木造耐火建築物を建てています。
設計事務所の介在なしの競争見積り(合い見積もり)は間違っています。
値段だけでは住宅は決まりません。安いと云っても一生を掛けて返済するほど大金です。
値段につられて、あとで後悔しない様にして下さい。
先日、知り合いのA工務店から、間取りの提案をして欲しいと依頼されました。
いつも、無償で競争見積りに参加して頂いていますので、断る訳にもいかず、顔の見えないお客さんを勝手に想像しながら、プランを作りました。
しばらくして結果を尋ねると、「合い見積もり(競争見積り)になっているから、しばらく待って欲しい」と返事が返ってきました。
私の提案したプランが気に入らず、他所のB工務店が、独自のプランで営業されているのなら、仕方ありませんが、どうやら、私の描いたプランを使ってB工務店に、合い見積もりを建築主さんが勝手に頼んでいるようでした。
私にしてみれば、プランは気に入ってもらえたのは嬉しいことですが、プランだけ一人歩きしているのが面白くありません。住宅の性能や価値はプランだけでは決して決まらないのです。
多分、A工務店の提案した金額が高いと感じられて、B工務店に合い見積もりを依頼されたのかと思います。しかし私が描いたのは間取りだけで仕様は何も書いていません。
間取りだけの提案で、どんな構造にするのか、どんな温熱性能にするのか、仕上げはどうするのか一切書いていません。簡単に言えば、安くしようと思えば幾らでも安い見積りを作成することが出来るのです。
後日、建築主から「B工務店が二割近く安い値段で見積もりを入れてきたけど、今までの付き合いもあるし、その値段以下で請け負ってくれるのなら契約しても良い」と連絡があったそうです。
どうしたものか相談を受けましたので「それより安い値段を提示すれば、それを持ってB工務店に行って、これより安くなるか尋ねるだけだから辞めた方が良い」とアドバイスしました。
この建築主さんは自分の希望はさておいて、建物の総額だけを重視しているのです。
この様な建築主さんに限って、契約すると「キッチンはこれを使え、ユニットバスはこの製品」と、高価な製品を並べてきます。工務店さんもしっかり利益確保に走りますから、構造や温熱性能がなおざりになります。
設計事務所が介在しない住宅の、構造や温熱性能は住んでみないと判りません。一年間生活してみないと光熱費に幾らかかるか判らないのです。構造も地震や台風に遭遇しないと真価が判らないのです。
手抜き工事は論外ですが、建築確認書通りに建てて、検査済み書も下りている建物でも多くが、今回の地震で被災し住めなくなっています。特に液状化現象で不同沈下した建物の損害は著しく、建築基準法だけでは人の生命は守れても、建物の健全性が保てないのが明らかになっています。
設計事務所が介在すれば、温熱計算を行って事前に光熱費のシュミレーションが可能となります。地震も過去の発生規模や、地盤の性能を把握して適正な耐力を建物に求める事も出来ます。住宅建設成功の秘訣はどこにお金を投入するかのバランス配分です。
建築主さんに納得してもらって、どこにどれだけお金を投入すれば良いかを考えるのが設計事務所の仕事です。
合い見積もり(競争見積もり)自体は悪い事ではありません。少しでも安く建物を提供するのは請け負う工務店さんの義務です。
そうしたい時は、自分だけで行わず、設計事務所にまず相談されて、建物の仕様を決定することです。住宅の性能をしっかり確保して、自分の要求を全て図面化してもらって、同じ土俵を作ってからでないと、単純な価格比較は出来ないのです。
それをせずに、単に価格比較だけを行うと、後で大損する事になります。特に地震対策は重要です。今後30年間の間に東海・東南海・南海地震の発生する確率は80%を超えます。これから新築する建物は間違いなく地震に遭遇するのです。
現状の建築基準法では人の生命は守れても、建物の健全性を保つ事は出来ません。
業者選びは設計事務所の介在が原則です。