生前贈与の落とし穴、税金は贈与税だけじゃない
「生前に名義を子どもに移しておいたので、あとは好きなときに売ればいい」
そうお考えになる方は少なくありません。ただ、贈与で受け取った不動産を売却する場面になって、思っていたより税金が重かった、というご相談を受けることがあります。
生前贈与の話題は「贈与税がいくらか」「どの特例が使えるか」に集まりがちですが、渡した後にその不動産を売るところまで見ておかないと、判断を誤ることがあります。今回は「贈与された不動産を売ったとき」という出口の視点から、3つの論点を整理します。
①取得費と取得時期は、親のものを引き継ぐ
不動産を売ったときの税金は、売却価格そのものにかかるのではなく、譲渡所得(売却価格−取得費−譲渡費用)にかかります。
ここで大事なのが、贈与で取得した不動産は、所得税法60条1項により、贈与した人(親)の取得費と取得時期をそのまま引き継ぐという点です。名義が変わった日が新しいスタートラインになるわけではありません。
これは有利にも不利にも働きます。
有利な面は、所有期間の判定です。売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得(所得税・住民税あわせて約20%)、5年以下なら短期(約39%)と倍近い差がありますが、親が長く持っていた家なら、贈与を受けた翌年に売っても長期として扱われます。
不利な面は、取得費です。親が数十年前に買った家なら取得費は当時の購入価格であり、現在の相場とは大きく離れています。しかも購入時の売買契約書が見つからないと、概算取得費として売却価格の5%しか計上できず、利益が実際より大きく出てしまいます。贈与を受けるときに、権利証だけでなく購入時の売買契約書・領収証まで一緒に預かっておくことが、そのまま税額に跳ね返ります。
②「相続なら使えた特例」が、贈与では使えなくなる
もう一つの落とし穴は、相続で取得した場合にだけ使える制度を手放してしまうことです。
マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は、自分が居住していた家であることが要件です。親が住んでいた家を贈与で受け取り、自分は住まずに売った場合、この控除は使えません。
一方、相続の場合には、被相続人の居住用家屋を相続して一定期間内に売る場合の特別控除(いわゆる空き家特例)や、支払った相続税の一部を取得費に加算できる取得費加算の特例といった制度が用意されています。これらは相続・遺贈で取得したことが前提の制度で、生前贈与で名義を移した不動産の売却には使えません。
以前のコラムでも触れた小規模宅地等の特例と同じ構図です。贈与税がゼロで済んだとしても、出口で使えたはずの控除を失えば、家全体で見て損になることがあります。
③売る予定があるなら、順番を先に決める
実務でよくあるのが、「とりあえず名義だけ移しておきましょう」と進めてしまうケースです。
将来的に売る可能性が高い不動産なら、選択肢は名義を先に移すことだけではありません。親が元気なうちに親名義で売却して現金を渡す、相続のときまで動かさない、といった順番も比較の対象になります。どれが有利かは、居住の実態、所有期間、取得費の資料の有無、相続財産全体の規模で変わります。
大阪市内では、築年数を重ねた戸建てでも土地の需要があり、想定よりまとまった金額で売れることがあります。金額が大きくなるほど、出口で使える控除の有無が結果を左右します。
私がご相談を受けるときは、まず「この不動産は最終的に売るのか、住み続けるのか、貸すのか」を先に伺います。そこが決まっていないまま名義を動かすと、後から順番を戻せません。
まとめ
生前贈与は節税の手段というより、渡すタイミングを自分たちで選べる手段です。そして出口の税金は、贈与するかどうかを決める前に確認しておくべき材料です。
・購入時の売買契約書と領収証を探しておく
・売る可能性があるかを家族で先に話し合う
・実行の前に税理士へ、贈与・相続・親名義での売却を並べて相談する
税額の計算や特例の適用判断は税理士の領域です。その前提となる、不動産の今の価値と売却できる見込みをお伝えするのが、私たち不動産会社の役割だと考えています。名義をどうするか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。
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