6回落ちて、半年かかった。それでも諦めなかった理由/大型二輪限定解除で知った、人が伸びるまでの時間

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

こんにちは。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社労士、キャプテン ヒデです。

机の奥から、ハーレーダビッドソンのカタログが出てきたことがあります。

ハーレーダビッドソン95周年モデルのカタログでした。

買ったわけでも、予約したわけでもありません。
ただ、ずっと捨てられずに持っていた。

ページは少しくたびれていました。
でも、それを見たときに思いました。

「ああ、この頃から、ずっとハーレーに乗りたかったんだな」と。

今回は、私が30歳頃に大型二輪の限定解除に挑戦したときの話です。

今思えば、あの半年間は、人が成長するまでの時間について、ずいぶん大事なことを教えてくれたように思います。

捨てられなかったカタログ



中型二輪の免許は、20代前半に取っていました。

バイクは好きでした。
でも、当時の私の中には、もう一つ先の憧れがありました。

「いつかはハーレーに乗る」

今のように、すぐに情報が手に入る時代ではありません。
雑誌を見たり、カタログを眺めたりしながら、いつか乗る日のことを考えていました。

その頃から、捨てられなかったものがあります。
ハーレーダビッドソン95周年モデルのカタログです。

何度も眺めていたと思います。
たぶん、その頃から頭の中では、もうハーレーに乗っていたのでしょう。

もちろん、現実にはまだ乗れません。
大型二輪の免許もありません。
資金の問題もあります。
仕事もあります。

それでも、そのカタログを手元に置いていた。

今振り返ると、あのカタログは単なる紙ではありませんでした。
自分の中にあった「いつかこうなりたい」という気持ちそのものだったのだと思います。

住民票を実家に移して、鮫洲試験場へ


当時、1990年代前半の大型二輪免許は、今とは制度が違いました。

現在のように、教習所で大型二輪免許を取得することはできませんでした。
試験場で技能審査に合格する。
いわゆる「限定解除」です。

この限定解除が、なかなか大変でした。

合格率は全国的に低く、特に神奈川県はかなり厳しいと言われていました。
私はその頃、神奈川に住んでいましたが、少しでも合格に近づきたいと考えました。

そこで、住民票を実家のある東京都に移しました。
受験先は鮫洲試験場です。

今考えると、そこまでやるか、という話です。

でも当時は本気でした。
少しでも合格に近づくなら、そのくらいの手間は惜しくありませんでした。

大型二輪に乗りたい。
その先に、いつかハーレーに乗りたい。

その気持ちがあったから、面倒な手続きも、試験場通いも、あまり苦には感じませんでした。

教習車はCB750F。教官の言葉は今でも覚えている


試験に向けて、自動車学校のコースを借りて練習しました。

教習車はCB750F。
当時の大型教習車としては、定番の一台だったと思います。

中型二輪には乗っていました。
だから、最初はどこかで「大型も何とかなるだろう」と思っていたのかもしれません。

ところが、実際に乗ってみると違います。

車体は重い。
取り回しも違う。
小さな操作の雑さが、そのまま動きに出る。

練習のとき、教官からこう言われました。

「大型二輪は、メリハリのある走りをしないと合格しない」

この言葉は、今でも覚えています。

加速するときは、きちんと加速する。
止まるところでは、しっかり止まる。
ダラダラ走らない。
操作をはっきり見せる。

ただ慎重に走ればよいわけではありませんでした。

恐る恐る乗っていると、車体に乗せられているように見える。
大型車を自分で扱っているように見えない。

たぶん、そこを見られていたのだと思います。

この言葉は、試験のたびに頭の中で繰り返されました。

月に1回のチャンス。5回、落ちた



試験は予約制でした。

不合格になると、次に受けられるのは約1か月後です。

仕事をしながら、有給休暇を使って鮫洲試験場に通いました。

1回目。不合格。
2回目。不合格。
3回目。不合格。

試験場から帰るたびに、頭の中で何度もコースを走り直しました。

「あそこが雑だったのか」
「一本橋で焦ったのか」
「加速が足りなかったのか」
「安全確認が弱かったのか」

そんなことを考えながら、次の予約までまた1か月待つわけです。

正直、3回目あたりで少し思いました。

「自分には向いていないのかもしれない」

それでも、やめませんでした。

カタログは、まだ手元にありました。

4回目。不合格。
5回目。不合格。

落ちるたびに悔しい。
でも、次も受ける。

そうして、6回目。

ようやく合格しました。

最初の受験から、約半年が経っていました。

合格の瞬間、一緒に待合室で結果を待っていた受験生仲間から拍手をもらいました。

お互い、名前も知らない。
仕事も知らない。
どこから来ているのかも知らない。

でも、同じ試験を何度も受けてきた仲間です。
落ちた悔しさも、次までの長さも、あの緊張感も、たぶん共有していたのだと思います。

その拍手が、妙にうれしかった。

試験官に言われた言葉


合格発表後、試験官からこう言われました。

「大型二輪乗りとして、模範になる運転をしろ」

その言葉を聞いて、浮かれてばかりもいられないなと思いました。

免許を取ったというより、これから大型二輪に乗る者として見られるのだと感じました。

免許証に「限定解除」の文字が入ったときは、本当にうれしかったです。

ただ、それはゴールではありませんでした。

ようやく入口に立った。
そんな感覚でした。

そして、ハーレーへ


最初に乗った大型車は、CB750Fボルドール2でした。

その後、FJ1200に乗り換え、そしてハーレーへ。

初めてハーレーにまたがったとき、あのカタログのことを思い出しました。

ボロボロになるまで眺めていたあのページ。
その先にあったものに、ようやく近づいたんだなと思いました。

それから、ハーレー歴は23年になります。
ライフタイムマイルも10万マイルを超えました。

もちろん、きれいな話ばかりではありません。

違反もありました。
転倒も経験しました。
ヒヤッとした場面もあります。

それでも、あの免許は今でも大切です。

簡単に取れなかったからこそ、大切なのかもしれません。
半年かけて、何度も落ちて、それでも通って取った免許だからです。

社員にも「カタログ」があるか


社労士として経営者の方と話していると、この限定解除の経験を思い出すことがあります。

たとえば、こんな相談です。

「社員がなかなか育たない」
「資格を取らせたいが、本人のやる気が続かない」
「管理職候補として期待しているが、伸び悩んでいる」
「何度言っても、同じところでつまずいてしまう」

経営者の方のお気持ちは、よく分かります。

会社としては、時間もお金もかけています。
だから、早く成果を出してほしい。
早く一人前になってほしい。
そう考えるのは自然です。

ただ、人が伸びるまでには時間がかかります。

そして、続けられる人には、続けられる理由があります。

私が6回落ちても鮫洲に通い続けられたのは、誰かに命じられたからではありません。
会社に評価されるためでもありません。

ハーレーに乗りたい。
その気持ちが、自分の中にあったからです。

社員も同じです。

資格を取ってほしい。
管理職になってほしい。
新しい仕事を任せたい。

会社側の期待はあります。

でも、本人の中に「こうなりたい」という気持ちがなければ、最初の壁にぶつかったときに足が止まります。

逆に、少し不器用でも、本人の中に手放せない目標がある人は、時間をかけて伸びていくことがあります。

部下や社員を見るとき、
「この人には、心の中にカタログがあるだろうか」
そんな視点を持ってみてもよいかもしれません。

何年も捨てられない憧れがある人は、少しくらい失敗しても戻ってきます。

3回目の不合格で見切っていないか


人材育成で難しいのは、どこまで待つかです。

もちろん、会社ですから成果は必要です。
何年経っても改善しなくてよい、という話ではありません。

ただ、入社して間もない時期や、新しい役割を任せたばかりの時期に、すぐに

「この人は向いていない」
「伸びない」
「任せられない」

と判断してしまうのは、少し早いことがあります。

これは、3回目の不合格で「もう無理だ」と決めつけるのに近いと思います。

大切なのは、失敗そのものだけを見ることではありません。

指摘を受けた後に、改善しようとしているか。
失敗した後に、もう一度やろうとしているか。
時間がかかっていても、前に向かっているか。
本人の中に、続ける理由があるか。

そこを見ることです。

採用面接や1on1でも、次のようなことを聞いてみてもよいと思います。

「今まで、すぐに結果が出なくても続けたことはありますか」
「何度か失敗しても、やめなかった経験はありますか」
「仕事で、いつかこうなりたいと思っている姿はありますか」
「うまくいかなかったとき、どうやって立て直してきましたか」

この答えの中に、その人の“カタログ”が見えることがあります。

資格も昇進も、そこからが始まり


限定解除に合格したとき、私はとても嬉しかったです。

でも、試験官の言葉で気づかされました。

「大型二輪乗りとして、模範になる運転をしろ」

つまり、合格したから終わりではない。
これから大型二輪に乗る者として、どう振る舞うかが問われる。

会社でも同じです。

資格を取った。
主任になった。
課長になった。
管理職になった。

そこで終わりではありません。

むしろ、そこからが始まりです。

資格を取ったのに、実務が変わらない。
昇進したのに、責任を引き受けようとしない。
役職がついたことで、かえって守りに入ってしまう。

こういうことは、実際の職場でも起こります。

それは、資格や昇進を「ゴール」として扱ってしまうからです。

役職はご褒美ではありません。
役割の始まりです。

資格も、持っていること自体に意味があるのではなく、その資格を使ってどう貢献するかが問われます。

ここを伝えないまま昇進させると、本人も周囲も苦しくなります。

評価制度や昇進制度を考えるときには、
「上がった後に、どんな役割を期待するのか」
「その役割を本人が理解しているのか」
「周囲がその人をどう支えるのか」
まで整理しておくことが大切です。

会社が本人の火を消していないか


人が何かを続けるには、心の中に燃えているものが必要です。

ただ、会社がその火を代わりに燃やすことはできません。

できるのは、せめて、その火を消してしまうような関わり方をしないことです。

たとえば、失敗した社員に対して、

「だからダメなんだ」
「向いていないんじゃないか」
「何回言えば分かるんだ」

と繰り返していれば、本人は挑戦しなくなります。

早く成果を出せと急かすだけでは、社員は小さくまとまっていきます。
失敗しない仕事だけを選ぶようになります。
合格率の高い、難しくない仕事しか選ばなくなります。

もちろん、甘やかせばよいという話ではありません。

必要な指導は必要です。
改善すべき点は、きちんと伝えるべきです。

ただし、指導の目的は、相手の火を消すことではありません。
次にどうすればよいかを分かるようにすることです。

大型二輪の練習で、教官が言った

「メリハリのある走りをしないと合格しない」

という言葉は、厳しい言葉でした。
でも、何を直せばよいかが分かる言葉でもありました。

職場の指導も同じです。

人格を否定するのではなく、行動を具体的に伝える。
失敗を責めるだけでなく、次の改善点を示す。
本人がもう一度挑戦できる余地を残す。

それが、人を育てる関わり方だと思います。

経営者・人事担当者の方へ


社員育成では、どうしても短期的な結果に目が向きます。

早く覚えてほしい。
早く一人前になってほしい。
早く管理職として機能してほしい。

その気持ちは当然です。

ただ、人が本当に伸びるには、時間がかかります。
そして、伸びる人には、続けられる理由があります。

経営者や人事担当者が見るべきなのは、今すぐの出来不出来だけではありません。

失敗した後に戻ってくるか。
指摘を受けた後に直そうとしているか。
本人の中に、手放せない目標があるか。
会社が、その気持ちを消していないか。

そこを見落とさないことが大切です。

私が限定解除に6回落ちても戻れたのは、心の中にカタログがあったからです。

部下や社員にも、それぞれのカタログがあるかもしれません。

それは、資格かもしれません。
役職かもしれません。
家族に誇れる仕事をしたいという気持ちかもしれません。
お客様に喜ばれたいという思いかもしれません。
いつか一人前になりたいという、まだ言葉になっていない憧れかもしれません。

その小さな火を見つけて、消さずに育てる。

それが、人材育成の大切な仕事ではないでしょうか。

社員の育成、管理職登用、評価制度の見直しなど、
「人が育つ会社づくり」に悩まれたときは、早めにご相談ください。

人事トラブルは、起きてからではなく、
「その前に」整理しておくことが大切です。

【管理職・パワハラ関連記事・動画】
上司は無能!はアウト?(youtube)
その”いじり” もう危険です(youtube)
何も言わない上司が一番危険な理由(youtube)
パワハラを防ぐ方法は「叱らないこと」ではない(youtube)
部下を叱るとパワハラになる?(マイベストプロ)

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

中小企業の経営を支える人事総務コンサルタント

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京のビジネス
  4. 東京の経営コンサルティング
  5. 桐生英美
  6. コラム一覧
  7. 6回落ちて、半年かかった。それでも諦めなかった理由/大型二輪限定解除で知った、人が伸びるまでの時間

桐生英美プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼