風俗トラブルで店の「顧問弁護士」が出てきた|客側がまず確認すべきこと

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 風俗店やメンズエステでトラブルになった後日、「当店の顧問弁護士です」「代理人の弁護士から連絡します」と告げられ、法律事務所名の入った書面や電話が届く。こうした場面で、多くの方が「弁護士が出てきた以上、もう争えないのではないか」「言われた金額を払うしかないのか」と考えて即断してしまいます。

 しかし、相手方に代理人が就いたという事実と、あなたに支払義務があるかどうかは、まったく別の問題です。この記事では、性風俗を利用した男性の立場から、店側の弁護士が登場したときに確認すべきこと、対応の手順、避けたい行動を整理します。

1. 「顧問弁護士が出てきた=支払義務が確定した」ではない

 まず前提を整理します。

 弁護士は、依頼者の正当な利益を実現するために活動する立場です。店の顧問弁護士は、あくまで店の代理人であって、あなたと店のどちらが正しいかを判定する中立の第三者ではありません。裁判所でも捜査機関でもありませんから、その弁護士が「支払義務がある」と書いた時点で義務が確定するわけではないのです。

 書面に記載された金額も、同じ性質のものです。それは店側の請求額であり、法的に支払義務が認められる額と一致するとは限りません。実際に支払義務があるかどうかは、

  • そもそも請求の前提となっている事実があったのか(事実の争い)
  • 事実があったとして、その金額が損害の実態に見合っているか(民法90条・公序良俗)
  • 現場で書かされた誓約書や示談書があるとして、それが自由な意思で作成されたものか(民法96条・強迫による取消し)

といった観点から、個別に検討されます。「弁護士名義だから正しい金額」という関係にはありません。

 なお、書面が内容証明郵便で届いた場合も同様です。内容証明は、その文面の郵便物をいつ誰が誰に差し出したかを郵便局が証明する制度であって、書かれた内容の正しさを証明するものではありません。

2. その一方で、放置してよいわけでもない

 とはいえ、「相手の言い値に従う必要はない」ことと「無視してよい」ことは別です。

 代理人が就いたということは、店側が費用をかけて法的手続を検討している段階に入ったことを意味します。回答期限を過ぎても反応がなければ、支払督促の申立てや訴訟提起に進む可能性があります。訴訟を起こされたのに答弁書も出さず期日にも出ないままだと、相手の主張がそのまま認められる形で判決が出てしまうこともあります。

 つまり、この段階で取るべきなのは「言われるまま払う」でも「無視する」でもなく、期限内に、内容を確認したうえで、こちら側の窓口を立てて対応するという進め方です。

3. まず確認したい3つのこと

① 本当に弁護士か

 残念ながら、「顧問弁護士」という肩書きだけが独り歩きしている例もあります。弁護士かどうかは、自分で確認できます。

 日本弁護士連合会は、登録されている弁護士を検索できる「弁護士情報検索」を公開しています。氏名や登録番号、所属弁護士会から確認でき、弁護士登録をしている人は原則としてここに掲載されています。書面に記載された氏名・登録番号・所属弁護士会が一致するか、事務所の所在地や代表電話が実在するかを見てください。名刺やメールに書かれた番号ではなく、事務所の公式サイトに載っている代表番号にかけ直して在籍を確認する方法もあります。

 なお、弁護士資格を持たない人が、報酬を得る目的で他人の法律事件について交渉や和解を業として取り扱うことは、弁護士法72条が禁じています(違反した場合は同法77条3号により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)。また、弁護士でない者が弁護士や法律事務所であるかのような表示をすることも同法74条で禁止されています。店の関係者が「顧問弁護士」を名乗って示談交渉を進めているような場合、この点が問題になり得ます。

② 誰の代理人なのか

 風俗トラブルでは、ここが実務上もっとも重要になります。

 店から請求されている「損害」と、施術者・キャスト本人が被った被害とは、法律上は別の話です。店の代理人は店の代理人であって、当然に被害を受けた本人の代理人になるわけではありません。

 そのため、店との間だけで金銭を払って書面を交わしても、本人との関係は解決していないという事態が起こり得ます。後日、本人から改めて損害賠償を請求されたり、被害届が提出されたりするおそれが残るのです。書面にサインする前に、その示談書・合意書の当事者が誰なのか、清算条項(互いに他に債権債務がないことを確認する条項)が誰との間で及ぶものなのかを必ず確認してください。

③ 何を根拠に、いくら、いつまでに

 書面や電話の内容は、次の項目に分解してメモしてください。

  • 誰が(店か、本人か、その他か)
  • 誰の代理人として
  • どの出来事について
  • 何を根拠に(規約違反、誓約書、不法行為など)
  • いくらを
  • いつまでに

 この整理ができていないまま「とにかく払え」というやり取りだけが進んでいる場合、根拠自体が曖昧なことも少なくありません。

4. 刑事の問題は、店への支払いでは終わらない

 もう一点、混同されやすい部分があります。

 店に金銭を支払ったとしても、それによって刑事事件としての手続が当然に終わるわけではありません。不同意わいせつ罪や不同意性交等罪は、2017年の法改正により非親告罪となっており、告訴の取下げや示談の成立が自動的に不起訴を意味するものではないからです。捜査機関が関与している、あるいは被害届が出されている可能性がある事案では、民事の請求への対応と並行して、刑事面の見通しも踏まえた判断が必要になります。

5. 弁護士名義でも、内容次第では問題になり得る

 代理人による請求は、権利行使として正当に行われる限り、それ自体は何ら問題ではありません。むしろ、その場で取り囲まれて現金を要求されるような対応に比べれば、書面でやり取りが残る分、冷静に検討できる状態だといえます。

 ただし、次のような要素が加わる場合には、正当な権利行使の範囲を超えていないかという観点が出てきます。

  • 支払わなければ勤務先や家族に知らせる、という趣旨の言及
  • 根拠の説明がないまま、極端に高額な金額のみを提示する
  • 即日の支払いを迫り、検討や相談の時間を与えない

 こうした事情がある場合、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)の成否が問題となる余地があります。もっとも、これは事案ごとの評価であり、「弁護士から請求が来た=恐喝」と短絡することはできません。判断に迷う内容であれば、やり取りをそのまま保存したうえで、自分の側の弁護士に見てもらうのが確実です。

 また、弁護士の行為に問題があると考える場合、その弁護士が所属する弁護士会に対して懲戒を求める制度があります(弁護士法58条1項)。ただし、請求すれば必ず処分がなされる性質のものではなく、目の前の請求への対応とは別の手続だという点は押さえておいてください。

6. こちらも代理人を立てると、やり取りの形が変わる

 弁護士職務基本規程52条は、「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない」と定めています。

 これは弁護士側の職務上のルールであり、あなた自身を縛るものではありません。しかし裏を返せば、あなたが弁護士に依頼して代理人を立てれば、店側の弁護士は原則としてあなた本人ではなく、あなたの弁護士に連絡することになるということです。

 自宅や携帯への直接の連絡が止まり、窓口が一本化されることは、それ自体が実務上の意味を持ちます。感情的なやり取りや、その場の勢いでの言質を避けられるほか、事実関係と金額の妥当性を落ち着いて検討する時間を確保できます。

7. この段階で避けたい行動・とるべき行動

避けたい行動

  • 電話口で「やりました」「払います」と即答する(会話が録音されている前提で考える)
  • 内容を確認しないまま示談書・合意書・念書に署名する
  • 期限当日に慌てて振り込む(任意に支払った金銭は、後から取り戻すことが難しくなります)
  • 施術者・キャスト本人に直接連絡して謝罪や交渉を試みる
  • スマートフォンのデータやLINEのやり取りを削除する
  • 書面を開封せずに放置する、連絡先を変えて逃げる

とるべき行動

  • 届いた書面と封筒を保管し、電話の日時・相手・内容を記録する
  • 当日の出来事を時系列でメモに起こす(記憶が新しいうちに)
  • 回答期限を確認し、期限より前に相談の予定を入れる
  • 支払義務の有無と金額の妥当性を、事実関係に即して検討する
  • 弁護士に依頼し、連絡窓口を一本化する

まとめ

 店の顧問弁護士から連絡が来ると、それだけで結論が出てしまったように感じられます。しかし整理すべき点は、次の5つに集約されます。

  1. 代理人は店の側に立つ立場であり、支払義務を確定させる存在ではない
  2. 記載された金額は請求額であって、支払義務の額とは限らない
  3. 本当に弁護士か、誰の代理人か、何を根拠にいくら請求しているかを確認する
  4. 店に支払っても、本人との関係や刑事面が当然に終わるわけではない
  5. 無視も即断も避け、期限内にこちら側の窓口を立てて対応する

 風俗トラブルは、家族や勤務先に知られたくないという事情から、一人で抱えたまま相手の要求に応じてしまいやすい問題です。一度支払った金銭の回収は容易ではありませんので、書面が届いた段階、あるいは「弁護士から連絡がいく」と告げられた段階で、早めに客側の立場に立つ弁護士へご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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