前提トークと返報性の原理でクロージング
職場や家庭で、「なぜ話が噛み合わないのだろう」と感じる場面は少なくありません。上司と部下、親と子、あるいは同世代同士でさえ、違和感を覚えることがあります。多くの場合、その原因は性格や努力不足ではなく、育ってきた時代がつくった“前提”の違いにあります。
私は研修や個別相談の中で、世代間のすれ違いに数多く立ち会ってきました。そこで感じるのは、人は自分の価値観で相手を見てしまいがちだということです。しかし実際には、世代ごとに「当たり前」の基準が大きく異なっています。
例えば、60〜70代の世代は、生活の安定そのものが努力の結果でした。食べ物や物を大切にする感覚は、道徳というより生存の知恵です。一方、40〜50代は経済成長の恩恵を受けながらも、競争や責任の中で「お金=安心」という意識を強く持つようになりました。そして20〜30代は、物質的な不足よりも「自分の存在価値」や「意味」を問われ続ける環境で育っています。
この違いを理解せずに会話をすると、「なぜ分からないのか」「なぜ甘いのか」といった評価が先に立ち、関係性は硬直してしまいます。逆に、「この人はどんな前提で世界を見ているのか」と一歩引いて考えると、対話の質は大きく変わります。
世代間ギャップを埋めるために必要なのは、相手を説得することではありません。背景を知り、前提の違いを認めることです。それだけで、感情的な衝突は驚くほど減っていきます。
人間関係を整える第一歩は、正解を探すことではなく、理解しようとする姿勢です。世代の違いは、対立の原因ではなく、視点を広げるためのヒント。そう捉え直すことで、家庭でも職場でも、関係性は少しずつ柔らかくなっていきます。



