目的地に行く地図が違う
職場や家庭で、人間関係がうまくいかなくなったとき、
「世代が違うから仕方ない」
「価値観が合わないから無理」
そんな言葉で片づけてしまうことは少なくありません。
確かに、世代によって大切にしてきたものは大きく異なります。戦後の食糧不足を経験した世代、高度成長期やバブルを生きた世代、そして情報過多の中で自己の存在価値を模索してきた若い世代。それぞれが置かれた環境の中で、必死に生きてきた結果として、価値観が形づくられてきました。
ここで見落とされがちなのは、価値観の違いそのものよりも、「自分と同じ前提で相手も考えているはずだ」という無意識の思い込みです。人はつい、自分にとって当たり前の基準で相手を見てしまいます。しかし、立っている場所が違えば、同じ言葉でも意味は変わります。
私はこれまで、アンガーマネジメントやコミュニケーションの現場で、「分かり合う努力が大切だ」と伝えてきました。ただ今振り返ると、「分かり合う」という言葉が、時に「我慢」や「自己否定」として受け取られてしまうこともあったのではないかと感じています。
本当に必要なのは、相手に同意することでも、自分を抑え込むことでもありません。
「この人は、こういう前提の世界で生きてきたのだ」と理解しようとする姿勢です。
親子関係を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。親は子どものことを分かっているつもりでも、実際には分からないことだらけです。それでも「分からない」という前提に立てたとき、関わり方は柔らかくなります。この構造は、大人同士の人間関係でも同じです。
人はそれぞれ、違う場所に立っています。自分の場所から正論を投げ続けても、相手には届きません。相手の立っている場所に少し近づこうとしたとき、初めて対話が始まります。
コミュニケーションは手間がかかり、正直面倒なものです。それでも、相手を変えようとするのではなく、前提の違いに気づくことができれば、人間関係は驚くほどこじれにくくなります。世代の違いを「壁」にするのではなく、「背景」として捉え直すこと。それが、関係性を整える第一歩になるのではないでしょうか。



