【風俗トラブル】摘発が報道された|利用者として特定される現実的な経路

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「先週ニュースになっていた店は、去年に何度か行った店でした」「店名までは出ていないのに、場所と業種で自分の行った店だと分かってしまいました」。摘発の報道が流れたあと、こうしたご相談が続くことがあります。そこで最初に口にされるのは、処罰されるかどうかよりも、自分が利用していたことを誰かに知られるのかどうか、という不安であることが多いといえます。

 インターネット上の解説は、客が処罰されるかどうかという点に話が集まりがちです。その説明が誤っているわけではありません。ただ、報道のあとに現実に起きるのは、処罰の話ばかりではありません。利用者として自分が誰かと結びつけられるという出来事は、捜査の場面だけで起きるものではなく、経路ごとに動く時期も、こちらから打てる手も違います。

 この記事では、摘発が報道されたあとに利用者が特定されるとされる経路を四つに分けて整理し、それぞれがいつ動くのか、どこまで手が届くのかを見ていきます。押収された記録がどのように読まれるのかという話と、参考人として連絡が来た場面での立場の問題は、別の解説に譲ります。

この記事で扱う範囲

 次の四点を順に扱います。

  • 摘発の報道に何が載り、何が載らないのか。
  • 利用者が特定されるとされる経路を四つに分けた見取り図。
  • 経路ごとに、こちらから打てる手があるのか、ないのか。
  • 特定されたという話を材料にした金銭の要求への向き合い方。


 摘発された店の側の責任や行政処分、また、利用した方自身に別の問題行為がある場合の刑事手続については、ここでは扱いません。

摘発の報道には何が載り、何が載らないのか

記事の出どころは警察の発表であること

 摘発を伝える記事は、事件そのものの記録ではなく、警察が発表した内容をもとに各報道機関が判断して書いたものです。発表されるのは、どの営業が、どの規定に違反した疑いで、誰を対象として立件されたのか、という骨格が中心です。営業を行っていた側の氏名や店舗の所在地が出るのは、その骨格の一部だからです。

 報道されるかどうか、どこまで書かれるかを定めた法律はありません。警察が発表するかどうかという段階と、各社が記事にするかどうかという段階の二つがあるため、事前に見通しを立てにくい構造です。詳しくは、実名報道の決まり方を扱った別の解説に譲ります。

利用者の氏名が載ることが通常は考えにくい理由

 摘発の報道で、店を利用した方の氏名が出ることは通常は考えにくいところです。報じられているのは営業を行っていた側の事件であって、利用者はその事件の被疑者として立件されているわけではないからです。

 制度の側にも下支えがあります。刑事訴訟法196条は、捜査に関係する者は被疑者その他の者の名誉を害しないように注意しなければならないと定めています。犯罪捜査規範9条1項も、秘密を厳守するとともに、被疑者や被害者だけでなく、その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならないとしています。利用者は、この「その他事件の関係者」に当たり得る立場です

 もっとも、これは利用者自身が別の事件の対象になっていない場合の話です。利用の中身に別の問題があり、その方自身が被疑者として扱われる場合には、前提が変わります。

「特定される」と言われる出来事は四つに分かれる

 特定という言葉は、性質の違う出来事をひとまとめにして呼んでいます。分けてみると、動く時期も、こちらから打てる手も違うことが見えてきます。

経路結びつきを作るもの主に動く時期
捜査の中での結びつき押収された記録と、そこから確かめられる連絡先報道より前から
身近な人による推測公になった店名と、その人が既に持っていた情報報道の直後
インターネット上の書き込み第三者による名指しと、それを読む人の検索報道の直後から長く
自分の行動による結びつき問い合わせや削除の依頼など、新しく残る記録報道を見たあと


 この四つのうち、報道を見た時点でこれから動くのは下の三つです。上の一つは、報道が出るより前に動き終わっていることが少なくありません。

経路1|捜査の中で記録と人が結びつく

この経路は報道より先に動いている

 摘発の報道は、捜索や差押えが行われた結果として出てきます。予約の記録や連絡先が捜査機関の手元に移るのは、記事が出るより前の段階です。報道を見てから何かを動かしても、この経路に間に合うという性質のものではありません。

 押収された記録が何のために読まれるのかは、名簿と予約履歴を扱った別の解説に譲ります。ここでは、記録が読まれる目的が営業の実態を確かめることにあり、利用者一人ひとりの氏名を洗い出すこと自体が目的になっているわけではない、という点だけ挙げておきます。

連絡が来るとは限らない

 連絡が来るとすれば、特定の日時の状況を知る立場にある方に対して、参考人として話を聞かせてほしいという求めがなされる形が中心です。刑事訴訟法223条1項に基づく求めであり、これに応じるかどうかは任意です。連絡の入り先は本人の携帯電話であることが多く、家族や勤務先への連絡が検討されるのは、本人と連絡が取れない場合など限られた場面です。

 この場面で立場がどう変わり得るのかは、参考人と被疑者の分かれ目を扱った別の解説をご覧ください。

経路2|身近な人が報道と手元の情報を結びつける

店名が公になると、既にあった情報の意味が変わる

 実務上、利用者にとって身近なのはこの経路です。報道によって店名や所在地が公になると、それまで意味を持たなかった断片が、突然その店と結びつくようになります。特定の日にその地域にいたこと、帰りが遅かったこと、以前の会話で口にした店の特徴、決済の明細に残った屋号などです。

 ここで新しく生まれているのは店名の側の情報であって、その方の側の情報ではありません。手元にあった断片は前からそこにあり、報道が出たことで結びつく先ができた、という順序になります。

この経路には法律上の手当てが乏しい

 身近な人が頭の中で推測することそのものに、法的な手当てはありません。推測を止める手段はなく、推測が当たっているかどうかも外からは分かりません。勤務先や家族に知られる経路そのものは、会社に知られる場面を扱った別の解説で整理しています。ここでは、この経路が法的な争いではなく事実の問題であり、次に述べる経路3や経路4と混同されやすいことを指摘しておきます。

経路3|インターネット上に名前が書かれる

名簿に載る程度の情報でも保護の対象になる

 摘発の報道が出ると、掲示板や交流サイトに、その店の利用者を名指しする書き込みが現れることがあります。書き込みの内容が本当かどうかにかかわらず、名指しされた側には対応の余地があります。

 最高裁判所平成15年9月12日判決は、講演会の参加申込名簿に記載された学籍番号や氏名などについて、それ自体は個人を識別するための単純な情報であるとしながら、自分が望まない相手にみだりに開示されたくないと考えることは自然であり、その期待は保護されるべきであるとして、プライバシーに係る情報として法的保護の対象になると判断しました。名簿に載っている程度の情報でもこう扱われる以上、性風俗店の利用者としてどこかに載っていたという事柄が、保護の対象から外れると考える理由はありません。

本当のことであれば書いてよい、とはならない

 書き込みが事実であっても、名誉毀損は成立し得ます。刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合、その事実の有無にかかわらず処罰の対象になると定めています。真実であることを理由に責任を免れるのは、同法230条の2により、公共の利害に関する事実であり、かつ目的が公益を図ることにあった場合に限られます。私人の私生活上の行動をめぐる書き込みが、この枠に収まる場面は多くありません。

 民事の側でも、プライバシーの侵害として損害賠償の対象になり得ます。名誉毀損とプライバシーの侵害は、成り立ち方が違う別の主張です。実際の事案では、どちらの筋で立てるかを書き込みの内容に応じて選ぶことになります。

削除と、書いた人を確かめる手続

 削除については、まず事業者への申出という道があります。情報流通プラットフォーム対処法により、一定規模以上の事業者には、申出の窓口を公表し、調査の結果を申出をした人に通知することが求められています。応じてもらえない場合には、裁判所の手続として削除の仮処分を求める道が残ります。書き込んだ人を確かめる手続としては、発信者情報開示命令の申立てがあります。

 いずれも、記録が保存されている期間に制約されます。動くのであれば早い段階のほうが選択肢が残ります。手続の中身は、削除と開示を扱った別の解説をご覧ください。

経路4|自分の行動が新しい結びつきを作る

店やキャストへの問い合わせ

 報道を見て、店に電話をかける、担当だった方に連絡を取る、自分の記録を消してほしいと伝える。こうした行動は、いずれもこれから作られる記録です。捜査が動いている局面では、店側の通信記録が確かめられることもあります。

 とくに、記録を消してほしいと働きかける行為は、刑法104条が定める証拠隠滅の問題として見られる余地があります。同条は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅した場合を処罰の対象としています。自分の名前を消したいという動機であっても、対象となっているのは店の事件の証拠です。名前を消そうとする行動が、かえって自分と事件との結びつきを作ってしまう、という順序になります。

検索や削除依頼も足跡になる

 自分の名前と店名を並べて繰り返し検索する、口コミの投稿を自分で削除する、交流サイトで報道に触れて何かを書く。これらも、その場では何も起きていないように見えて、記録の側には残ります。自分で書いた投稿を後から消す動きが、消したこと自体で周囲の関心を呼ぶこともあります。

 この段階で手を動かす代わりにできるのは、いつ、どの店を、どのような形で利用したのかという事実関係を、自分の手元で時系列に書き留めておくことです。記憶は日が経つほど曖昧になり、後から説明を求められたときに、書き留めたものがあるかどうかで話の進み方が変わります。

「名簿にあなたの名前がある」と言ってくる相手

 摘発の報道が出た直後は、それに乗じた連絡が届くことがあります。名簿が流出している、消しておくから費用を出してほしい、といった内容です。話が本当かどうかを確かめる手段は、受け取った側にはありません。

 金銭を要求する言い方に害を加える旨の告知が伴えば刑法249条1項の恐喝、事実でない話で金銭を交付させれば同法246条1項の詐欺、要求がなくても害を加える旨を告げれば同法222条1項の脅迫が、それぞれ問題になり得ます。応じるかどうかを一人で決めず、やり取りをそのまま残したうえで相談してください。支払ってしまうと、支払ったという事実が次の要求の材料になります。

 なお、店の側が個人データを扱う事業者に当たる場合、一定の類型の漏えいが起きたときには、個人情報保護法26条1項により個人情報保護委員会への報告が、同条2項により本人への通知が求められます。要配慮個人情報が含まれる場合や、不正の目的で行われたおそれがある場合などが、その類型として同法施行規則7条に定められています。ただし、摘発を受けた店では連絡の窓口が失われていることも多く、通知が届くことを前提に構えられる仕組みではありません。

家族や勤務先に伝わるとすれば、どの経路からか

 この不安は、四つの経路のどこから来ているのかによって、考えるべきことが変わります。捜査の側からの連絡が家族や勤務先に向かうのは限られた場面である一方、経路2と経路3は捜査とは無関係に動きます。捜査の動きが止まっても周囲の側の動きが止まるわけではなく、逆に、周囲で何も起きていないことは、捜査の側で記録が読まれていないという話にもなりません。二つを一つの物差しで測らないことが、この場面では役に立ちます。

弁護士に相談する時期と、手元にあるとよいもの

 相談の時期として動きやすいのは、報道を見た段階と、実際に連絡や書き込みがあった段階の二つです。前者では四つの経路のどれが自分の状況に関係しているのかを切り分けることが中心になり、後者では相手が誰で何を求めているのかによって打てる手が決まってきます。

 手元にあるとよいのは、利用した時期と店の名称、予約や決済に使った手段の種類、届いた連絡の画面や書面、書き込みが確認できる画面の記録です。書き込みは後から消えることがあるため、表示されている状態のまま保存しておくと、その後の手続で使いやすくなります。

よくあるご質問

報道に店名が出ていれば、利用者の名前もいずれ出るのでしょうか

 その順序で進む性質のものではありません。報じられているのは営業を行っていた側の事件であり、利用者はその事件の被疑者として立件されているわけではないからです。前提が変わるのは、利用の中身に別の問題があり、その方自身が事件の対象になる場合です。

自分の名前を書き込まれました。書いた人が分からなくても動けますか

 動けます。削除は、書いた人が分からない段階でも事業者への申出や裁判所の手続として求められ、書いた人を確かめる手続も別に用意されています。ただし記録の保存期間には限りがあり、時間が経つほど選べる手が減ります。

報道を見た時点で、店に問い合わせて確認したほうがよいでしょうか

 おすすめしにくい行動です。確かな回答が得られる見込みが乏しいうえ、問い合わせたという記録が新たに残ります。記録を消してほしいと伝える形になれば、刑法104条の問題として見られる余地も生じます。確かめたいことがあるときは、店ではなく弁護士に相談する形をおとりください。

まとめ


  1. 摘発の記事は事件そのものの記録ではなく、警察の発表をもとに各社が判断して書いたものである。
  2. 利用者の氏名が報道に出ることは通常は考えにくく、刑事訴訟法196条や犯罪捜査規範9条1項が、事件の関係者の名誉への配慮を求めている。
  3. 特定という言葉は四つの別々の出来事を指しており、動く時期もこちらの打てる手も経路ごとに違う。
  4. 捜査の中での結びつきは報道より前に動いており、報道を見てから間に合わせる性質のものではない。
  5. 身近な人による推測は法的な争いではなく事実の問題で、報道によって新しく生まれたのは店名の側の情報である。
  6. 書き込みへの対応では、最高裁判所平成15年9月12日判決が名簿記載程度の情報もプライバシーに係る情報として保護の対象になるとしており、刑法230条1項の名誉毀損は事実であっても成立し得る。
  7. 削除の申出と発信者情報開示命令はいずれも記録の保存期間に制約されるため、動くなら早い段階のほうが選択肢が残る。
  8. 記録を消してほしいと働きかける行為は刑法104条の問題になり得るため、手を動かす代わりに事実関係を書き留めておく。


摘発の報道でご不安がある方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店をめぐるトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。摘発の報道を見て自分の立場が気になっている方、心当たりのない連絡や書き込みが届いた方のいずれについても、状況の切り分けからご一緒に確認します。

 この場面では、動くべきところと動かないほうがよいところが混ざっています。どの経路が自分に関係しているのかが分かるだけでも、次に何をするかの見当がつきます。一人で判断を重ねる前に、一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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