腰痛とけんしょう炎(上肢障害)の労災認定

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:労災認定

腰痛とけんしょう炎(上肢障害)は、仕事が原因なのか、日常的な動作が原因なのか、労災の認定は難しいものです。そこで、厚生労働省では労災の認定基準を設けています。

<腰痛>
「災害性の原因による腰痛」(突発的出来事が原因の腰痛)と「災害性の原因によらない腰痛」(徐々に負担がかかって発症した腰痛)の2つに区分し、認定する為の要件を定めています。(労災補償の対象となる腰痛は、医師により療養が必要であると診断されたものに限ります)

<災害性の原因による腰痛>
次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。
①腰の負傷またはその原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたことが明らかなこと
②腰に作用した力が腰痛を発症させた、または腰痛の既往症(以前にかかった病気)・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

例)重量物の運搬作業中に転倒して生じた腰痛、重量物を無理な姿勢で持ち上げ為生じた腰痛等。
*ぎっくり腰(急性腰痛症)は、発症時の動作や姿勢の異常性等から腰への強い力の作用があった場合には業務上と認められることがありますが、日常的な動作の中でも生じるので、仕事中に発症したとしても、すべてが労災補償の対象となるわけではありません。医師の診断書に「急性腰痛症」と書かれてある場合は注意しましょう。

<災害性の原因によらない腰痛>
「筋肉等の疲労が原因の腰痛」と「骨の変化が原因の腰痛」に区分し、作業の状態や作業期間などから判断されます。
〇筋肉等の疲労が原因の腰痛
次のような業務に約3か月以上従事したことにより、筋や筋膜等の疲労が原因で発症した腰痛は労災補償の対象となります。
・約20㎏以上の重量物や重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務
・毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務(柱上作業など)
・長時間にわたり腰部の伸展を行うことのできない、同一の姿勢を持続して行う業務
・腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務(車両系建設用機械の運転業務など)

〇骨の変化が原因の腰痛
次のような業務に約10年以上にわたり継続して従事したことによる、骨の変化を原因として発症した腰痛は労災補償の対象となります。
・約30㎏以上の重量物を労働時間の約3分の1以上取り扱う業務
・約20㎏以上の重量物を労働時間の約2分の1以上取り扱う業務

*腰痛は加齢による骨の変化でも発症することが多い為、労災補償の対象と認められるには、その骨の変化が「通常の加齢による変化の程度を明らかに超える場合」に限られます。

<治療期間>
業務上の腰痛は適切な治療によれば、ほぼ3、4か月以内に症状が良くなるのが通例で、回復が遅延する場合でも1年程度で固定(または消えてなくなる)すると考えられています。また、一旦治癒した後、他に明らかな原因がなく再び症状が現れ、療養が必要と認められるものについては再発として取り扱われますが、治癒後1年以上症状が安定していた後に他に原因がなく再発することは稀と考えられています。

<けんしょう炎(上肢障害)>
けんしょう炎(上肢障害)とは、首から肩、腕等に異常をきたした状態を指します。
労災補償の対象となるには、医師により療養が必要であると診断され、かつ次の3つの要件を全て満たす必要があります。
①上肢等(後頭部、首、肩甲帯、上腕、前腕、手、指)に負担のかかる作業を主とする業務に原則6か月程度以上従事した後に発症したこと
②発症前に過重な業務に就労したこと
③過重な業務への就労と検証までの経過が医学上妥当なものと認められること
*作業従事期間が6か月程度に満たない場合でも、短期間のうちに集中的に過度の負担がかかった場合には、けんしょう炎等が発症することがあります。

<上腕等に負担のかかる作業とは>
・上肢の反復動作の多い作業(キーボード入力をする作業、運搬や積み込み作業など)
・上肢を上げた状態で行う作業
・けい部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業
・上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業(保育・介護作業など)

<過重な業務とは>
・同種の労働者(同様作業を行う同性、同年齢程度の労働者)よりも10%以上業務量が多い日が3か月程度続いた
・1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた
・1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた
*過重な業務に就労したかどうかの判断には、長時間作業や連続作業、過度の緊張、等の状況も考慮されます。

<療養の期間>
一般にけんしょう炎(上肢障害)は、業務から離れるもしくは、業務から離れないまでも適切な作業の指導・改善等を行い就業すれば、症状は良くなるとされ、適切な療養により、おおむね3か月程度、手術した場合でも6か月程度の療養が行われれば治癒するものと考えられているので留意が必要です。

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

鈴木圭史プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

鈴木圭史プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼