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福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(ふくみけんじ) / 一級建築士

岡田一級建築士事務所

コラム

倉敷IVYスクエアの煉瓦

2018年5月2日 公開 / 2018年5月3日更新

テーマ:【カフェテラス】

コラムカテゴリ:住宅・建物

129年前の煉瓦造のホテル

昭和49年に開業した倉敷IVYスクエア。築後44年を経過した今でも倉敷では人気の宿泊施設です。

前身はもっと古く1889年に創業した倉敷紡績に始まります。そこから考えれば築後129年が経過しています。建物自体のコストパフォーマンスを考えれば立派に減価償却を果たし御釣りで稼いでいる様な建物です。
構造は耐震には弱いとされている煉瓦造ですが、平屋建ての為129年の風雪に耐えています。倉敷IVYスクエアの魅力はなんと言ってもその煉瓦にあります。鉄筋コンクリートに煉瓦タイルを張っただけの今の構造とは違う、本物の煉瓦造りにあります。本物の煉瓦は珪藻土と同じ働きをし、湿度の高い日は湿度を吸収し、空気が乾燥した日には湿気を放出してくれます。その為人に優しい建材と呼ばれています。尚且つ煉瓦そのものが仕上げ材を兼ねる為ローコストでもあります。
その煉瓦と云う本物の素材を駆使した建物であるから、その価値を見出し、無闇に解体せずホテルとして再開発されて今日に至っているのですが、それと対照的なのが赤坂プリンスホテルのタワーでしょう。

28年しか持たなかった赤坂プリンスホテル


赤坂プリンスホテルのタワーは1983年に完成しましたが、28年を経過した2011年に将来の採算性の悪化を理由に閉鎖解体処分されました。一時はトレンディースポットにもなった同ホテルですが、採算の悪化(つまり飽きられた)を理由に解体されてしまったのです。建設総工費を考えると減価償却を果たしたかどうかの年数です。

受け継がれる本物の良さ

倉敷IVYスクエアは創業当初の倉敷紡績の面影を多く残しています。煉瓦は勿論の事工場に使われていた鉄骨の屋根もそのまま表しにして、オブジェとして見せています。

そう言った歴史、それまで人が関与した名残りをそのまま残す事により、建物に重みを醸し出しその歴史に思いを馳せる事により味わいのある名建築になるのだと思います。新築する時に単に流行を追いかけたり、安かろう悪かろうの建物を建ててしまえば、その寿命は短く結局のところ安物買いの銭失いになってしまうのです。
しかし、ローコスト住宅を目指すのは良い事です。倉敷IVYスクエアの屋根も当時としてもそんなに高級な造りでもありません。要点は住まう人がそれにどれだけ納得してその材料を選定したのかにかかります。逆に云えば、なにもかもお任せで建ててしまうとどんな高級な建物も寿命は短いと云う事です。

流行を追いかける家に長持ちする家はない

現代に残る名建築の全てに、建てた人の思い入れを伺い知る事が出来ます。それは立派な建物に限らす個人の住宅にも共通する思いです。住まう人の個性を表現するのが住宅だと思うのです。大量生産により出来上がる家にはその様な個性が見えて来ません。流行を追いかけ経済性を追求した家に、長寿命を願うのは無理な事なのです。
家を長持ちさせようと思えば、家を買うと云う発想を止める事です。家は建てる物です。ブランド力や工法で手前味噌の住宅をお仕着せされるより、自分の思いや夢(個性)を最大限引き出してくれるパートナーを選ぶのが家を長持ちさせる最良の方法です。

この記事を書いたプロ

福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(岡田一級建築士事務所)

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