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鈴木圭史

労務リスクの改善のプロ

鈴木圭史(すずきけいじ)

ドラフト労務管理事務所

コラム

労災認定されることで会社の保険負担があがる?

労災認定

2018年7月2日

労災認定によって、労災保険料が増加する可能性があります。しかし、それは「20人以上の労働者を使用する事業場」です。一部例外はありますが、ほとんどの事業場は、労働災害が起きても、労災保険料が増加しないと覚えておきましょう。この記事では、「メリット制」という労災保険料の割引制度を中心に、遺族からの訴訟という労災の最も大きなリスクについても解説します。

労災認定が行われた後に労災保険料が増加する懸念も

事故は決して起きてはならないことです。しかし、どんなに注意をしていても、労災事故が起きてしまうこともあります。そんなとき、経営者の多くは、労災保険料の増加について懸念します。実際、労災事故が起きてしまうと、労災保険料が上がる可能性があります。また、遺族から不法行為として、損害賠償請求が行われる可能性もあります。

その詳細を説明する前に、労働保険料の中身について確認をしておきましょう。労働保険料は、労働者に支払う賃金総額に保険料率(労災保険料率プラス雇用保険率)を乗じて得た額です。そのうち、労災保険分は事業主負担、雇用保険分は事業主と従業員双方で負担する仕組みになっています。つまり、雇用保険料は従業員との折半であるものの、労災保険料はすべて事業主の持ち出しということです。

なお、労災保険料率は業種ごとに決まっています。2015年以降の労災保険料において、最も高いのは建設事業のうち、「水力発電施設、ずい道等新設事業」で79/1000。一方、最も低いのはその他の事業で「通信業、放送業、新聞業又は出版業」「金融業、保険業、又は不動産業」で2.5/1000です。業種によって、事故が起きる確率や重大性は異なるため、このような差が設けられているのです。

労働基準監督署に対し「労災隠し」をしても意味がない

前置きが長くなりましたが、事故が発生した後、労災保険料が上がる可能性があるのはなぜなのかという点について解説します。それは、労災保険には「メリット制」という制度が設けられているからです。

「メリット制」とは、労災保険料を増減させる制度のこと。「メリット制」の中身は少々複雑ですが、概要を確認しておきましょう。「メリット制」が適用されるのは、連続する3年度中の各年度において、これから説明する3つの要件のいずれかを満たす事業であって、その3年度中の最後の年度に属する3月31日において、労災保険が適用されて3年以上経過している事業場です。法律独特の複雑な書き方をしていますが、要は「労災保険が3年以上適用されている事業場」が対象になる可能性があるということです。

その3つの要件ですが、一つ目は「100人以上の労働者を使用する事業場」です。次に「20人以上100人未満の労働者を使用する事業場であって、非業務災害率が一定以上である事業場」、最後に「一括有期事業(建設の事業および立木の伐採の事業)で確定保険料の額が40万円以上である事業場」となっています。非業務災害率や一括有期事業などの専門知識は、社会保険労務士のような専門家だけが把握していれば良いので、今回のコラムでは説明は割愛します。

この要件を見ると、「20人未満の事業場」では、「メリット制」がそもそも適用されず、労災保険料の増減がないことがわかります。このような事業場は、労働災害が起きても労働基準監督署に対し、「労災隠し」をするメリットは一切ないわけです。

さて、「メリット制」が適用されると、どのような効果があるのでしょうか。結論から言うと、無事故の優良な事業場のケースでは、最大40%もの割引を受けることができます。その一方で、事故を起こしてしまった事業場では、その割引がなくなるばかりか、最大で40%もの割り増しの労災保険料を支払う必要が出てきます。

日頃の安全管理活動を再確認することが大切

経営者にとって、労災保険料が増えることは問題でしょう。しかし、もっと大きな問題は遺族からの損害賠償請求です。前回の記事では、労働安全衛生法においては「使用者は労働者の安全に配慮する義務がある(安全配慮義務)」について明確に定めていると解説しました。労災が発生すると、その安全配慮義務を怠ったとして、法律の定めに従い、責任を負わなければならないケースがあるということです。

言うまでもありませんが、人の価値は計り知れません。もし、労災事故によって、人の命が失われたとなれば、多額の損害賠償請求は免れないでしょう。実際、大手広告代理店の電通やNHKなどでは、過重労働による労災の代償として、遺族による裁判が提起されています。

このような事態となれば、体力のない中小企業の場合、金銭負担に耐えられないばかりか、信用が低下して事業が継続できない可能性も高まるため、廃業を余儀なくされるかもしれません。こうならないように、日頃から安全安心に働ける職場環境を作るよう、努力する必要があります。労災事故は起きてから対処しては遅いということ。事前に手を打っておくことで、リスクを軽減することができます。

特に、建設事業など、事故リスクが高い事業場は従業員教育を徹底するなど、やるべきことは山ほどあります。建設業を中心に、無事故を第一に考えている経営者はとても多いですが、日頃の安全管理活動に抜け漏れがないか、今一度確認をして、見直してみるのも良いでしょう。

この記事を書いたプロ

鈴木圭史

鈴木圭史(すずきけいじ)

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