ

 二人が関係を持っていたことを示す資料は、こちらの配偶者が加害者側の当事者であることも同時に示しています。交渉や手続の中で相手方に提示した資料が、そのまま相手方の家庭に伝わることも想定されます。

書面に書いた事実は、後から動かしにくくなる

 示談書や謝罪文に不貞の内容を具体的に書き入れると、その記載は、もう一方の家庭で行われる話し合いの場面でも意味を持ち得ます。何をどこまで書面に残すかは、二つの家庭を視野に入れて決めることになります。書面の条項の立て方は、示談書を扱った記事で説明しています。

相手方の家庭に伝えるかどうか

 相手方の配偶者に事実を伝えれば、相手方は自分の家庭にも説明せざるを得なくなります。それは交渉を動かす一方で、こちらの配偶者に対する請求が始まる引き金にもなります。伝え方や範囲によっては、伝えた側が責任を問われることもあり、慎重な判断が必要な場面です。

離婚するかどうかの組合せで、見え方が変わる

 金額や条件に大きく影響するのが、それぞれの家庭が離婚に至るかどうかです。W不倫では、この点が二つの家庭で別々に決まります。

離婚の組合せ起こりやすいこと留意しておきたい点
どちらの家庭も離婚しない二つの話し合いが同じ時期に並び、条件の折り合いが中心になりやすい受け取るお金も支払うお金も、結局は同じ家計を通ることがある
こちらの家庭だけ離婚するこちらの請求は、離婚を伴う事案として評価されやすい相手方は関係の維持を前提に条件を求めてくることがある
相手方の家庭だけ離婚する相手方の側の請求が重く見られやすいこちらの請求と条件がそろわず、差が開くことがある
どちらの家庭も離婚する双方が離婚を前提に条件を立てることになる財産分与や養育費など、別の手続と同時並行になりやすい


 もっとも、離婚するかどうかは相手方の家庭の事情で決まる部分が大きく、こちらが動かせるものではありません。交渉の入口で確定できない要素があるという前提で、条件を組み立てることになります。

どちらが先に動くかで、進み方が変わる

 双方に請求できる立場があるため、順番そのものが結果に影響します。ここは通常の不貞にはない考えどころです。

先に動くことで決められること

 先に請求した側は、金額や条件の枠組みを先に示すことができます。資料が新しいうちに動けること、相手方が事実関係を整理する前に説明を求められることも、実際上の利点として挙げられます。

先に動くことで開いてしまうこと

 一方で、請求は相手方に事情を知らせる行為でもあります。相手方が自分の家庭に説明せざるを得なくなれば、そこから反対方向の請求が始まります。支払いの原資を相手方が家計から出す場合も同じです。静かに終わらせることと、条件面で有利に終わらせることは、両立するとは限りません。どちらを優先するのかを先に決めておくことが、判断のぶれを防ぎます。

請求する側が整理しておきたいこと

 動き出す前に、次の点を確認しておくと、途中で方針が揺れにくくなります。

  1. 静かに終えることと、金額を優先することの、どちらを上に置くのかを決めておく。
  2. 相手方の配偶者がすでに知っているのか、まだ知らないのかを把握しておく。
  3. こちらの配偶者に請求が向いた場合に、どこまで負担できるのかを見ておく。
  4. 提示する資料が、もう一方の家庭にも伝わり得ることを前提に選ぶ。
  5. 期間の制限があるため、様子を見る期間を漫然と延ばさない。


請求を受けた側・受けるおそれがある側が確認したいこと

 書面が届いた段階では、金額の当否より先に確認すべきことがあります。

  1. 書面の差出人が誰で、宛先が自分なのか配偶者なのかを確かめる。
  2. 記載された金額は相手方の言い分であり、そのまま支払うべき額とは限らないことを踏まえる。
  3. その場で認める発言や署名をせず、記録を消さずに残しておく。
  4. こちらの家庭からの請求と合わせてどう進めるのかを、早い段階で整理する。


よくあるご質問

 ご相談の中で特に多いものを3つ挙げます。

相手方の配偶者はまだ知らないようです。こちらだけ請求できますか

 請求すること自体はできます。ただし、相手方が支払いのために家計からお金を出す場合や、後に支払った分の分担を求める場面などを通じて、結果的に相手方の家庭に伝わることがあります。伝わらないことを前提にした設計は難しいとお考えください。

配偶者あての書面が自宅に届きました。私が代わりに対応してよいですか

 名宛人が配偶者であれば、その請求の当事者は配偶者本人です。夫婦であっても、それぞれの財産は各自のものとされており(民法762条1項)、同居しているというだけで相手方に対する応答の権限が生じるわけではありません。家庭としての方針は共有しつつ、応答は本人の立場で行う必要があります。

相手方の配偶者が請求してこないまま時間が過ぎています

 請求が来ていないことと、請求権がなくなったこととは別です。相手方の配偶者がいつ事実を知ったのかによって期間の進み方が変わるため、こちらの家庭の時間の感覚だけで判断することはできません。示談の条件を決める際には、この点を織り込んでおくことになります。

まとめ


  1. W不倫は法律上の呼び名ではなく、慰謝料の根拠は通常の不貞と同じ不法行為の規定です(民法709条・710条)。
  2. 双方が既婚であること自体は、金額を当然に上げ下げする事情ではありません。
  3. 変わるのは、請求の向きが双方向になること、二つの家庭で時間が別々に進むこと、資料や書面が反対向きにも働くことです。
  4. 請求できる期間は請求する人ごとに数えられます(民法724条1号・2号)。
  5. 一方の家庭での示談は、その当事者間の清算にとどまり、もう一方の請求権を当然には消しません。
  6. 不貞をした二人は連帯して責任を負うため、支払った後の分担の問題が別に生じます(民法719条1項)。
  7. 静かに終えることと条件面を優先することのどちらを上に置くかを、動き出す前に決めておくことが大切です。


W不倫の慰謝料でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。双方が既婚である場合は、こちらの請求と相手方からの請求が同時に動くため、一方だけを見て条件を決めると、後から思わぬ負担が生じることがあります。

 請求をお考えの方も、書面を受け取って対応に迷っている方も、どちらの立場からでもご相談いただけます。二つの家庭の状況を踏まえて、どの順番で何を決めるべきかを一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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