随時改定 年間報酬での平均
フレックスタイム制とは、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自身で決めることによって生活と業務の調和を図りながら働くことができる制度です。
従来では、清算期間の上限が「1か月」であった為、1か月を超えた調整をすることはできませんでした。よって、労働者は1か月以内の期間であらかじめ定めた総労働時間を超えた場合には割増賃金が支払われ、総労働時間に達しなかった場合は、欠勤扱いとなり賃金を控除されるまたは、仕事を早く終わらせることができる場合でも、欠勤扱いとならないようにするため総労働時間に達するまで労働しなければならないといった状況もありました。
法改正(2019年4月施行)により清算期間の上限が「3ヵ月」に延長され、月をまたいだ労働時間の調整が可能となり、より柔軟な働き方が可能となりました。
【清算期間が1か月を超える場合の要件】
清算期間が1か月を超える場合でも、繁忙期に偏った労働時間とすることはできません。清算期間が1か月を超える場合には、次の①②を満たす必要があり、いずれかを超えた時間は時間外労働となります。
①清算期間における総労働時間が法定労働時間の抜粋(週平均40時間)を超えないこと
②1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
なお、清算期間が1か月を超える場合、特例措置対象事業場(週44時間の特例)であっても、週平均40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出、割増賃金の支払いが必要です。
<①清算期間における法定労働時間の求め方>
清算期間における法定労働時間の総枠は以下の計算で求めます。
法定労働時間=清算期間の暦日数/7日×1週間の法定労働時間(40時間)
よって清算期間が3か月単位の場合の法定労働時間は、
92日 525.7時間
91日 520時間
90日 514.2時間
89日 508.5時間 となります。
<②1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないこと>
清算期間が月単位ではなく最後に1か月に満たない期間が生じた場合には、その期間について週平均50時間を超えないようにする必要があります。
1か月の労働時間が週平均50時間を超えた場合、その超えた時間について割増賃金の支払いが必要になります。(週平均60時間を超えた場合は、50%以上の割増賃金率で計算(中小企業は2023年4月以降))
週平均50時間となる労働時間数=50時間×各月の暦日数/7日
1か月の実労働時間が上記で求めた時間を超えた場合は、その月の賃金支払日に割増賃金として、支払いが必要になります。
(例)6月に220時間働いた場合
220時間-(50時間×30日÷7日)=220時間-214.2時間=5.8時間
よって、6月分の賃金支払日に5.8時間分を割増賃金(1.25)として支払います。
そして、この5.8時間(週平均50時間を超えた時間)は、「清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えた時間外労働時間」から差し引くことになります(重複を防ぐため)。
【手続き】
・就業規則への規定(常時10人以上の従業員を使用する場合は届出必要)
・労使協定届(様式第3号の3)の作成・届出
・労使協定の作成・写しの届出
清算期間が1か月以内の場合は労使協定の届出は不要ですが、1か月を超える場合には届出が必要となるので注意しましょう。違反した場合、30万円以下の罰金が科せられることがあります。
【その他】
<36協定との関係>
清算期間が1か月を超える場合、「➊1か月ごとに区分した中で週平均の労働時間が50時間を超えた部分」及び「❷清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えた時間外労働(➊でカウントした時間を除く)」は、時間外労働とカウントされるので、36協定の締結・届出が必要になります。この時間が45時間を超える場合は特別条項の36協定も必要です。なおフレックスタイム制の場合、36協定には「1日」の法定労働時間を超える時間数の記入の必要はありません。「1か月」「1年」の延長時間を協定することになります。
<清算期間の途中で昇給となった場合の割増賃金>
清算期間の途中で昇給があった場合、それ以降の賃金締切日において、昇給後の賃金額を基礎として割増賃金を算定することとなります。
<途中入退社、フレックスタイム制の非適用事業場に移動>
途中入社や途中退社等で、実際に労働した期間が清算期間より短い労働者については、その期間に関して清算を行います。実際に労働した期間を平均して週40時間を超えて労働していた場合には、その超えた時間に対して割増賃金の支払いが必要です。
(例)清算期間が3ヵ月(4/1~6/30)、5/31に対象労働者が退職した場合、4/1~5/31の期間で清算を行います。
法定労働時間の総枠:
30日(4月の暦)+31日(5月の暦)=61日
40時間×61日÷7日=348.5時間 ←法定労働時間の総枠
よって、4月と5月の実労働時間が348.5時間を超えていた場合、その超過時間に対して割増賃金の支払いが必要となります。
<その他フレックスタイム制における改正>
完全週休2日制の事業場でのフレックスタイム制における法定労働時間の総枠の見直しが行われました。これにより、残業のない働き方をした場合でも、曜日の巡りによって想定外の時間外労働が発生するといった不都合が解消されました。
①週の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の労働者が対象
②労使が書面で協定することで、「清算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とすることが可能です。
フレックスタイム制は計算が複雑です。導入する場合は、事前にどういった場合に割増賃金が必要なのか、労使協定には何を定めるのか等しっかり確認しておきましょう。