会社や上司の悪口を言う社員を解雇したい/会社が確認すべき判断基準と実務対応【人事トラブル相談室15】

桐生英美

桐生英美

テーマ:人事トラブル

今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社会保険労務士、キャプテンヒデです。

「会社や上司の悪口を言う社員がいます」
「飲み会のたびに不満を言いふらして、職場の雰囲気が悪くなっています」
「根拠のないことまで話しているようです。解雇できませんか」

このような相談を受けることがあります。

社長や管理職からすると、かなり腹立たしい問題です。
周囲の社員も影響を受けますし、上司の指示が通りにくくなることもあります。

ただし、最初に確認しておきたいことがあります。

会社や上司の悪口を言ったからといって、すぐに解雇できるわけではありません。

もちろん、会社が何もできないわけではありません。
発言の内容や広がり方、職場への影響によっては、注意指導や懲戒処分を検討する場面もあります。

ただし、いきなり解雇に進むと、解雇の有効性を争われるリスクが高くなります。

会社への不満と誹謗中傷は分けて考える

まず分けて考えるべきなのは、
会社への不満・意見と、
根拠のない誹謗中傷です。

たとえば、

「上司の仕事の割り振りが偏っている」
「評価の基準が分かりにくい」
「人員配置に無理がある」
「現場の意見を聞いてほしい」

このような発言は、会社にとって耳の痛い内容かもしれません。
しかし、業務上の意見や不満を、すぐに処分の対象とするのは慎重に考える必要があります。

社員にも意見を述べる自由があります。
また、社員の不満の中に、職場改善のヒントが含まれていることもあります。

一方で、次のような発言になると、話は変わります。

「部長は無能だ」と人格を繰り返し攻撃する
「あの人は会社のお金を不正に使っているらしい」と根拠なく広める
「この会社はブラック企業だ」と事実確認なく言いふらす
事実と違う話を広め、職場の人間関係を混乱させる
特定の上司や同僚を攻撃し、周囲の社員を巻き込む

このような発言は、単なる不満とは違います。
内容や広がり方によっては、就業規則上の懲戒事由に該当する可能性があります。

厚生労働省のモデル就業規則でも、会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等により、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為が、懲戒解雇事由の例として示されています。

飲み会での悪口だけで解雇できるとは限らない

「飲み会で上司の悪口を言っている」
という相談は、実務上よくあります。

ただし、飲み会での愚痴や不満だけを理由に、いきなり解雇するのは危険です。

たとえば、少人数の飲み会で一度だけ不満を言った程度であれば、会社が強い処分に出るのは慎重であるべきです。
会社が社員の私生活や感情まで管理できるわけではありません。

ただし、少人数の飲み会だから絶対に問題にならない、というわけでもありません。

その発言が職場内に広がっている。
毎回のように特定の上司を攻撃している。
若手社員に対して上司への不信感をあおっている。
翌日以降の職場で、上司の指示が通りにくくなっている。

このような場合には、飲み会の発言であっても、会社として対応を検討する必要があります。

問題は、場所がお酒の席だったかどうかだけではありません。
その発言が、職場にどのような影響を与えているかです。

名誉毀損・侮辱の問題になる場合もある

発言内容によっては、労務管理上の問題だけでなく、名誉毀損や侮辱の問題に発展することもあります。

名誉毀損罪は、刑法230条で定められています。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が対象となります。

たとえば、根拠なく、
「あの上司は会社のお金を横領している」
「あの人は不正を隠している」
などと広める場合は、名誉毀損の問題になり得ます。

また、具体的な事実を示さない場合でも、
「バカ社長」
「あの上司は無能」
といった表現が、公然と行われれば、侮辱の問題になる可能性があります。

侮辱罪については、2022年の法改正により法定刑が引き上げられ、現在の刑法231条では、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とされています。

ただし、刑事上の名誉毀損や侮辱に当たるかどうかは、発言内容、発言場所、相手方、広がり方などによって変わります。
ここは確認が必要です。

会社としては、刑事事件になるかどうかだけでなく、職場環境や業務への影響を見て対応する必要があります。

SNSや口コミサイトへの投稿は、より慎重な対応が必要

最近は、飲み会の愚痴で終わらないケースもあります。

SNS、口コミサイト、社内チャット、LINEグループなどで、会社や上司への不満が広がるケースです。

たとえば、

「Googleの口コミに会社名が分かる形で書かれた」
「Xに上司の実名らしき人物への誹謗中傷が投稿された」
「社内チャットで複数人に悪口が送られている」

このような場合、居酒屋での発言とは影響が違います。
不特定多数が見る可能性があり、会社の採用や取引に影響することもあります。

ただし、SNSに投稿したからといって、直ちに懲戒解雇できるわけではありません。

確認すべきなのは、次の点です。

投稿内容
公開範囲
会社名や個人名が特定できるか
事実に反する内容か
会社に実際の影響が出ているか
本人に注意した経緯があるか
就業規則にSNS利用に関する定めがあるか

これらを整理したうえで、対応を検討します。

判例上も、職場外・勤務時間外なら常に自由とはいえない

「会社の外で言ったことだから、会社は何もできない」
というわけではありません。

関西電力事件では、就業時間外に会社社宅で行われたビラ配布について、ビラの内容が事実に基づかず会社を中傷誹謗するものであり、就業規則所定の懲戒事由に該当するとして、譴責処分が有効と判断されています。

ただし、この判例は、
「会社の外で言ったことはすべて処分できる」
という意味ではありません。

企業秩序や業務運営への影響があるか。
就業規則の根拠があるか。
処分が重すぎないか。

これらを総合的に見て判断する必要があります。

懲戒処分には就業規則の根拠が重要

会社が懲戒処分を検討する場合、まず確認すべきなのは就業規則です。

服務規律や懲戒事由に、次のような定めがあるかを確認します。

会社の名誉信用を損なう行為
職場秩序を乱す行為
誹謗中傷
ハラスメント
SNS等での不適切な投稿
業務に重大な悪影響を与える行為

懲戒処分については、労働契約法15条により、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。
解雇についても、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は無効とされます。

簡単にいえば、
その行為に対して、その処分は重すぎないか
が問われるということです。

一度の飲み会で不満を言った程度で、いきなり懲戒解雇にするのはかなり危険です。

一方で、根拠のない誹謗中傷を繰り返し、注意しても改善せず、職場に大きな混乱が生じている場合には、懲戒処分を検討する余地があります。

会社が実際に行うべき対応

会社としては、次の順番で整理するとよいです。

1 発言内容と影響を確認する

「悪口を言っているらしい」だけで判断しないことです。
いつ、どこで、誰に対して、どのような発言があったのかを整理します。

また、その発言が職場にどのような影響を与えているのかも確認します。

上司の指示が通りにくくなっているのか。
若手社員が萎縮しているのか。
部署内の人間関係が悪化しているのか。
事実と違う話が広がっているのか。

ここを記録しておくことが重要です。

2 本人から事情を聴く

会社側は「悪口を言いふらしている」と見ていても、本人は、
「悪口ではなく事実を言っただけです」
「上司の対応に問題があるので相談しただけです」
「飲み会の冗談を大げさに受け取られています」
と言うことがあります。

本人の言い分を確認しないまま処分に進むと、後で揉めます。

3 まずは注意指導を行う

多くの場合、最初から懲戒処分ではなく、注意指導から始めるのが現実的です。

ただし、口頭注意であっても、記録は残しておきます。

いつ面談したか。
誰が同席したか。
どの発言について注意したか。
会社として何を問題視しているか。
今後どのような言動を控えるよう伝えたか。
本人がどのように説明したか。

この程度は、社内記録として残しておくことをおすすめします。

4 人格ではなく行為を注意する

注意するときに、
「あなたは人間性に問題がある」
「会社に不要だ」
「そんな考えなら辞めてもらう」
といった言い方をすると、逆に会社側のハラスメントと受け取られる可能性があります。

見るべきなのは、その社員の性格ではありません。
実際に行った発言や行動です。

たとえば、次のように伝えます。

「事実確認ができていない内容を、複数の社員に話すことは控えてください」
「特定の上司の人格を否定する表現は、職場の人間関係に悪影響を与えます」
「業務上の意見がある場合は、上長や相談窓口に伝えてください」
「不満があること自体を問題にしているのではなく、周囲を巻き込む形で広げている点を問題にしています」

5 改善しない場合は書面で警告する

口頭注意をしても改善しない場合には、書面で警告することを検討します。

受け取りのサインをもらえると望ましいですが、本人が拒否することもあります。
その場合は、交付日時、説明者、同席者、本人が受け取りを拒否した事実を記録しておきます。

6 それでも改善しない場合に懲戒処分を検討する

就業規則の根拠、過去の注意指導歴、職場への影響、処分の重さを確認したうえで、懲戒処分を検討します。

解雇は最後の手段です。

「解雇したい」の前に確認すべきこと

「会社や上司の悪口を言う社員を解雇したい」という相談の背景には、解雇そのものではなく、別の目的があることも多いです。

職場の空気を取り戻したい。
他の社員を守りたい。
上司が安心してマネジメントできる状態にしたい。
若手社員が萎縮しない職場にしたい。

その気持ちはよく分かります。

ただ、感情的に解雇へ進むと、会社側が不利になることがあります。

まずは、発言内容、職場への影響、本人への注意指導歴、就業規則の定めを整理することです。

そのうえで、注意で止める段階なのか。
書面で警告した方がよいのか。
懲戒処分を検討する段階なのか。
解雇まで考えられる状況なのか。

順番に確認していく必要があります。

まとめ

会社や上司の悪口を言う社員がいる場合、会社として放置すべきではありません。
特に、根拠のない誹謗中傷が広がり、職場の人間関係や業務に影響が出ている場合には、早めの対応が必要です。

ただし、悪口を言ったというだけで、すぐに解雇するのは危険です。

会社として確認すべきことは、次の点です。

発言は正当な意見なのか、誹謗中傷なのか。
事実に基づいているのか。
職場にどのような影響が出ているのか。
本人に注意指導をした記録があるのか。
就業規則に懲戒処分の根拠があるのか。
処分の重さが相当なのか。

この整理をせずに処分へ進むと、会社側がリスクを抱えることになります。

「注意で止めるべきか」
「警告書を出すべきか」
「懲戒処分を検討できる段階か」
「解雇まで進めてよいのか」

判断に迷う場合は、処分を決める前に一度整理することをおすすめします。
早めに確認しておけば、会社側のリスクを下げながら、職場の混乱を抑えることができます。

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関連法令・参考資料

労働契約法15条は懲戒処分について、労働契約法16条は解雇について、客観的合理性と社会通念上の相当性を求めています。

厚生労働省のモデル就業規則では、会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等により、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為が懲戒解雇事由の例として示されています。

刑法230条は名誉毀損罪、刑法231条は侮辱罪について定めています。

関西電力事件では、就業時間外・職場外の行為であっても、企業秩序や業務運営への影響が問題となり得ることが示されています。

※実際の対応は、発言内容、発言場所、公開範囲、職場への影響、就業規則の定め、過去の注意指導歴によって判断が変わります。個別のケースは確認が必要です。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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