退去費用の請求、どこまで払う必要がある?
「オーナーが変わりましたので、今後は下記の口座へお振込みください」
ある日突然そんな通知が届いて不安になった、というご相談をいただくことがあります。大阪市西区で不動産仲介をしておりますクレアクロスの重村です。
収益物件の売買を扱っていると、売主側・買主側の事情はよく見えます。ただ、そこにお住まいの方から見れば、知らないうちに自分の住まいの持ち主が入れ替わったわけで、落ち着かない気持ちになるのは当然のことです。
今日は借りている側の立場で、何が変わって何が変わらないのかを整理します。
①契約は続きます。承諾も結び直しも不要
まず結論から申し上げます。大家さんが変わっても、賃貸借契約はそのまま続きます。
民法605条の2第1項により、賃貸物件の所有権が移転すると、賃貸人としての地位も原則として新しい所有者に当然に移ります。借りている側の承諾は必要ありません。裏を返せば、それが出ていく理由になることもありません。
前提として、建物の引渡しを受けて実際に住んでいれば、借地借家法31条により新しい所有者に対して自分の賃借権を主張できます。登記などは要りません。
家賃、契約期間、更新料の定め、ペットの可否といった条件も、原則としてそのまま引き継がれます。「新しい管理会社の書式で契約書を結び直してください」と求められることがありますが、これに応じる義務はありません。内容を読まずに署名すると、これまでなかった条項が加わっている可能性があります。急がず、今の契約書と並べて見比べてから判断してください。
②敷金は引き継がれます。ただし振込先の変更は裏を取ってから
気にされる方が多いのが敷金です。民法605条の2第4項により、敷金の返還債務も新しい賃貸人に引き継がれます。退去時は新しい大家さんに請求することになりますので、前の大家さんを追いかける必要はありません。
一方で、慎重になっていただきたいのが振込先の変更です。
同条第3項は、所有権の移転登記をしなければ、新しい所有者は借主に賃料を請求できないと定めています。通知が届いただけで慌てて振込先を変える必要はなく、登記が済んでいるかを確認してよい、ということです。
確認の方法は3つあります。
・旧オーナーと新オーナーの連名による通知書をもらう
・法務局で登記事項証明書を取得し、所有者の名義を確かめる
・これまでの管理会社に電話して、事実かどうかを聞く
振込先の変更を装った手口は現実に存在しますし、誤った相手に支払えば二重払いになりかねません。一手間かける価値があります。
③「買ったので出ていってほしい」は通りません
いちばん心配されるのがここだと思います。
普通借家契約であれば、貸主の側から更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、借地借家法28条の正当事由が必要です。持ち主が変わった、建て替えたい、自分で使いたい、といった事情だけでは正当事由として弱く、立退料の提供なども含めて総合的に判断されます。新しいオーナーの一存で退去が決まる仕組みにはなっていません。
ただし、もともと定期借家契約で入居されている場合は話が別で、期間満了により終了します。ご自身の契約書がどちらなのかを必ず確認してください。
賃料の増額を求められた場合は借地借家法32条の問題になりますが、これも一方的に決まるものではなく、協議が前提です。
まとめ
オーナーが変わったという通知が届いたら、やることは3つです。
・手元の賃貸借契約書を出し、普通借家か定期借家か、残りの期間を確認する
・振込先の変更は、登記または連名の通知で裏を取ってから応じる
・契約書の結び直しを求められても、内容を確認するまで署名しない
大阪市内は投資用の賃貸マンションの売買が活発で、オーナーチェンジ自体は決して珍しいことではありません。実際には、住んでいる方の生活は何も変わらないまま続くケースがほとんどです。
なお、立退料の金額が妥当か、正当事由が認められるかといった争いになる部分は弁護士の領域です。私たち不動産会社にできるのは、契約書を一緒に読み、いまご自身がどういう立場に置かれているのかを分かる言葉でお伝えすることだと思っています。
通知を受け取って落ち着かない気持ちのまま一人で判断せず、まずは手元の契約書を開くところから始めてみてください。
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