不倫相手に慰謝料を払わせたいが資力がない|回収と分割の現実
慰謝料の請求書や訴状に「支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え」といった一文が入っていて、それが何を意味するのか分からないまま話が進んでいる、という相談は少なくありません。この部分が遅延損害金です。
遅延損害金は、慰謝料そのものとは別に、支払が遅れている期間の長さに応じて積み上がっていくお金です。そして「いつから」と「何パーセント」は、それぞれ別の物差しで決まります。ここを一つの問題としてまとめて考えると、金額の見通しを誤ることがあります。
この記事では、不貞行為を理由とする慰謝料を主な題材として、遅延損害金の起算日と利率がどのように決まるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。分割払いの条項設計や強制執行の手順など、隣接する論点には立ち入らず、あくまで「いつから」「何パーセント」に絞って説明します。
遅延損害金とはどのようなお金か
遅延損害金は、金銭の支払が遅れたことによって生じる損害を賠償するためのお金です。慰謝料の金額(元本)とは別枠で計算され、遅れている期間が長くなるほど大きくなります。
金銭債務の遅延損害金には、次のような性質があります。
- 請求する側は、遅れたことでいくら損をしたかを証明する必要がありません(民法419条2項)。
- 支払う側は、資金繰りが苦しかったなどの事情を理由に支払を免れることができません(同条3項)。
- 原則として元本に対して計算されるもので、いったん生じた遅延損害金にさらに遅延損害金が重なっていくものではありません。
言い換えると、事情の当否とはほとんど関係なく、時間の経過だけで機械的に積み上がる性質のお金だということです。だからこそ、起算日と利率がどこで決まるのかを押さえておく意味があります。
「いつから」は、損害が発生した時から
遅延損害金の起算日を「請求書を送った日」や「裁判を起こした日」だと考える方が多いのですが、不法行為に基づく損害賠償の場合はそうではありません。
最高裁は、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく遅滞に陥るものである、としています(最高裁昭和37年9月4日判決)。催告、つまり「払ってください」と伝えることを待たずに、損害が生じたその時点から遅れが始まっているという考え方です。
もっとも、「損害が発生した時」がいつなのかは、請求の中身によって変わります。
| 請求の中身 | 遅延損害金が始まる時点 |
|---|---|
| 不貞行為を理由とする慰謝料 | 不貞行為があった時(催告は不要) |
| 離婚に伴う慰謝料 | 離婚が成立した時 |
| 示談書で支払期日を定めた場合 | 定めた支払期日の翌日 |
| 分割払いで期限の利益を失った場合 | 期限の利益を失った日の翌日 |
離婚に伴う慰謝料は別の時点から始まる
同じ「慰謝料」でも、不貞行為そのものを理由とする慰謝料と、離婚をやむなくされたこと自体を理由とする慰謝料とでは、遅滞が始まる時点が異なります。
最高裁は、離婚に伴う慰謝料は離婚が成立して初めて評価される損害であるから、その支払義務は離婚の成立時に遅滞に陥る、と判断しました(最高裁令和4年1月28日判決)。この事案では、婚姻関係が破綻した時期は改正民法の施行日より前でしたが、離婚が成立したのが施行日より後であったため、後で述べる年3パーセントの利率が適用されています。
関係が続いていた場合、どの日を起算日に置くか
不貞行為が一度きりであれば、その日が起算日になります。問題は、関係が一定期間続いていた場合です。
- 関係が始まった時を起算日とする裁判例と、関係が終わった時を起算日とする裁判例の双方があり、扱いは一様ではありません。
- 訴訟の途中で関係が終わった場合や、なお続いている場合には、審理が終わる時点(口頭弁論終結時)を区切りとして考えることになります。
- 関係が続いている途中で婚姻関係が破綻していたときは、破綻後の行為については不法行為が成立しないため、破綻の時点で区切って考えることになります。
実務上は、起算日そのものを争点にすることを避けるため、訴状で「訴状送達の日の翌日から」と記載する例も多くみられます。この場合、起算日は遅くなりますが、その分だけ争いの種を減らすことができます。遅延損害金の起算日が訴訟の主要な争点になることは、それほど多くありません。
「何パーセント」は、最初に遅滞に陥った時点で固定される
利率について、意外と知られていないのが途中で変わらないという点です。
民法419条1項は、金銭債務の不履行による損害賠償の額は「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」によって定める、としています。つまり、遅れ始めた時点の利率がその債権に貼り付き、その後に法定利率が見直されても、さかのぼって変わることはありません。法務省の説明資料でも、一つの債権については一つの法定利率が適用され事後的に変動しない、という整理が示されています。
法定利率は、2020年(令和2年)4月1日の改正民法施行により年5パーセントから年3パーセントとなり、以後は3年を一期として見直されることになりました(民法404条2項、3項)。これまでの推移は次のとおりです。
| 遅滞が始まった時期 | 適用される法定利率 |
|---|---|
| 2020年3月31日まで | 年5パーセント |
| 2020年4月1日から2023年3月31日まで | 年3パーセント |
| 2023年4月1日から2026年3月31日まで | 年3パーセント |
| 2026年4月1日から2029年3月31日まで | 年3パーセント |
2026年4月からの第3期についても、基準割合の変動が1パーセント未満であったため、年3パーセントのまま据え置かれています(令和7年法務省告示第73号)。
注意していただきたいのは、この表が「今の利率」を示すものではなく、遅滞が始まった時期ごとに適用される利率を示すものだという点です。たとえば2019年の不貞行為を理由とする慰謝料であれば、請求するのが今年であっても、年5パーセントで計算されることになります。時期の古い事案ほど、利率の確認が必要です。
話し合いで利率を決めた場合
示談書や合意書で遅延損害金の利率を定めたときは、その約定利率が法定利率を超える場合には約定利率によることになります(民法419条1項ただし書)。逆に、示談書に遅延損害金の条項がなくても、遅延損害金が発生しないわけではありません。定めがなければ法定利率によって計算されます。
では、当事者が合意すればいくらでも高い利率を定められるのかというと、そうともいえません。
- 利息制限法は金銭の貸借を対象とする法律であり、消費者契約法は事業者と消費者との契約を対象とする法律であるため、個人間の慰謝料の合意にそのまま適用されるわけではありません。
- 一方で、社会通念からみて著しく高い利率を定めた場合には、公序良俗に反するものとして効力が否定されるおそれがあります(民法90条)。
- 実務上は、消費者契約法が定める年14.6パーセントを一つの目安として用いる例もみられます。
高い利率を定めれば期日どおりの支払を促す働きが期待できる反面、支払える見込みを超える設定は、かえって支払が滞る原因にもなります。金額と支払能力を見たうえで決めることになります。
計算のしかたと、おおよその大きさ
遅延損害金は、次の式で計算するのが一般的です。
元本 × 利率 × 遅れた日数 ÷ 365
たとえば元本100万円、年3パーセントで1年間遅れた場合の遅延損害金は3万円です。半年(183日)であれば約1万5千円、3年であれば9万円という計算になります。日数の数え方については、期間の初日を算入しないのが原則です(民法140条)。
年3パーセントという数字は、1か月単位でみればさほど大きくありません。ただし、交渉や裁判が長引き、支払までに数年を要した事案では、無視できない金額になることがあります。
実際に上乗せされるかは、解決の場面によって違う
法律上は発生していても、現実の解決の場面では、遅延損害金が金額として表に出ないことも少なくありません。
- 示談交渉では、遅延損害金を別立てにせず、慰謝料の総額の中で調整して合意するのが一般的です。
- 訴訟上の和解や調停でも、解決金として一本の金額にまとめられることが多く、遅延損害金が独立の項目として残らないことがあります。
- 判決であれば、主文に起算日と利率が明記され、元本とは別に計算できる形で示されます。
したがって、遅延損害金が金額として意味を持ちやすいのは、判決まで進んだ場合と、示談書で定めた支払期日が守られなかった場合ということになります。
請求を受けた側から見た遅延損害金
請求を受けている側にとって、遅延損害金は「争っている間も進んでいる」という点に注意が必要です。
- 支払義務があるかどうかを争っていても、最終的に義務が認められれば、起算日にさかのぼって遅延損害金が計算されます。
- 判決で認められた金額(認容額)が請求額より低くなった場合でも、遅延損害金はその認容額に対して起算日から計算されます。
- 一部だけを支払った場合、費用、利息にあたる部分、元本の順に充てられるのが原則であり(民法489条1項)、思ったほど元本が減らないことがあります。
- 全額を提供したのに受け取ってもらえない場合には供託という方法もありますが(民法494条)、金額そのものに争いがある段階では、有効な提供とみなされないことがあります。
支払う意思があるのであれば、金額の合意を急ぎ、支払期日を明確に定めておくことが、結果として負担を小さくすることにつながります。
見落とされやすい点
弁護士費用相当額にも同じ時点から付く
訴訟では、慰謝料とあわせて弁護士費用相当額が認められることがあります。この部分についても、慰謝料本体と同じ時点から遅延損害金が計算されるものとして扱われるのが一般的です。弁護士費用相当額そのものの考え方については、別の記事で扱います。
清算条項があると後から請求できないことがある
示談が成立した後に「遅延損害金を計算していなかった」と気づいても、示談書に清算条項が入っていれば、その合意で解決したものとして、後から追加して請求することは難しくなります。示談の段階で、遅延損害金を含めた総額として合意するのかどうかを確認しておく必要があります。
元本の時効が完成すれば遅延損害金も残らない
遅延損害金は元本があってはじめて生じるものですから、慰謝料請求権そのものが時効により消滅し、相手方がそれを援用した場合には、遅延損害金だけが残ることはありません。時効の起算点や数え方については、別の記事で扱います。
よくあるご質問
示談書に書かなければ請求できないのですか
定めがなくても、法定利率による遅延損害金は発生します。ただし、支払期日を定めていなければ、いつから遅れているのかが曖昧になります。金額とあわせて支払期日を明記しておくことが実際上は重要です。
遅延損害金は請求しないと決められますか
当事者の合意で請求しないこととすることは可能です。実務上も、慰謝料の総額の中で調整し、遅延損害金を別途請求しない形で合意する例が多くみられます。
分割払いの途中で1回遅れたら、残り全部に付くのですか
示談書の期限の利益喪失条項の書き方によって結論が変わります。1回の遅れで直ちに残額全部の支払期限が到来する定め方もあれば、一定の回数や金額に達したときとする定め方もあります。分割払いの条項の設計については、別の記事で詳しく扱います。
弁護士に相談する意味
遅延損害金は、それ自体が争いの中心になることは多くありません。しかし、起算日をいつに置くか、どの利率で計算するかによって、最終的に動く金額は変わります。とくに、行為の時期が古い事案、関係が長期間続いていた事案、分割払いを予定している事案では、確認しておく実益があります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞行為を理由とする慰謝料について、請求する立場の方からも、請求を受けた立場の方からもご相談をお受けしています。書面の文言や金額の見通しについてご不安がある場合は、お早めにご相談ください。
まとめ
- 遅延損害金は、慰謝料の元本とは別枠で、遅れている期間に応じて計算されます。
- 不法行為に基づく慰謝料は、催告を待たず、損害が発生した時点から遅滞に陥ります。
- 離婚に伴う慰謝料は、離婚が成立した時から遅滞に陥るとされています。
- 関係が続いていた場合の起算日は一様ではなく、訴状送達の日の翌日とする例もあります。
- 利率は、最初に遅滞に陥った時点の法定利率で固定され、その後の見直しでは変わりません。
- 2020年3月31日までに遅滞が始まった債権は年5パーセント、それ以降は年3パーセントです。
- 2026年4月から2029年3月までの法定利率も年3パーセントに据え置かれています。
- 示談書で約定利率を定めることもできますが、著しく高い設定は効力を否定されるおそれがあります。
- 示談や和解では総額に含めて調整されることが多く、判決では起算日と利率が明確な形で示されます。
- 請求を受けている側にとっては、争っている間も進むため、早期の解決が負担の抑制につながります。


