グルーミングルームのある間取り
チラシやネットで氾濫する注文住宅の文字。注文住宅の注文は何を注文するのでしょうか?
「注文住宅、坪○○万円より」とかのチラシをよく見かけます。一般の方々は、自分の好きな間取りを造れて気に入ったキッチンや、ユニットバスが選べると考えています。しかし、その実際は、間取りはある程度決まったパターンの中から選択し、自分たちの家族に合う様に出入り口をちょっと変える程度の間取りの造り方です。またキッチン等の住設機器も数社からの選択で、それもシリーズが限られています。
間取りをほんの少し変更したり、キッチンやユニットバスを限られた中から選択するのが、注文住宅でしょうか?
その様な、造り手側の都合で出来た制約の中で、家を造る事に満足だと云う人もいます。「素人なのである程度決められた中から選択する方が楽」と云う考え方です。でも、それで愛着の沸く家になるでしょうか?
初めは新しいから、来客も家を褒めてくれますが、古くなると誰も何も言わなくなります。周りに新しい家が建ち始めると、我が家が見窄らしく見えてきて、まだ使えるのにローンが終わる頃には、解体して建替えられてしまうのです。
古くなっても、また、古くなるほど味わいのある家を造る方法もあります。京都や奈良に行けば100年以上の風雪に耐えた家がまだ、実際の生活の場として使用されています。家に対して愛着が沸けばその家は100年以上の風雪に耐えてくれるのです。愛着が沸く沸かないは、家の寿命を決定します。
また、古い地場の工務店さんでは、一から依頼者の注文に応じて予算を組み立てる本来の注文住宅の造り方をされている方もいます。工務店さんと依頼主が話し合い納得し合いながら家を建てる方法です。工務店さんと依頼者が古くからの付き合いで、依頼者の家族構成から一人一人の癖まで熟知した工務店さんなら、多くを語らなくても、望み通りの家に仕上がります。
しかし余程の信頼関係がない限りお勧め出来ません。やはり営利企業である限り、儲けを優先するのは当たり前です。造り手側にとって都合の「良い住宅」を勧めてきます。
また、自分たちにとって都合の良い家にこだわり過ぎた為、まとまりのないヘンテコな家になってしまう可能性もあります。時折街で見かけますが、洋風と和風とがごちゃまぜになってお金を掛けた割にセンスのない家があります。比喩的な表現になりますが、頑丈にしたいからと言って戦車の様なボディーに、空を飛びたいからと云って翼を付け、早く走りたいからと言ってチータの足を取り付けた様な家です。
予算や法規制も含めて、本当に自分たちの都合に合わせた家を造りたいのなら、設計と施工を分離して発注することです。自分たちの注文を客観的に評価しながら設計図書にしてくれて、その設計図書を元に最適な工務店を選択すると云う方法が最もスマートです。国家でも司法・行政・立法が分立している様に、家造りでも建築主・設計者・施工者が独立した立場でないと、客観的に良い家は造れません。
「自分たちの予算では、設計事務所に依頼する余裕がない」と考えるのは間違いです。例えば工務店さんから示された見積もり書の妥当性をご自分で判断できますか?見積もり書の妥当性を客観的に判断するのも設計事務所の仕事です。また設計事務所が作成する統一された図面無しに競争見積もりを取れるでしょうか?住宅であれば、見積もり金額に2〜300万円の差が出るのは、ごく普通の話しです。もしかすると、余裕がないと言って設計事務所を入れなかったばかりに、300万円損している事もあるのです。
私の考える注文住宅は、設計を設計事務所に注文する事から始まると考えています。