年休取得率はあいかわらず低い水準
2018年地震や台風等の影響で、交通機関に大きな影響を及ぼし、出社した方がよいのか迷った方や帰宅難民となってしまった人が少なくありませんでした。
会社としては、従業員の出社や帰宅についてどのような判断をすべきなのか、また、従業員は会社が強引に出社を命じた場合はどのように対応すべきなのでしょうか。
<労働者の義務>
会社は、雇用している労働者に対して、出社を命じる権利があり、労働者は原則それに従う義務があります。出社命令があるにもかかわらず、出社しなかった場合は、通常、業務命令違反として、就業規則上の懲戒処分の対象となることが多いでしょう。これは、地震や台風など自然災害の場合も変わりません。台風等で出勤すべきかどうか迷った場合は、遅刻の連絡等も含め、一度会社に相談するのが良いでしょう。
<使用者の義務>
災害時でも、従業員へ労働を命じることは可能です。しかし、使用者には、労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を行う必要があります(安全配慮義務)。したがって、危険があるときに出勤を命じたり、危険な状況で業務に従事するように命じたりすることは、安全配慮義務に違反する可能性があります。
<天災中に労災>
危険な状態で勤務(通勤)し負傷した場合、労働災害の適用を受けることができます(私的な行為や大きく逸脱した場合等は除く)。
〇業務災害
「業務遂行中に建物の崩壊等により被災した場合、作業方法や作業環境、事業場施設の状況などの危険環境下の業務に伴う危険が現実化したものと認められた場合、業務災害となります。」
業務災害の場合、労災保険で補償されなかった部分については、安全配慮義務違反を理由に賠償金を請求することができると考えられます。
〇通勤災害
「業務災害と同様、通勤に伴う危険が現実化したものと認められれば、通勤災害となります。」
台風などの危険性が迫っている中、会社の無理な出勤命令で負傷した場合等は、安全配慮義務違反が認められる可能性があるでしょう。
厚生労働省のQ&Aにも、「仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、私的な行為をしていた場合を除き、業務災害として労災保険給付を受けることができる。」と記載されています。
業務中・通勤中に被災された従業員がいる場合は、会社は労働災害の申請を検討された方が良いでしょう。
<災害で会社が休みの場合の労働者への賃金>
休業手当を支払う必要はありません。
通常、「使用者の責に帰すべき事由(会社都合)」により仕事が休みとなった場合、「休業手当」として、労働者へ平均賃金の100分の60以上の手当てを支払う必要があります。しかし、天災事変等の不可抗力の場合は、「使用者の責に帰すべき事由」には該当しない為、支払い義務はなくなります。
不可抗力の法律上の定義はありませんが、通常は「①外部から発生した事故であること」「②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることのできない事故であること」の2つの要件を満たすものでなければならないとされています。
よって自然災害で、事業場の施設や設備が直接的被害を受けた場合や、公共交通機関が運休となった場合等は、休業手当を支払う必要はありません。
ただし、天災事変の被害を予想して休業にした場合において、実際には、それほど被害がなく業務を行うことが可能であった場合は、休業手当を支払う必要があるので注意しましょう(交通機関は動いているが、後に運休で労働者の通勤に支障が出ると困るので営業時間を短縮する等も支払いが必要)。
また、就業規則等に「天災事変等の不可抗力による休業についても賃金を支払う」等と定めている場合は、支払い義務が生じます。
*会社側が早めの帰宅を促し、労働者が自身の判断により早退した場合は、休業手当を支払う必要はないと考えられます。
<タクシー代や宿泊費>
天災事変により、公共交通機関に大幅な乱れが生じ、タクシーで通勤となった場合や宿泊することになった場合は、会社側は、労働者からのそれらの請求に応じる必要はありません。ただし、就業規則等に支払う旨を定めている場合や、過去において支払いに応じた実績がある場合は、支払う必要があります。
トラブルにならないよう、会社側は天災事変時の対応についての取扱いについてあらかじめ就業規則等に定め、社内に周知しておくと良いでしょう。